本稿では、現物分配・適格現物分配・株式分配・適格株式分配の定義の違いと、法人税法62条の5の効果を整理します。適格株式分配について政令が定める要件の詳細までは扱いません。
条文の定義
組織再編税制のうち、現物分配・適格現物分配・株式分配・適格株式分配という4つの言葉は、いずれも法人税法2条に置かれた定義規定の中で定められています。まず、出発点となる現物分配と、それを行う現物分配法人、資産の移転を受ける被現物分配法人の定義を確認します。
現物分配(法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。)がその株主等に対し当該法人の次に掲げる事由により金銭以外の資産の交付をすることをいう。以下この条において同じ。)によりその有する資産の移転を行つた法人をいう。イ 剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、分割型分割によるものを除く。)若しくは利益の配当(分割型分割によるものを除く。)又は剰余金の分配(出資に係るものに限る。)ロ 解散による残余財産の分配ハ 第二十四条第一項第五号から第七号まで(配当等の額とみなす金額)に掲げる事由
この条文が定めているのは現物分配法人という言葉ですが、括弧書きの中に現物分配そのものの定義が組み込まれています。現物分配とは、法人(公益法人等と人格のない社団等を除きます)が株主等に対し、剰余金の配当や利益の配当、出資に係る剰余金の分配、解散による残余財産の分配、あるいは配当等の額とみなされる事由により、金銭以外の資産を交付することをいいます。そして、この交付によって資産の移転を行った法人を現物分配法人といいます。
現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けた法人をいう。
現物分配法人から資産の移転を受けた側の法人は、被現物分配法人と呼ばれます。現物分配は、金銭を対価とする通常の資産譲渡とは異なり、株主への分配という場面で金銭以外の資産がそのまま移転する取引です。この現物分配法人・被現物分配法人という2つの当事者の呼び方は、以下の適格現物分配・株式分配・適格株式分配の定義でもそのまま使われています。
骨格
| 論点 | 条文の定め |
|---|---|
| 現物分配の定義 | 法人が株主等に剰余金の配当等の事由により金銭以外の資産を交付すること |
| 現物分配法人・被現物分配法人の定義 | 現物分配により資産の移転を行った法人と、移転を受けた法人 |
| 適格現物分配の定義 | 内国法人を現物分配法人とする現物分配で、資産の移転を受ける者が直前に完全支配関係がある内国法人のみであるもの |
| 株式分配の定義 | 現物分配のうち完全子法人の発行済株式等の全部が移転するもの(完全支配関係がある者のみへの移転を除く) |
| 適格株式分配の定義 | 株式分配のうち独立して事業を行うためのものとして政令で定めるもの |
| 残余財産の分配等による資産の譲渡(適格現物分配を除く場合の原則) | 残余財産確定の時の価額による譲渡があったものとして所得の金額を計算すること |
| 適格現物分配・適格株式分配による資産の譲渡(帳簿価額による) | 移転の直前の帳簿価額による譲渡があったものとして所得の金額を計算すること |
| 適格現物分配により生ずる収益の益金不算入 | 資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額を益金の額に算入しないこと |
適格現物分配はどのような要件で成り立つのか
法人税法2条は、適格現物分配を次のように定義しています。
内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者がその現物分配の直前において当該内国法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人又は協同組合等に限る。)のみであるものをいう。
この定義を分解すると、次の3点が読み取れます。第一に、現物分配法人が内国法人であることです。第二に、資産の移転を受ける相手方、つまり被現物分配法人が、現物分配の直前において現物分配法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであることです。第三に、その相手方は括弧書きにより普通法人又は協同組合等に限られていることです。株主等が複数いる場合は、その全員が完全支配関係のある内国法人でなければ、適格現物分配には該当しません。この完全支配関係という考え方は、組織再編税制に共通する土台になっています。完全支配関係を軸にした組織再編税制の全体像は組織再編税制の全体像で整理しています。
株式分配と適格株式分配はどう違うのか
株式分配は、法人税法2条で次のように定義されています。
現物分配(剰余金の配当又は利益の配当に限る。)のうち、その現物分配の直前において現物分配法人により発行済株式等の全部を保有されていた法人(次号において「完全子法人」という。)の当該発行済株式等の全部が移転するもの(その現物分配により当該発行済株式等の移転を受ける者がその現物分配の直前において当該現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合における当該現物分配を除く。)をいう。
株式分配とは、現物分配法人が完全子法人、つまり現物分配の直前に発行済株式等の全部を保有していた法人の株式の全部を、剰余金の配当又は利益の配当として株主に移転する現物分配をいいます。ただし、括弧書きにより、その株式の移転を受ける者が現物分配の直前において現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合は、株式分配から除かれます。グループ内で完全支配関係のある者だけに株式が移転する場合は、株式分配という概念そのものに当たらないということです。
これに対して適格株式分配は、次のように定義されています。
完全子法人の株式のみが移転する株式分配のうち、完全子法人と現物分配法人とが独立して事業を行うための株式分配として政令で定めるもの(当該株式が現物分配法人の発行済株式等の総数又は総額のうちに占める当該現物分配法人の各株主等の有する当該現物分配法人の株式の数(出資にあつては、金額)の割合に応じて交付されるものに限る。)をいう。
適格株式分配は、株式分配のうち完全子法人と現物分配法人とが独立して事業を行うためのものとして政令で定めるものをいい、括弧書きにより、株式が現物分配法人の各株主等の持株割合に応じて交付されるものに限られると定められています。政令で定めるものの具体的な要件は法人税法施行令に置かれています。株式分配は分割と並んでグループ内の事業を切り出す手法として用いられることがあり、適格分割の要件との異同は適格分割で確認できます。
62条の5はどのような効果を定めているのか
法人税法62条の5は、残余財産の全部の分配又は引渡し(適格現物分配を除きます)による資産の譲渡について、次のとおり定めています。
内国法人が残余財産の全部の分配又は引渡し(適格現物分配を除く。次項において同じ。)により被現物分配法人その他の者にその有する資産の移転をするときは、当該被現物分配法人その他の者に当該移転をする資産の当該残余財産の確定の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。
適格現物分配に当たらない残余財産の全部の分配又は引渡しは、その資産を残余財産確定の時の価額で譲渡したものとして所得の金額を計算します。この譲渡から生ずる譲渡利益額又は譲渡損失額は、残余財産確定の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入されます。
これに対して、適格現物分配又は適格株式分配については、次のとおり定められています。
内国法人が適格現物分配又は適格株式分配により被現物分配法人その他の株主等にその有する資産の移転をしたときは、当該被現物分配法人その他の株主等に当該移転をした資産の当該適格現物分配又は適格株式分配の直前の帳簿価額(当該適格現物分配が残余財産の全部の分配である場合には、その残余財産の確定の時の帳簿価額)による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。
適格現物分配又は適格株式分配に該当する場合は、時価ではなく、直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして所得の金額を計算します。残余財産の全部の分配である場合は、残余財産確定の時の帳簿価額によります。さらに、被現物分配法人の側についても、次の定めが置かれています。
内国法人が適格現物分配により資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。
被現物分配法人が適格現物分配により資産の移転を受けたことで生ずる収益の額は、益金の額に算入されません。帳簿価額による譲渡と、この収益の益金不算入が一体となることで、適格現物分配については、譲渡側にも受入側にも譲渡損益や受贈益に相当する課税が生じない仕組みになっています。株主側の課税関係は、現物分配法人・被現物分配法人という当事者の課税とは別の視点から見る必要があり、組織再編と株主の課税で扱っています。
実務で迷いが生じるところ
- 適格現物分配の要件である完全支配関係が、現物分配の直前のどの時点を基準に判定されるかは、実際の取引スキームに即して確認する必要があります。
- 適格株式分配に当たる政令で定めるものの具体的な要件は、法人税法施行令に置かれています。施行令の該当箇所を確認する必要があります。
- 株式分配は、その移転を受ける者が現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合は除かれます。グループ内での移転か、グループ外の株主も含む移転かによって、株式分配に当たるかどうかの結論が変わります。
- 法人税法62条の5は、残余財産の分配が適格現物分配に当たるかどうかで、時価による譲渡か帳簿価額による譲渡かを書き分けています。適格現物分配に該当するかどうかの判定を先に固める必要があります。
- 被現物分配法人の資産の取得価額その他の必要な事項は、法人税法62条の5の規定により政令に委任されています。取得価額の具体的な算定は、その政令を確認する必要があります。
根拠条文
- 法人税法 第2条第12号の5の2(現物分配法人)
- 法人税法 第2条第12号の5の3(被現物分配法人)
- 法人税法 第2条第12号の15(適格現物分配)
- 法人税法 第2条第12号の15の2(株式分配)
- 法人税法 第2条第12号の15の3(適格株式分配)
- 法人税法 第62条の5第1項(現物分配による資産の譲渡)
- 法人税法 第62条の5第2項(現物分配による資産の譲渡)
- 法人税法 第62条の5第3項(現物分配による資産の譲渡)
- 法人税法 第62条の5第4項(現物分配による資産の譲渡)
- 法人税法 第62条の5第6項(現物分配による資産の譲渡)
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

