条文の定義
「内国法人が個人から役務の提供を受ける場合において、当該役務の提供に係る費用の額につき譲渡制限付新株予約権(譲渡についての制限その他の条件が付されている新株予約権として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)であつて次に掲げる要件に該当するもの(以下この条において「特定新株予約権」という。)が交付されたとき(……)は、当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額を生ずべき事由(次項において「給与等課税事由」という。)が生じた日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。」
法人税法54条の2は、内国法人が個人から役務の提供を受ける場合において、費用につき特定新株予約権が交付されたときは、給与等課税事由が生じた日に役務の提供を受けたものとして扱うと定めています。損金算入の時期を、交付の時点ではなく給与等課税事由が生じた日にずらします。個人側の所得区分はTaxation of non-qualified stock optionsに譲り、本稿では発行会社側の損金算入を中心に構造を示します。
骨格
| Issue | 条文・通達の定め |
|---|---|
| 損金算入の時期の特例と要件 | 法人税法第54条の2 |
| 「譲渡制限付新株予約権」の範囲 | 法人税法施行令第111条の3 |
| 給与等課税事由の有無による扱い | 法人税法第54条の2 |
| 役員給与の損金不算入との関係 | 法人税法第34条 |
| 確定数給与の費用の額の計算 | 法人税法施行令第71条の3 |
| 株式を対価とする特例(対比) | 法人税法第54条 |
| 税制適格SOの非課税規定(対比) | 租税特別措置法第29条の2 |
「特定新株予約権」とは何か、「譲渡制限付新株予約権」とは何か
法人税法54条の2は、損金算入の特例の対象となる新株予約権を「特定新株予約権」と呼び、次に掲げる要件に該当するものと定めています。「当該譲渡制限付新株予約権と引換えにする払込みに代えて当該役務の提供の対価として当該個人に生ずる債権をもつて相殺されること。」「前号に掲げるもののほか、当該譲渡制限付新株予約権が実質的に当該役務の提供の対価と認められるものであること。」後者は「前号に掲げるもののほか」として前者以外を受け止める作りで、双方の充足を求めるものではありません。
前提となる「譲渡制限付新株予約権」の範囲は法人税法施行令111条の3が定めています。「法第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する政令で定める新株予約権は、所得税法施行令第八十四条第三項(譲渡制限付株式の価額等)に規定する権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものとする。」同条は中身を定義せず、所得税法施行令84条への参照で範囲を画しています。
個人に給与等課税事由が生じない場合、発行会社の費用はどうなるのか
法人税法54条の2は、次のように定めています。「前項に規定する場合において、同項の個人において同項の役務の提供につき給与等課税事由が生じないときは、当該役務の提供を受ける内国法人の当該役務の提供を受けたことによる費用の額又は当該役務の全部若しくは一部の提供を受けられなかつたことによる損失の額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」給与等課税事由が生じるかどうかが、損金算入の可否そのものを左右します。
同条は続けて、給与等課税事由が生じないときに「前項に規定する場合において、特定新株予約権(承継新株予約権を含む。)が消滅をしたときは、当該消滅による利益の額は、これらの新株予約権を発行した法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。」と定めています。
役員に対する新株予約権は、まず法人税法34条の枠にかかるのか
特定新株予約権を交付される相手が役員であるときは、法人税法34条の枠組みが及びます。同条は、一定の類型に該当しない役員給与を損金不算入とし、その一つとして「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含む。以下この項及び第五項において同じ。)若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」を挙げ、業績連動給与の定義として「第一項に規定する業績連動給与とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の同項の内国法人又は当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定される額又は数の金銭又は株式若しくは新株予約権による給与及び第五十四条第一項に規定する特定譲渡制限付株式若しくは承継譲渡制限付株式又は第五十四条の二第一項に規定する特定新株予約権若しくは承継新株予約権による給与で無償で取得され、又は消滅する株式又は新株予約権の数が役務の提供期間以外の事由により変動するものをいう。」とも定めています。特定新株予約権による給与は、この業績連動給与の類型にも当たり得ます。
法人税法施行令71条の3は、「法第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式若しくは承継譲渡制限付株式又は法第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する特定新株予約権若しくは承継新株予約権による給与を除き」と定め、特定新株予約権による給与を除いています。
株式(54条)と新株予約権(54条の2)で、なぜ条が分かれているのか
株式が交付される場合は法人税法54条、新株予約権が交付される場合は法人税法54条の2と条が分かれ、構造は並行しますが用語には違いがあります。法人税法54条は「当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額(次項及び第三項において「給与等課税額」という。)が生ずることが確定した日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。」と定め、「給与等課税額」が「生ずることが確定した日」を基準とします。
これに対し、法人税法54条の2が新株予約権について定める基準は、前掲のとおり「給与等課税事由」が「生じた日」です。「給与等課税額」が「生ずることが確定した日」を基準とする54条と、「給与等課税事由」が「生じた日」を基準とする54条の2とでは、用語も基準日も異なります。
税制適格ストックオプションと、発行会社側の損金算入はどう関係するか
租税特別措置法29条の2は、税制適格ストックオプション(同条の「特定新株予約権」)について、次のように定めています。「当該新株予約権(当該新株予約権に係る契約において、次に掲げる要件(当該新株予約権が当該取締役等に対して与えられたものである場合には、第一号から第六号までに掲げる要件)が定められているものに限る。以下この条において「特定新株予約権」という。)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」これは、権利者である個人の所得税を「課さない」と定める条文です。
一方、法人税法54条の2は、前掲のとおり、個人に「給与等課税事由」が生じるかどうかで損金算入の可否と時期を分けます。両者は異なる法律の別の条文に置かれ、別々の要件で組み立てられています。両条にいう「特定新株予約権」も別々の定義です。税制適格の要件はWhat is a tax-qualified stock option?を参照してください。
実務で迷いが生じるところ
- 交付された新株予約権が「実質的に当該役務の提供の対価と認められるものであること」に当たるかは、条文上に判定基準の列挙はなく、交付の経緯や契約の内容の確認によります。
- 「給与等課税事由」が生じた日がどの日かは、所得税法上の収入すべき時期の定めと合わせて確認します。行使時・譲渡時の整理はWhere are stock options taxed?を参照してください。
- 租税特別措置法29条の2の要件充足の判定と法人税法54条の2に基づく損金算入の判定は別個であり、条文に照らして確認する必要があります。
根拠条文
- 法人税法第54条の2第1項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)/引用した文言:「内国法人が個人から役務の提供を受ける場合において、当該役務の提供に係る費用の額につき譲渡制限付新株予約権(譲渡についての制限その他の条件が付されている新株予約権として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)であつて次に掲げる要件に該当するもの(以下この条において「特定新株予約権」という。)が交付されたとき(……)は、当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額を生ずべき事由(次項において「給与等課税事由」という。)が生じた日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。」「当該譲渡制限付新株予約権と引換えにする払込みに代えて当該役務の提供の対価として当該個人に生ずる債権をもつて相殺されること。」「前号に掲げるもののほか、当該譲渡制限付新株予約権が実質的に当該役務の提供の対価と認められるものであること。」
- 法人税法第54条の2第2項(見出し同上)/引用した文言:「前項に規定する場合において、同項の個人において同項の役務の提供につき給与等課税事由が生じないときは、当該役務の提供を受ける内国法人の当該役務の提供を受けたことによる費用の額又は当該役務の全部若しくは一部の提供を受けられなかつたことによる損失の額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」
- 法人税法第54条の2第3項(見出し同上)/引用した文言:「前項に規定する場合において、特定新株予約権(承継新株予約権を含む。)が消滅をしたときは、当該消滅による利益の額は、これらの新株予約権を発行した法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。」
- 法人税法施行令第111条の3第1項(譲渡制限付新株予約権の範囲等)/引用した文言:「法第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する政令で定める新株予約権は、所得税法施行令第八十四条第三項(譲渡制限付株式の価額等)に規定する権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものとする。」
- 法人税法第54条第1項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)/引用した文言:「当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額(次項及び第三項において「給与等課税額」という。)が生ずることが確定した日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。」
- 法人税法第34条第1項第2号(役員給与の損金不算入)/引用した文言:「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含む。以下この項及び第五項において同じ。)若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」
- 法人税法第34条第5項(役員給与の損金不算入)/引用した文言:「第一項に規定する業績連動給与とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の同項の内国法人又は当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定される額又は数の金銭又は株式若しくは新株予約権による給与及び第五十四条第一項に規定する特定譲渡制限付株式若しくは承継譲渡制限付株式又は第五十四条の二第一項に規定する特定新株予約権若しくは承継新株予約権による給与で無償で取得され、又は消滅する株式又は新株予約権の数が役務の提供期間以外の事由により変動するものをいう。」
- 法人税法施行令第71条の3第1項(確定した数の株式を交付する旨の定めに基づいて支給する給与に係る費用の額等)/引用した文言:「法第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式若しくは承継譲渡制限付株式又は法第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する特定新株予約権若しくは承継新株予約権による給与を除き」
- 租税特別措置法第29条の2第1項本文(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)/引用した文言:「当該新株予約権(当該新株予約権に係る契約において、次に掲げる要件(当該新株予約権が当該取締役等に対して与えられたものである場合には、第一号から第六号までに掲げる要件)が定められているものに限る。以下この条において「特定新株予約権」という。)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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