みなし共同事業要件は、5つの要件をすべて満たす仕組みではありません。本稿では、欠損金の引継ぎ制限に関する法人税法57条3項と、施行令112条3項が定める2通りの組み合わせを整理します。
条文の定義
被合併法人が持っていた繰越欠損金を合併法人が引き継げるかどうかは、法人税法57条に定めがあります。もっとも、支配関係が生じてから間もない法人同士の適格合併については、この引継ぎに制限がかかる場合があります。この制限が外れる場面の一つを定めているのが法人税法57条です。
当該適格合併が共同で事業を行うための合併として政令で定めるものに該当する場合又は当該被合併法人等と同項の内国法人との間に当該内国法人の当該適格合併の日の属する事業年度開始の日(当該適格合併が法人を設立するものである場合には、当該適格合併の日)の五年前の日若しくは当該残余財産の確定の日の翌日の属する事業年度開始の日の五年前の日、当該被合併法人等の設立の日若しくは当該内国法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がある場合として政令で定める場合のいずれにも該当しない場合には、次に掲げる欠損金額を含まないものとする。
平たく言うと、被合併法人等と合併法人との間に、合併等の日の属する事業年度開始の日の5年前の日などから継続して支配関係がある場合、または、その適格合併が「共同で事業を行うための合併として政令で定めるもの」に該当する場合には、支配関係が生じる前の欠損金額や、特定資産譲渡等損失額に相当する部分の欠損金額を欠損金額に含めない、という制限がかからないということです。特定資産譲渡等損失額そのものの内容は特定資産に係る譲渡等損失額で扱っています。この要件は、実務上、一般にみなし共同事業要件と呼ばれ、具体的な内容は法人税法施行令112条に置かれています。
法第五十七条第三項に規定する政令で定めるものは、適格合併のうち、第一号から第四号までに掲げる要件又は第一号及び第五号に掲げる要件に該当するものとする。
法人税法施行令112条は、第一号から第四号までに掲げる要件、または第一号及び第五号に掲げる要件のいずれかに該当する適格合併を、この政令で定めるものとしています。組み合わせは2通りあり、どちらか一方を満たせば足ります。
骨格
| 施行令112条3項の要件 | 1号から4号の組み合わせ | 1号と5号の組み合わせ |
|---|---|---|
| 1号:事業関連性 | 必要 | 必要 |
| 2号:事業規模 | 必要 | この組み合わせでは求めない |
| 3号:被合併事業の規模の継続 | 必要 | この組み合わせでは求めない |
| 4号:合併事業の規模の継続 | 必要 | この組み合わせでは求めない |
| 5号:特定役員の引継ぎ | この組み合わせでは求めない | 必要 |
いずれか一方の組み合わせを満たせば足ります。各要件の定義と判定時点は以下で確認します。継続して支配関係がある場合として政令で定める場合は、これとは別に引継ぎ制限が外れる仕組みです。
要件はどのような組み合わせで満たされるのか
みなし共同事業要件は、5つの要件の組み合わせで成り立っています。1つ目は被合併事業と合併事業との関連性を求める要件で、一般に事業関連性の要件と呼ばれています。2つ目は両事業の売上金額や従業者の数、資本金の額などの規模の割合を問う要件で、一般に事業規模の要件と呼ばれています。3つ目と4つ目は、被合併事業・合併事業のそれぞれについて、支配関係が生じた時から合併の直前まで事業が継続し、規模の変動が一定の範囲内であることを求める要件で、一般に事業規模の継続の要件と呼ばれています。5つ目は、被合併法人・合併法人それぞれの特定役員が合併後も引き続き経営に関与することを求める要件で、一般に特定役員の引継ぎの要件と呼ばれています。法人税法施行令112条は、1つ目から4つ目までの組み合わせ、または1つ目と5つ目の組み合わせのいずれかに該当すれば足りると定めています。適格合併そのものの要件は適格合併の要件で扱っています。
事業関連性と事業規模はどのような文言で定められているのか
一般に事業関連性の要件と呼ばれるものは、次のとおり定められています。
適格合併に係る被合併法人の被合併事業(当該被合併法人の当該適格合併の前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。以下第三号までにおいて同じ。)と当該適格合併に係る合併法人(当該合併法人が当該適格合併により設立された法人である場合にあつては、当該適格合併に係る他の被合併法人。以下この項において同じ。)の合併事業(当該合併法人の当該適格合併の前に行う事業(当該合併法人が当該適格合併により設立された法人である場合にあつては、当該適格合併に係る他の被合併法人の被合併事業)のうちのいずれかの事業をいう。次号及び第四号において同じ。)とが相互に関連するものであること。
被合併法人が合併前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業(被合併事業)と、合併法人が合併前に行う事業のうちのいずれかの事業(合併事業)とが、相互に関連するものであることを求める文言です。
一般に事業規模の要件と呼ばれるものは、次のとおり定められています。
被合併事業と合併事業(当該被合併事業と関連する事業に限る。以下この号及び第四号において同じ。)のそれぞれの売上金額、当該被合併事業と当該合併事業のそれぞれの従業者の数、適格合併に係る被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね五倍を超えないこと。
被合併事業と合併事業のそれぞれについて、売上金額、従業者の数、資本金の額若しくは出資金の額、またはこれらに準ずるものの規模を比べ、その割合がおおむね五倍を超えないことを求める文言です。複数の指標のうち、いずれか一つの指標で比較すれば足りると読まれています。
事業規模の継続と特定役員の引継ぎはどのような文言で定められているのか
被合併事業の規模の継続を求める要件は、次のとおり定められています。
被合併事業が当該適格合併に係る被合併法人が合併法人との間に最後に支配関係を有することとなつた時(当該被合併法人がその時から当該適格合併の直前の時までの間に当該被合併法人を合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人(次号において「合併法人等」という。)とする適格合併、適格分割又は適格現物出資(以下この号及び次号において「適格合併等」という。)により被合併事業の全部又は一部の移転を受けている場合には、当該適格合併等の時。以下この号において「被合併法人支配関係発生時」という。)から当該適格合併の直前の時まで継続して行われており、かつ、当該被合併法人支配関係発生時と当該適格合併の直前の時における当該被合併事業の規模(前号に規定する規模の割合の計算の基礎とした指標に係るものに限る。)の割合がおおむね二倍を超えないこと。
被合併法人が合併法人との間に最後に支配関係を有することとなった時から合併の直前まで、被合併事業が継続して行われており、かつ、その割合がおおむね二倍を超えないことを求める文言です。合併法人側についても、同じ構造の要件が置かれています。
合併事業が当該適格合併に係る合併法人が被合併法人との間に最後に支配関係を有することとなつた時(当該合併法人がその時から当該適格合併の直前の時までの間に当該合併法人を合併法人等とする適格合併等により合併事業の全部又は一部の移転を受けている場合には、当該適格合併等の時。以下この号において「合併法人支配関係発生時」という。)から当該適格合併の直前の時まで継続して行われており、かつ、当該合併法人支配関係発生時と当該適格合併の直前の時における当該合併事業の規模(第二号に規定する規模の割合の計算の基礎とした指標に係るものに限る。)の割合がおおむね二倍を超えないこと。
一般に特定役員の引継ぎの要件と呼ばれるものは、次のとおり定められています。
適格合併に係る被合併法人の当該適格合併の前における特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。以下この号において同じ。)である者のいずれかの者(当該被合併法人が当該適格合併に係る合併法人との間に最後に支配関係を有することとなつた日前(当該支配関係が当該被合併法人となる法人又は当該合併法人となる法人の設立により生じたものである場合には、同日。以下この号において同じ。)において当該被合併法人の役員又は当該これらに準ずる者(同日において当該被合併法人の経営に従事していた者に限る。)であつた者に限る。)と当該合併法人の当該適格合併の前における特定役員である者のいずれかの者(当該最後に支配関係を有することとなつた日前において当該合併法人の役員又は当該これらに準ずる者(同日において当該合併法人の経営に従事していた者に限る。)であつた者に限る。)とが当該適格合併の後に当該合併法人(当該適格合併が法人を設立するものである場合には、当該適格合併により設立された法人)の特定役員となることが見込まれていること。
特定役員とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役、またはこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいうと定義されています。被合併法人・合併法人それぞれの特定役員のうち、支配関係が生じた日より前から経営に従事していた者のいずれかが、合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていることを求める文言です。繰越欠損金の引継ぎ制限の全体像は繰越欠損金の引継ぎと制限I am organizing with.
実務で迷いが生じるところ
- 事業規模や事業規模の継続の割合には、明確な数値の切れ目ではなく、幅を持たせた「おおむね」という言葉が使われています。
- 事業規模の割合は、売上金額、従業者の数、資本金の額などの複数の指標のうち、どれを基礎に計算するかによって結果が変わり得ます。
- 1つ目から4つ目までの組み合わせと、1つ目と5つ目の組み合わせは、どちらも満たす必要があるわけではなく、いずれか一方に該当すればよいという建て付けです。
- 事業規模の継続を問う要件は、支配関係が生じた時点を起点にしており、この起点となる時点をいつと見るかの確認が前提になります。
- 特定役員の引継ぎの要件は、合併の前における特定役員のうち、支配関係が生じた日より前から役員等として経営に従事していた者に限られています。
- 継続支配関係がある場合として政令で定める場合に該当するときは、みなし共同事業要件を満たさなくても制限は外れるため、どちらの道で外れるのか整理しておく必要があります。
根拠条文
- 法人税法第57条第3項(欠損金の繰越し)
- 法人税法施行令第112条第3項柱書(適格合併等による欠損金の引継ぎ等)
- 法人税法施行令第112条第3項第1号(適格合併等による欠損金の引継ぎ等)
- 法人税法施行令第112条第3項第2号(適格合併等による欠損金の引継ぎ等)
- 法人税法施行令第112条第3項第3号(適格合併等による欠損金の引継ぎ等)
- 法人税法施行令第112条第3項第4号(適格合併等による欠損金の引継ぎ等)
- 法人税法施行令第112条第3項第5号(適格合併等による欠損金の引継ぎ等)
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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