相続税の基礎知識

なぜ「相続税専門」の税理士事務所があるのか――申告件数から考える専門性

相続税の申告を頼むとき、「税理士なら誰に頼んでも同じでしょうか」と迷う方がいます。資格は共通でも、扱ってきた財産や案件、確認の体制は事務所ごとに異なります。全国の申告統計は相続税の規模を知る手掛かりになりますが、個々の事務所の経験まで教えてくれるものではありません。数字が示す範囲を区別しながら、依頼先を選ぶ際の確認事項を整理します。

2024年分は、課税のある被相続人が約16.7万人

国税庁の「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、2024年中に亡くなった方は160万5,378人です。このうち、課税のある相続税申告に係る被相続人は16万6,730人で、課税割合は10.4%でした。この人数は、申告した相続人の人数でも、申告書の枚数でもありません。一人の被相続人について複数の相続人が申告することがあるため、集計の単位を揃える必要があります。

令和6年分の全国統計を読む際の区別
Item人数How to read
被相続人数・死亡者数1,605,378人その年に亡くなった方
課税のある申告に係る被相続人数166,730人課税割合10.4%の分子
課税のない申告に係る被相続人数39,755人統計表では外数として表示

課税のない申告も含めると20万6,485人になります。「税額が出る相続」と「申告を行う相続」は一致しません。配偶者の税額軽減など、申告をして特例の適用を受けることにより税額が出ない場合もあるからです。納税額がゼロになる見込みだけで、申告の準備をやめてよいとは限りません。

事務所数で割った数字には、はっきりした限界があります

国税庁が公表する2026年3月末の登録・届出数は、開業税理士が5万5,297人、税理士法人の本店が5,287、支店が3,113です。開業税理士一人を一事務所と仮置きし、法人の本支店を加えると6万3,697になります。ただし、これは事務所の規模感を見るために異なる区分を足した参考値であり、相続税を扱う事務所数を実測した数字ではありません。

課税のある16万6,730人をこの参考値で割ると約2.6、課税のない申告も含めると約3.2です。しかし、2024年分の申告と2026年3月末の登録等という時点の違いがあり、本人申告の存在や複数事務所の関与も反映していません。「一事務所が年に2、3件しか経験しない」と結論づけることはできません。平均は、件数が集中する事務所と相続税を扱わない事務所の違いを消してしまいます。

確認したいのは、今回の財産に近い経験です

そこで面談では、単なる累計件数より、今回の財産に似た申告を誰が担当してきたかを尋ねます。土地が多ければ権利関係や利用状況の確認方法、同族会社の株式があれば株価算定に必要な資料、海外財産があれば所在地や納税義務の判定方法が確認の入口になります。経験の多さだけで結論は決まりませんが、難しい箇所を説明できるかは判断材料になります。

たとえば、母と子二人で自宅と預金を引き継ぐ家庭と、兄弟姉妹が貸地や会社株式を引き継ぐ家庭では、必要な作業が違います。前者では居住の継続や将来の生活費、後者では土地の契約や会社の資料が重くなるかもしれません。全国の平均件数からは、この違いに対応できるかは分かりません。

実績を尋ねる際には、事務所全体の件数なのか、実際に担当する人の経験なのかも分けます。紹介先の専門家が評価する部分があるなら、誰が資料を確認し、誰が最終判断を説明するかまで聞くと、依頼後の行き違いを減らせます。

見積書は金額だけでなく、含まれる作業を読みます

依頼前には、財産調査、土地の評価、分割案ごとの税額比較、申告後の問い合わせ対応がどこまで含まれるかを確認します。追加の土地や口座が見つかったときの料金、他の専門家への依頼費用、申告期限が近い場合の対応も、同じ条件で比べると判断しやすくなります。

また、窓口の担当者と最終確認をする税理士が誰か、資料不足が判明したときにどう連絡を受けるかを尋ねてください。専門事務所という表示だけで品質が保証されるわけではありません。何を確認し、何が未確認のまま残るのかを、依頼者が理解できるように説明する体制が大切です。

相続税申告は、統計上の一件であっても、その家庭にとっては財産と生活を引き継ぐ一度の手続です。全国の数字は市場の大きさを知るために使い、依頼先は今回の事情に即した説明と作業範囲で選ぶことが、納得できる申告への第一歩になります。

相続税に特化する事務所が生まれる理由

相続税の申告では、財産を集めて税率を掛けるだけでなく、土地や未上場株式の評価、過去の贈与、家族名義の預金、特例の適用条件まで確認します。同じ分野の案件を継続して扱うことは、資料の集め方や確認すべき点について経験を蓄積し、改正情報を実務に反映するうえで役立ちます。こうした仕事の性質が、相続税に専門特化する事務所が存在する理由の一つと考えられます。

ただし、全国の件数を事務所数で割った平均から、個々の事務所の経験や研修状況までは分かりません。専門という看板だけで判断せず、自分の財産の種類に近い案件の経験と、実際の担当体制を確認することが大切です。

主な参考資料

法令・制度の基準日:2026年07月23日。個別の事実関係によって結論が変わるため、具体的な取扱いは資料を確認してご検討ください。

ご家族と財産の状況に応じた検討を

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本稿は2026年10月10日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

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