条文の定義
租税特別措置法29条の2は、次のように定めています。
「当該新株予約権の行使に係る一株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における一株当たりの価額に相当する金額以上であること。」
税制適格ストックオプションの要件の一つとして、権利行使価額が当該契約の締結の時における株式の1株当たりの価額相当額以上であることが求められています。この価額をどう算定するかが、非上場のスタートアップにとって判断に迷う論点になります。
骨格
| Issue | 条文・通達の定め |
|---|---|
| 権利行使価額の要件 | 租税特別措置法29条の2 |
| 「契約の締結の時」の読み方 | Q&A問7の(注) |
| 株価算定の原則 | 所基通23〜35共-9(1)〜(4) |
| 財産評価基本通達を用いる場面 | 所基通23〜35共-9(注)1/Q&A問7(参考3) |
| 両者の書き分け | Q&A問7(参考1)(注4) |
| 優先株式がある場合 | Q&A問9 |
| 仮決算の要否 | Q&A問8 |
| 契約変更による引下げ | Q&A問10 |
「当該契約の締結の時」とはいつを指すか
要件は契約締結の時点の株価を基準にしますが、付与決議や募集事項決定の決議から間を置かずに契約が締結されるとは限りません。この点について国税庁Q&Aは、次のように述べています。
「当該契約の締結の時」については、付与に係る契約の締結の日が、付与に関する決議の日や募集事項の決定の決議の日から6月を経過していない場合には、これらの決議の日として差し支えありません。
決議の日から契約締結の日までが6か月を超えているかどうかが、この取扱いを使えるかの分かれ目になります。
一株当たりの価額はどう算定するか(原則方式)
付与契約時の株価は、まず所得税基本通達23〜35共-9の例によって算定します。同通達は、上場株式は公表された最終の価格により、旧株が上場されている場合はその価格を基準に、気配相場の価格があるときはそれに読み替え、これら以外は売買実例の有無や類似会社の株式の価額の有無などの区分に応じて算定するとしています。これらのいずれにも当たらない場合について、同通達は次のように定めています。
権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額
税制非適格ストックオプションを行使して取得した株式の価額についても、国税庁Q&A問5は、同じ所得税基本通達23〜35共-9の例によるとしています。
財産評価基本通達を用いる2つの場面
原則方式の中で(所基通23〜35共-9(注)1)
上記の「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」について、所得税基本通達23〜35共-9(注)1は次のように定めています。
昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)……の178から189―7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定している場合には、著しく不適当と認められるときを除き、その算定した価額として差し支えない。
条件は3点です。「中心的な同族株主」該当時は発行法人を常に「小会社」として扱うこと、土地又は上場有価証券は権利行使日等における価額によること、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないことです。
「特例方式」として(Q&A問7(参考3))
国税庁Q&Aは、この権利行使価額要件の算定という場面に限り、これとは別に「特例方式」を置いています。
特例方式は、税制適格ストックオプションの権利行使価額に関する要件に係る付与契約時の株価の算定でしか選択することができません。
Q&A問7(参考3)の条件も同じ3点ですが、⑵の時点は権利行使日等ではなく契約時とされています。
仮決算が必要になるとき(Q&A問8)
国税庁Q&A問8は、純資産価額方式の設例として、直前期末の決算に基づく算定を原則としつつ、付与契約日が直前期末から6か月を経過しその日の純資産価額が直前期末の2倍を超えている場合、又は直前期末から付与契約日までに株式を発行している場合には、仮決算を組む必要があるとしています。株式発行の場合は、払込みを受けた金額を加算する簡便な取扱いも認められています。
優先株式(種類株式)を発行している場合はどうなるか
ベンチャーキャピタルから優先株式で出資を受けているスタートアップでは、普通株式の価額算定にあたり優先株式の存在を無視できません。所得税基本通達23〜35共-9も、発行法人が種類株式を発行している場合には、その内容を勘案して株式の価額を算定するとしています。
国税庁Q&A問9は、優先株式がある場合の算定手順を、相続税評価額ベースで純資産価額を算定し、そこから優先株式に分配される部分を控除し、残りを発行済株式数で除して普通株式の1株当たりの価額を算定する、という順で示しています。優先分配額が投資額を超える場合の扱いについて、Q&Aは次のように述べています。
優先株式の優先分配額が投資額を超える場合(例えば 1.5 倍や 2.0 倍の場合)であっても、その優先分配額を差し引いて普通株式の価額を算定することとなります。なお、いわゆる J-KISS 型新株予約権などの残余財産の優先分配を受けることのできる新株予約権については、残余財産の優先分配を受けることのできる優先株式として取り扱って差し支えありません。
権利行使価額はあとから引き下げられるか(契約変更)
契約に従って新株予約権を行使することが要件とされているため、契約の変更は原則として税制適格性を失わせます。Q&A問10は次のように述べています。
当該契約で定めた事項を変更した場合、原則として、税制適格ストックオプションに該当しないこととなります。
もっとも、令和5年7月の租税特別措置法通達の改正を踏まえ、次の限定的な取扱いも示しています。
税制適格ストックオプションの要件を満たしている契約について、通達改正後に権利行使価額を引き下げる契約変更を行った場合で、かつ、当該契約変更後の権利行使価額が同通達に定めた権利行使価額に関する要件を満たしているときは、税制適格ストックオプションとして認められることとなります。
判定は、契約変更時ではなく付与契約締結時における同通達の算定額によります。あわせて次の点も付言しています。
措法 29 の2①五の要件があるので、契約変更後の権利行使価額が、付与決議で定めた権利行使価額に反することとなる場合には、権利行使価額を変更する決議も必要になります。
実務で迷いが生じるところ
- 国税庁Q&A問7(参考1)(注4)は、純資産価額等を参酌するルートと特例方式とを別のものとして書き分けています。「著しく不適当」の限定がどちらにどう及ぶかは、(参考1)(注4)と所基通23〜35共-9(注)1、Q&A問7(参考3)を突き合わせて確認する必要があります。
- 優先株式の内容(優先分配の倍率、参加型か非参加型かなど)は会社ごとに異なるため、国税庁Q&A問9の算定手順への影響は実際の内容に即して確認する必要があります。
- 契約変更で権利行使価額を引き下げる場合、令和5年7月の租税特別措置法通達の改正後の要件を満たすかは、国税庁Q&A問10と当該通達の原文にあたる必要があります。
根拠条文
- 租税特別措置法第29条の2第1項第3号(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)/引用した文言:「当該新株予約権の行使に係る一株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における一株当たりの価額に相当する金額以上であること。」
根拠となる通達・Q&A・裁判例
- 所得税基本通達23〜35共-9(令第84条第3項本文の株式の価額)/引用した文言:「権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」
- 所得税基本通達23〜35共-9(令第84条第3項本文の株式の価額)/引用した文言:「昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)……の178から189―7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定している場合には、著しく不適当と認められるときを除き、その算定した価額として差し支えない。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問7/引用した文言:「「当該契約の締結の時」については、付与に係る契約の締結の日が、付与に関する決議の日や募集事項の決定の決議の日から6月を経過していない場合には、これらの決議の日として差し支えありません。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問7(参考1)/引用した文言:「特例方式は、税制適格ストックオプションの権利行使価額に関する要件に係る付与契約時の株価の算定でしか選択することができません。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問9/引用した文言:「優先株式の優先分配額が投資額を超える場合(例えば 1.5 倍や 2.0 倍の場合)であっても、その優先分配額を差し引いて普通株式の価額を算定することとなります。なお、いわゆる J-KISS 型新株予約権などの残余財産の優先分配を受けることのできる新株予約権については、残余財産の優先分配を受けることのできる優先株式として取り扱って差し支えありません。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問10/引用した文言:「当該契約で定めた事項を変更した場合、原則として、税制適格ストックオプションに該当しないこととなります。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問10/引用した文言:「税制適格ストックオプションの要件を満たしている契約について、通達改正後に権利行使価額を引き下げる契約変更を行った場合で、かつ、当該契約変更後の権利行使価額が同通達に定めた権利行使価額に関する要件を満たしているときは、税制適格ストックオプションとして認められることとなります。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問10/引用した文言:「措法 29 の2①五の要件があるので、契約変更後の権利行使価額が、付与決議で定めた権利行使価額に反することとなる場合には、権利行使価額を変更する決議も必要になります。」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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