国際税務の基礎知識

相続税の納税義務者(国外財産と10年ルール)とは

海外移住を考えるとき、所得税と並んで確認しなければならないのが相続税です。日本の相続税は、財産の所在だけでなく、亡くなった人と財産をもらう人の住所・国籍で課税範囲が変わります。

「移住すれば国外財産に相続税はかからない」と単純に言える制度ではありません。

条文の構造

相続税法第1条の3第1項が納税義務者を5つの号で定め、第2条が課税財産の範囲を定めています。

第2条 第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。

2 第一条の三第一項第三号又は第四号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものに対し、相続税を課する。

1号・2号に当たれば全世界財産、3号・4号なら国内財産だけ。相続又は遺贈で財産を取得した人は1号から4号のいずれかに入り、そのどちらの側かが分岐点になります(第5号は相続時精算課税の適用を受ける財産を取得した者で、別の定めによります)。

1号と2号

対象
第1号 財産を取得した時に国内に住所を有する者。イ=一時居住者でない個人/ロ=一時居住者である個人(被相続人が外国人被相続人又は非居住被相続人である場合を除く)
第2号 財産を取得した時に国内に住所を有しない者。イ=日本国籍を有する個人のうち、(1)相続開始前10年以内のいずれかの時に国内に住所を有していたことがあるもの、(2)10年以内のいずれの時も住所がないもの(被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人である場合を除く)/ロ=日本国籍を有しない個人(同じ除外あり)

「10年ルール」と呼ばれるものの、相続人側の根拠が第2号イ(1)です。被相続人側の10年は、第3項の「非居住被相続人」の定義に出てきます。

日本国籍を持つ人が国外に住所を移しても、相続開始前10年以内のいずれかの時に日本に住所があれば、全世界の財産が課税対象になります。

条文の構造は二段構えです。まず財産を取得した人の住所・国籍で号を振り分け、そのうえで1号ロ・2号イ(2)・2号ロの括弧書きで、被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人に当たるかを見ます。

1号イと2号イ(1)には、この括弧書きがありません。日本国籍で、10年以内に日本に住所があった人は、被相続人がどうであれ全世界財産が対象になります。

用語の定義

同条第3項が3つの語を定義しています。

  • 一時居住者 ── 相続開始の時において在留資格を有する者で、相続開始前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下であるもの
  • 外国人被相続人 ── 相続開始の時において在留資格を有し、かつ国内に住所を有していた被相続人
  • 非居住被相続人 ── 相続開始の時に国内に住所がなかった被相続人で、相続開始前10年以内のいずれかの時に国内に住所を有していたことがあるもののうちそのいずれの時においても日本国籍を有していなかったもの、又は10年以内のいずれの時も国内に住所がなかったもの

この3語の定義を確認しないと、1号ロ・2号イ(2)・2号ロの括弧書きの意味が読めません。

そして「在留資格」には、条文の括弧書きで入管法別表第一の上欄の在留資格という限定が付いています。永住者など別表第二の在留資格は、この「在留資格」に入りません。

見落とすと事故になる点

同条第2項は、所得税法137条の2・137条の3の納税猶予の適用がある場合について、1号ロ・2号イ(2)・ロの規定の適用に関する定めを置いています。

第1号は、137条の2(国外転出時課税)の納税猶予の適用を受ける個人が死亡した場合、その相続税の判定において、相続開始前10年以内のいずれかの時に国内に住所を有していたものとみなすとしています。第2号・第3号は、贈与の受贈者や相続人が死亡した場合について、同様のみなしを定めています(ただし書があります)。

出国税と相続税は、別々の制度として切り離せません。

実務で迷いが生じるところ

  • 10年はいつからいつまでを数えるのか。「相続開始前10年以内のいずれかの時」という書き方です
  • 相続人と被相続人のどちらの住所を見るのか。振り分けは取得者側、除外の括弧書きは被相続人側です
  • 国籍を離脱すればどうなるのか。2号ロの除外の要件が問われます
  • 贈与税も同じ判定なのか。相続税法1条の4に別の規定があります
  • 相手国でも相続税・遺産税がかかる場合はどうなるか。二重課税の調整と、相続税に関する条約の有無を見る必要があります
  • 家族の一部だけが先に移住した場合はどうか。取得者ごとに判定します

相続税の10年ルールは、移住してから対策できる制度ではありません。時間そのものが要件だからです。移住を考え始めた段階で、所得税・住民税・相続税・出国税を並べてご相談ください。

根拠条文

  • 相続税法第1条の3(相続税の納税義務者)
  • 相続税法第1条の4(贈与税の納税義務者)
  • 相続税法第2条(相続税の課税財産の範囲)
  • 所得税法第137条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)
  • 所得税法第137条の3(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)
  • 相続税に関する条約(締結国は限られます)

個別の判定には家族全員の住所・国籍・期間の確認が必要です。

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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