Basic Knowledge of the World Economy

小さな政府は生産性を高めるのか――税負担と国際比較

税金や社会保険料の負担について考えるとき、税率や控除だけを見ていてよいのでしょうか。そのお金を政府が使うことで、納税者の手元に残す場合より大きな価値が生まれているのか。税理士として、この問いにも向き合う必要があると考えています。

私は、小さな政府を支持します。必要性や成果を説明できない支出を減らし、家計と企業の選択に委ねるお金を増やしたいからです。ただし、立場が明確であることと、都合のよい数字だけを選ぶことは別です。「政府が小さい国ほど生産性が高い」という関係が本当に見えるのか、国際比較から確かめます。

政府の大きさを、どう測るか

ここでは、国・地方自治体・社会保障基金を合わせた「一般政府」の支出がGDPに占める割合を使います。国の一般会計予算だけを比べると、地方や社会保障をどこまで含むかが国によって異なり、比較を誤るためです。年金や給付金などの移転も含むので、支出比率が50%だから政府自身が経済の半分を生産している、という意味ではありません。

また、政府支出と税収は同じではありません。OECDの国民経済計算上の整理では、歳入には税、社会保険料、その他の収入があり、支出が歳入を超える差額が財政赤字になります。赤字を続ける政府は、その年に集めた負担以上に支出しています。税収だけを見ると、その規模を小さく見積もることになります。

生産性は、働いた1時間でどれだけ付加価値を生むかを表す「時間当たりGDP」で見ます。物価水準の違いを調整した購買力平価を用います。働く人の勤勉さや頭のよさを測る点数ではありません。設備、技術、産業構成、経営や制度も数字に影響します。

数字を並べると、何が見えるか

OECDの公表データから、2023年の数字をそろえました。最新年だけを優先すると、国や指標によって欠ける値があるためです。政府支出・生産性がそろわないトルコと、生産性の取得値に異常の疑いがあり確認を保留したチリを除き、図には36か国を載せ、表には日本との比較に使う主な国を抜き出しています。各点に同じ重みを置いており、世界の人口や経済規模で重み付けした比較ではありません。

政府が小さいほど、生産性は高いのか 2023年・比較可能なOECD 36か国/各点は1か国 ↑ 時間当たりGDP(ドル、当年の購買力平価で換算) 0 30 60 90 120 150 180 20% 30% 40% 50% 60% オーストラリア:政府支出38.5%/時間当たりGDP 85.6ドル オーストリア:政府支出52.3%/時間当たりGDP 99.1ドル ベルギー:政府支出52.8%/時間当たりGDP 105.6ドル カナダ:政府支出42.6%/時間当たりGDP 73.9ドル コロンビア:政府支出39.5%/時間当たりGDP 21.7ドル コスタリカ:政府支出40.3%/時間当たりGDP 32.8ドル チェコ:政府支出44.0%/時間当たりGDP 63.1ドル デンマーク:政府支出47.5%/時間当たりGDP 104.8ドル デンマーク エストニア:政府支出43.3%/時間当たりGDP 60.5ドル フィンランド:政府支出55.9%/時間当たりGDP 85.4ドル Finland フランス:政府支出56.8%/時間当たりGDP 91.2ドル France ドイツ:政府支出48.1%/時間当たりGDP 97.9ドル Germany ギリシャ:政府支出49.5%/時間当たりGDP 45.6ドル ハンガリー:政府支出49.7%/時間当たりGDP 55.7ドル アイスランド:政府支出45.2%/時間当たりGDP 99.8ドル アイルランド:政府支出22.3%/時間当たりGDP 159.6ドル アイルランド イスラエル:政府支出40.2%/時間当たりGDP 62.7ドル イタリア:政府支出53.6%/時間当たりGDP 79.9ドル 日本:政府支出39.1%/時間当たりGDP 59.2ドル Japan 韓国:政府支出35.6%/時間当たりGDP 56.0ドル South Korea ラトビア:政府支出43.4%/時間当たりGDP 53.8ドル リトアニア:政府支出37.2%/時間当たりGDP 62.5ドル ルクセンブルク:政府支出46.4%/時間当たりGDP 135.7ドル ルクセンブルク メキシコ:政府支出27.4%/時間当たりGDP 38.7ドル オランダ:政府支出44.0%/時間当たりGDP 97.7ドル ニュージーランド:政府支出44.5%/時間当たりGDP 58.2ドル ノルウェー:政府支出45.0%/時間当たりGDP 143.8ドル ノルウェー ポーランド:政府支出46.9%/時間当たりGDP 56.1ドル ポルトガル:政府支出42.0%/時間当たりGDP 58.0ドル スロバキア:政府支出48.4%/時間当たりGDP 62.9ドル スロベニア:政府支出46.5%/時間当たりGDP 68.3ドル スペイン:政府支出45.4%/時間当たりGDP 76.1ドル スウェーデン:政府支出50.0%/時間当たりGDP 92.0ドル スウェーデン スイス:政府支出32.2%/時間当たりGDP 103.0ドル Switzerland 英国:政府支出46.5%/時間当たりGDP 83.5ドル 米国:政府支出39.2%/時間当たりGDP 95.6ドル United States 一般政府支出/GDP → 出所:OECD。各国の水準の比較であり、支出削減の効果を推計した図ではありません。 豪州・NZの政府統計は年度。アイルランド等は多国籍企業や産業構成の影響に注意。

Country 政府支出/GDP 時間当たりGDP
Japan 39.1% 59.2ドル
United States 39.2% 95.6ドル
Switzerland 32.2% 103.0ドル
South Korea 35.6% 56.0ドル
Netherlands 44.0% 97.7ドル
Germany 48.1% 97.9ドル
デンマーク 47.5% 104.8ドル
スウェーデン 50.0% 92.0ドル
Finland 55.9% 85.4ドル
France 56.8% 91.2ドル

目を引くのは日米です。政府支出は両国ともGDPの約39%ですが、生産性は日本59.2ドル、米国95.6ドルです。一方、スイスは日本より政府が小さく、生産性が高い国です。しかし、デンマークやスウェーデンは日本より政府が大きくても、生産性が高くなっています。小さな政府と高い生産性が両立する国も、大きな政府と高い生産性が両立する国もあります。

全対象国の単純な相関係数は0.02でした。これは直線的な関係の強さを見る記述値で、政策の因果効果ではありません。多国籍企業や金融・資源産業の影響が大きいアイルランド、ルクセンブルク、ノルウェーを参考として外すと0.38となり、国の構成でも結果が動きます。都合のよいほうだけを結論に採用することはできません。

税と強制的な社会保険料を合わせたGDP比は、別のOECD税統計で日本33.7%、米国25.6%です。支出の比率が近くても、その年の負担や赤字の構成は同じではありません。この税統計では社会保険料が税収総額に含まれるため、さらに加算すると二重計上になります。日本の税統計は年度であり、暦年の支出からこの比率を引いて赤字を求めることもできません。

出所:OECD・一般政府統計OECD・生産性統計OECD・税収統計。2026年9月8日取得。数値は表示時に丸めています。

相関だけでは、政策の答えにならない

この図は、同じ年の各国の位置を比較したものです。政府を小さくした国で、その後の生産性がどれだけ上がったかを推計したものではありません。生産性の高い豊かな国だから、大きな社会保障制度を維持できるという逆向きの説明もあり得ます。不況でGDPが落ちれば、支出額が変わらなくても政府支出のGDP比は上がります。

さらに、公的に提供している医療や年金を民間に移せば、政府支出の比率は下がっても、家計が支払う保険料や費用まで同じだけ下がるとは限りません。制度を変えて、本当に総費用が減り、選択肢やサービスが改善するのかまで見る必要があります。公務員の人数、規制の強さ、国有企業の存在も、支出比率だけでは捉えきれません。

したがって、ある国の政府支出比率をそのまま日本の目標にすることはできません。政府の大きさを比較する図は、仮説を確かめる出発点です。削るべき事業を特定するには、その中身を調べる必要があります。

ケインズとハイエクは、何を問うたのか

ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』第3章は、商品やサービスを買う需要が足りないと、働きたい人がいても十分な雇用が生まれない場合があると論じます。この問題意識から、民間需要が落ち込んだときに財政で支える政策が導かれます。恒常的な赤字や、あらゆる公共事業の継続を無条件で正当化する議論として扱うべきではありません。

一方、ハイエクの「社会における知識の利用」は、経済活動に必要な知識が人々や現場に分散し、価格がその調整に役立つことを論じました。誰が次の有望な事業を知っているのか、誤った判断をどう修正するのか。この視点は、政府が支援先を選び続けることへの疑問につながります。

私は、このハイエクの視点を重視します。既存の企業や事業を守るために、人材と資金が動かなくなっていないか。政府の審査に通ることが、顧客に選ばれることより重要になっていないか。国力を取り戻すには、この点を問い直したいと考えています。ただし、競争を守るための法執行や独占への対応まで不要になるわけではありません。

減らすべき支出と、残すべき機能

Fournier・Johanssonの2016年の研究は、OECD諸国の長期データで、政府規模の大きさと低い成長との関連を示す一方、その関係は政府の有効性に左右されるとしています。私の問題意識を支持する材料ですが、支出の総額だけで結論は出せないという研究でもあります。

この研究は、先ほどの時間当たり生産性の図とは異なり、15〜74歳人口当たりの潜在GDPと、景気の影響を調整した支出を分析しています。各国の違いを調整する工夫はありますが、日本がいま何兆円削ればどれだけ成長するかを確定したものではありません。教育も予算額を増やすだけでなく成果や効率が重要であり、個々の事業を調べる必要があります。

IMFの2025年対日声明は、対象を適切に絞れていない補助金、とくにエネルギー補助金の廃止と、質の高い公共投資の維持を提言しています。同声明は増収策にも言及しており、私の減税支持と同じ立場ではありません。それでも、支出を一律に守るのでなく、質と目的を問い直す必要がある点は参考になります。

官民ファンドの成果は、実際の数字で問う

借り入れを続けられるかに加え、そのお金を何に使い、どんな成果を得たかも問う必要があります。

政府による投資には、実績に基づいて見直すべき事例があります。2026年7月の財務省公表資料によると、クールジャパン機構の2026年3月末の累積損益は540億円の赤字でした。計画の426億円より赤字が114億円大きく、2025年度だけでも157億円の純損失を計上しています。同資料は新規支援決定の見合わせと、他機関との統合・廃止を前提とする検討方針を示しています。

会計検査院の2025年報告も、損益を調べた23ファンドのうち14で2023年度末に累積損失があったとしています。一方、9ファンドは累積黒字です。この9には2018年度に業務を終えた1ファンドが含まれます。設立時期や回収段階も異なるため、「14が最終的に失敗した」という数字ではありません。同報告は成果指標の計上方法が統一されていない問題も指摘しています。

さらにJICが公表する旧INCJの実績には、144件の投資で1兆円超の利益を達成したとの報告があります。すべての官民ファンドに成果がない、とは言えません。ただし、こうした損益や投資回収実績だけでは、民間に任せた場合より成果が高かったかは分かりません。損益、民間資金を新たに呼び込んだ効果、政府が担う必要性を分けて検証し、計画未達を繰り返す制度を存続ありきで扱わないことが必要です。

小さな政府を、納税者の選択を増やす改革にする

小さな政府への改革は、支出額の削減だけで完結しません。参入を妨げる規制を見直し、新しい企業が顧客と資金を得やすくすること。保護を受ける既存企業と、保護を受けない新規企業の競争条件をそろえること。事業をやめる企業があっても、働く人が次の仕事へ移れるようにすること。これらを組み合わせて初めて、資金と人材が新しい価値を生む方向へ動くという仮説になります。

減税を先にすれば、政府はお金が足りなくなって自然に支出を減らすのでしょうか。Romer・Romerの2009年の研究は、戦後米国の政策変更を調べ、この筋書きを支持する証拠が乏しいとしています。日本にもそのまま当てはまるとは限りませんが、減税だけで支出が自動的に縮むとは期待できません。何をやめるかも具体的に決める必要があります。

支出削減で生まれた同じ財源を、減税と赤字削減の両方に全額使うことはできません。必要なサービスの確保、債務の持続可能性、負担軽減の順序と配分を示す必要があります。また、短期の需要減少をどう乗り越えるかも無視できません。民間投資がただちに同額増える、と約束するのは適切ではありません。

政府には、集める金額の説明だけでなく、民間に残すより価値ある使い方をしているという説明が求められます。成果が乏しく、民間の挑戦を妨げる支出はやめる。そのうえで、税・社会保険料の負担を軽くし、納税者が自ら使い道を決める余地を広げる。これが、私が支持する小さな政府です。国際比較だけで正しさが証明された政策ではありませんが、比較と個別事業の検証によって、具体的に進める価値のある改革だと考えています。

本稿は2026年9月8日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

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