寄附金の税務

日本の富豪・著名人は、何を財団に託したのか――長者番付トップ10と公益財団法人の事例

前回は、世界の富豪がどのような仕組みで財産を社会に回しているかを調べました。では、日本ではどうでしょうか。美術館や奨学金、海外の学校建設、動物福祉。身近な活動をたどっていくと、企業の創業者や著名人につながる公益財団法人が、数多く見つかります。

私は約10年前にも、公益法人を活用した節税スキームの中で、日本の財団を取り上げました。今回は各団体の公式資料をあらためて確認し、財産や経験、作品を、どのような活動につなげているのかを見てみます。

富豪ランキングから見ても、財団との関わり方は一様ではありません

まず、Forbes JAPAN「日本長者番付2026」のトップ10を手掛かりにすると、財団を自ら設立した人だけでなく、家族や企業を通じて関わる人もいます。ランキングは2026年6月公表、資産評価は同年5月22日時点の株価・為替に基づくもので、今日の順位を意味するものではありません。

2026年公表の長者番付トップ10から見る財団との接点
順位・人物 財団 確認できた関係
1位 孫正義氏 孫正義育英財団 2018年に公益財団法人へ移行。
2位 柳井正氏 柳井正財団 海外大学留学等の奨学金事業。
3位 滝崎武光氏 キーエンス財団 滝崎氏は代表理事。設立者は株式会社キーエンス。
4位 佐治信忠氏 サントリー芸術財団 など。企業を通じた文化支援。
5位 関家一家(ディスコ) — 本人・一族による財団設立は今回の調査では未確認。
6位 重田康光氏 重田教育財団 公式説明で創設者と明記。
7位 安田隆夫氏 安田奨学財団 理事長を務め、学生・留学生等を支援。
8位 毒島秀行氏 — 本人・一族による財団設立は今回の調査では未確認。
9位 竹中統一氏・竹中家 竹中育英会 などの企業財団。育英会の創設者は竹中藤右衛門氏。
10位 森章氏 — 本人による財団設立は今回の調査では未確認。同じ森姓の他の財団と区別。

表中で確認できた財団はいずれも公益財団法人です。

「未確認」は、今回調べた公開資料から設立の関係を確認できなかったという意味です。財団が存在しない、あるいは寄附をしていないという意味ではありません。また、本人が設立した財団と、企業が設立した財団、前の世代から受け継いだ財団を同列には扱っていません。

例えば、キーエンス財団は公式資料で会社が設立者とされ、竹中育英会の創設者は竹中統一氏本人ではなく竹中藤右衛門氏です。財団の役員名簿に名前があることと、その人が財産を出して設立したことは違います。この区別をすると、「富豪はみんな自分の財団をつくる」という単純な見方から、実際の仕組みが見えてきます。

孫正義氏と柳井正氏――次世代の人材に投資する

孫正義氏の孫正義育英財団は、2016年に一般財団法人として設立され、2018年3月1日に公益財団法人へ移行しています。設立時と現在では、法人格が変わっているわけです。

一般財団法人として設立したうえで、公益目的事業や運営などの要件を満たし、行政庁の公益認定を受ける道があります。一般財団法人のまま活動することもできます。設立当時の記事だけを読むと、現在の法人格を取り違えてしまうことがあります。

また、公益財団法人柳井正財団は、海外大学への進学を目指す若者などへの奨学金事業を行っています。事業によって築いた財産を、人が学び、力を伸ばすための機会へつなぐ。企業を次の経営者に渡すこととは別に、社会の次の担い手を育てる承継の形が見えてきます。

三木谷浩史氏――財団を新設するだけが関わり方ではない

トップ10とは別に、三木谷浩史氏についても確認しました。本人が新たに設立した財団は今回確認できませんでしたが、楽天の公式略歴には、2011年10月に公益財団法人東京フィルハーモニー交響楽団の理事長に就任したことが記されています。個人の新しい財団を設立したという話と、歴史ある芸術団体を役員として支える話は分ける必要があります。

自分の名を冠する財団をつくらなくても、既存の団体に経営経験や人脈、資金を提供する道があります。財団の数を数えるだけでは、社会貢献への関わり方は見えてきません。

まず、誰がつくり、何を続けているのか

本人が生前に設立した財団、企業が資金を拠出した財団、亡くなった方の作品や足跡を次世代へ伝える財団は、同じではありません。また、財団には株式会社のような株主がいるわけではなく、創業者が「所有する会社」と同じ意味で捉えないことも大切です。

日本の公益財団法人の例
人物・企業とのつながり 財団・団体 主な活動
前澤友作氏 現代芸術振興財団 現代アートの展覧会、若手芸術家への支援
渡邉美樹氏 みんなの夢をかなえる会/School Aid Japan/Save Earth Foundation 社会起業、子どもの教育、環境保全
サントリー サントリー芸術財団/サントリー文化財団 美術・音楽/人文・社会科学、地域文化
岡本太郎氏・岡本敏子氏 岡本太郎記念現代芸術振興財団 記念館、現代芸術賞など
杉本彩氏 動物環境・福祉協会Eva 動物福祉の啓発、制度への働きかけ
田中角栄氏を顕彰 田中角栄記念館 遺墨・遺品などの展示
重松理氏 日本服飾文化振興財団 服飾文化の継承、若手の育成
飯塚毅氏 飯塚毅育英会 学生・留学生への奨学金

表の名称には「公益財団法人」を省略しています。以下では、確認できた活動と設立経緯を区別して紹介します。各人物の私的な相続設計や、実際に適用された税務上の取扱いまで明らかになっているという意味ではありません。

前澤友作氏――現代アートへの関心を、次の表現者へ

公益財団法人現代芸術振興財団は、2012年11月6日に設立された財団です。前澤友作氏が創設したことは財団の公表資料に記載され、公式サイトでは展覧会、表彰、助成による現代芸術の振興が説明されています。

ここで面白いのは、作品を個人で収集することから、より多くの人が作品に触れ、若い芸術家が活動する機会をつくることへと広がっている点です。自分が好きな分野を社会に開いていく。そのための仕組みとして財団が機能しています。

ただし、「個人のコレクションがすべて財団の所有である」「遺言で全作品を寄附することになっている」とまでは、ここで確認した資料からは言えません。個人の所有と財団の活動は分けて見る必要があります。

渡邉美樹氏――三つの財団で、異なる社会課題に取り組む

ワタミ創業者の渡邉美樹氏が関わる財団として、みんなの夢をかなえる会、School Aid Japan、Save Earth Foundationがあります。社会起業家の発掘・育成、子どもの教育支援、資源循環や森林再生と、活動分野が分かれています。

School Aid Japanは、2001年に始まったNPO法人の活動を、2009年に公益財団法人が引き継いだと説明しています。公式サイトで公開する定款には、設立者を渡邉美樹氏、設立時の拠出財産を現金300万円とする記載もあります。現在の活動全体を300万円で賄っているという意味ではありませんが、小さく法人を立ち上げ、支援を積み重ねていく姿が見えます。

一方、Save Earth Foundationの沿革を読むと、前身の財団は1965年設立で、渡邉氏が理事長に就任したのは2013年です。したがって、三つすべてをゼロから設立したとまとめるのは正確ではありません。既存の財団に関わり、その活動を引き継いで発展させる道もあるわけです。

サントリー――美術館の財団と、研究を支える財団

サントリーについては、名称を整理すると分かりやすくなります。美術館や音楽の活動につながるのは、公益財団法人サントリー芸術財団です。創業者・鳥井信治郎氏の社会貢献の考えを受け継ぎ、佐治敬三氏が文化活動を推進したという経緯が、公式の設立趣意に記されています。

サントリー美術館は1961年に開館し、2009年には芸術分野の活動がサントリー芸術財団としてまとめられました。一方、1979年設立の公益財団法人サントリー文化財団は、人文・社会科学の研究助成やサントリー学芸賞、地域文化への支援などを行っています。

これは、創業者個人の遺産だけで説明する例ではありません。企業が資金や組織を通じて文化を支え、次の経営者や専門家へ活動をつないでいく。人の寿命を超える仕組みは、企業と財団の関係からもつくられています。

岡本太郎氏――作品だけでなく、創造する精神を残す

岡本太郎氏については、公益財団法人岡本太郎記念現代芸術振興財団が活動しています。岡本太郎記念館の公式説明によると、南青山のアトリエが記念館として公開されたのは1998年5月7日、太郎氏の没後2年です。その実現を推し進めたのは、岡本敏子氏の思いでした。

また、岡本太郎現代芸術賞は、新しい表現に挑む作家を顕彰する取り組みです。過去の作品を保存するだけでなく、次の作家が生まれる機会にもつながっています。「本人が亡くなっても活動が続く」とは、建物や名前が残るだけではなく、その人が大切にした価値観が次の人を励ますことなのだと思います。

杉本彩氏――動物福祉への思いを、組織の活動にする

公益財団法人動物環境・福祉協会Evaの公式説明では、杉本彩氏が2014年2月に一般財団法人を設立し、翌2015年2月に公益法人として認定された経緯が紹介されています。動物福祉の啓発や講演、命についての教育、法律や制度への働きかけなどに取り組んでいます。

この例を見ると、公益財団法人は、上場企業の創業者や自社株のある人だけの制度ではないことが分かります。自分が社会の中で変えたいことを、専門家や支援者とともに継続して取り組める形にする。その選択肢でもあります。

田中角栄氏――人物の足跡を伝える財団

田中角栄氏の名を冠した公益財団法人田中角栄記念館は、政府の法人情報でも確認できます。柏崎観光協会の施設案内では、本人の遺墨・遺品などを展示し、生涯や足跡を伝える施設として紹介されています。

ただし、名前が付いていることと、本人が生前に設立したことは別です。今回は本人による設立や個別の株式寄附の経緯を確認できていないため、そこまで踏み込んでは紹介しません。財団には、人物の歩みを後世の人が学ぶ場を維持するという役割もあります。

重松理氏と飯塚毅氏――仕事から生まれた文化と人材を育てる

ユナイテッドアローズ創業者の重松理氏が代表理事を務める公益財団法人日本服飾文化振興財団は、服飾文化の継承や人材育成に取り組んでいます。事業として服を売ることから一歩広がり、その仕事を支える文化や次世代の担い手に働きかける活動です。

そして、税理士である私にとって身近なのが、TKC創業者・飯塚毅氏につながる公益財団法人飯塚毅育英会です。公式の概要では、飯塚氏夫妻が寄附した現金とTKC株式などを基本財産とし、学生や外国人留学生に資金援助を行う仕組みが説明されています。

自社株の寄附が実際に公表されている例として、これは参考になります。会社の成長を支えた株式が、財団の財産となって人材育成を支える。株式と公益活動は別世界の話ではなく、設計によってつながるのです。ただし、現在の持株比率や個別の税務処理を、過去の数字から推定することはしていません。

公益と資産承継を、同じ設計の中で考える

今回の例は、すべて同じ資金構造ではありません。個人の寄附、企業の拠出、作品や施設の活用、外部からの寄附など、支え方はさまざまです。共通するのは、個人の思いや経験を、継続して社会に届けるための組織にしていることです。

公益財団法人への寄附や資産承継には、一定の条件のもとで税制上の優遇が用意されています。しかし、ここに挙げた人たちが全員、節税を目的として行動したと決めつけることはできません。税効果が制度としてあることと、特定の人の動機がそうであったことは、別の話です。

自社株を財団に寄附する場合には、配当を公益活動の継続的な財源にする設計が考えられます。一方で、株式保有に関する制約や寄附時の課税関係を確認する必要があり、財団に移した財産は、家族が自由に使える財産ではなくなります。単に「相続税がなくなる仕組み」とだけ捉えると、本質を見誤ります。

自分がつくった会社や集めた作品、自分を育てた教育や文化を、次の世代へつなげたい。その思いに、財産と運営体制を組み合わせる。どれだけ財産を残すかに加えて、その財産にどんな仕事をしてもらうかを考えるところに、財団という仕組みの面白さがあります。

海外の例は、世界の富豪は、なぜ財団をつくるのかで紹介しています。日本での必要人数、設立時の財産、公益認定、寄附、認定後の運営については、公益財団法人の設立・運営支援をご覧ください。

2026年10月11日時点の制度・公表情報を対象にした解説です。本文中に各財団・企業・公的機関等の資料へのリンクを掲載しています。各事例について、非公開の資産構成、寄附契約、相続設計、税務上の取扱いを確認したものではありません。

本稿は2026年10月11日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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