スタートアップの基礎知識

適格機関投資家とは何か――ファンドと「適格機関投資家等特例業務」を理解する

ファンドの設立を検討すると、「適格機関投資家を1名入れればよい」という説明を耳にすることがあります。しかし、誰を投資家に迎えるか、誰が勧誘・運用を行うかによって、必要な手続も利用できる特例も変わります。適格機関投資家という言葉だけで、ファンドの適法性が決まるわけではありません。

前回のLLP・LPSとファンドの仕組みに続き、今回は投資家の区分と金融商品取引法上の特例を整理します。押さえたいのは、投資家としての資格、事業者としての届出、組合という契約の形を、それぞれ別に確認することです。

適格機関投資家は、法令で範囲が決まる投資家の区分

適格機関投資家は、英語でQualified Institutional Investor、略してQIIと呼ばれます。金融商品取引法上、有価証券への投資について専門的な知識・経験を有する者として、内閣府令で具体的な範囲が定められています。「投資に詳しい」「資産が多い」という自己評価だけで該当するものではありません。

銀行、保険会社、一定の金融商品取引業者、投資法人、投資事業有限責任組合(LPS)などが代表例です。一方、一定の資産要件などを満たしたうえで金融庁長官への届出が必要な法人・個人もあります。したがって、すべての適格機関投資家に同じ届出手続があるわけではありません。金融庁は届出をした者と、届出を要せず該当する者の情報を分けて公表しています。

個人の代表的な該当ルートでは、保有有価証券の残高が10億円以上であること、有価証券の取引等を行う口座を開設してから1年以上経過していること、必要な届出を行うことが要件になります。ここでいう残高は、住宅などを含む総資産や年収ではありません。法人や組合の業務執行者にも別の要件があり、判断には該当する区分の確認が必要です。根拠は定義府令第10条で、金融庁の条文抜粋「適格機関投資家の範囲と届出」でも確認できます。

「特定投資家」「特例業務届出者」との違い

似た言葉ですが、見ている対象が異なります。適格機関投資家と特定投資家は投資する側の区分です。適格機関投資家等特例業務届出者は、一定のファンド業務を行う側の立場です。

混同しやすい3つの名称
名称誰の区分か確認すること
適格機関投資家投資家定義府令の要件と、必要な届出
特定投資家投資家プロ向け取扱いの対象か、移行手続が必要か
適格機関投資家等
特例業務届出者
ファンド業務を行う者業務の届出と特例要件の充足

特定投資家制度では、知識・経験・財産などを踏まえ、契約に際する一定の行為規制の適用が除外されます。適格機関投資家は特定投資家に含まれますが、特定投資家の範囲はそれより広く、一定の法人・個人が手続を経て移行する仕組みもあります。特定投資家になったことだけで、適格機関投資家になるわけではありません。詳しくは金融庁「特定投資家に関する情報」をご参照ください。

適格機関投資家等特例業務とは

組合型ファンドの持分を自ら勧誘する業務や、出資された財産を主として有価証券等で運用する業務には、原則として第二種金融商品取引業や投資運用業の登録が問題になります。募集と運用は別の業務なので、誰がどちらを行うかを分けて考えます。投資先や販売方法によっても扱いが変わります。

これに対し、適格機関投資家等特例業務は、一定の投資家を相手に行う私募・運用について、事前の届出など所定の要件を満たせば、対象となる業務の登録を不要とする制度です。基本となる投資家構成は、適格機関投資家1名以上と、それ以外の一定の投資家49名以下です。出資者がすべて適格機関投資家という場合も含まれます。

○ 個人  □ 法人  △ 組合
形は法的形態、線は出資・運営の関係を表します。

特例業務の基本構造(代表例)
適格機関投資家である銀行などの法人と、資格を満たす個人投資家がLPSに出資し、LPSが投資先企業に投資する構造図適格機関投資家1名以上それ以外の投資家49名以下法人銀行など個人所定の資格が必要出資LPS組合型ファンド投資法人投資先企業

適格機関投資家は法人だけでなく、LPSや要件を満たす個人なども該当します。それ以外の投資家にも法人等が含まれます。図はそれぞれの代表例です。

GPなどの業務執行者が事前に届出し、対象となる私募・運用を行います。人数に加え、投資家の資格、特例上の除外、譲渡制限、業務の実態なども確認します。

この仕組みは、金融商品取引法第63条に基づきます。対象業務と登録との関係は、金融庁の登録手続ガイドブック・参考1で説明されています。

「1名+49名」だけでは足りない理由

第一に、49名の枠は一般の投資家を自由に集められる枠ではありません。適格機関投資家以外の出資者も、法令で定める範囲に該当する必要があります。例えば、一定の法人や、一定の金融資産・取引経験を持つ個人などです。金融庁は個人の例として、投資性金融資産が1億円以上で、証券口座開設後1年を経過している者などを挙げています。この基準は、先ほどの個人の適格機関投資家の基準とは別です。金融庁の制度説明でも、出資者の範囲を確認できます。

第二に、適格機関投資家の名義があるだけでは足りません。実体のない関与で要件を満たそうとする構成には問題があります。特例業者自身や、その特例業者が運用する他のファンドが唯一の出資適格機関投資家となるような構成にも注意が必要です。

第三に、出資する適格機関投資家がすべてLPSの場合には、少なくとも1つについて、運用する財産の総額から借入金を控除した額が5億円以上と見込まれることが必要です。LPSが適格機関投資家に該当することと、そのLPSを特例業務の要件を支える投資家として使えることは、別の確認事項です。

また、密接関係者等の出資割合などにも規制があります。個々の投資家の資格、人数、出資構成を一体で確認しなければなりません。これらの着眼点は、金融庁の監督指針IXに示されています。

LLP・LPSを使えば、金融規制から外れるのか

LLPやLPSは、事業を行うための法的な仕組みです。他方、金融商品取引法は、資金を集め、事業や投資を行い、その収益等を出資者に分配する権利を、一定の除外を設けつつ広く規制対象としています。契約の名称だけで登録・届出の要否を決めることはできません。

LLPについては、出資者全員が実際に事業に関与する形であれば、集団投資スキーム持分からの除外が問題になります。ただし、全員の同意による業務執行に加え、全員が常時従事するか、事業の継続に不可欠な専門能力を発揮して従事するなど、具体的な要件があります。組合員として名前を連ねるだけでは、この除外を説明できません。金融庁「ファンド関連ビジネスを行う方へ」は、除外要件も含めて解説しています。

LPSでは、出資者として参加する場合の適格機関投資家該当性と、そのLPS自身の持分を勧誘・運用する場合の業規制を分けます。LPSを設立したという事実だけで、運営者の登録や届出が済むことはありません。

途中で適格機関投資家が脱退したら

設立時だけ要件を満たせばよいわけではありません。出資者の資格の有効期間、持分の譲渡、脱退によって必要な投資家構成が失われないか、運用中も確認します。唯一の適格機関投資家がいなくなる場合などは、そのまま特例で継続できると考えず、適用要件と必要な手続を管轄財務局等に確認する必要があります。

例えば、知人から資金を集める場合

事業会社の経営者が、知人20名から資金を集めて未上場株式に投資する構想を考えているとします。「49名以下だから届出で始められる」と判断するのは早計です。知人であること自体は投資家の資格を満たす理由にならず、各人が出資できる区分に当たるかを確認する必要があります。さらに、適格機関投資家が実際に出資するのか、誰が勧誘と運用を担うのかを確定させます。

逆に、適格機関投資家を確保できない場合でも、直ちに事業構想のすべてが不可能になるわけではありません。必要な登録を受ける方法や、登録業者を活用する方法など、業務分担から検討し直します。特例に合わせて名目上の出資者を置く前に、行いたい業務から必要な手続を考える順序が大切です。

設計時には「人・業務・資金」を対応させる

検討の最初に作りたいのは、出資者、ファンド、業務執行者、販売を担う者、投資先を並べた関係図です。それぞれについて、誰が資金を出すのか、誰が勧誘するのか、誰が投資判断をするのかを明らかにします。そのうえで、各投資家の資格と、登録・届出の根拠を対応させます。

届出後も、帳簿書類、事業報告、投資家への説明、禁止行為など、適用される規律への対応が続きます。届出者の公表情報は金融庁の一覧で確認できますが、掲載は個別ファンドの安全性や運用成績を保証するものではありません。

適格機関投資家は、ファンドの制度設計を理解するための重要な入口です。事業の形を選ぶ際には、LLP・LPSの組織法上の特徴、投資家の属性、勧誘・運用に関する金融規制、税務上の取扱いをつなげて確認する必要があります。

本稿は制度の一般的な解説です。国内の組合型ファンドを中心に説明しており、外国投資家のみを対象とする仕組みやベンチャー・ファンドの追加特例などは扱っていません。個別の登録・届出の要否は、投資対象、契約、勧誘方法、出資者構成を踏まえて確認します。

法令・制度の基準日:2026年10月16日。

本稿は2026年10月17日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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