条文の定義
「税制非適格ストックオプション」という呼び方は条文上の用語ではありません。租税特別措置法第29条の2は、一定の要件を満たす新株予約権の行使による株式の取得について「当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」と定めており、国税庁のQ&Aも、非課税の適用を受けないものを指して同じ語を用いています。要件はWhat is a tax-qualified stock option?を参照してください。
「発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。)における当該権利に係る法第三十六条第二項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日(第三号に掲げる権利にあつては、当該権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日))における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。」
所得税法36条は、「前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。」という原則を置いています。発行法人から株式を取得する権利を与えられた場合について、所得税法施行令84条は、この「価額」を、権利の行使日における株式の価額から取得価額等を控除した金額と定めています。
骨格
| Issue | 条文・通達の定め |
|---|---|
| 収入金額の算定方法 | 所得税法施行令第84条 |
| 収入すべき時期 | 所得税基本通達23〜35共-6の2 |
| 所得区分の振り分け | 所得税基本通達23〜35共-6 |
| 新株予約権が有利発行・対価型となる要件 | 所得税法施行令第84条 |
| 「有利な金額である場合」の判定基準(新株予約権を除く) | 所得税基本通達23〜35共-7 |
| 税制適格の要件を満たす場合の非課税 | 租税特別措置法第29条の2 |
| 権利行使後に取得した株式を譲渡した場合の課税 | 租税特別措置法第37条の10・第37条の11 |
所得区分はどう決まるのか(給与所得か、事業所得・雑所得か)
新株予約権を行使した場合の所得区分は、所得税基本通達23〜35共-6が定めています。雇用契約又はこれに類する関係に基因する場合は「発行法人と権利を与えられた者との間の雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利が与えられたと認められるとき 給与所得とする。ただし、……主として職務の遂行に関連を有しない利益が供与されていると認められるときは、雑所得とする。」とされます。業務に関連する場合は「権利を与えられた者の営む業務に関連して当該権利が与えられたと認められるとき事業所得又は雑所得とする。」とされ、いずれにも当たらないときは「イ及びロ以外のとき 原則として雑所得とする。」とされます。同通達の退職所得に関する当該定めは、新株予約権ではなく、株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合の権利についてのものです。ただし、新株予約権の行使益でも、退職に基因して支払われる性質を持つ場合には、所得税法30条による退職所得となることがあります。国税庁は、退職慰労金に代える1円ストックオプションを退任翌日以降10日以内に一括行使する事例について、退職所得と回答しています。
いつの年分の所得になるのか(収入すべき時期)
収入すべき時期は所得税基本通達23〜35共-6の2が定め、「発行法人から令第84条第3項各号に掲げる権利を与えられた場合の当該権利に係る所得の収入金額の収入すべき時期は、当該権利の行使により取得した株式の取得についての申込みをした日(同項第3号に掲げる権利を与えられた者がこれを行使した場合において、当該権利に係る株式の取得についての申込みをした日が明らかでないときは、当該株式についての申込期限の日)による。」としています。行使日ではなく申込みをした日が基準となります。(注)は「株式を取得する権利を与えられた者が当該株式の取得について申込みをしなかったこと若しくはその申込みを取り消したこと又は払込みをしなかったことにより失権した場合には、課税しない。」としています。
新株予約権が「特に有利な条件又は金額」に当たるとはどう定められているか
所得税法施行令84条が対象とする新株予約権のうち、会社法238条の決議に基づき発行されたものは、「当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるものに限る。」という括弧書きで範囲が画され、収入金額から控除する金額は「当該新株予約権の行使に係る当該新株予約権の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額」とされます。
所得税法施行令84条は、これとは別に「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前二号に掲げるものを除く。)」も対象としています。この「有利な金額である場合」を定める所得税基本通達23〜35共-7は、この権利についての通達であり、新株予約権には及びません。
国税庁のQ&Aは、無償・有利発行型の課税関係をどう説明しているか
国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問1(無償・有利発行型)は「勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、……その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、……ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得(注)として所得税の課税対象とされます(所令 84③)。」としています。(注1)は「支配関係のある親会社等から労務の対価として付与されたストックオプションに係る経済的利益についても、給与所得に区分されます。」とし、(注2)は「請負契約その他これに類する契約に基づき、役務提供の対価として付与されたストックオプションに係る経済的利益については、事業所得又は雑所得に区分されます。……所得税法第 204 条に規定する報酬料金等に該当する場合には、源泉徴収の対象とされます。」としています。
行使時は「経済的利益の額は、行使時の株価(800)から権利行使価額(200)を差し引いた 600 となります。」とされます。源泉徴収はStock options, tax withholding, and statutory reportsで扱います。株式の譲渡は「当該ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、株式譲渡益課税の対象となります。」とされ、譲渡益は「譲渡時の株価(1,000)から、行使時の株価(800)を差し引いた 200 となります。」としています。株式等の譲渡所得等については、租税特別措置法第37条の10及び第37条の11が置かれています。
実務で迷いが生じるところ
- 退職後に権利を行使した場合も、退職したという事実だけで所得区分が変わるわけではありません。雇用関係等に基因する利益は原則として給与所得です。退職に基因して支払われる性質を持つ場合は退職所得、主として職務の遂行に関連しない利益が供与されている場合は雑所得となるかを検討します。付与の経緯と行使条件を個別に確認する必要があります。
- 発行法人と権利を与えられた者との関係の当てはめは実態から見に行きます。海外グループ会社が絡む場合はTaxation of foreign parent company stock optionsもあわせて確認します。
- 所得税基本通達23〜35共-7の判定基準は、新株予約権を除いた権利についてのものです。新株予約権が「特に有利な条件又は金額」に当たるかの基準を示す通達は、参照した資料の範囲では見当たりません。原文にあたって確認する必要があります。
根拠条文
- 所得税法第36条第1項(収入金額)/引用した文言:「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」
- 所得税法第36条第2項(収入金額)/引用した文言:「前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。」
- 所得税法施行令第84条第3項(譲渡制限付株式の価額等)/引用した文言:「発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。)における当該権利に係る法第三十六条第二項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日(第三号に掲げる権利にあつては、当該権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日))における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。」
- 所得税法施行令第84条第3項第2号(見出しなし)/引用した文言:「当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるものに限る。」「当該新株予約権の行使に係る当該新株予約権の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額」
- 所得税法施行令第84条第3項第3号(見出しなし)/引用した文言:「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前二号に掲げるものを除く。)」
- 租税特別措置法第29条の2第1項(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)/引用した文言:「当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」
- 租税特別措置法第37条の10(一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)/条文の所在のみを示し、本文からの引用は行っていない。
- 租税特別措置法第37条の11(上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)/条文の所在のみを示し、本文からの引用は行っていない。
根拠となる通達・Q&A・裁判例
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)/引用した文言:「発行法人と権利を与えられた者との間の雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利が与えられたと認められるとき 給与所得とする。ただし、退職後に当該権利の行使が行われた場合において、例えば、権利付与後短期間のうちに退職を予定している者に付与され、かつ、退職後長期間にわたって生じた株式の値上り益に相当するものが主として供与されているなど、主として職務の遂行に関連を有しない利益が供与されていると認められるときは、雑所得とする。」「権利を与えられた者の営む業務に関連して当該権利が与えられたと認められるとき事業所得又は雑所得とする。」「イ及びロ以外のとき 原則として雑所得とする。」
- 所得税基本通達23〜35共-6の2(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得の収入すべき時期)/引用した文言:「発行法人から令第84条第3項各号に掲げる権利を与えられた場合の当該権利に係る所得の収入金額の収入すべき時期は、当該権利の行使により取得した株式の取得についての申込みをした日(同項第3号に掲げる権利を与えられた者がこれを行使した場合において、当該権利に係る株式の取得についての申込みをした日が明らかでないときは、当該株式についての申込期限の日)による。」「株式を取得する権利を与えられた者が当該株式の取得について申込みをしなかったこと若しくはその申込みを取り消したこと又は払込みをしなかったことにより失権した場合には、課税しない。」
- 所得税基本通達23〜35共-7(株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合)/引用した文言:「令第84条第3項第3号に規定する「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」とは、その株式と引換えに払い込むべき額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して社会通念上相当と認められる価額を下る金額である場合をいうものとする。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問1/引用した文言:「勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得(注)として所得税の課税対象とされます(所令 84③)。」「支配関係のある親会社等から労務の対価として付与されたストックオプションに係る経済的利益についても、給与所得に区分されます。」「請負契約その他これに類する契約に基づき、役務提供の対価として付与されたストックオプションに係る経済的利益については、事業所得又は雑所得に区分されます。なお、そのストックオプションに係る経済的利益が、所得税法第 204 条に規定する報酬料金等に該当する場合には、源泉徴収の対象とされます。」「経済的利益の額は、行使時の株価(800)から権利行使価額(200)を差し引いた 600 となります。」「当該ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、株式譲渡益課税の対象となります。」「株式譲渡益は、譲渡時の株価(1,000)から、行使時の株価(800)を差し引いた 200 となります。」
補足の根拠・出典
上記資料の確認日:2026年9月7日。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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