
前回わかったこと、わからなかったこと
前回の税法はなぜ難解なのか 括弧書きを色で分けて読むで、20の法律の括弧を数えました。1文あたりの括弧の数は、行政事件訴訟法の0.39から法人税法施行令の3.48まで、9倍近い開きがありました。
そのとき私は「行政法だから多いのだろう」と考えていましたが、数えたら違いました。行政法の一般法である行政事件訴訟法・行政不服審査法・行政手続法は、いずれも民法より少ないか同じくらいでした。多いのは税法だけでした。
では、なぜ税法だけなのか。前回はここで止まっていました。今回はその続きです。
今回の集計では、制定年と現行条文の括弧密度の間に強い線形相関は見られませんでした。一部の法令では、委任表現の多さと括弧密度に関連が見られます。ただし、時代の効果や原因を確定する分析ではありません。令和2年に作られた法律を2本並べると、括弧の密度が4倍違います。
まず疑ったのは「時代」だった
もっともらしい説明が1つあります。明治の法律は素朴に書かれていて、現代の法律は緻密に書かれているから括弧が増えたという説明です。
民法は明治29年、商法は明治32年、刑法は明治40年の法律です。ただし、制定年と、改正を重ねた現行条文の文章が書かれた時期は別です。会社法は平成17年、行政不服審査法は平成26年、労働者協同組合法は令和2年ですが、この制定年の比較だけで立法技術の時代差を測ることはできません。まずは制定年と現行条文の括弧密度との単純な関係を見ます。
確かめました。
23の法律を、作られた年の順に並べる
前回の20法令に、令和の法律3本を足しました。法令番号から制定年を取り、古い順に並べています。括弧の数は前回の記事と同じ数え方です。
| 法令 | 法令番号 | 制定 | 1文あたり括弧 |
|---|---|---|---|
| 民法 | 明治29年法律第89号 | 1896 | 0.51 |
| 商法 | 明治32年法律第48号 | 1899 | 0.60 |
| 刑法 | 明治40年法律第45号 | 1907 | 0.71 |
| 労働基準法 | 昭和22年法律第49号 | 1947 | 0.56 |
| 国家公務員法 | 昭和22年法律第120号 | 1947 | 0.75 |
| 金融商品取引法 | 昭和23年法律第25号 | 1948 | 1.17 |
| 建築基準法 | 昭和25年法律第201号 | 1950 | 0.87 |
| 相続税法 | 昭和25年法律第73号 | 1950 | 1.22 |
| 租税特別措置法 | 昭和32年法律第26号 | 1957 | 2.01 |
| 道路交通法 | 昭和35年法律第105号 | 1960 | 1.00 |
| 行政事件訴訟法 | 昭和37年法律第139号 | 1962 | 0.39 |
| 国税通則法 | 昭和37年法律第66号 | 1962 | 1.51 |
| 所得税法 | 昭和40年法律第33号 | 1965 | 2.41 |
| 法人税法 | 昭和40年法律第34号 | 1965 | 2.68 |
| 法人税法施行令 | 昭和40年政令第97号 | 1965 | 3.48 |
| 消費税法 | 昭和63年法律第108号 | 1988 | 1.48 |
| 行政手続法 | 平成5年法律第88号 | 1993 | 0.75 |
| 民事訴訟法 | 平成8年法律第109号 | 1996 | 0.50 |
| 会社法 | 平成17年法律第86号 | 2005 | 0.72 |
| 行政不服審査法 | 平成26年法律第68号 | 2014 | 0.68 |
| 労働者協同組合法 | 令和2年法律第78号 | 2020 | 0.64 |
| 新型コロナ税特法 | 令和2年法律第25号 | 2020 | 2.52 |
| 相続土地国庫帰属法 | 令和3年法律第25号 | 2021 | 0.83 |
並べてみると、上から下へ増えていく形にはなっていません。上のほうに0.51や0.60があり、真ん中に3.48があり、下のほうに0.50や0.68が戻ってきています。いちばん下の令和の3本も、0.64・2.52・0.83とばらばらです。
2つの数字が連動しているかどうかは、相関係数という数字で測れます。1に近ければ同じ方向、−1に近ければ逆の方向に強い線形関係があり、0に近ければ線形関係が弱いことを示します。0でも、線形でない関係が存在する場合はあります。制定年と1文あたり括弧の相関係数は約0.13でした。この23法令では、強い線形相関は見られません。(23法令で計算)
100年離れた2つが、ほぼ同じだった
数字を眺めていて、目を疑う組み合わせがありました。
| 古い法律 | 1文あたり括弧 | 新しい法律 | 1文あたり括弧 | 年の差 |
|---|---|---|---|---|
| 民法(1896) | 0.51 | 民事訴訟法(1996) | 0.50 | 100年 |
| 刑法(1907) | 0.71 | 行政不服審査法(2014) | 0.68 | 107年 |
| 商法(1899) | 0.60 | 会社法(2005) | 0.72 | 106年 |
民法と民事訴訟法は、100年離れていて0.51と0.50です。刑法と行政不服審査法は107年離れていて0.71と0.68です。ただし、これは制定年の離れた法律の現行本文どうしの比較です。1世紀の立法技術の変化を直接測ったものではありません。
商法と会社法だけは1.2倍に増えていますが、会社法は商法の会社編を独立させたものです。同じ系譜で1.2倍にしかならない、という読み方もできます。
令和2年に作られた2つの法律が、4倍違う
同じ制定年でも差がある例を見ます。令和2年に作られた法律を2本並べます。
| 法令 | 法令番号 | 1文あたり括弧 | 1文あたり委任 |
|---|---|---|---|
| 労働者協同組合法 | 令和2年法律第78号 | 0.64 | 0.16 |
| 新型コロナ税特法 | 令和2年法律第25号 | 2.52 | 0.88 |
同じ年に、同じ国会で作られた法律です。それでも0.64と2.52で、4倍近く違います。労働者協同組合法は明治32年の商法(0.60)とほぼ同じで、新型コロナ税特法は昭和40年の法人税法(2.68)に近い水準です。
新型コロナ税特法の正式名称は「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」です。令和にできた税法は、令和にできた組合の法律ではなく、昭和にできた税法に似ます。この比較では、同じ制定年であることより、扱う分野の共通性が目につきます。ただし、この2例だけで原因を決めることはできません。
もう1本、令和3年の相続土地国庫帰属法(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)も測りました。0.83です。相続に関わる法律ですが、税を計算する法律ではありません。
同じ法律の中でも確かめる
法律をまたいで比べると、他の要素が混ざります。そこで1つの法律の中で、枝番号のある条とない条を比べました。
条文には「第66条の4」のような枝番号があります。改正で条を追加するとき、既存の条番号を変えずに挿し込むために用いられます。ただし、枝番号のない条も後に全面改正されることがあります。枝番号の有無だけでは、現行の文章が書かれた時期を区別できません。
以下は、枝番号の有無による記述的な比較です。古い文章と新しい文章の比較としては扱いません。
| 法令 | 本体の条 | 枝番号の条 | 本体の括弧/文 | 枝番号の括弧/文 | 倍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 民法 | 992 | 181 | 0.50 | 0.52 | 1.04 |
| 刑法 | 257 | 44 | 0.69 | 0.60 | 0.87 |
| 国家公務員法 | 110 | 75 | 0.57 | 0.93 | 1.64 |
| 建築基準法 | 107 | 184 | 1.07 | 0.71 | 0.66 |
| 租税特別措置法 | 92 | 404 | 2.27 | 1.96 | 0.86 |
| 法人税法 | 130 | 132 | 2.43 | 2.92 | 1.20 |
| 法人税法施行令 | 184 | 281 | 4.01 | 3.17 | 0.79 |
| 会社法 | 977 | 101 | 0.71 | 0.86 | 1.21 |
倍率は0.66から1.64までで、枝番号のある条のほうが多い法令も少ない法令もあります。この表から、執筆時期が括弧の密度に与える影響は判定できません。
ここまでの比較だけでは、分野や時代の影響を切り分けられません。次に、条文中の委任表現との関係を見ます。
委任表現の多さとの関連を調べる
残った候補を数えました。条文の中に「政令で定め」「省令で定め」と書いてある回数です。法律が自分で決めきらず、下位の法令に決め方を委ねている回数、と言い換えられます。
| 法令 | 「政令で定め」 | 「省令等で定め」 | 1文あたり委任 | 1文あたり括弧 |
|---|---|---|---|---|
| 刑法 | 0 | 0 | 0.00 | 0.71 |
| 行政事件訴訟法 | 0 | 0 | 0.00 | 0.39 |
| 民法 | 0 | 6 | 0.002 | 0.51 |
| 商法 | 0 | 9 | 0.016 | 0.60 |
| 行政手続法 | 5 | 1 | 0.04 | 0.75 |
| 行政不服審査法 | 13 | 1 | 0.05 | 0.68 |
| 民事訴訟法 | 0 | 91 | 0.07 | 0.50 |
| 会社法 | 22 | 379 | 0.10 | 0.72 |
| 国税通則法 | 89 | 33 | 0.15 | 1.51 |
| 労働者協同組合法 | 18 | 73 | 0.16 | 0.64 |
| 金融商品取引法 | 700 | 20 | 0.18 | 1.17 |
| 建築基準法 | 202 | 207 | 0.32 | 0.87 |
| 相続税法 | 131 | 50 | 0.32 | 1.22 |
| 消費税法 | 168 | 33 | 0.41 | 1.48 |
| 相続土地国庫帰属法 | 8 | 12 | 0.42 | 0.83 |
| 法人税法施行令 | 666 | 433 | 0.45 | 3.48 |
| 所得税法 | 590 | 165 | 0.65 | 2.41 |
| 法人税法 | 737 | 186 | 0.71 | 2.68 |
| 租税特別措置法 | 3284 | 977 | 0.82 | 2.01 |
| 新型コロナ税特法 | 42 | 11 | 0.88 | 2.52 |
この表に掲載した20法令の丸め後の数値から再計算すると、1文あたり委任と1文あたり括弧の相関係数は約0.80です。ただし、制定年の比較は23法令で、対象が異なります。両者の係数をそのまま比較して、どちらが原因かを判断することはできません。刑法と行政事件訴訟法は「政令で定め」が1回も出てきません。租税特別措置法は3,284回出てきます。
この表は、最初の23法令から労働基準法・国家公務員法・道路交通法の3法令を除いた20法令です。仮説に合わない観測を除くと相関が強く見える可能性があります。この結果は対象を限定した補足的な集計であり、全23法令で同じ関連が成り立つとの結論には使いません。除外前後を同じ指標で比較し、法令の分野や長さも考慮する追加分析が必要です。
委任と括弧が結びつく一つの書き方
理屈はこうです。政令に決め方を投げるとき、法律は「どこからどこまでを投げるのか」を条文の中で特定しなければなりません。租税法律主義があるので、白紙で渡すことはできません。範囲を切り出す道具が、括弧です。
法人税法25条3項を見てみます。196字の1文です。「政令で定め」が4回出てきます。桃色にしたのがその4回、黄色にしたのが括弧です。
内国法人について再生計画認可の決定があつたことその他これに準ずる政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人がその有する資産の価額につき政令で定める評定を行つているときは、その資産(評価益の計上に適しないものとして政令で定めるものを除く。)の評価益の額として政令で定める金額は、第一項の規定にかかわらず、これらの事実が生じた日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。
4回のうち3回は括弧の外にありますが、3回目は括弧の中に入って「除外」を作っています。「その資産」と書いたあとで、そこから外すものを政令に決めさせています。この「外すものを政令に決めさせる」という書き方をするたびに、括弧が1つ増えます。
このように除外を括弧に入れる構文では、委任先を示す文言などによって受けとの距離が伸びる場合があります。ただし、これは一つの構文例であり、委任が法令全体の括弧密度や読解の難しさの原因だと示したものではありません。
括弧の数が合わない条文がある
数えている途中で、思わぬものに出会いました。開き括弧と閉じ括弧の数が合わない条文です。
租税特別措置法の496条のうち、60条で括弧の数が合いませんでした。閉じ括弧が8個余っている条もあります。誤植ではありません。読替規定のせいです。
読替規定というのは、他の条文の一部を切り取って、別の言葉に置き換える書き方です。措置法68条の4から引きます。
法人税法第七十五条の四第一項中「含む。)」とあるのは「含む。)の規定、租税特別措置法第三章(法人税法の特例)の規定(これに基づく命令を含む。第三項において同じ。)、同法第六十八条の四(電子情報処理組織による申告の特例)に規定する政令で定める規定」と
「含む。)」という4文字が、そのまま置き換えの対象になっています。他の条文の途中を切り取っているので、閉じ括弧だけが本文に現れます。これが積み上がって、条文全体では括弧の数が合わなくなります。
この文にはもう1つ、実害があります。「含む。)」の中の「。」です。私は「括弧の外にある句点で文を切る」という規則で文を数えていました。この規則だと、置き換えの対象として引用された「含む。」の句点でも切れてしまいます。措置法68条の4は、正しくは1文なのに、9つに切れて数えられていました。
この記事の数字も、一度は同じ誤りで壊れていました。条文ごとに切ってから足す方式に直したところ、租税特別措置法の文数は251から5,212に変わりました。20倍以上の違いです。数え方を1か所変えるだけで、こうなります。
読むときにどう使うか
ここまでの実測から、条文を読む前にできることが3つあります。
- 「政令で定める」に先に印を付ける。その数だけ、条文の外に読むべきものがあります。法人税法なら1文あたり0.71回です。条文だけ読んで判断が付くと思わないほうが安全です
- 括弧の中にある「政令で定める」を、括弧の外のものと分けて扱う。括弧の中にあるものは、多くの場合、対象から外すもの・限る先を決めています。ここを読み飛ばすと、範囲を間違えます
- 読替規定に出会ったら、引用符の中の句点を文の切れ目と読まない。「含む。)」は言葉の一部であって、文の終わりではありません
制定年だけで現行条文の読みやすさを判断することはできません。今回の表では、民法と民事訴訟法の括弧密度はほぼ同じです。委任表現は読むべき下位法令を見つける手掛かりになりますが、その数だけで難しさのすべてを測れるわけではありません。
出典と、この記事の作り方
条文はすべて、デジタル庁のe-Gov法令検索が公開している法令データから取りました。制定年は法令番号から取っています。数えたのは各法令の本則(附則と別表を除く部分)です。前回の20法令の括弧の数は前回の記事と同じ値を使い、令和の3法令は今回あらためて同じ方法で数えました。
- e-Gov法令検索 デジタル庁
- 法人税法 e-Gov法令検索
- 租税特別措置法 e-Gov法令検索
- 民法 e-Gov法令検索
- 刑法 e-Gov法令検索
- 労働者協同組合法 e-Gov法令検索
- 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律 e-Gov法令検索
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 e-Gov法令検索
- 前回の記事 税法はなぜ難解なのか 括弧書きを色で分けて読む
数え方は次のとおりです。文は、条ごとに取り出したうえで、括弧の外にある句点で区切りました。括弧は開き括弧の数を数えています。全角と半角の両方を対象にしました。委任は「政令で定め」「省令で定め」「規則で定め」の出現回数です。相関係数はピアソンの積率相関係数です。
数え方を変えれば数字は変わります。上に書いた文数の20倍の違いが、その実例です。この記事の数字は、条ごとに切って足す方式で出したものです。
本稿は2026年9月12日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

