条文の定義
「前項各号に規定する取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まないものとする。」
「前条第二項の規定は、前項に規定する取得について準用する。」
1つ目は所得税法施行令第119条の2第2項、2つ目は同令第119条の3第3項です。いずれも評価計算や届出での「取得」の範囲を調整する規定です。通常の交換や買い物への使用では、手放した暗号資産の譲渡損益を計算します。個人の収入時期は原則として暗号資産の引渡しがあった日の属する年分で、売却等の契約をした日の属する年分とすることも選択できます。この結論は、所得税法36条と国税庁FAQ1-2・1-3・2-1から確認します。
第119条の2第1項は、個人がその年12月31日に持つ暗号資産の評価額を計算する方法として、総平均法と移動平均法を定めています。第2項は、その第1項各号でいう「取得」から、買う・売る・別の種類に換えるために途中で一時的に必要になる別の暗号資産の取得を外した条文です。
第119条の3第3項は、この第2項を「前項に規定する取得について準用する」と定めています。「前項」は、評価の方法を税務署長に届け出ることを求めている同条第2項です。同じ外し方が、届出の要否を判断するときの「取得」にも及びます。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| 第119条の2第1項 | 年末に持つ暗号資産の評価額の計算上選べる方法として、総平均法と移動平均法を定めています。 |
| 第119条の2第2項 | 購入・売却・種類の異なる暗号資産への交換をしようとする際に一時的に必要な、これら以外の暗号資産の取得を、第1項各号の「取得」に含まないものとしています。 |
| 第119条の3第3項 | 評価の方法の届出における「取得」にも、同じ外し方が準用されます。 |
| 購入した場合の取得価額 | 第119条の6第1項第1号により、購入の代価に、購入のために要した費用があればその額を加算した金額です。 |
| 計算が行われる場所 | 所得税法第48条の2第1項が第37条第1項(必要経費)を名指ししています。事業所得の金額または雑所得の金額の計算のなかで行われます。 |
| 法人の計上時期 | 法人税法第61条第1項により、譲渡損益は「その譲渡に係る契約をした日」の属する事業年度の益金の額または損金の額に算入されます。 |
| 法人にも同じ外し方 | 法人税法施行令第118条の6第6項第1号が、ほぼ同じ文言で同じ取得を外しています。 |
条文は「一時的に必要な取得」を除いている
第119条の2第2項は、課税するかしないかを直接決めた条文ではありません。第1項各号にいう「取得」の範囲を、狭める方向で調整している条文です。
調整が必要な理由は、第1項の計算のしかたにあります。第1号の総平均法は「その年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」です。第2号の移動平均法も、取得のつど平均単価を改定していく方法です。取得を1つずつ数えて取得価額を積み上げる計算ですから、何を取得として数えるかで1単位当たりの金額が変わります。
第2項は、その数える対象から一部を外しています。外されるのは「一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産」の取得に限られます。ある通貨を別の通貨に換えるために、いったん経由するだけの通貨を手にする場面です。通り抜けるだけのものを平均単価の計算に混ぜない趣旨に読めます。
外される範囲は、条文上かなり狭く書かれています。「一時的に必要な」と「これらの暗号資産以外の」という2つの限定が重ねて置かれており、交換に伴う取得をひとまとめに外してはいません。
では、ふつうの交換はどうなるのか
そこで、書きぶりを裏側から読んでみます。第2項がわざわざ「一時的に必要な」取得を外しているのは、その外し方に当てはまらない取得は第1項各号の「取得」に含まれる、という前提に立っているからだ、と読めます。除外規定は、除外しなければ含まれてしまうものについて置かれるからです。
これを交換に当てはめると、ある暗号資産を種類の異なる暗号資産に換えたとき、換えて手に入れたほうの暗号資産は、通り抜けるだけの一時的な取得でない限り、第1項各号の「取得」にあたる、と読めます。取得にあたるのであれば、その取得価額を決めなければ、総平均法の集計も移動平均法の改定もできません。
取得価額を定めているのは所得税法施行令第119条の6第1項です。第1号は購入した暗号資産について「その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」、第3号は「前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産」について「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」としています。国税庁FAQ1-5は、暗号資産の交換により取得したものを「その他」の取得に挙げ、取得時の時価を取得価額とする扱いを示しています。第3号に対応する計算です。考え方は個人が持つ暗号資産の取得価額は、どう決まるのかにまとめています。
手放したほうでは、暗号資産の譲渡として所得を計算します。所得税法36条・37条と国税庁FAQ1-3によれば、交換で取得した暗号資産の時価から、手放した暗号資産の譲渡原価や必要経費を差し引きます。例えば、譲渡原価100万円の暗号資産Aを、時価150万円の暗号資産Bと交換した場合、他の必要経費がなければ所得金額は50万円です。円に換えていないことを理由に、この損益計算を先送りすることはできません。
第119条の3第3項の準用も見逃せません。同条第2項は、暗号資産を取得した居住者に、確定申告期限までに評価の方法を書面で届け出ることを求めています。第3項がここに第119条の2第2項を準用しているということは、届出の要否を考えるときも、一時的に必要な取得は数えず、それ以外は数える、という関係になります。
買い物に使った場合
暗号資産で支払いをした場合はどうか。手がかりは、暗号資産という言葉の定義にあります。
所得税法第48条の2第1項は、暗号資産を「資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産」としています。そして同法第2条第14項第1号は、暗号資産を「物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」としています。代価の弁済に使えることが要件の一部として書かれており、買い物に使うことは、定義の側に織り込まれた使い方です。
一方、第119条の2第2項が外しているのは、購入・売却・種類の異なる暗号資産への交換の際に一時的に必要な取得です。物品やサービスの代金として暗号資産を手放す場面は、この文言のどこにも当てはまりません。
買い物への使用も、手放した暗号資産の譲渡です。国税庁FAQ1-2は、購入した商品の価額(消費税等を含む)から、支払いに使った暗号資産の譲渡原価を差し引く計算を示しています。他に必要経費があれば、それも控除します。収入の年分はFAQ2-1により、原則としてその暗号資産を引き渡した日の属する年分です。選択により売却等に関する契約をした日の属する年分とすることもできます。年末をまたぐ場合には、どの年分に計上するかを取引記録で確かめます。
必要経費の計算はどこで行われるのか
その計算がどこで行われるのかを示しているのが、所得税法第48条の2第1項です。同項は「第三十七条第一項(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となるその年十二月三十一日において有する暗号資産の価額」を、その者が選定した評価の方法により評価した金額とする、と定めています。
名指しされた所得税法第37条第1項は、その年分の事業所得の金額や雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額を、「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」などと定めています。
この2つを重ねると、評価の方法や取得価額の話は、それだけで完結する計算ではないことが分かります。それらは、事業所得の金額または雑所得の金額を計算する過程で、必要経費に算入する金額を出すために使われます。交換や支払いの時点で動いたものは、その年の総収入金額と必要経費を集計する枠組みのなかで受け止められます。所得区分そのものはWhich category of income do individual cryptoasset earnings fall under?にまとめています。
法人の場合はいつ計上するのか
法人については、計上する時期が条文に明示されています。法人税法第61条第1項は、内国法人が短期売買商品等の譲渡をした場合の譲渡利益額または譲渡損失額を、「その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」と定めています。暗号資産は、同項の括弧書きにより短期売買商品等に含まれます。
法人の通常の譲渡では、「契約をした日」の属する事業年度で計上する点が要点です。個人については、国税庁FAQ2-1が原則として引渡日の属する年分とし、契約日の属する年分とする選択も認めています。個人の評価方法の条文と法人の収入時期の条文を比べるだけでなく、個人の収入時期の取扱いも合わせて確認する必要があります。詳しくは法人が暗号資産を売ったとき、損益はいつ計上するのかにまとめています。
法人にも、同じ外し方が置かれています。法人税法施行令第118条の6第6項第1号は「暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得」を、取得に含まないものとしています。所得税法施行令第119条の2第2項とほぼ同じ文言です。同じ除外が個人と法人の両方に置かれていることは、これが特殊な場面のための調整である、という読み方を支えます。
実務で迷いが生じるところ
- どこまでが「一時的に必要な」取得なのか。条文は、保有した時間の長さも回数も金額も書いていません。
- 交換の途中で経由した暗号資産を、結果としてそのまま持ち続けた場合。
- 交換で取得した暗号資産は、国税庁FAQ1-5が示す取得時の時価で計算します。交換数量と、その時の円建て時価を確かめられる記録を残します。
- 交換の比率だけが示され、円建ての価格が示されない取引で、「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」をどう捉えるか。
- 買い物に使った場合は、購入した商品等の価額を基に譲渡損益を計算します。領収書等の購入額と、支払いに使った暗号資産の数量・譲渡原価を対応させておきます。
- これまで持っていなかった種類の暗号資産を交換で取得した場合の届出。第119条の3第2項は確定申告期限までの届出を求めており、届け出なければ第119条の5第1項により総平均法によることになります。
- 法人の場合に「その譲渡に係る契約をした日」をいつと特定するか。
- 令和8年度の税制改正では、個人が保有する暗号資産の課税のしかたについて見直しが示されています。大綱の内容は令和8年度税制改正大綱のポイントにまとめています。
根拠条文
- 所得税法施行令 第119条の2第1項(暗号資産の評価の方法)/引用した文言:「その年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」
- 所得税法施行令 第119条の2第2項(暗号資産の評価の方法)/引用した文言:「前項各号に規定する取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まないものとする。」
- 所得税法施行令 第119条の3第2項(暗号資産の評価の方法の選定)/引用した文言:「同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、その暗号資産と種類を同じくする暗号資産につき、前条第一項に規定する評価の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない。」
- 所得税法施行令 第119条の3第3項(暗号資産の評価の方法の選定)/引用した文言:「前条第二項の規定は、前項に規定する取得について準用する。」
- 所得税法施行令 第119条の5第1項(暗号資産の法定評価方法)/引用した文言:「第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする。」
- 所得税法施行令 第119条の6第1項(暗号資産の取得価額)/引用した文言:「一購入した暗号資産その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」「三前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」
- 所得税法 第37条第1項(必要経費)/引用した文言:「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」
- 所得税法 第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)/引用した文言:「第三十七条第一項(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となるその年十二月三十一日において有する暗号資産の価額」「資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産」
- 資金決済に関する法律 第2条第14項第1号(定義)/引用した文言:「物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」
- 法人税法 第61条第1項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)/引用した文言:「その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」
- 法人税法施行令 第118条の6第6項(短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法及びその選定の手続等)/引用した文言:「暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得」
補足の根拠・出典
上記資料の確認日:2026年9月7日。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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