Basics of International Taxation

国際相続・贈与の課税はどう変わってきたのか――5年ルール・10年ルールと経過措置の歴史

2015年に公開した「富裕層のための『非居住者』入門」では、当時の5年ルールと、2013年改正による課税範囲の拡大を図解しました。その後、5年ルールは10年へ延長され、外国人に関する取扱いにも改正が重ねられています。

海外に住む人が関係する相続や贈与について調べると、財産を渡す側と受け取る側の住所、国籍、過去の居住期間を縦横に並べた表を見かけます。国内財産だけが課税対象となる場合もあれば、国外財産まで課税対象となる場合もあります。現在の表だけを見ても、なぜこれほど複雑な仕組みになっているのか、分かりにくいのではないでしょうか。

では、すでに海外へ移住していた人は、改正の際にどう扱われたのでしょうか。「あと1年で5年になる」と考えていた人が、突然、あと6年待つことになったのでしょうか。武富士贈与税事件と、その前後の税制改正から振り返ります。

最初に整理したい「何が課税対象になるのか」

この記事で扱うのは、相続税・贈与税の課税対象となる財産の範囲です。大きく分けると、次の二つがあります。

課税範囲 日本の相続税・贈与税の対象となる財産
国内財産のみ 日本国内にある財産
国内・国外財産 日本国内にある財産と、日本国外にある財産

「海外に10年住めば相続税も贈与税もかからなくなる」という意味ではありません。一定の条件を満たして国外財産が課税対象から外れても、日本の不動産などの国内財産は原則として対象に残ります。また、課税対象になることと、実際に納税額が発生することも別です。税額は、基礎控除や各種の特例などを踏まえて計算します。

なお、財産の所在は、単純に「海外へ持っていったか」で決まるとは限りません。例えば株式は、原則として発行法人の本店等の所在地で判定します。外国の証券会社に預けた日本法人の株式が、それだけで国外財産になるわけではありません。国税庁「相続人が外国に居住しているとき」にも、財産の所在の判定が説明されています。

2000年改正前――受け取る人の住所が重要だった時代

2000年の改正前は、財産を受け取る人が日本に住所を持つ場合、原則として国内財産・国外財産の双方が課税対象でした。一方、受け取る人が日本に住所を持たない場合は、原則として国内財産だけが対象でした。現在のように、本人や財産を渡す側の過去の国内住所を5年、10年と振り返る仕組みはありませんでした。

2000年3月31日まで

渡す側は日本国籍を持ち、国内住所の履歴がある期間も日本国籍だった人に限定した比較図です。横は受け取る側、縦は渡す側。年数は財産取得時まで継続して日本に住所がない期間です。

渡す側 ↓ / 受け取る側 → 日本に住所あり
日本国籍
国外に住所あり
日本国籍
5年以内
国外に住所あり
日本国籍
5年超・10年以内
国外に住所あり
日本国籍
10年超
国外に住所あり
外国籍
日本に住所あり 国内+国外 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ
国外に住所あり
国内住所を失って5年以内
国内+国外 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ
国外に住所あり
5年超・10年以内
国内+国外 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ
国外に住所あり
10年超
国内+国外 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ

青:国内財産のみ / 灰:国内・国外財産 / 金色の枠:直前の図から課税範囲が広がった箇所

国内に住所がある外国籍の取得者、外国籍の被相続人・贈与者はこの図に含めていません。相続時精算課税・国外転出時課税の納税猶予等の特則も除きます。日数境界は取得日と住所履歴で個別に確認します。

この制度の下では、財産を国外財産にし、受け取る人の住所も国外へ移した後に贈与することで、日本の贈与税の課税対象から外れる余地がありました。武富士贈与税事件で問題となったのは、この時代の贈与です。

最高裁判決によれば、父親は1997年2月頃に弁護士からこの方法の説明を受け、長男は同年6月に香港へ出国しました。両親は1998年3月に武富士株式をオランダ法人へ譲渡し、1999年12月27日に、そのオランダ法人の出資持分を長男へ贈与しています。

争点となったのは、贈与時の長男の「住所」が日本にあったのか、香港にあったのかという点でした。最高裁は2011年2月18日、香港に住所があったと判断し、課税処分を取り消しました。詳しい経緯は最高裁判決原文に記載されています。

武富士事件の贈与と、税制改正の時間軸

ここは、順番を間違えやすいところです。武富士事件の最高裁判決を受けて、5年ルールが導入されたわけではありません。贈与は1999年、5年ルールの導入は2000年、最高裁判決は2011年です。判決が出るよりも前に、法律は改正されていました。

time of year 出来事
1997年2月頃 父親が、国外への住所・財産移転を利用する方法について説明を受ける
1999年10月頃 父親と長男が、公認会計士から贈与実行の具体的な提案を受ける
1999年12月16日 自民党の平成12年度税制改正大綱がまとまる。政府税制調査会も同日、答申を提出
December 27, 1999 問題となった贈与を実行
2000年4月1日 5年ルール施行
February 18, 2011 最高裁判決

12月16日の政府税調答申には、海外への資産移転による租税回避を防ぐ措置を検討する必要性が、すでに示されていました。贈与が行われたのは、その11日後です。当時の政府税調答申And,自民党大綱の日付を記録する判決資料の42ページから、この時間軸を確認できます。

改正前の実行を意識した可能性はあります。ただし、計画は以前から進められていました。大綱を受けて実行を早めたのか、予定どおりだったのかは、確認した資料からは断定できません。「事件を受けて改正された」と単純に説明するより、以前から準備されていた贈与と、課税強化に向けた動きが、この時期に重なったと見る方が正確です。

2000年――5年ルールの導入

2000年4月1日から、国外に住所を持つ日本国籍の取得者について、本人または財産を渡す側が、相続・贈与前5年以内に日本に住所を持っていた場合には、国外財産も課税対象とする仕組みが導入されました。

ポイントは、どちらか一方に国内住所の履歴があれば対象になることです。受け取る人だけが海外へ移っても、財産を渡す側が日本に住み続けていれば、国外財産への課税を外すことはできません。この規定は、当初、租税特別措置法69条に置かれました。平成12年法律第13号で、その内容を確認できます。

2000年4月1日から:5年ルール

渡す側は日本国籍を持ち、国内住所の履歴がある期間も日本国籍だった人に限定した比較図です。横は受け取る側、縦は渡す側。年数は財産取得時まで継続して日本に住所がない期間です。

渡す側 ↓ / 受け取る側 → 日本に住所あり
日本国籍
国外に住所あり
日本国籍
5年以内
国外に住所あり
日本国籍
5年超・10年以内
国外に住所あり
日本国籍
10年超
国外に住所あり
外国籍
日本に住所あり 国内+国外 国内+国外今回拡大 国内+国外今回拡大 国内+国外今回拡大 国内のみ
国外に住所あり
国内住所を失って5年以内
国内+国外 国内+国外今回拡大 国内+国外今回拡大 国内+国外今回拡大 国内のみ
国外に住所あり
5年超・10年以内
国内+国外 国内+国外今回拡大 国内のみ 国内のみ 国内のみ
国外に住所あり
10年超
国内+国外 国内+国外今回拡大 国内のみ 国内のみ 国内のみ

青:国内財産のみ / 灰:国内・国外財産 / 金色の枠:直前の図から課税範囲が広がった箇所

国内に住所がある外国籍の取得者、外国籍の被相続人・贈与者はこの図に含めていません。相続時精算課税・国外転出時課税の納税猶予等の特則も除きます。日数境界は取得日と住所履歴で個別に確認します。

では、改正時点ですでに海外へ移住していた人は、どうなったのでしょうか。改正法附則19条1項は、施行日以後に相続・贈与等によって取得する財産に新しい規定を適用すると定めています。改正前に移住していた人を一律に除外する措置はありませんでした。

例えば、日本国籍の親子がともに海外へ移り、改正時点で2年が経過していたとします。その後も日本に住所を持たない場合、5年の条件を満たすまでの期間は、おおむね残り3年です。施行日から5年を数え直すのではありません。それまでの海外居住期間も踏まえ、財産を取得する時点から過去5年を振り返って判定します。

2013年――外国籍の取得者にも課税範囲を拡大

2000年の改正では、国外に住む取得者の日本国籍が重要な条件でした。2013年4月1日以後は、日本に住所を持つ人から財産を取得する場合、国外に住む外国籍の人についても、国外財産まで相続税・贈与税の対象とする改正が行われました。

2013年4月1日から:外国籍の取得者へ拡大

渡す側は日本国籍を持ち、国内住所の履歴がある期間も日本国籍だった人に限定した比較図です。横は受け取る側、縦は渡す側。年数は財産取得時まで継続して日本に住所がない期間です。

渡す側 ↓ / 受け取る側 → 日本に住所あり
日本国籍
国外に住所あり
日本国籍
5年以内
国外に住所あり
日本国籍
5年超・10年以内
国外に住所あり
日本国籍
10年超
国外に住所あり
外国籍
日本に住所あり 国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内+国外今回拡大
国外に住所あり
国内住所を失って5年以内
国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内のみ
国外に住所あり
5年超・10年以内
国内+国外 国内+国外 国内のみ 国内のみ 国内のみ
国外に住所あり
10年超
国内+国外 国内+国外 国内のみ 国内のみ 国内のみ

青:国内財産のみ / 灰:国内・国外財産 / 金色の枠:直前の図から課税範囲が広がった箇所

国内に住所がある外国籍の取得者、外国籍の被相続人・贈与者はこの図に含めていません。相続時精算課税・国外転出時課税の納税猶予等の特則も除きます。日数境界は取得日と住所履歴で個別に確認します。

これは、日本人の海外移住だけに関係する話ではありません。例えば、米国人が日本へ単身赴任中に死亡し、米国に住む妻子が米国の財産を相続する場合です。当時の制度では、その米国財産まで日本の相続税の対象となり得ました。これとは別に、従来から、米国人が日本へ赴任中に、米国に住む父親から米国の財産を相続するケースも、国外財産への課税が問題となりました。

「仕事で日本に来ただけなのに、母国の家族や財産にまで、なぜ日本の相続税がかかるのか」。こうした負担は、外国人が日本で働く際の問題として取り上げられました。経済産業省の調査資料にも、これらの具体例が掲載されています。

2017年――5年ルールから10年ルールへ

2017年4月1日から、日本国籍の国外居住者に関する住所履歴の判定期間が、5年から10年へ延長されました。

2017年4月1日から:10年ルール

渡す側は日本国籍を持ち、国内住所の履歴がある期間も日本国籍だった人に限定した比較図です。横は受け取る側、縦は渡す側。年数は財産取得時まで継続して日本に住所がない期間です。

渡す側 ↓ / 受け取る側 → 日本に住所あり
日本国籍
国外に住所あり
日本国籍
5年以内
国外に住所あり
日本国籍
5年超・10年以内
国外に住所あり
日本国籍
10年超
国外に住所あり
外国籍
日本に住所あり 国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内+国外
国外に住所あり
国内住所を失って5年以内
国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内+国外 国内+国外今回拡大
国外に住所あり
5年超・10年以内
国内+国外 国内+国外 国内+国外今回拡大 国内+国外今回拡大 国内+国外今回拡大
国外に住所あり
10年超
国内+国外 国内+国外 国内+国外今回拡大 国内のみ 国内のみ

青:国内財産のみ / 灰:国内・国外財産 / 金色の枠:直前の図から課税範囲が広がった箇所

国内に住所がある外国籍の取得者、外国籍の被相続人・贈与者はこの図に含めていません。相続時精算課税・国外転出時課税の納税猶予等の特則も除きます。日数境界は取得日と住所履歴で個別に確認します。

このときも、すでに海外へ移住していた日本国籍の人について、旧5年ルールを維持する一般的な経過措置は設けられませんでした。改正法附則31条1項は、施行日以後に取得する財産に新しい規定を適用するとしています。根拠は平成29年法律第4号・附則31条It is.

日本国籍の親子が同時に海外へ移り、その後も日本に住所を持たない例で考えると、次のようになります。

2017年4月1日時点の海外居住期間 旧5年ルールを前提にした見通し 改正後の新たな相続・贈与
4年 あと約1年 あと約6年
6年 すでに5年を経過 10年を満たすまで、あと約4年
10年超 5年を経過 10年の条件も満たしている

※国外財産の課税範囲についての例です。双方の国籍・住所履歴が変わらず、国外転出時課税の納税猶予等の特則がない場合を前提としています。

特に重要なのは、すでに5年が経過していた人です。旧ルールで国外財産が対象外となる状態にあったとしても、それによって将来の相続・贈与まで旧ルールの適用が保障されるわけではありませんでした。一方、改正前に完了した贈与を、新しい10年ルールで課税し直すということではありません。過去に完了した財産移転と、改正後に行われる財産移転を分ける必要があります。

「経過措置がある」という説明にも注意が必要です

2017年改正には、経過措置そのものは存在しました。一定の外国籍・非居住の被相続人や贈与者から、外国籍・非居住の取得者へ財産が移る場合について、2022年3月31日までの限定的な措置が設けられています。

しかし、これは日本国籍の海外移住者に対して、旧5年ルールを維持する措置ではありません。「2017年改正には5年間の経過措置があった」という説明だけを読むと、海外移住者全般が保護されていたように見えます。実際には、誰の国籍・住所について、どの条件を満たす場合の経過措置なのかを確認する必要があります。国税庁の相続税法基本通達にも、経過措置に関する注記が掲載されています。

外国人については、緩和も重ねられました

2017年改正は、課税強化だけの改正ではありません。日本への一時的な居住に伴って外国人の国外財産まで課税対象となる問題に対応するため、一定の在留資格と居住期間の条件を満たす人などについて、課税範囲を限定する措置も設けられました。

その後、2018年には外国人が日本を出国した後の取扱いが緩和され、2021年には、日本に住む一定の外国人が財産を渡す場合について、従来の居住期間による制限が撤廃されています。ただし、財産を受け取る側の「一時居住者」の判定には、現在も在留資格と過去15年中の国内住所期間に関する条件があります。渡す側と受け取る側で、同じ条件を使うわけではありません。

また、2018年4月1日から2021年3月31日までに受けた一定の贈与には、贈与者の出国後2年以内の帰国に関する旧制度が残されています。後の改正で制度が廃止されても、過去の贈与に適用される取扱いまで直ちに消えるとは限りません。詳細は、国税庁の現在の納税義務者の説明And,旧制度に関する申告手続Please refer to.

同じ家族でも、時代によって課税範囲が変わります

制度の変化を、日本国籍の親子の例に絞って並べると、次のようになります。受け取る側は国外居住、対象は国外財産とし、渡す側も日本国籍を持つ通常のケースです。

財産を渡す側・受け取る側の状況 2000年改正前 5年ルールの時代 10年ルールの時代
渡す側は日本居住、受け取る側は国外居住 原則対象外 Target Target
双方とも国外居住だが、どちらかが過去5年以内に国内住所あり 原則対象外 Target Target
双方とも過去5年以内に国内住所なし。ただし、どちらかが過去10年以内に国内住所あり 原則対象外 原則対象外 Target
双方とも過去10年以内に国内住所なし 原則対象外 原則対象外 原則対象外

※国内財産は別に課税対象となります。外国籍の人に関する例外、相続時精算課税、国外転出時課税の納税猶予等の特則は、この比較表には含めていません。

各制度の根拠は、2000年改正法and2017年改正法You can check with.

5年の延長は、人生設計にも関わります

5年を前提に海外で暮らしていた人にとって、10年への延長は、単なる数字の変更ではありません。高齢の親にとっては、健康や介護、家族と過ごす時間に関わります。国外財産の贈与を終えてから日本へ戻ろうと考えていた人なら、帰国の予定を見直すことにもつながり得ます。

ただし、10年を満たせば、その後いつ日本に戻っても課税関係が変わらないわけではありません。帰国して日本に生活の本拠を戻した後に相続・贈与が起きれば、その時点の住所を踏まえて改めて判定します。また、「住所」は住民票だけで決まるものではありません。武富士事件でも問題となったように、生活の本拠がどこにあるかという実態が重要です。

国際相続・贈与の制度を振り返ると、海外への住所・財産移転を利用した課税回避への対応と、外国人が日本で働く際の負担への配慮が重なり、現在の仕組みができたことが分かります。そして、その改正の途中には、旧制度を前提に生活を組み立てていた人がいました。

現在の課税範囲の表を読む際にも、どの時点の財産取得に、どの法律と経過措置が適用されるのかまで確認することが欠かせません。

本稿は2026年10月8日時点の制度を扱う一般的な解説です。図は各時代の原則を比較したものであり、個別の判定では国籍・住所履歴・財産の所在・経過措置・特則を確認する必要があります。

本稿は2026年10月8日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

We take care in preparing this information. If you notice an error, please let us know through our contact page.

ご自身のケースについて、相談をご希望の方へ

海外移住・海外法人・国際相続・外国税額控除など、国際税務のご相談を承っています。

International Tax Consultation

相談内容・料金・お申し込み方法をご案内しています。

Back to list