海外赴任や移住の予定があると、ストックオプションをいつ行使し、いつ株式を売るかが気になります。「海外居住中に行使すれば日本では課税されない」と考えたくなるかもしれません。しかし、行使した日の居住地だけで結論は出ません。どの制度の権利なのか、その利益がどの国での勤務に対応するのか、株式を売る時点ではどうかを分けて考える必要があります。
最初に、四つの日付を並べる
整理の出発点は、付与、権利確定、権利行使、株式売却の四段階です。付与は権利を与えられること、権利確定は在籍期間や業績などの条件を満たすこと、行使は定められた価格で株式を取得すること、売却は取得した株式を手放すことです。契約によっては段階ごとに複数の日付があり、一度の付与分が数年に分かれて確定することもあります。
この四つを並べるのは、四段階のすべてで日本の税金が発生するという意味ではありません。課税時期と、その利益に対応する勤務期間を正確に捉えるためです。「権利が確定した」と「行使して株式を取得した」を混同すると、株価や居住地を確認する日もずれてしまいます。
まず、会社の説明資料だけでなく、付与契約、権利確定の条件、行使通知、証券口座の取引履歴を一緒に確認します。RSUなど、名前や管理画面が似ていても仕組みの異なる株式報酬については、ストックオプションの説明をそのまま当てはめないことが大切です。
税制適格か非適格かで、課税の時期が変わる
日本の税制非適格ストックオプションでは、一般に行使時と株式売却時に課税を検討します。雇用関係などに基づいて付与された権利の行使益は、原則として給与所得です。行使時の株価と行使価格の差による利益と、その後の株価変動による売却益を分けるのが基本です。[1]
一方、日本のストックオプション税制の適用を受ける場合は、行使時の経済的利益に対する課税を繰り延べ、株式売却時に検討します。この場合の株式取得価額は、行使時の時価ではなく行使価格です。「行使時に税金がかからない」という説明は、利益が最後まで非課税になるという意味ではありません。[2]
注意したいのは、「適格」という名前が国ごとに違うことです。海外の制度で税制優遇の対象とされていても、それだけで日本の税制適格になるわけではありません。契約内容と適用要件を日本側で確認し、どの国の制度について説明しているのかをそろえます。
日本で働いていた期間が、出国後にも関係する
権利を得た背景に日本での勤務がある場合、出国後に行使しても、その勤務に対応する利益について日本の課税が残ることがあります。海外に住み、海外の口座で株式を受け取ったという事実だけでは、日本との関係は切れません。
国税庁は、米国居住者が日本と米国で勤務した事例について、日米租税条約に基づき、日本での勤務期間に関連する部分を国内源泉所得として取り扱うと説明しています。ただし、この事例の期間計算を、他国の居住者や違う契約にも一律に使えるわけではありません。[3]
実務では、まず国内法上の所得の性質を確認し、適用される租税条約と付与条件を踏まえて、どの期間の勤務に対応する利益なのかを検討します。勤務国が複数ある場合には、赴任辞令だけでなく、実際の勤務日や出張の履歴も資料になります。海外へ移った日を境に全額を二つに分けるだけでは、契約に対応した説明にならないことがあります。
国籍・永住権と、税務上の居住者は別に確認する
日本の所得税で居住者かどうかを判定する基本は、日本に住所、すなわち生活の本拠があるか、または引き続き一年以上の居所があるかです。生活の本拠は、仕事、住まい、家族の生活状況などの客観的事実から判断します。住民票を移したことだけで決まるものではありません。[4]
海外の永住権を持っていることや外国籍であることだけを理由に、日本の非居住者と決めることもできません。逆に、日本国籍があるから常に日本の居住者というわけでもありません。税務上の「非永住者」という区分も、入管制度の永住資格とは異なります。日本の課税範囲に加え、移住先の国内法や租税条約による扱いを確認します。[5]
行使の検討と、売却の検討を一組にする
税制適格の権利であっても、海外勤務中に株式を売却すれば日本で一切課税されないとは限りません。国税庁は、日本にPEを持たない非居住者が海外勤務中に株式を譲渡した場合でも、税制適格ストックオプションで取得した特定株式の譲渡などは、日本の課税対象となる類型に含まれると説明しています。条約による調整も別途必要です。[6]
行使時に納税資金が必要になる制度では、株式をすぐ売却できるかも重要です。税金の見込みと、株式の換金可能性は別の条件だからです。行使の判断前に、各段階の日付、居住地と勤務国の履歴、制度区分、株価、売却制限を一覧にし、日本と居住地国で課税の時期・金額がどう重なるかを確認しましょう。会社による源泉徴収の有無と本人の申告の要否も、それぞれ確認することで、出国後の手戻りを減らせます。
参照資料
- 国税庁:税制非適格ストック・オプションの課税関係
- 国税庁:税制適格ストック・オプションで取得した株式の譲渡
- 国税庁:ストックオプションに係る国内源泉所得の範囲
- 国税庁:居住者と非居住者の区分
- 国税庁:納税義務者となる個人
- 国税庁:海外勤務中に株式を譲渡した場合
資料確認日:2026年9月17日。一般的な論点整理です。個別の取引については、契約内容と取引時点の法令・租税条約に基づく確認が必要です。
本稿は2026年9月20日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

