条文の定義
タックス・スペアリング・クレジット(みなし外国税額控除)とは、相手国等が投資の誘致などを目的として税を減免した場合に、その減免がなかったならば納付することとなったはずの税額を、現実には納付していないにもかかわらず納付したものとみなして、我が国側で外国税額控除の対象に含める仕組みをいう。
出発点は、外国税額控除そのものの要件である。法人税法は控除の対象となる税を次のように定める。
外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。
所得税法も同じ形で、外国所得税を次のように定める。
外国の法令により課される所得税に相当する税で政令で定めるものをいう。
そのうえで、いずれの条も、これらの税を「納付することとなる場合」に控除が生じるという書き方をしている。減免されて現実には納付していない税額をどう扱うかは、この要件をどこで動かすかの問題になる。
骨格
| 論点 | 条文の定め |
|---|---|
| 控除の対象 | 外国法人税・外国所得税(外国の法令により課される税で政令で定めるもの) |
| 控除の要件 | その税を「納付することとなる場合」であること |
| 「みなす」こと自体の根拠 | 法人税法・所得税法・租税特別措置法・租税条約等実施特例法の本則に、減免税額を納付したものとみなす旨の一般規定は見当たらない。みなす旨を定めるのは個々の租税条約の規定である。 |
| みなされた額の国内での扱い | 法人税法施行令が「みなし納付外国法人税の額」という語を置き、高率負担部分がまずこの額から成るものとする順序を定めている。所得税法施行令にも同旨の文言がある。 |
「納付することとなる場合」という要件
控除の対象となる外国法人税の範囲は、法人税法施行令が定めている。
外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税
同じ施行令は、納税者と相手国側との合意で税率が決まる税について、次の定めを置く。
複数の税率の中から税の納付をすることとなる者と外国若しくはその地方公共団体又はこれらの者により税率の合意をする権限を付与された者との合意により税率が決定された税(当該複数の税率のうち最も低い税率(当該最も低い税率が当該合意がないものとした場合に適用されるべき税率を上回る場合には当該適用されるべき税率)を上回る部分に限る。)
除外されるのは税の全体ではなく、括弧書きのとおり最も低い税率を上回る部分に限られる。国内法が控除の対象として組み立てているのは、現実に課される税である。
「みなす」ことを定めているのはどこか
減免された税額を納付したものとみなす旨を定める一般規定は、法人税法・所得税法・租税特別措置法・租税条約等実施特例法の本則には見当たらない。租税条約等実施特例法は、条約を国内で動かすための法律であり、「租税条約」を次のように定義したうえで、限度税率の適用手続や情報交換・徴収共助といった手続規定を中心に置いている。
我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約をいう。
他方で、法人税法施行令は、みなされた額が現に生じうることを前提にした条文を持っている。
軽減され、又は免除された当該条約相手国等の租税の額で当該租税条約の規定により内国法人が納付したものとみなされるものの額
この額に、施行令は「みなし納付外国法人税の額」という定義語を与えている。所得税法施行令にも、居住者について「納付したものとみなされるものの額」という同旨の文言が置かれている。
ここから読み取れる分担は明快である。「みなす」と定めているのは租税条約の規定であり、国内法の政令は、そうしてみなされた額が生じたときの扱いを定めている。
もっとも、施行令が置いているのは、みなされた額が生じたことを前提とする扱いの定めであって、どのような場合にみなすのかを決める規定ではない。みなす旨とその範囲は、あくまで個々の租税条約の条文の側に書かれている。
みなされた額が国内法でどう扱われるか
法人税法施行令は、外国法人税の額にみなし納付外国法人税の額が含まれているときについて、高率負担部分がまずみなし納付外国法人税の額から成るものとする、という順序の定めを置いている。控除の枠である控除限度額や、繰越控除といった外国税額控除本体の仕組みは、みなされた額を含んだうえで動くことになる。
実務で迷いが生じるところ
迷いが生じやすいのは、この仕組みを外国税額控除に一般的に備わったものと捉えてしまう点である。条文の在り処は二段構えになっている。みなすかどうかを決めているのは個々の租税条約の規定であり、国内法の本則にその一般規定は置かれていない。一方で、みなされた額が生じた後の取扱い、とりわけ高率負担部分との関係は施行令に書かれている。どちらか一方だけを読むと、根拠が無いように見えたり、逆に国内法だけで完結しているように見えたりする。
なお、どの相手国等との条約にみなす旨の規定が置かれているかは、条約ごとに異なる。本記事では個別の条約の条文にあたっていないため、国名は挙げていない。
根拠条文
- 法人税法第69条第1項(外国税額の控除)
- 所得税法第95条第1項(外国税額控除)
- 法人税法施行令第141条第1項・第3項第3号(外国法人税の範囲)
- 法人税法施行令第142条の2第3項(外国税額控除の対象とならない外国法人税の額、みなし納付外国法人税の額)
- 法人税法施行令第142条第4項第1号
- 所得税法施行令第222条の2第1項第2号ロ
- 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律第2条第1項第1号(定義)
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

