対象時点について:本稿は国税庁の平成29年12月1日資料の内容と、その後の改訂史を扱います。現在の取扱いは最新版でご確認ください。
この版の位置づけ
国税庁の暗号資産FAQには10の版があります。その最初の版は、平成29年12月1日に公表された「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」です。国税庁の索引ページには、この文言でリンクが置かれています。
収録された問は9問です。税目別の章立てはなく、1~9の通し番号が付いています。いまの版の「1-1」「2-2」のような章別の番号とは異なります。
公表された年は、仮想通貨をめぐる税制がはじめて動いた年でもありました。平成29年7月1日から、仮想通貨の譲渡が消費税の非課税とされています。その約5か月後に、所得の計算方法を示す資料が出た、という順番になります。
骨格
| 前の版からの変化 | 内容 |
|---|---|
| 前の版 | 初版ですので、比べる相手がありません。ここから改訂が始まります。 |
| 表題 | 「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」です。「税務上の取扱い」ではありません。 |
| 形式 | 税目別の章立てはなく、1~9の通し番号で構成されています。 |
| 扱っている範囲 | 売却、決済、交換、取得価額、分裂(分岐)、所得区分、損失、証拠金取引、マイニングです。 |
| 収録されていない範囲 | 9問すべてを見ても、法人税だけを扱った問はありません。相続税・贈与税、源泉所得税、消費税、法定調書を正面から扱った問もありません。 |
| この後 | 翌年の平成30年11月21日版で問が21に増え、章立てが入ります。 |
なぜ初版は所得の計算方法だけを扱ったのか
この年に法律が動いたのは、所得税ではなく消費税でした。平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日 閣議決定)の「四 消費課税」に、資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について消費税を非課税とする、という項目が置かれています。適用は平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等および課税仕入れからでした。
これは、税制改正の大綱に「仮想通貨」という語が現れた最初の場面です。しかもそれは、所得税でも法人税でもなく、消費税の章でした。消費税の扱いについては暗号資産を売っても消費税はかからないで扱っています。
一方で、所得税の計算方法については、この時点の大綱に項目が現れていません。個人が持つ仮想通貨の評価について大綱に項目が入るのは、平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)を待つことになります。つまり初版が扱ったのは、法律の改正を伴わない部分、すでにある所得税の規定を仮想通貨にどう当てはめるかという部分でした。表題が「所得の計算方法等について」という控えめな言い方になっているのは、そういう位置にある資料だからです。
9問はどのように並んでいたのか
初版には1~9の通し番号が付いています。ここでは、その番号と各問の内容を要約して整理します。
| 問番号 | 内容の要約 |
|---|---|
| 1 | 保有する仮想通貨を売却(日本円に換金)した場合の所得の計算方法 |
| 2 | 商品を購入する際に、保有する仮想通貨で決済した場合の所得の計算方法 |
| 3 | 保有する仮想通貨を使用して他の仮想通貨を購入する場合(仮想通貨と仮想通貨の交換)の所得の計算方法 |
| 4 | 仮想通貨を追加で購入した場合の取得価額の計算 |
| 5 | 仮想通貨の分裂(分岐)に伴い新たに誕生した仮想通貨を取得した場合 |
| 6 | 雑所得以外に区分される場合 |
| 7 | 仮想通貨の取引により雑所得の金額に損失が生じた場合の他の所得との通算 |
| 8 | 仮想通貨の証拠金取引と申告分離課税 |
| 9 | 仮想通貨をマイニングにより取得した際の所得の計算方法 |
売る、支払う、交換する、という3つの場面が先に来て、そのあとに取得価額の計算が来ます。個人が仮想通貨で何かをしたときに所得がいくら出るのか、という一本の筋で並んでいます。
分裂やマイニングが初版から入っていたのはどういうことか
9問のうち4問は、単純な売買ではない場面を扱っています。分裂(分岐)、損失の通算、証拠金取引、マイニングです。初版の時点で、すでにこれらが問われていたことになります。
- 分裂(分岐)は、持っていた仮想通貨が分かれて別の仮想通貨が手元に増える場面です。買ったわけではないため、いくらで取得したことになるのかが問題になります。
- マイニングで取得した場合の扱いはマイニング等で取得したときで扱っています。
- 損失が出たときに他の所得と通算できるかは損をしたときで扱っています。
- 証拠金取引については、申告分離課税との関係が初版から問われています。
これらの論点は、その後の版でも消えていません。最新の令和7年12月版にも「暗号資産の分裂(分岐)により暗号資産を取得した場合」(1-6)、「マイニング、ステーキング、レンディングなどにより暗号資産を取得した場合」(1-7)、「暗号資産取引で損失が生じた場合の取扱い」(2-11)、「暗号資産の証拠金取引」(2-12)が置かれています。見出しの言葉は変わりましたが、問われている場面は初版から続いています。
法人税の問が1問もなかったのはなぜか
初版の9問には、法人税だけを扱った問がありません。これは9問すべてを確認したうえでの事実です。法人税の問が置かれるのは、初版から2年後、令和元年12月20日版の「≪法人税関係≫」からです。この版で、譲渡損益の計上時期、譲渡原価、期末時価評価、信用取引が並びます。
その背景にあるのが平成31年度税制改正の大綱です。「三 法人課税」に、法人税における仮想通貨の評価方法等について時価法を導入する等の措置を講ずる、という項目が入りました。事業年度末に有する仮想通貨のうち活発な市場が存在するものは時価評価により評価損益を計上する、という内容です。適用は平成31年4月1日以後に終了する事業年度分からとされました。
初版が出た平成29年12月の時点では、この改正はまだ大綱にも載っていません。仮想通貨に固有の期末時価評価等を明文化した平成31年度改正より前の資料です。法人税の一般的な規定まで存在しなかったという意味ではありません。法人の期末時価評価は法人は、持っているだけで課税されるのかで扱っています。
表題が「税務上の取扱い」に変わるのはいつか
初版の表題は「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」です。翌年の平成30年11月21日版から、表題は「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」に変わります。以後の版はすべて「税務上の取扱い」です。
言い換えと片づけられる変化ではありません。平成30年11月21日版では問が21に増え、≪所得税・法人税共通関係≫≪所得税関係≫≪相続税・贈与税関係≫≪源泉所得税関係≫≪消費税関係≫≪法定調書関係≫という章立てが入ります。所得の計算方法を説明する資料から、税目をまたいで扱いを示す資料へと変わった、ということです。この2版目の中身は平成30年11月版の記事で扱っています。
実務で迷いが生じるところ
- 初版は1~9の番号で参照できます。後年の版と混同しないよう、「平成29年12月1日資料の5『仮想通貨の分裂(分岐)』」のように、資料の日付と項目名も添えます。
- 初版のPDFは、いまも国税庁の過去分の一覧から見ることができます。ただし当時の記述が最新版にそのまま残っているとは限りません。現在の申告の判断に使うのであれば、最新版で確認してください。
- 用語が「仮想通貨」のままです。「暗号資産」という語に置き換わるのは令和2年12月18日版からで、それ以前の版を読むときは語の違いに注意してください。
- 法人の話を初版で探しても見つかりません。法人税関係の問が置かれるのは令和元年12月20日版からです。
- 消費税の非課税は平成29年7月1日以後の取扱いです。それより前に譲り受けた仮想通貨の仕入れ区分や、平成29年6月30日に一定額以上を保有していた場合の仕入税額控除については、平成29年度税制改正の大綱に個別の定めが置かれていました。過去の年分をさかのぼって見るときは、この時点の区切りを確かめてください。
出典
- 国税庁「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」(平成29年12月1日) PDF
- 国税庁「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」(平成30年11月21日) PDF
- 国税庁「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」(令和元年12月20日) PDF
- 国税庁「過去分の情報(暗号資産関係)」 一覧
本稿は平成29年12月1日版FAQの歴史的な解説です。2026年9月7日、原資料の番号・引用方法等を訂正しました。本文の当時資料を現在の取引へそのまま適用しないでください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

