2011年2月18日、武富士の元専務・武井俊樹氏の贈与税課税をめぐる訴訟で、最高裁判所第二小法廷は、納税者勝訴の判決を言い渡しました。課税を適法とした東京高等裁判所の判決を破棄し、贈与税等の課税処分を取り消す第一審の結論が確定しました。
弊事務所は、高裁判決後、原告納税者に対し、税務上の「非居住者」や「住所」に関するアドバイス、論文を提供するなどして支援しました。
約1,330億円の課税処分が争われた訴訟
本件は、武井氏が両親から受けた外国法人の出資持分の贈与に対し、贈与税と無申告加算税を合わせて約1,330億円の課税処分が行われ、その取消しを求めた事件です。
勝訴に伴う還付は、当日の報道を収録した記事では、延滞税の納付分や還付加算金等を含めて約2,000億円弱に上り、個人への還付として過去最高額となる見通しと紹介されました。争われた課税処分の金額と、還付される金額は異なります。
争点は、贈与時点の「生活の本拠」がどこにあったか
中心的な争点は、贈与を受けた時点における武井氏の住所が、日本と香港のどちらにあったかという点です。最高裁は、日本国内に住所があったとはいえないとして、納税者側の主張を認めました。
本件は、税務上の住所の判定と、法律に基づいて課税するという租税法律主義を考えるうえで、重要な意味を持つ判決です。判決の概要は、日本税務研究センターの2011年3月15日付メールマガジン(PDF)でも紹介されています。
贈与の実行から最高裁判決まで、約11年2か月
本件の贈与が実行されたのは1999年12月27日。最高裁判決が言い渡されたのは2011年2月18日であり、贈与から結論が確定するまで、約11年2か月を要しました。贈与の日付や課税処分の内容は、国税庁掲載の研究論文(5ページ)でも確認できます。
| 年月日 | 経過 | 納税者側の結果 |
|---|---|---|
| 1999年12月27日 | 外国法人の出資持分の贈与を実行 | 後に課税対象となる取引 |
| 2007年5月23日 | 東京地方裁判所判決 | 勝訴 |
| 2008年1月23日 | 東京高等裁判所判決 | 逆転敗訴 |
| 2011年2月18日 | 最高裁判所第二小法廷判決 | 再逆転勝訴・確定 |
地裁で勝ち、高裁で負け、最高裁で再び勝つ。納税者は、同じ取引について裁判所の判断が二度覆る過程を経験することになりました。
税務訴訟が起きないほど、シンプルで明確な税制を
すでに納付した金額について、最終的に敗訴すれば、本件で争った課税処分の取消しによる還付は0円。勝訴すれば、約1,330億円の本税・加算税が還付対象となる。さらに、実際の還付には延滞税の納付分や還付加算金等も関わります。これは新たに利益を得る話ではなく、納付済みの巨額の資金が戻るかどうかという問題です。
このような不確実性が長期間続くことによる精神的な負担は、計り知れません。訴訟費用や資金面の負担だけでなく、人生や事業の計画そのものが左右されます。最終的に勝訴したからといって、その間の時間や不安が取り戻せるわけではありません。
納税者が自分の納税義務を事前に判断でき、税務訴訟で争う必要がないほど、シンプルで明確な税制が望まれます。生活の本拠がどこにあるかという判断により、巨額の納税義務が生じたり、生じなかったりする。その結論を得るために長年の裁判を要する状況は、一刻も早く是正すべきです。
弊事務所は、滞在日数などの計量的な基準を法律に明記し、納税者が安心して生活や事業を設計できる制度にすべきだと考えています。この点は、2007年の論文『不確実性の税務』でも提唱しています。
本件は贈与当時の法令と個別の事実関係に基づく判決です。その後の法改正を踏まえ、現在の海外移住・相続・贈与にそのまま当てはめることはできません。

