
会社の売却や資産の承継でまとまったお金を手にしたとき、あるいは海外移住を考え始めたとき。「プライベートバンクに預けたほうがよいのだろうか」と考える方もいるでしょう。
しかし、プライベートバンクという名前だけで運用がうまくいくわけではありません。大切なのは、自分の資産をどの国の、どの銀行で、どのように管理し、いくらの費用を払うのかです。
本稿では、シンガポール、スイス、香港、米国、英国に関係する主要なプライベートバンクを、公式に確認できる条件から比較します。
弊事務所が相談を受ける中では、海外PBを利用・検討する日本人には、上場企業を含むオーナー経営者、弁護士・医師、M&Aで会社を売却した方、暗号資産で大きな資産を築いた方が多く見られます。これは市場全体の顧客構成を示す統計ではなく、弊事務所の相談経験に基づくものです。
同じ富裕層でも、事業や診療所に資金を残す必要がある方と、会社売却後の資産を長期運用したい方とでは、PBに求める機能が異なります。この記事では、こうした違いも踏まえて選び方を考えます。
1. プライベートバンクは何をしてくれるのか
プライベートバンク(PB)は、富裕層の資産管理を担当するサービスです。預金や送金だけでなく、投資の相談、運用の委託、資産を担保とする融資、家族への資産承継などを組み合わせます。
ここでいう「担当者が付く」ことと「運用を全部任せる」ことは別です。
| 利用の形 | 誰が投資を決めるか | 比較すべき点 |
|---|---|---|
| 売買の執行を依頼する | 原則として顧客自身 | 取扱商品、売買手数料、保管料、注文の使いやすさ |
| 投資助言を受ける | 助言を参考に顧客が決める | 提案の根拠、代替案、助言料、商品販売との関係 |
| 投資一任で運用を委託する | 契約で決めた範囲で運用者が決める | 運用方針、リスクの上限、運用報酬、評価する基準 |
J.P. Morganの口座・サービス案内やJulius Baerの投資サービス説明でも、助言、一任運用、取引のサービスが区別されています。契約の違いを確認せずに「PBに任せている」と考えると、期待と実際のサービスがずれてしまいます。
PBの価値は、金融商品を買えることに加え、資産全体と生活の事情を踏まえて相談できるかにあります。 反対に、自分で決めた上場商品を少数保有するだけなら、その目的に対して費用が見合うかを考える必要があります。
2. 「どの銀行か」の前に「どこに口座を置くか」
スイスの銀行を使うことと、スイスに口座を持つことは同じではありません。スイス系銀行のシンガポール支店を利用するケースもあります。
例えば、Julius Baerは、シンガポール支店とルクセンブルクの法人を区別しています。
同じブランドでも、口座を置く拠点によって、受け入れる居住国、利用できる商品、料金、契約書、紛争時の手続などを確認し直す必要があります。
| 検討する場所 | 銀行・サービスの候補例 | 選ぶときの問い |
|---|---|---|
| シンガポール | DBS、UOB、Bank of Singapore、HSBC、UBS、Julius Baer、Citi | 現地での生活資金と長期運用をどう分けるか。日本へ帰国した後も継続できるか |
| 香港 | HSBC、Bank of Singapore、DBS、UBSなど | 香港拠点の条件は何か。シンガポール拠点の見積もりと何が違うか |
| スイス | UBS、Pictet、Julius Baerなど | スイスに口座を置く必要があるか。同じ銀行のアジア拠点との違いは何か |
| 米国 | Citi、J.P. Morganなど | 米国拠点が自分の居住国の顧客を受け入れるか。米国系銀行のアジア拠点で足りないか |
| 英国 | Couttsなど | 英国での生活・資産・借入との関係で利用する理由があるか |
これは各行への入行を保証する一覧ではなく、比較を始めるための候補です。国籍が日本であること、現在日本に住んでいること、海外に移住済みであることは、それぞれ別の条件として伝えます。
「シンガポールに移住すれば、どのPBでも口座を開ける」「日本に住んでいるから海外PBはすべて利用できない」といった一括りの判断は避けましょう。
3. 規模と信用格付け――名前を知らない銀行をどう評価するか
「有名だから安心」と考える前に、その銀行が何をする会社で、どれほどの規模があり、どの法人が信用格付けを受けているかを確認します。
銀行の総資産と、顧客から預かる資産は違う
総資産は銀行自身の貸借対照表の規模。AUMなどの顧客資産残高は、顧客の資産をどれほど管理しているかを示す数字です。 大きな総資産と、多額の顧客資産を扱う実績は、別々の観点から評価します。
以下は原則2025年末の公表値です。通貨・集計範囲が異なるため、大小の順位表ではありません。
| 銀行・グループ | どのような銀行か | 公表されている規模と範囲 |
|---|---|---|
| DBS | シンガポールを基盤とする銀行グループ。PBに加え個人・法人向け銀行業務を展開 | グループ総資産 S$8,970億。2025年報 |
| UOB | シンガポールの銀行グループ。PBと一般の銀行業務を展開 | グループ総資産 S$5,720億。公式経営指標 |
| HSBC | 国際的な銀行グループ。ここではアジアの中核銀行である香港上海銀行の規模を表示 | The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limitedの連結総資産 約HK$11.683兆。HSBCグループ全体とは別。2025年報 |
| Citi | 米国系の銀行グループ。PBの提供主体の一つがCitibank, N.A. | Citibank, N.A.の総資産 約US$1.836兆。親会社Citigroup全体とは別。公式開示の米本体総資産表 |
| UBS | スイスを基盤に世界で資産管理・銀行業務を展開 | グループ総資産 US$1.6174兆、運用資産 約US$7.005兆。PBだけの残高ではない。日本語の公式経営指標 |
| Pictet(ピクテ) | スイスの資産運用・資産管理グループ。個人・機関投資家の資産を扱う | グループの運用・保管資産 CHF7,570億。銀行自身の総資産や個人PBだけの残高ではない。公式財務説明 |
| Julius Baer(ジュリアス・ベア) | スイスのウェルスマネジメントを中心とするグループ | グループAUM CHF5,210億。公式経営指標 |
| Bank of Singapore | OCBC傘下のプライベートバンク | 2025年に世界のAUMが US$1,450億超。この資料では正確な年末残高までは示されていない。OCBC年報 |
S$はシンガポールドル、HK$は香港ドル、US$は米ドル、CHFはスイスフランです。
信用格付けは、銀行のどの債務を評価したものか
下表はMoody’sの公表格付けに絞った比較です。預金格付けと優先債務の格付けは評価対象が違うため、同じ種類として順位付けはしません。 親会社と銀行本体も区別します。
| 銀行法人 | Moody’sの格付け | 格付けの対象・確認時点 |
|---|---|---|
| DBS Bank Ltd. | Aa1/安定的 | 長期優先債務(公式表LT senior)。2026年9月12日確認。法人別格付表 |
| United Overseas Bank Limited | Aa1/安定的 | 長期銀行預金。2026年9月12日確認。公式格付表 |
| The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Ltd. | Aa3/安定的 | 公式表Long Term / Senior。2026年7月6日基準。法人別格付表 |
| Citibank, N.A. | Aa3/安定的 | 長期優先債務(Senior Debt)。2026年7月14日基準。公式格付表 |
| UBS AG | Aa2/安定的 | 公式表の長期格付け。2026年9月12日確認。親会社UBS Group AGのA2とは別。公式格付表 |
| Banque Pictet & Cie SA | Aa2/安定的 | 長期預金。2026年8月12日据置確認。公式格付表 |
| Bank Julius Baer & Co. Ltd. | A1/安定的 | 長期預金。2026年9月12日確認。同じ銀行の長期優先無担保債務・発行体格付けはA3。公式格付表 |
例えば、DBSでも香港の別法人DBS Bank (Hong Kong) LimitedのMoody’s長期優先債務格付けはA1で、シンガポール本体のAa1とは異なります。口座契約に書かれた法人を調べる意味は、ここにあります。Bank of Singapore自身の最新格付けは今回の一次資料では確認できていないため、親OCBCの格付けを転記していません。
Pictetは、大規模な資産管理を手がけるスイスの銀行グループです。 上の運用・保管資産と銀行法人の格付けが、その規模と信用力を検討する根拠になります。ただし、信用格付けは投資商品の値下がりを防ぐものでも、担当者の提案力や運用成績を保証するものでもありません。
Couttsは、英国の参考例として読む
Coutts(クーツ)は、1692年にロンドンで創業したNatWestグループの銀行です。2025年の公式開示では、Coutts & Company自身の総資産は £616.95億です。
一方、Coutts自身の現行信用格付けは今回確認できませんでした。そのため、上の格付け比較表には含めず、英国での取引を考える場合の参考例として扱います。親グループの格付けを、そのままCoutts自身の評価に置き換えることはしません。
4. 最低預入額・資産条件――9行を公式情報で比較
最低金額の比較で最も混同しやすいのは、次の4つです。
| 言葉 | 日本語でいうと | 注意点 |
|---|---|---|
| Net worth | 負債を差し引いた純資産 | その全額を銀行に預けるという意味ではない |
| Investable assets | 投資に回せる資産 | 自宅や事業用資産などを含む総資産と同じではない。対象範囲は銀行に確認 |
| AUM | 銀行・運用会社などが管理する資産の残高 | どの口座や資産を合算するか、評価する時点を確認 |
| Total Relationship Balance(総取引残高) | 預金・投資・保険など、銀行が指定する取引を集計した残高 | AUMと同じ範囲とは限らない。手数料判定に使う場合もある |
以下は2026年9月12日に確認した公式表示です。異なる指標なので、単純な安い順・高い順にはしていません。US$は米ドル、£は英ポンドです。
| 銀行・対象拠点 | 公式に確認できた資産条件 | 読み方 |
|---|---|---|
| DBS Private Bank/シンガポール | 投資可能資産US$500万超。料金表には2026年から最低AUM US$500万と記載 | 資産保有の条件と同行内の残高条件を両方確認。銀行による審査あり。対象顧客・料金表 |
| UOB Private Bank/シンガポール | 一般の新規加入最低額は今回の現行公式資料では確認できず | 公式紹介制度に新規AUM S$500万以上の条件があるが、紹介特典の条件。一般加入の最低額とは区別する。S$はシンガポールドル |
| Bank of Singapore | 投資可能資産US$500万超の顧客向け | 「現金を500万ドル預金する」と同義ではない。実際の預入条件は別途確認。公式問い合わせ案内 |
| HSBC Global Private Banking/シンガポール | 公式案内にUS$200万の取引残高基準(維持料の判定) | これは残高を下回った場合の維持料に関する基準。PBの一律の最低加入額とは断定しない。公式説明 |
| Citi Private Bank | 北米・アジア太平洋は純資産US$1,000万。欧州・中東・アフリカ・中南米はUS$2,500万 | 同行が示す地域別の純資産条件。最低預入額そのものではない。公式FAQ |
| Coutts/英国(参考) | 同行での投資・預金合計£300万以上、又は借入£300万以上 | 加入後3か月以内に満たし、その後維持する条件。居住地等による案内の分岐あり。申込条件 |
| UBS/日本(参考) | 日本向けの申込注意書きに金融資産3億円相当額以上の預入と記載 | 日本のサービスの条件。シンガポールの条件に転用できない。海外拠点の現行最低額は今回確認できず。日本の申込注意書き |
| Pictet | 今回の公式資料では、全行共通の現行最低額を確認できず | 契約拠点とサービスを指定して照会する。公式資産管理案内 |
| Julius Baer | 今回の公式資料では、全行共通の現行最低額を確認できず | 拠点と契約内容を指定して照会する。サービス説明 |
UBSについては、別の日本の口座開設案内に2億円という記載もあり、公式ページ間に不一致があります。表では3億円と明記された申込注意書きを紹介しましたが、申込時に適用額を確認してください。「確認できず」は、最低条件が存在しないという意味ではありません。
金額感をつかむためだけに、仮に1米ドル=150円で換算すると、US$200万は3億円、US$500万は7億5,000万円、US$1,000万は15億円です。これは現在の為替相場を示すものではなく、規模を理解するための仮定です。
また、資産の大部分が自社株や不動産という経営者と、会社売却後に現金・有価証券を保有する経営者では、同じ「資産10億円」でもPBへの預入可能額は違います。
5. シンガポール系、スイス系、米国系――何を比較するか
銀行の国籍から運用成績の優劣は決められません。ただし、公式のサービス内容を読むと、面談で確かめるべき違いが見えてきます。
DBS、UOB、Bank of Singapore:アジアでの銀行取引との組み合わせ
DBSでは、投資サービス、多通貨口座、融資などを組み合わせた利用を検討できます。日常の銀行取引とPBの運用口座を、どこまで一体で使えるかが確認点です。
Bank of SingaporeはOCBCの完全子会社で、外部の運用商品も取り扱う仕組みを掲げています。グループの銀行機能も含め、個人の資産管理と事業上の金融ニーズをどこまで調整できるかを質問するとよいでしょう。ただし、個人PB口座と法人の口座は別の契約です。
UOB Private Bankも、投資運用や資産承継などを扱っています。UOBのPBと、UOB Kay Hianなどの証券サービスは同じものではありません。銀行口座を開くのか、証券取引の口座を開くのかを区別します。
UBS、Pictet、Julius Baer:運用と家族の資産管理
Pictetは200年以上にわたり個人・家族の資産管理を手がけてきたと説明しています。最低金額だけでなく、家族の資産を長期的に管理するために何を相談できるかを確認します。
UBSのシンガポール向けサービス、Julius Baerの投資サービスは、商品名だけでなく、助言や一任運用の内容を比較する材料になります。
家族の資産承継まで相談したいなら、担当者がどの専門家を交えて、どの国の制度を対象に対応するのかを聞きます。「承継サービスあり」という一言だけでは、日本の相続・贈与税まで検討してもらえるかは分かりません。
HSBCとCiti:複数の国にまたがる利用
HSBCはシンガポールと香港のPB拠点をそれぞれ案内し、Citiも多数の国・地域の顧客にサービスを提供すると説明しています。
この場合の確認点は、「世界中に拠点があるか」だけでなく、自分が次に移住・帰国したとき、どの契約とサービスを継続できるかです。移住前に買った商品を、帰国後も追加購入できるとは限りません。
Coutts:預ける側だけでなく、借りる側の条件もある
Couttsの申込条件には、投資・預金だけでなく借入も含まれています。公式案内からも、PBとの付き合いを「資産を預けるだけ」と捉えると不十分であることが分かります。
もっとも、借入には返済義務があります。PBの資格を得るために不要な借金をするという順序ではなく、実際の資金需要に合うかを考えるべきです。
銀行以外の選択肢:ペンギン証券とWRISE
資産管理の相談先は銀行だけではありません。証券会社や、銀行とは別に運用を担当する会社を利用する方法もあります。
| 相談先 | 公式登録で確認できる立場 | 銀行との比較で確認すること |
|---|---|---|
| Penguin Securities(ペンギン証券) | Penguin Securities Pte. Ltd.は、証券等の取扱いや保管に関するシンガポールのCMSライセンスを持つ会社 | 利用する商品を提供する法人、資産の保管方法、取引・保管費用。MAS登録 |
| WRISE | WRISE Wealth Management (Singapore) Pte. Ltd.は、ファンド運用のCMSライセンスとExempt Financial Adviserの登録を持つ会社 | 運用・助言の権限、資産を置く銀行、運用会社と銀行それぞれの費用。MAS登録 |
EAM(External Asset Manager、外部資産運用者)という言葉が出てきたら、資産を保管する先と、運用を相談・委託する先を分けて考える仕組みとして理解すると分かりやすいでしょう。具体的な役割や権限は契約で確認します。
この仕組みを使う場合も、「運用会社の費用があるから必ず割高」「追加費用がないと言われたから総費用もゼロ」とは判断できません。銀行と運用会社の報酬がどう組み合わされているかを見積もりで確認します。
ペンギン証券については、公式の商品説明が、証券サービスを行う法人と、暗号資産デリバティブを提供するPenguin Securities Trading Pte. Ltd.を区別しています。後者についてはMASの規制対象ではないと明記されています。グループの一社に免許があることを、すべてのグループ会社・商品に同じ規制が及ぶという意味に読み替えてはいけません。
また、WRISE Privateと、別地域・別顧客層向けのWRISEのサービスは区別します。両社とも、この記事ではシンガポール向けの一律の最低預入・投資額を確定していません。銀行、証券会社、運用会社を同じ「最低預金額」の表で比べるより、求める機能と契約をそろえて比較することが重要です。
6. 手数料は「年率いくら」だけでは比べられない
費用は、口座の維持、一任運用、個々の商品の保有・売買という複数の段階で発生します。
| 費用の種類 | 何に対して払うか | 確認すること |
|---|---|---|
| 口座サービス料 | 口座・サービスの維持 | 残高による免除、判定期間、資産が値下がりした場合 |
| 保管料 | 有価証券などの保管・管理 | 対象資産、料率、最低料金 |
| 助言料・運用報酬 | 助言又は投資一任 | 年率の計算対象、税込・税別、別途かかる費用 |
| 売買・購入手数料 | 株式・債券・ファンド等の取引 | 注文方法による差、売却時・解約時の費用 |
| 為替の費用 | 通貨の交換 | 表示された為替レートに含まれる上乗せ幅 |
| 商品の内部費用 | ファンドの管理・運用など | PBに直接払う費用以外の負担、成功報酬 |
| 借入の費用 | 証券担保融資など | 利息、手数料、担保不足時の対応 |
実際にDBSの公式料金表には、PBサービス料が年US$10,900(GST込み)、一定の過去平均AUMを満たす場合の銀行裁量による免除が記載されています。一任運用の管理料は年最大1.25%で、該当する税や売買・保管の費用を別に見る構造です。口座サービス料の免除と、運用にかかる費用がゼロであることは違います。
Citiのシンガポール・香港向け料金表は、オンラインの現物株取引について最大1.0%と表示し、別途費用や税が生じる場合も説明しています。これは口座全体の年間管理料ではなく、該当取引に対する表示です。
料金表の地域も重要です。J.P. Morganの公開商品・料金ページは、掲載料金が米国向けであることを明示し、国際顧客には別の料金表を案内しています。Julius Baerの公開保管・銀行業務料金表も、ルクセンブルクに口座を置く顧客に限定されています。他の国の数字を、そのままシンガポールの見積もりとして使うことはできません。
資産10億円では、0.7%の差が年700万円になる
以下は費用差を見るための仮定の計算です。実在の銀行の見積もりではありません。資産残高を一定の10億円とし、投資損益や税金は考慮しません。
| 年間の総費用率 | 年間費用 | 単純合計した10年間の費用 |
|---|---|---|
| 0.3% | 300万円 | 3,000万円 |
| 1.0% | 1,000万円 | 1億円 |
| 差額 | 700万円 | 7,000万円 |
高い費用に見合うサービスや運用上の価値があれば、支払う意味はあります。しかし、違いを説明してもらわないまま契約する理由はありません。
面談では、「口座維持料はいくらですか」だけでなく、この配分で1年間運用した場合、銀行への支払い、売買費用、商品の内部費用を合わせて、いくらになるかを同じ前提で見積もってもらいましょう。
7. 日本語対応と担当者――銀行名以上に重要なこと
英語で日常会話ができることと、金融商品のリスクや契約上の権限を理解できることは別です。
HSBCは、シンガポールと香港のPB拠点の対応言語にJapaneseを明記しています。ただし、これは日本語の契約書が必ず用意されることや、日本居住者の入行を保証する記載ではありません。
一方、日本に支店・関連会社があることや、日本語の投資信託サイトがあることだけでは、海外PBの担当者が日本語で対応できるとは判断できません。海外口座を担当する窓口に、日本語で相談できる範囲を直接確認します。
担当者との面談では、次の点を具体的に確かめたいところです。
- 商品を勧めるとき、購入しない選択肢や、より低コストの代替案も説明するか。
- 提案した商品の損失がどこまで拡大し得るか、いつ売却できるかを説明できるか。
- 担当者が異動・退職した場合、誰が引き継ぐか。
- 自分の資産全体と、税金・生活費・次の事業に必要なお金を区別して把握しているか。
- 運用状況と費用を、家族や税理士にも理解できる形で報告できるか。
また、銀行が顧客から受け取る手数料以外に、商品提供者等から報酬を受け取る場合があります。Citiの料金表の開示にも、手数料、リベート等を受け取る可能性が記されています。
その仕組みがあるだけで不適切な提案だと決まるわけではありません。ただ、誰が、誰から、何の対価を受け取るのかを聞くことは、提案を評価するために必要です。
8. 海外PBを使えば安全、非課税になるわけではない
まず、銀行に預けた現金と、銀行で保管する有価証券は同じものではありません。
スイスの金融監督当局FINMAは、銀行破綻時の預金保護と保管資産の扱いを分けて説明しています。保管される株式・投資信託等は顧客の財産として倒産財産から分離される一方、預金には預金としての保護制度と限度があります。この説明を、スイス系銀行の海外拠点にそのまま当てはめることはできません。実際の契約主体と口座の所在地を確認します。
なお、資産の分離は投資商品の値下がりを防ぐ制度ではありません。分散投資、一任運用、銀行の知名度のいずれも、元本保証とは別です。
税務も、海外口座というだけで非課税になるものではありません。シンガポールの税務当局IRASは、CRSに基づく口座保有者向け説明で、金融機関による税務上の居住地の確認と、一定の非居住者口座情報の報告・交換を案内しています。
移住を伴う場合は、口座を開く手続と、日本の税務上の非居住者になるかという判断を分けます。詳しくは、シンガポール移住の方法と日本側の税務を解説した記事もご覧ください。
複数の口座を持つ意味――1行に依存しない備え
運用商品を分散することと、資産を管理する金融機関を分けることは、別の対策です。 複数の銀行と取引できる状態を整えておけば、1行の対応が止まったときの代替手段を持ちやすくなります。以下は口座を分ける理由を整理したものです。
| 分けておく理由 | 役立つ場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 手続が止まった場合に備える | 追加確認やシステム障害などで、予定どおり送金・取引できない場合 | 別の銀行も本人確認・資金源確認を行う。審査を回避する方法ではない |
| 取引条件を比較する | 同じ通貨交換・同じ商品の見積もりを、同じ時点で比べる | 表面の手数料だけでなく、基準価格・為替差・諸費用を含む最終的な受取額を見る |
| 目的を分ける | 生活費・納税資金を使う口座と、長期運用の口座を分ける | 資金を必要な時に使えるよう、換金条件と送金所要日数を確認 |
| 担当者・銀行への依存を減らす | 担当者の異動や銀行の受入方針変更に備える | 同じグループの別口座だけでは、銀行グループへの集中は解消しない |
重要なのは、必要になってから別の銀行を探し始めるのではなく、事前に本人確認・資金源の説明を行い、利用可能な選択肢を確保しておくことです。口座を複数持っているだけで、あらゆる送金や取引が承認されるわけではありません。
もっとも、銀行ごとの最低残高や管理料があるため、資産を細かく分けすぎると費用が増え、必要なサービスを受けられなくなることもあります。すべてをPBにそろえる必要はなく、日常決済の銀行口座とPBを使い分ける考え方もあります。
どの口座でも、名義人・実質的所有者・税務上の居住地・資金の由来を正確に説明することが前提です。そのうえで、生活や納税に必要な資金まで1行に依存していないかを点検します。
9. 会社売却後の資産管理は、口座開設の前に始まる
例えば会社の売却で13億円を受け取るとしても、13億円全額を長期運用に回せるとは限りません。税金、取引費用、契約上留保される金額、生活費、次の事業資金などを先に整理する必要があります。以下は考え方を示す例で、個別案件の試算ではありません。
納税・生活費・近い将来の支払い
起業・投資・移住・教育など
PBを含む運用先を比較する
この順番で考えると、PBに求める役割も明確になります。半年後の納税資金を、換金に長期間かかる商品に振り向けるべきではありません。逆に、長く使わない資金なら、価格変動と換金条件を理解したうえで、選択肢を広げる余地があります。
口座を開いた後も、定期的に「何のために保有する資産か」を見直します。銀行が示す運用成績だけでなく、費用を差し引いた成果と、必要な時に資金を使えるかを確認するためです。
10. 最後は、同じ条件を2〜3行に示して比較する
本稿の比較から言えるのは、最低金額だけで銀行を選ぶと、契約拠点や費用、必要なサービスの違いを見落とすということです。
まず、居住国・移住予定、運用可能額、保有通貨、投資の経験、必要な資金、融資や資産承継の相談の有無を1枚にまとめます。そのうえで候補の2〜3行に同じ情報を示し、次の回答を求めると比較しやすくなります。
| 銀行に確認すること | 回答してもらう内容 |
|---|---|
| 契約と受入条件 | 契約主体・拠点、居住国の受入可否、最低資産額と残高の定義 |
| サービス | 助言・一任・売買のどの契約か。日本語対応の範囲 |
| 費用 | 同じ運用配分を前提とした年間総費用、免除条件、追加費用 |
| 換金・退出 | 商品を売れる時期、他行への移管・解約費用、帰国時の扱い |
| 担当者と報告 | 引継体制、定期報告、税務申告に使う資料の提供範囲 |
「有名な銀行に口座を持つ」ことを目的にせず、自分と家族の資産をどのように管理するかを先に決める。 その方針に合う契約と担当者を選ぶことが、PBとの付き合いの出発点です。
海外PBとのつながりと、日本側の税務を支援します
弊事務所は海外のプライベートバンクと提携関係があり、これまで複数のお客様を現地の担当窓口へおつなぎしてきました。
海外移住に伴う日本側の居住者・非居住者の判断に関するコンサルティングや、納税管理人としての支援を行い、必要に応じて海外PBの相談窓口をご案内します。日本側の税務相談は弊事務所が、口座の受入審査、金融商品・運用サービスの説明や提案、契約手続は各金融機関がお客様に対して直接行うという役割分担です。
海外移住や会社売却後の資産管理について、日本側の税務から整理したい場合は、弊事務所へご相談ください。
本稿は2026年9月21日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

