寄附金の税務

個人が未上場株式を譲渡するとき、税務上の時価はどう決まるか

オーナーが保有する自社株を後継者や資産管理会社へ売るとき、「相続税の株価を計算して、その金額で売ればよい」と考えられることがあります。しかし、株式の相続・贈与と売買では、確認する税目も評価の入口も異なります。まず売主と買主が誰なのかを確定し、その取引に適用される規定をたどる必要があります。

個人の譲渡所得を検討する場合、とくに重要なのが所得税法59条と所得税基本通達59-6です。ただし、この通達は、あらゆる個人間売買の価格を一律に定める規定ではありません。法人への低額譲渡についての判定と、個人が安く買った場合の贈与税の判定を分けて理解することが出発点です。

売却先によって、最初に確認する問題が変わります

個人を売主とする株式売買の確認事項
買主売主側の主な問題買主側の主な問題
法人時価の2分の1未満の対価による譲渡等に当たるか時価との差額について受贈益等が生じないか
個人実際の対価による譲渡所得。低額譲渡損等には別の取扱いもあります著しく低い対価による取得として贈与税が生じないか

国税庁は、個人が法人へ時価の2分の1未満で譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合、原則として時価による譲渡があったものと扱うと説明しています。実際の入金額が少なくても、時価を収入金額として譲渡所得が計算される場面があるのです。一方、個人間の取引に、この法人向けの基準をそのまま当てはめることはできません。国税庁「時価より低い価額で売ったとき」

59-6は、まず売買実例等の検討につながります

所得税基本通達59-6は、所得税法59条1項を適用する場合の株式の価額について、所得税基本通達23~35共-9に準じて算定する構造です。非上場であるから直ちに相続税評価へ進むのではなく、最近の適正な売買実例、公開途上の株式の価格、事業の種類・規模・収益状況等が類似する他社の株式価額などを確認します。

過去に売買があったという事実だけで、その価格が時価になるわけではありません。例えば、退職する従業員から会社関係者が一定額で買い取った取引と、経営権を伴うまとまった株式の譲渡では、取引条件が異なります。日付、株数、当事者の関係、株式の権利内容、会社の業績変化を把握し、その実例が今回の株式の価値を表しているかを説明できるようにします。所得税基本通達23~35共-9

財産評価基本通達へ接続するときには修正があります

売買実例等によれず、1株当たりの純資産価額等を参酌する区分では、59-6に定める条件の下で、財産評価基本通達178から189-7までの例によります。この「条件の下で」という点が重要です。相続税申告用の評価明細書をそのまま使うと、譲渡所得の計算に必要な修正を落とすおそれがあります。

第一に、株主区分等は、譲渡する個人について譲渡直前の議決権数を用いて判定します。後継者が少数株主として買い受けるからといって、売主の譲渡所得も当然に配当還元方式で計算できるわけではありません。第二に、売主が中心的な同族株主に該当する一定の場合は、評価会社を小会社として扱います。第三に、純資産価額の計算では、土地等と上場有価証券を譲渡時の価額とします。第四に、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しません。所得税基本通達59-6

このため、同じ会社、同じ株数でも、相続時の評価と法人への譲渡に係る評価とで金額が異なることがあります。単に「税務株価」という一つの数字を作るのではなく、評価目的、評価日、対象株主、採用した方法と修正点を評価書の冒頭に記載すると、後の取り違えを防げます。

時価1,000万円の株式を400万円で法人へ売る例

説明のため、所得税上の時価が1,000万円、取得費が100万円の株式を、個人が法人へ400万円で売ると仮定します。譲渡費用や特例は考慮しません。400万円は時価の2分の1である500万円に満たないため、原則として収入金額は1,000万円とされ、譲渡所得の計算上の利益は900万円となります。実際の入金400万円から取得費100万円を差し引いた300万円ではありません。

それでは600万円で売れば何も問題がないのでしょうか。59条1項2号の2分の1未満という基準からは外れますが、同族会社等の行為・計算の否認に該当する場合は別です。また、買主法人に受贈益の問題が残ることもあります。2分の1という数値は、取引全体の安全を保証する基準ではありません。国税庁も、この点を所得税基本通達59-3で明らかにしています。

親子間の売買でも「半額以上なら安心」ではありません

個人が個人から著しく低い対価で財産を取得すると、時価との差額を贈与によって取得したものとみなす取扱いがあります。その「著しく低い」かどうかは個別の事実に基づく判断であり、法人への譲渡で用いる2分の1未満の基準とは異なります。未上場株式については、贈与税側の評価の枠組みと、取得者の株主区分等を確認します。

例えば父が子に株式を売る場合、父の譲渡所得だけを試算して終えてしまうと、子の贈与税を見落とします。所得税側の59-6による価額と、贈与税側で検討する価額を混ぜず、それぞれの課税要件と評価方法を整理する必要があります。国税庁「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」

契約価格を決める前に、評価の前提をそろえます

実務では、株主名簿だけでなく、同族関係者の議決権、定款、直近の決算書、土地や有価証券の明細、最近の株式売買・増資の資料を集めます。その上で、誰のどの税金を検討する評価なのかを明確にします。発行会社自身が買い取る自己株式の取引には、みなし配当等の追加論点もあるため、通常の第三者への譲渡と分けた確認が必要です。

価格交渉の結果と税務上の時価が常に一致するとは限りません。合意した価格の理由を記録するとともに、その価格を採用した場合の売主・買主双方の税負担を先に確かめることが、事業承継の途中で想定外の税金を生じさせないための基本になります。

なお、時価評価は契約日や申告日から独立した抽象的な数字ではありません。採用する評価時点までに増資、配当、資産売却などがあれば、その影響を確認します。前年の評価書がある場合も、前提となる株主構成や資産の状況が変わっていないかを見直してから利用します。

主な参考資料

法令・制度の基準日:2026年09月01日。個別の事実関係によって結論が変わるため、具体的な取扱いは資料を確認してご検討ください。

ご家族と財産の状況に応じた検討を

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本稿は2026年10月10日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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