Taxation of donations

海外子会社への支援が「寄附金」になるとき――中小企業の移転価格と寄附金課税

海外子会社を設立したばかりのとき、日本の本社がさまざまな支援を行うことがあります。経理を手伝う、社員を派遣する、現地の採用費用を支払う、資金繰りを支える。経営者からすれば、同じ事業を育てるための自然な行動ではないでしょうか。

ところが、日本法人と海外子会社は、税務上は別の法人です。「グループのために必要だった」という説明だけでは、日本法人の費用として認められるとは限りません。そこで問題になるのが、移転価格税制と、国外関連者に対する寄附金の損金不算入です。

前の記事では、移転価格税制の歴史と日本の課税実績を整理しました。今回は、海外に事業を展開する中小企業にも身近な、支援の対価と費用負担を取り上げます。

「移転価格は大企業、寄附金は中小企業」なのでしょうか

移転価格税制というと、大企業の取引価格を専門部署が分析する制度という印象があるかもしれません。一方、海外子会社の経費を日本側で負担している会社では、調査で「その支出は子会社への寄附ではないですか」と問われる場面が考えられます。

ただし、会社の規模によって二つの制度を振り分ける規定があるわけではありません。移転価格の算定が難しいから、税務当局が自由に寄附金課税へ置き換えてよい、という関係でもありません。それぞれの要件と、実際に行われた取引を確認する必要があります。

似て見える二つの課税には、異なる確認事項があります
比較項目移転価格課税国外関連者への寄附金課税
主な根拠租税特別措置法66条の4第1項同条第3項と法人税法37条の寄附金概念
中心となる問い取引対価は独立企業間価格に照らして適切か資産や経済的利益を実質的に贈与・無償供与したか
課税上の扱い日本側所得が少なくなる一定の場合に、独立企業間価格で所得を計算該当する寄附金額を全額損金不算入
会社規模中小企業というだけでは対象外にならない中小企業だけを対象とする規定ではない

National Tax Agency's移転価格事務運営要領3-20は、収益を計上していない場合、受け取る金額が不足する場合、支払額に無償の利益供与が含まれる場合などについて、寄附金の規定を検討する取扱いを示しています。ただの価格差なのか、実質的な無償供与なのかという事実認定が必要です。なお、事務運営要領は税務当局の執行指針であり、法律そのものとは区別して読む必要があります。

税務上の「寄附金」は、慈善団体への寄附だけではありません

一般に寄附といえば、公益活動への支援を思い浮かべます。しかし、法人税の寄附金には、金銭や資産の贈与だけでなく、経済的利益を無償で供与する場合も含まれます。名目が「支援金」「業務委託費」「海外展開費」でも、名前だけでは決まりません。

一般の寄附金には損金算入限度額の仕組みがありますが、国外関連者への寄附金は、その全額が損金不算入となります。日本の100%子会社向けの取扱いを、そのまま海外の100%子会社に当てはめることもできません。国税庁「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」が、それぞれを区別しています。

具体例①――日本の社員が海外子会社の仕事を手伝う

日本法人の社員が、海外子会社の経理、営業、技術支援を継続して行っているのに、子会社へ一切請求していないとします。まず確認するのは、その仕事が誰に便益をもたらしているかです。

例えば、子会社自身が第三者に頼むか、自社の社員で行う必要がある仕事なら、子会社へのサービスという性格が強くなります。反対に、親会社自身の株主総会や親会社の上場維持のための活動まで、すべて子会社に請求すべきとは限りません。グループの一員であることから生じる付随的な便益と、具体的な役務の提供も分けて考えます。

「子会社管理だから無料」「少しでも子会社に関係すれば請求」という両極端を避け、業務内容、担当者、作業時間、成果物を確認します。そのうえで対価が必要な業務なら、費用の配賦や利益の上乗せをどうするかを検討します。単に費用を実費で請求すれば、すべての取引で適正価格になるわけではありません。

具体例②――子会社の経費を、日本法人が支払う

現地法人の採用広告や現地オフィスの費用を、日本法人が払った場合を考えてみます。送金者が日本法人だからといって、その会社の費用になるとは限りません。

子会社が負担する費用を一時的に立て替え、後で回収するのであれば、まず立替金などの性格を検討します。日本法人が自ら受けるサービスの代金なのか、子会社へのサービスに要した原価なのか、子会社の費用を回収しないまま負担したのかで、整理は変わります。

「誰が払ったか」の前に確認すること
契約・債務誰が発注し、誰に支払義務があるか。立替えなら回収する合意があるか。
便益・負担誰の事業に役立つ支出か。複数社に役立つなら、どう配分するか。

請求書の宛名だけを整えても、実際の仕事や便益が変わるわけではありません。費用を支出する前に、負担者と精算方法を決めておく方が、後から説明を組み立てるより確実です。

具体例③――年末に、赤字の子会社へお金を移す

海外子会社の決算が赤字になりそうなので、期末に日本法人から資金を移すこともあります。しかし、「赤字だから」というだけでは、その支払の性質は決まりません。

最初から合意した価格算定式に基づく精算なのか、実際の業務委託料なのか、出資なのか、貸付けなのか、それとも無償の補填なのか。それぞれ会計処理も税務上の確認事項も異なります。

事後的な価格調整について、国税庁の事務運営要領3-21は、合理的な理由に基づく取引価格の修正に当たるかを検討する取扱いを示しています。したがって、期末調整というだけで当然に寄附金になるわけではありません。他方、「価格調整金」と書けば問題がなくなるわけでもなく、合意内容や計算根拠が必要です。

再建のための支援には、別の検討があります

経営危機にある子会社に対する無利息貸付けや債権放棄などは、合理的な再建計画に基づく支援かどうかを確認します。法人税基本通達9-4-2には、倒産を防止するためにやむを得ず行う支援など、相当な理由がある場合に寄附金に該当しないとする取扱いがあります。

支援をしなかった場合の損失、再建可能性、支援額、他の関係者の負担、再建の管理などが問題になります。海外子会社を支援したいという気持ちと、日本法人がその負担をする経済合理性は、別々に説明する必要があります。

また、「貸借対照表で債務超過になっていなければ、この検討はできない」とも限りません。国税庁は、債務超過でない債務者への債権放棄等についても、事情に照らして経済合理性が認められる場合の取扱いを説明しています。形式的な一つの数字だけで決める問題ではありません。

海外でも、グループ内なら自由というわけではありません

日本の「国外関連者への寄附金」という言葉を、そのまま各国に当てはめると分かりにくくなります。共通するのは、関連企業同士の取引だからといって、費用や利益を自由に移せるわけではないという点です。課税の法的構成や、小規模企業への配慮は国によって異なります。

Country海外子会社への支援を考えるときの着眼点
United States共通支配下の取引に、内国歳入法482条の所得配分・調整が問題になります。役務も独立企業原則の検討対象です。日本の寄附金という名称だけで比較しないことが大切です。
United Kingdom一定の中小企業には移転価格ルールの免除がありますが、例外もあります。移転価格の免除が、その支出に関する他の損金要件や相手国の課税まで免除するわけではありません。
Germany国外関連者との独立企業間条件に基づかない取引には、所得修正が問題になります。小規模取引の記録義務の緩和と、取引条件そのものの適正性は別です。
Singapore関連者間サービスも独立企業原則で検討します。一定の定型的な支援サービスには簡素化の取扱いがありますが、どのサービスでも無償でよいという制度ではありません。

Source:IRS、英国政府、ドイツ対外税法1条、IRAS。各国の寄附・資本拠出・損金算入制度のすべてを同一視する比較ではありません。

例えば、シンガポール子会社の現地側の処理が適切であっても、日本親会社の費用負担が日本で認められるとは限りません。支払側と受取側を、両国の制度から確認する必要があります。

中小企業が、まず残しておきたい記録

最初から大企業と同じ量の資料を作ることが目的ではありません。自社の取引に即して、次の質問に答えられるようにしておくことが出発点になります。

  1. 何を行ったのか。 商品、サービス、貸付け、保証、立替え、出資などの内容を整理します。
  2. 誰のための活動なのか。 日本法人自身の活動と、海外子会社が便益を受ける活動を区別します。
  3. なぜ、その金額なのか。 原価、作業時間、配賦基準、比較情報などの根拠を残します。
  4. いつ、何を合意したのか。 契約書、メール、見積り、取締役会資料などで確認できるようにします。
  5. 実際に履行・精算したのか。 成果物、請求、入金、未回収額を契約と照合します。

日本の同時文書化義務が免除される規模の取引であっても、税務上の説明が不要になるわけではありません。国税庁の文書化制度の説明でも、義務の対象と免除が区別されています。

海外子会社への支援そのものが悪いわけではありません。事業上必要な支援であるなら、その内容と、日本法人が負担する理由を言葉と数字で説明できるようにする。移転価格と寄附金という二つの入口を知っておくことが、その準備につながります。

本稿は2026年10月10日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

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