2021年5月18日、法人格を持たないDAOチームに、DAOファンドが投資しているという海外の話を聞きました。新しい組織の形として興味深い一方で、税務の観点から気になったことがあります。
これを日本で行った場合、そのDAOチームは、法人税法上の「人格のない社団等」に該当するのではないでしょうか。
会社を設立していないことと、法人税の対象にならないことは同じではありません。当時のTwitterでは、この点について法人税法の条文を挙げながら連続投稿しました。
本稿は、その2021年5月18日の投稿をもとに、説明を加えて記事化したものです。当時の問題提起と、今回の補足を区別しながら考えてみます。
法人格がないのに、なぜ法人税の話になるのでしょうか
DAOは、Decentralized Autonomous Organizationの略で、「自律分散型組織」などと訳されます。参加者がルールを共有し、投票やプログラムを通じて意思決定や資金の配分を行う仕組みです。ただし、DAOという呼び名だけで、日本の税法上の分類が決まるわけではありません。
法人税法第2条第8号は、「人格のない社団等」を、次のように定義しています。
「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう。」
さらに同法第3条は、人格のない社団等を法人とみなして、一定の規定を除き法人税法を適用する仕組みを置いています。法人税法(e-Gov)
つまり、登記して株式会社などを設立しなくても、団体の実態によっては、法人税法の適用を受けます。「会社ではなくコミュニティです」「DAOなので法人格はありません」という説明だけでは、検討は終わりません。
まず、単なる人の集まりなのか、独立した団体なのか
では、SNSで同じテーマについて話している人たちは、全員「人格のない社団等」になるのでしょうか。もちろん、そのように一括りにはできません。
国税庁の法人税基本通達1-1-1では、単なる個人の集合と、組織を持ち、構成員個人を超えて統一された意思で活動する団体とを区別しています。民法上の組合などは、ここでいう「法人でない社団」から除かれています。法人税基本通達1-1-1
DAOを検討するときも、たとえば、共通の目的や運営ルールがあるのか、参加者が入れ替わっても活動が続くのか、共同の資金を誰のために使うのか、といった実態を見ることになります。これは確認のための視点であり、項目にチェックが付けば自動的に結論が出るというものではありません。
トークンを持っている人が大勢いることと、その人たちが一つの独立した団体を形成していることも、同じではありません。
「代表者を置かない」と決めればよいのでしょうか
当時、特に着目したのは、条文の「代表者又は管理人の定め」という部分でした。
元の投稿の続きでは、その定めがなければ「人格のない社団等」にはならないのではないか、という考えを述べています。しかし、ここでいう「定め」は、規約に代表者の名前が書かれている場合だけを意味するのでしょうか。
法人税基本通達1-1-3は、規約等で定められた人だけでなく、契約を締結したり、資金や物品を管理したりするなど、事実上その業務を主宰している人も対象としています。さらに、収益事業を行う法人でない社団又は財団について、代表者・管理人の定めがないものは「通常あり得ない」としています。法人税基本通達1-1-3
たとえば、規約上は代表者がいなくても、実際には特定の人が取引先と契約し、共同資金の使い道を決め、支払を取り仕切っているのであれば、その実態を検討する必要があります。
肩書きをなくすことと、代表者・管理人としての実質的な役割をなくすことは、別の話です。
なお、当時の投稿でリンクしていたのは所得税基本通達2-5、2-7です。今回の記事では、法人税の論点として対応する法人税基本通達も確認しています。似た規定ですが、法人税基本通達1-1-3の「通常あり得ない」という後段には、「収益事業を行うもの」という限定があります。当時リンクした所得税基本通達
「通常あり得ない」状態を、スマートコントラクトでつくれるのか
当時の連続投稿は、次の問いに行き着きました。
「ポイントは、この『通常あり得ない』状態をスマコンでつくれるかどうか」
スマートコントラクトは、あらかじめ決めた条件に従って処理を実行するプログラムです。従来は人が判断して行っていた処理の一部を、コードに担わせることができます。
たとえば、参加者の投票結果に従い、決められた条件を満たしたときだけ資金が移動する仕組みを考えてみます。特定の運営者がその都度支払を決裁する形とは、資金管理のあり方が違います。
もっとも、「スマートコントラクトを使っている」というだけでは、誰も管理していないことにはなりません。プログラムを変更できる人、処理を停止できる人、共同資金を動かせる人が残っているかもしれません。画面上では分散して見えても、重要な権限が少人数に集中している場合があります。
反対に、複数人の署名を必要とするウォレットを使っているからといって、その署名者全員を直ちに税法上の管理人と断定できるわけでもありません。署名にどの程度の裁量があり、誰が意思決定をし、どのように業務を主宰しているのかを確認する必要があります。
ここで問いたいのは、名称や仕組みの新しさではなく、人による管理が実際にどこまで残っているのかということです。
通達は国税庁の解釈を示すものであり、法律そのものではありません。「通常あり得ない」とされてきた前提が新しい技術によって変わるのなら、法律の要件に立ち返って検討する余地があります。ただし、それは「DAOなら課税されない」という結論が認められたという意味ではありません。当時の投稿も、この可能性を問う問題提起でした。
該当したら、受け取った資金の全部に法人税がかかるのか
ここは、短い投稿では説明しきれなかった点です。
人格のない社団等に当たるかどうかと、どの所得に法人税がかかるかは、分けて考える必要があります。内国法人として扱われる人格のない社団等の各事業年度の所得については、収益事業から生じた所得以外を非課税とする規定があります。「収益事業」も、単にお金が入ってくる活動という日常語ではなく、法令上の定義に従って判断します。法人税法第2条第13号・第6条(現行法)
そのため、「DAOファンドが投資した」という説明だけで、受け取った側の課税関係は決まりません。返済義務がある資金なのか、トークンやサービスの対価なのか、対価を伴わない資金提供なのか。受け取る主体、契約内容、権利義務、行っている事業を確認して初めて、具体的な検討ができます。
「人格のない社団等に該当する」から、直ちに「入金額の全部が課税所得になる」とは言えません。
条文番号についても補足します。上記の非収益事業所得の非課税規定は、元の投稿当時と現在では条番号が異なります。本稿の補足では現行の第6条を参照し、2021年の投稿が現行条文を引用していたような扱いはしていません。
団体に課税されないなら、参加者にも課税されないのでしょうか
これも別の問題です。
当時の投稿では「法人税課税はおきない」と短く表現しましたが、今回説明を加えるに当たり、そこから「誰にも税金がかからない」と受け取られないよう、範囲を明確にしておきます。
人格のない社団等に該当しないとしても、所得が誰に帰属するかという問題は残ります。個々の参加者に帰属する所得であれば、その参加者について課税関係を検討します。たとえば、組合の所得は、組合そのものへの課税とは異なり、各組合員への帰属が問題になります。国税庁「特殊な団体の損益」
開発などの仕事の対価として報酬を受け取る場合と、単にガバナンストークンを保有している場合でも、検討すべき事実は違います。トークンを持つだけでDAOの所得すべてが持分に応じて帰属すると、決めつけることもできません。
当時考えていたのは、既存の組合にそのまま当てはめることでも、納税者が消える魔法でもありません。人が管理する団体を前提とした税法と、自律的に動く仕組みとの境界を、どう理解すればよいのかということです。
DAOという名前より、誰が何をしているか
DAOの税務を考えるときには、まず、次の順序で実態を確認するのがよいと思います。
- 活動している主体は何か。単なる参加者の集合なのか、組合なのか、独立した団体なのか。
- 契約、資金、プログラムの変更などを、誰がどの権限で扱っているのか。
- 収入や利益は誰に帰属し、どの取引や事業から生じているのか。
分散化された意思決定をしていても、団体としてのまとまりや、事実上の代表者・管理人が存在する可能性はあります。一方で、従来の組織とは異なる実態があるのに、見慣れた名前を機械的に当てはめるだけでは、技術による変化を捉え損ねます。
2021年に面白いと感じたのは、まさにこの接点でした。人が代表し、人が財産を管理することを当然とした組織観に対して、コードで動く仕組みは、どこまで新しい問いを投げかけられるのでしょうか。
DAOは法人税法上の「人格のない社団等」になるのか。その答えを出すには、DAOという言葉の先にある、具体的な組織と権限と取引を見る必要があります。
※本稿は、2021年5月18日の個人的な問題提起を、加筆・再構成したものです。後から加えた技術上の例示や税務上の補足を含み、2021年にこの全文を公表していたものではありません。個別のDAOに関する税務判断や、非課税の保証を示すものではありません。
本稿は2026年10月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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