対象時点について:本稿は2015年7月1日の制度導入当時の資料に基づく解説を、後年に作成したものです。現在の判断には最新の法令等をご確認ください。
海外に生活の拠点を移すとき、持っている株式を売却しなくても所得税が生じることがあります。平成27年度税制改正で創設されたExit taxは、2015年7月1日以後の国外転出から適用されます。いわゆる「出国税」です。
一定の人が国内に住所も居所も持たなくなる際に、対象資産を譲渡・決済したとみなし、含み益に課税する仕組みです。海外旅行のたびに税金がかかるという話ではありません。2015年改正法で新設された所得税法60条の2が、その基本を定めています。
まず確認するのは「対象資産1億円」と居住期間
対象は、次の両方を満たす居住者です。
- 保有する対象資産の価額等の合計が1億円以上であること。
- 国外転出前10年以内の国内の住所・居所の保有期間が、合計で5年を超えること。
1億円は総財産でも含み益でもありません。株式や投資信託などの有価証券、匿名組合出資、未決済の信用取引・デリバティブ取引などが対象です。未上場の自社株も確認が必要です。不動産や現預金そのものはこの対象資産に含まれません。未決済取引は契約額ではなく、決済したとみなした損益で判定します。
外国人については在留資格による期間の除外があります。入管法別表第一の資格での在留期間や、別表第二の資格での2015年6月30日までの在留期間は、国内在住期間に算入しません。国籍だけで判断せず、国税庁の2015年5月の案内(2ページ)に沿って在留履歴を確認します。
売却代金がなくても、納税への備えが必要
たとえば、ほかの要件も満たし、取得価額4,000万円の株式が評価額1億2,000万円になっている場合、考えるべき含み益は差額の8,000万円です。これは制度理解のための単純例で、実際の税額は資産の種類や取得費などで変わります。
売らずに移住するなら、納税資金をどう用意するかが問題になります。そこで用意されているのが、原則5年、延長の届出により最長10年の納税猶予です。国外転出までの納税管理人の届出、期限内の申告と所定書類、所得税・利子税に見合う担保などが必要です。猶予中も毎年の継続届出があり、納付時には利子税の負担もあります。財務省の2015年改正法案要綱でも、これらの枠組みが示されています。
申告期限にも注意が必要です。出国までに納税管理人を届け出れば、原則として翌年の確定申告期限までに申告・納税します。届け出ずに出国する場合は、出国時までの準確定申告・納税が必要です。国税庁の当時の手続案内を踏まえ、出国前に準備します。
帰国すれば自動で取り消されるわけではありません
原則5年以内、納税猶予の期限延長を受けている場合は10年以内に帰国すると、帰国まで引き続き保有している対象資産について、課税を取り消せる仕組みがあります。税額を減らすには帰国から4か月以内の更正の請求が必要です。すでに売却した資産まで一律に取り消される制度ではありません。当時の案内(3ページ)で条件と手続を確認できます。
海外に住む家族への贈与・相続にも目を向ける
一定の居住者から非居住者へ対象資産が贈与・相続・遺贈で移る場合にも、含み益への所得税課税が設けられます。本人が移住しない家庭でも、海外に住む子へ株式を渡す場面などは確認が必要です。改正法の所得税法60条の3に対応する制度です。
移住や資産承継を考えるときは、資産の一覧、取得費、評価額、国内在住期間をそろえ、出国前の届出と資金準備から検討を始めましょう。
本稿は2026年9月14日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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