条文の定義
「ストックオプション」という言葉そのものは、会社法にも所得税法にも法人税法にも出てきません。会社法が定めているのは「新株予約権」で、株式会社がこれを発行するときに内容として定めなければならない事項を、会社法236条が列挙しています。
「株式会社が新株予約権を発行するときは、次に掲げる事項を当該新株予約権の内容としなければならない。」
- 「当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法」
- 「当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」
- ……
- 「当該新株予約権を行使することができる期間」
- ……
ふだん「ストックオプション」と呼ばれているものは、会社法の上ではこの236条にいう「新株予約権」です。行使価額・行使期間・目的となる株式数などの内容を定めて発行された権利を指します。なお会社法は、上場会社が取締役の報酬等として新株予約権を発行する場面を、236条3項で別に扱っています。同項は、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合について、「当該新株予約権の行使に際してする金銭の払込み……を要しない旨」を当該新株予約権の内容としなければならないと定めています。
骨格
| Issue | 条文・通達の定め |
|---|---|
| 新株予約権の内容として定めるべき事項 | 会社法236条 |
| 新株予約権を引き受ける者の募集事項の決定 | 会社法238条・239条・240条 |
| 取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合の決定手続 | 会社法361条 |
| 権利行使による経済的利益を所得税法上どこで拾うか | 所得税法36条・所得税法施行令84条 |
| 権利行使による所得区分の振り分け | 所得税基本通達23〜35共-6 |
| 一定の要件のもとで所得税を課さないこととする特例の有無 | 租税特別措置法29条の2 |
| 発行会社側の費用の帰属事業年度の特例の有無 | 法人税法54条の2 |
| 課税関係による類型の呼び分け |
税制適格ストックオプション/ 税制非適格ストックオプション(無償・有利発行型)/ 有償ストックオプション/ 信託型ストックオプション |
「ストックオプション」は条文上どこにあるのか
会社法での呼び名は「新株予約権」です。会社法236条がその内容を定め、238条が募集事項の決定を、239条が募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)へ委任することを、240条が公開会社における募集事項の決定の特則を、それぞれ定めています。
所得税法・法人税法には「ストックオプション」という条文用語はありません。ただし、租税特別措置法29条の2は、一定の要件のもとで所得税を課さない旨を定める規定を置いていて、その見出しは「特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等」です。この見出しにも「ストックオプション」という語は出てきません。あくまで「新株予約権」「経済的利益」という会社法・所得税法の言葉で、規定が組み立てられています。この言葉を使うときは、それが会社法上の新株予約権を指す通称であって、税法上の独立した課税要件ではない、という前提を押さえておいてください。
取締役への発行はなぜ361条が関係するのか
会社法361条は、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(同条にいう「報酬等」)について、株主総会の決議などで定めるべき事項を列挙しています。取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合、その募集事項の決定は238条・239条・240条の枠組みに乗りつつ、361条による報酬の規制も別に及ぶことになります。
権利行使による経済的利益は所得税法上どこに書かれているのか
所得税法36条は、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額について、「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額」とする旨を定めています。新株予約権を行使して株式を取得したときの経済的な利益は、この36条が受け皿になります。
この経済的利益の額の計算方法を具体的に定めているのが、所得税法施行令84条です。同条は、発行法人から一定の権利(譲渡についての制限その他特別の条件が付されたもの)を与えられた場合の、その権利に係る所得税法36条の価額について、権利行使日における株式の価額から一定の金額を控除した金額による、という計算式を置いています。会社法238条の決議にもとづいて発行された新株予約権(引き受ける者に特に有利な条件・金額とされるもの、または役務提供等の対価とされるもの)は、この施行令84条が明示的に対象としている類型のひとつです。
権利行使による所得は給与所得になるのか、それとも別の所得になるのか
所得税法施行令84条に掲げる権利の行使による株式の取得に係る所得区分について、所得税基本通達23〜35共-6は、発行法人と権利を与えられた方との関係に応じて振り分ける定め方をしています。同通達は、発行法人と権利を与えられた者との間の「雇用契約又はこれに類する関係に基因して」その権利が与えられたと認められるときは給与所得とする、という基準を置いています。雇用契約又はこれに類する関係にないと認められる場合や、権利を与えられた方が営む業務に関連して与えられたと認められる場合には、別の所得区分が定められています。どの関係に当たるのかの当てはめは、この記事では扱わず、それぞれの類型を扱う記事に譲ります。
所得税を課さないこととする制度、発行会社側の損金算入の特例はあるのか
租税特別措置法29条の2は、一定の要件を満たす新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益について、所得税を課さない旨を定める規定を置いています。要件の中身(付与される方の範囲、権利行使期間、権利行使価額の限度額など)は、What is a tax-qualified stock option?で扱います。
発行会社の側では、法人税法54条の2が、新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例などを定めています。損金算入の可否や時期の中身は、Tax deductibility for the issuing company of stock optionsで扱います。
実務で迷いが生じるところ
- 会社法上の手続(238条・239条・240条のどれによったのか、361条の報酬規制が及ぶ発行なのか)は、契約書・株主総会議事録・取締役会議事録に当たらないと確定しません。条文の要件と、目の前の発行決議のどれが対応するのかは、まず決議事項の記載そのものを確認する必要があります。
- 所得税基本通達23〜35共-6にいう「雇用契約又はこれに類する関係」に当たるかどうかは、通達の文言だけでは決まりません。付与された経緯や契約関係を確認する必要のある論点です。
- 租税特別措置法29条の2の適用を受けられる新株予約権かどうかは、その新株予約権に係る契約の内容が同条の定める要件を満たしているかどうかの確認が前提になります。要件を満たしているかは契約ごとに確認する事項ですので、この記事では要件そのものを扱いません。
根拠条文
- 会社法第236条第1項第1号(新株予約権の内容)/引用した文言:「当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法」
- 会社法第236条第1項第2号(新株予約権の内容)/引用した文言:「当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」
- 会社法第236条第1項第4号(新株予約権の内容)/引用した文言:「当該新株予約権を行使することができる期間」
- 会社法第236条第3項第1号(新株予約権の内容)/引用した文言:「取締役の報酬等として又は取締役の報酬等をもってする払込みと引換えに当該新株予約権を発行するものであり、当該新株予約権の行使に際してする金銭の払込み……を要しない旨」
- 会社法第238条第2項(募集事項の決定)/引用した文言:「募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。」
- 会社法第239条第1項(募集事項の決定の委任)/引用した文言:「……株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。」
- 会社法第240条第1項(公開会社における募集事項の決定の特則)/引用した文言:「……公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。」
- 会社法第361条第1項柱書(取締役の報酬等)/引用した文言:「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」
- 所得税法第36条第1項(収入金額)/引用した文言:「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」
- 所得税法施行令第84条第3項柱書(譲渡制限付株式の価額等)/引用した文言:「発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。)における当該権利に係る法第三十六条第二項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日……における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。」
- 所得税法施行令第84条第3項第2号(譲渡制限付株式の価額等)/引用した文言:「会社法第二百三十八条第二項(募集事項の決定)の決議(同法第二百三十九条第一項(募集事項の決定の委任)の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項(公開会社における募集事項の決定の特則)の規定による取締役会の決議を含む。)に基づき発行された新株予約権(当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるものに限る。)」
- 租税特別措置法第29条の2(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)/引用した文言:「特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等」
- 法人税法第54条の2(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)/引用した文言:「新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等」
根拠となる通達・Q&A・裁判例
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)/引用した文言:「発行法人と権利を与えられた者との間の雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利が与えられたと認められるとき 給与所得とする。」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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