使いきれないほどの財産を築いた人は、その先に何を考えるのでしょうか。家族への承継に加えて、自分がいなくなった後も、社会のために財産が働き続ける仕組みをつくる。公益財団法人を考えるとき、私が魅力を感じるのは、この点です。
では、世界的な企業を生み出した人たちは、実際にどのような仕組みを選んでいるのでしょうか。ビル・ゲイツだけでなく、イーロン・マスク、Googleの創業者、そしてサム・アルトマンにも目を向けてみました。調べると、財団、会社、寄附の誓約という、異なる選択が見えてきます。
まず、全員が同じ「財団」をつくっているわけではありません
英語のFoundationという名前を見ても、日本の「公益財団法人」と同じ制度だとは限りません。さらに、社会貢献活動の組織がLLCという会社形態を採用している例もあります。ここでは、それぞれの公式説明と公開資料をもとに、活動の主体を整理します。
| 人物 | 主な組織・取り組み | 注目する点 |
|---|---|---|
| ビル・ゲイツ | Gates Foundation | 保健・貧困などを支援。2045年末の活動終了を予定 |
| ジェフ・ベゾス | Bezos Earth Fund、Day One Fund | 環境や住まいなど、目的別に資金を配分 |
| イーロン・マスク | Musk Foundation | エネルギー、宇宙、教育、安全なAIなどを助成対象に |
| ラリー・ペイジ | Carl Victor Page Memorial Foundation | Googleの企業としての寄附と、家族の財団を区別 |
| セルゲイ・ブリン | Sergey Brin Family Foundation | パーキンソン病研究などを支援 |
| サム・アルトマン | Giving Pledgeへの参加 | 資産の大部分を寄附する誓約。財団設立とは別の話 |
| ローレン・パウエル・ジョブズ | Emerson Collective | ジョブズ氏の妻自身が創設したLLC。寄附と投資を組み合わせる |
| マーク・ザッカーバーグ、プリシラ・チャン | Chan Zuckerberg Initiative(CZI) | LLCを含む仕組み。Meta本体とも別の組織 |
この表は、寄附額のランキングでも、活動の優劣を判定するものでもありません。財産を社会に回すために、どのような器を使っているかを見るための比較です。以下の各項目に、確認した資料へのリンクを付けています。
ゲイツ――財団を「永遠に残す」とは限らない
ゲイツ財団は、2000年にBill & Melinda Gates Foundationとして発足し、感染症や貧困などの問題に取り組んできました。ところが、今回あらためて興味を引かれたのは、その終わり方です。
財団の公式説明によると、ゲイツ氏は2025年、残る財産のほぼすべてを今後約20年間で寄附し、財団を2045年末に終了する方針を示しています。長期にわたって元本を運用し続ける方法だけでなく、期限を決めて資源を集中的に使う方法もあるわけです。
財団の目的は、法人そのものを長生きさせることではありません。解決したい課題に対して、いつ、どのくらい資金を使うか。その判断によって、財団の寿命も変わります。組織を残すことと、社会に成果を残すことは、必ずしも同じではないという点は、財団の設計を考えるうえで示唆的です。
ベゾス――環境、住まい、教育に目的を分ける
ジェフ・ベゾス氏については、2020年に始まったBezos Earth Fundが、自然環境の保護・回復などのために当初100億米ドルを拠出する方針を掲げています。また、Day 1 Families Fundでは、住まいを失った家族を支援する団体への助成を行っています。
ここで名前が紛らわしいのが、Bezos Family Foundationです。同財団の公式説明では、創設したのは両親のマイク、ジャッキー・ベゾス夫妻とその家族です。名前にBezosとあるだけで、すべてをジェフ氏本人が設立した一つの財団だとまとめてしまうと、実態を取り違えます。
環境を守ることと、家族の住まいを支えることでは、必要な専門家も成果の測り方も異なります。目的に応じて、別の事業や組織に資金を配分する。その設計にも、事業をつくってきた人らしい発想が見えます。
マスク――Musk Foundationは実際に存在する
イーロン・マスク氏にも、Musk Foundationがあります。公式サイトは驚くほど簡潔ですが、助成対象として、再生可能エネルギー、有人宇宙探査、小児医療研究、科学・工学教育、そして人類に役立つ安全なAIの開発を挙げています。
企業経営で知られる分野と、助成の対象に重なる部分があるのは興味深いところです。ただし、財団があるという事実から、個々の寄附の動機や効果まで判断することはできません。実際にどの活動に、いくら支出され、どのような成果が生まれたかは、別に確認すべき問題です。
Google創業者――会社の社会貢献と、個人・家族の財団
ラリー・ペイジ氏は、2014年のGoogle公式ブログで、エボラ出血熱への対策について、Googleの寄附とは別に、自分たちの家族の財団からも1,500万米ドルを寄附すると説明しています。Carl Victor Page Memorial Foundationの公開申告資料でも、ペイジ氏が役員であることを確認できます。
一方、セルゲイ・ブリン氏にはSergey Brin Family Foundationがあります。パーキンソン病の研究を推進するASAPの公式説明からも、同財団につながる研究支援の仕組みが分かります。
会社が事業活動の一環として寄附をすることと、創業者が自分の財産を別の組織に移して社会貢献をすることは、資金の出どころも意思決定の主体も違います。「Googleがやっている」という理解から一歩進むと、企業と創業者の役割が分かれていることが見えてきます。
アルトマン――寄附の誓約と、財団の設立は別です
サム・アルトマン氏については、オリバー・マルヘリン氏とともに、2024年にGiving Pledgeに参加したことを確認できます。これは、財産の大部分を生前または遺言によって慈善活動に寄附するという誓約です。二人は、人々の豊かさを生み出す技術への支援を重視すると述べています。
ただし、誓約に署名すること自体が、自分の財団を設立することではありません。この資料だけから「アルトマン氏の個人財団がある」とは言えませんし、反対に「ない」とも断定できません。OpenAIという組織の仕組みを、本人の個人財産を寄附するための仕組みと同一視するのも適切ではありません。
ジョブズ家とザッカーバーグ――LLCという選択
スティーブ・ジョブズ氏については、今回確認した資料から、本人の財団の有無を断定することは避けたいと思います。公に見える活動として、妻のローレン・パウエル・ジョブズ氏が創設したEmerson Collectiveがあります。ここは、同氏自身の活動として区別する必要があります。
Emerson Collectiveは寄附と投資を組み合わせており、公式利用規約の法人名はEmerson Collective, LLCです。教育や環境などに取り組む社会貢献活動であっても、その器は日本の公益財団法人とは異なります。
同じく、ザッカーバーグ氏とチャン氏のCZIも、公式文書にChan Zuckerberg Initiative, LLCと記載されています。Metaとも別の組織です。CZIは資産運用についての説明で、長期的な社会貢献を支える運用方針も公表しています。
私は以前、ザッカーバーグ氏の取り組みをきっかけの一つとして、公益法人を活用した節税スキームを書きました。ただし、海外の社会貢献活動から着想を得ることと、その法的・税務的な仕組みを日本でそのまま再現することは別です。名前よりも、実際にどの法人が資産を持ち、どのようなルールで使うのかを見る必要があります。
大切なのは「いくら残すか」から「どう働かせるか」へ進むこと
今回の比較で見えてきたのは、世界の富豪が一律に同じ財団をつくっているわけではない、ということです。財団による助成、会社を通じた投資と寄附、既存団体への支援、将来の寄附の誓約。さらに、長く続ける設計もあれば、期限を決めて使い切る設計もあります。
税理士としては税務上の効果も気になります。しかし、個々人が節税を目的に始めたと、公開資料から一括して断定することはできません。公益目的への支出を促す税制度と、寄附者本人の動機は分けて考えるべきです。
日本で公益財団法人を検討する場合も、寄附する財産、継続的な収入、意思決定を担う人、公益活動の中身を一体で設計します。自社株の寄附であれば、配当を活動資金にする可能性がある一方、株式保有に関する規制や税務上の条件の確認が必要です。財団に移した財産が、引き続き家族の自由に使えるお金になるわけではありません。
そのうえで、自分が築いた財産が次の世代の教育や研究、文化を支える。人の寿命を超えて、社会のために働く仕組みを残す。そこに、私は財団という仕組みの美しさを感じます。
2026年10月10日時点の情報に基づきます。各組織の公式資料・公開資料をもとにした解説です。海外の組織形態と日本の公益財団法人は、同じ制度ではありません。
本稿は2026年10月10日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

