スタートアップの基礎知識

LLP+LPSスキームとは何か――ファンドの構造・歴史と、日本での普及

スタートアップを支えるVCファンド。その裏側には、投資先を選ぶ能力だけでなく、誰が運営し、誰が責任を負い、利益を誰にどう配分するかという設計があります。日本で広く使われている選択肢の一つが、LLPをGPとしてLPSを運営する「LLP+LPSスキーム」です。

私はこの仕組みを、発明だと思っています。新しい法律を作ったのではなく、既存の制度を組み合わせ、ファンド運営に必要な機能を実現した。その考案者として触れておきたいのが、公認会計士の磯崎哲也さんです。

LLPとLPSは、似た名前でも役割が違う

まず、GPとLPはファンド内での役割、LLPとLPSは組合の制度です。この二組を分けると理解しやすくなります。

用語この仕組みでの意味
GP(無限責任組合員)出資もしながら、ファンドの業務を執行する側。
LP(有限責任組合員)原則として出資額を限度に責任を負う投資家側。
LPS(投資事業有限責任組合)GPとLPが参加し、投資資金を集めて運用するファンド本体。
LLP(有限責任事業組合)共同事業のための組合。このスキームでは、運営パートナーらが参加してGPを担う。

LPSの制度は1998年、LLPの制度は2005年に始まりました。どちらも株式会社とは異なり法人格を持たない組合ですが、根拠法と責任の構造は異なります。制度の概要は経済産業省のLPS制度とLLP制度で確認できます。

図で見る、二階建てのファンド構造

○ 個人  □ 法人  △ 組合
形は法的形態、線は出資・運営の関係を表します。

個人と運営会社がLLPに参加し、LLPと法人LPがLPSに出資。LPSが投資先企業に投資する構造図個人法人運営パートナー運営会社出資・業務執行LLPGP法人LP機関投資家の例運営+出資出資LPSファンド本体投資法人投資先企業

法人のLPが参加する例です。LPには個人・組合などが参加する場合もあります。投資先からの配当・売却代金は、投資の線と逆方向に戻ります。

大切なのは、LLPとLPSを同じ箱にしないことです。LPSは投資家のお金を集める器。LLPは、そのLPSを運営する側の共同事業の器です。運営会社がある場合でも、「運営会社の社名」と「登記・契約上のGP」が同一とは限りません。

私が週刊isologueを読んでいた頃

私は当時、磯崎さんの有料メールマガジン「週刊isologue」を読んでいました。手元に残る記録では、2012年1月の「Femto Startup LLP」の解説を読んだ後、なぜLPSではなくLLPを選ぶのかがよく分かった、という感想をTwitterで伝えています。

ただし、この2012年のLLPの話と、2013年の「LLPをLPSのGPにする」話は分ける必要があります。2013年4月には、週刊isologueで日本のベンチャー投資ストラクチャーについて基本編・税務編が取り上げられました。この記事では有料本文や図を転載せず、公開資料で確認できる経緯と、私自身の感想を紹介します。

2013年4月22日の磯崎さんの公開記事では、磯崎さん個人と新生企業投資がLLPを組成し、約16億円のファンドのGPを務める構造が説明されています。フェムトの公式発表も、2013年の1号ファンドが日本で初めてLLPをGPとする構造を採用したとしています。「日本初」は同社の公表資料に基づく説明です。

私が驚いたのは、制度を知っていることと、制度を組み合わせて現実の事業に使える仕組みを作ることの違いでした。同業として「この人にはかなわない」と感じるのは、こういうところです。

無限責任のGPを、有限責任のLLPが担う意味

「GPは無限責任なのに、LLPは有限責任。矛盾していないか」と思うかもしれません。ここでは、責任を負う階層が違います。

LPSの債務についてGPが負う責任
GPであるLLPは、LPのように出資額だけに責任を限定されるわけではない。
ただし、責任の階層を分けて考える
LLPに参加する組合員の責任
LLP法上、組合員は原則としてその出資価額を限度に責任を負う。

したがって、GPの無限責任が消えてなくなる仕組みではありません。運営に伴う責任と、その共同事業に参加する個人・法人の責任の境界を設計する仕組みです。個人保証や自らの違法行為など、別の原因で生じる責任までなくなるわけではありません。

構成員課税と、利益配分の設計

LLPとLPSは、基本的には組合そのものに法人税を課すのではなく、組合の損益を組合員に帰属させる構成員課税の仕組みです。ただし「非課税」という意味ではありません。最終的に利益が帰属する個人・法人に、それぞれ所得税・法人税などの課税関係が生じます。

ファンドの運営では、通常の管理報酬に加え、投資成果に応じて運営側が受け取るキャリード・インタレストが重要です。現金をいくら出したかだけでなく、誰が投資先を発掘し、育成し、成果を生んだのかを利益配分にどう反映するか。ここに契約設計と税務の接点があります。

受け取るお金考え方
管理報酬ファンド管理・運営という役務の対価。
組合利益の分配としてのキャリー契約に基づく利益の配分。経済的合理性や実態などの確認が必要。

名前をキャリーにすれば、すべて株式譲渡益になるわけではありません。国税庁の2021年の情報では、個人ファンドマネージャーに対する利益分配について、出資割合と異なる配分の経済的合理性などを踏まえた所得区分が整理されています。投資対象から生じる所得の種類や契約内容も重要です。

実際に、どれくらい使われているのか

事例を数社並べるだけでは普及の程度は分かりません。そこで、金融庁の適格機関投資家等特例業務の届出者一覧・ファンド一覧(2026年7月31日時点)を独自に集計しました。

集計対象名称数LLP表記の届出者に関連する名称数割合
国内LPS2,46939315.9%
うちベンチャー・ファンド区分1,23531425.4%

届出者一覧4,589行のうち、名称に「有限責任事業組合」を含むものは363行でした。ファンド一覧では、国内LPSの名称393件がLLP表記の届出者に関連付けられています。少数の珍しい事例にとどまらないことは、この数字から確認できます。

方法:金融庁の「I.届出者リスト」を使用。種別が日本のLPSを示す日英表記の行を抽出し、全角半角・空白・英字の大小を正規化したファンド名称単位で重複をまとめました。種別の誤記候補2行は除外しています。同名の別ファンドや名称変更は完全には識別できません。また、届出者には私募のみを行う者も含まれ、LLP関連393名称中5名称はLLPの業務が私募のみの掲載です。このため、この表は法的なGP採用率そのものではなく、一覧上のLLPとの関連を測る参考集計です。登録業者が別の枠組みで運営するファンド等を含む、日本の全ファンドの統計ではありません。資料に記載された業務の現存・稼働を個別に確認したものでもありません。

中小機構の出資先では、近年の加入分ほど採用割合が高い

時期による違いを補足するため、中小機構の出資先ファンド一覧(2026年9月4日時点)も別に集計しました。国内LPS426件のうち、GPにLLPを含むものは78件(18.3%)。機構加入年で区切ると次のようになります。

中小機構への加入年LLPをGPに含む件数/国内LPS割合
1999~2012年1/1690.6%
2013~2017年9/929.8%
2018~2022年27/8930.3%
2023~2026年41/7653.9%

さらに、同一覧の「起業支援ファンド」に限定すると、2023年以降は24件中22件、91.7%がLLPをGPに含んでいました。これは中小機構が出資した特定の集団の数字ですが、近年のVCでこの構造が有力な選択肢になっていることが見て取れます。

集計には過去のファンドを含みます。「加入年」はファンドの設立年ではありません。共同GPもLLPありに分類し、国内LPS以外の5件は除外しました。GP欄の「有限責任組合事業組合」という誤記1件は、運営者の公表資料でLLPであることを確認して補正しています。金融庁の集計とは母集団が異なるため、両者を足し合わせてはいません。

合同会社をGPにする選択肢もある

一方で、LLPだけが正解というわけではありません。フェムト自身、2020年の3号ファンドでは合同会社(GK)をGPに採用しています。当時の公式発表は、従来の長所を維持しながら登記・届出の課題を解決するための変更と説明しています。

ここで「LLPを合同会社に替えるだけで、税務もすべて同じ」と理解してはいけません。日本の合同会社は法人であり、原則として法人税の納税義務者です。有限責任、業務執行、報酬・利益配分をそれぞれどこに置くかによって、全体の設計は変わります。また、2020年当時の登記上の事情を、そのまま現在の制度の説明に使うこともできません。

優れたスキームは、事業を動かすためのもの

LLP+LPSの面白さは、単に税金を減らすという話ではありません。運営者の責任を整理し、成果に応じた利益配分を設計し、投資家の資金をスタートアップに届ける。その複数の課題を、一つの構造として解いている点です。

すべての採用者が磯崎さんから直接影響を受けたと確認できるわけではありません。それでも、先駆的な実装が公開され、その後、同じ基本構造が広く実務に現れている。このような仕事を、私は「発明」と呼びたいと思います。

なお、LLPとLPSを組成するだけで、投資家を自由に募集できるわけではありません。金融商品取引法上の登録・届出と投資家の資格を別に検討する必要があります。続編の適格機関投資家とは何かでは、この構造に不可欠な登場人物を整理します。投資を受ける企業側の説明は、エクイティストーリーとは何かもご参照ください。

法令・制度の基準日:2026年10月15日。統計の資料時点は各表に記載。一般的な制度解説であり、個別の組成・募集・運用は契約内容と適用法令に応じた検討が必要です。

本稿は2026年10月17日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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