Statutory definition
「総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。」(所得税法第69条第1項)
損益通算の条文です。ある所得の計算でマイナスが出たときに、それを他の所得から差し引ける仕組みを定めています。
読むべきところは、後半ではなく前半です。「損失の金額があるとき」とだけ書いてあるのではありません。どの所得の計算上生じた損失なのかが、はじめから4つに限って書き並べてあります。不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得です。
暗号資産を売って生じた損失が、この4つのどれかに入るのか。そこが最初の分かれ道です。
Overview
| Issue | Statutory rule |
|---|---|
| 損益通算の対象 | 不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に限られます(所得税法69条1項)。 |
| 雑所得の位置 | 雑所得は、利子所得から一時所得までのいずれにも該当しない所得です(同法35条1項)。69条1項が並べる4つには入っていません。 |
| 雑所得の金額 | その年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額です(同法35条2項2号)。公的年金等に係るものは別の号で計算します。 |
| 必要経費 | 総収入金額に係る売上原価その他直接に要した費用の額などです(同法37条1項)。その算定の基礎となる年末の価額は、選定した評価の方法によります(同法48条の2第1項)。 |
| 繰り越せるもの | 前年以前3年内の各年に生じた「純損失の金額」です(同法70条1項)。青色申告書を提出している年に限られます。 |
| 繰越しの手続 | 損失が生じた年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出している場合に限り適用されます(同条4項)。 |
| Legal entity | 期末の評価損はその事業年度の損金の額に算入され(法人税法61条3項)、翌事業年度に反対の側へ戻されます(同法施行令118条の10第1項)。 |
損益通算の条文に雑所得は入っていない
雑所得がどういう所得なのかは、条文が正面から書いています。
「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」(所得税法第35条第1項)
9つを並べ、そのどれでもないものが雑所得だ、という定め方です。残りを受け止める箱です。
ここで69条1項に戻ります。損益通算の対象として並んでいるのは、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つでした。35条1項が並べた9つのうちの4つです。雑所得は、この4つのどこにもありません。
条文は「その他の所得の損失も同様とする」とも書いていません。控除してよい損失を4つ挙げて閉じているのですから、そこに挙がっていないものは、この条文からは出てきません。
暗号資産の売買から生じた所得が雑所得になるのであれば、その計算上生じた損失は、給与所得からも、配当所得からも、一時所得からも差し引けません。同じ年に給与を受け取っていても、その分の課税所得が暗号資産の損失で減ることはありません。
なお、69条2項が扱うのは「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」の損失で、対象を広げる規定ではありません。
では、雑所得の中ではどうなるのか
他の所得と通算できないことと、雑所得の内側で何も差し引けないこととは、別の話です。ここは35条2項が決めます。
「雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。」「二その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」(所得税法第35条第2項、同項第2号)
2号の主語は、ひとつの取引でも、ひとつの銘柄でもありません。「その年中の雑所得」に係る総収入金額です。その年の雑所得に属する収入をまとめて総収入金額とし、そこからまとめて必要経費を控除する、という組み立てになっています。取引ごとに損益を確定させて、プラスのものだけを拾い上げる書き方ではありません。
ですから、同じ年のうちに、総合課税の雑所得となる暗号資産取引で利益と損失があれば、その両方が同じ2号の計算に入ります。暗号資産以外でも、同じ総合課税の雑所得の範囲であれば損益を合わせて計算します。ただし、国内FX等のうち「先物取引に係る雑所得等」の申告分離課税に該当するものは別の計算です。その利益と暗号資産の雑所得の損失を通算することはできません。総合課税の雑所得は、1号の公的年金等に係る金額と2号の金額を合計して計算します。
この計算の中身をつくるのが必要経費の規定です。
「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額」……「の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」(所得税法第37条第1項)
雑所得が並びに入っています。「別段の定めがあるものを除き」という留保が置かれていて、暗号資産についてはその別段の定めが用意されています。
「につき第三十七条第一項(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となるその年十二月三十一日において有する暗号資産の価額は、その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額」(所得税法第48条の2第1項)
この条文が定めているのは、必要経費そのものではなく、必要経費を算定するときの基礎になる年末の価額です。年末の暗号資産をいくらと見るかが変われば、必要経費に算入される金額が変わり、その年の雑所得の金額も変わります。
「損が出た」という言葉の中身は、評価の方法まで含めて決まります。売った値段と買った値段を単純に引き算した数字ではありません。
繰越しの条文はどうなっているか
差し引ききれなかった損失を、翌年以降に持ち越せるか。条文は70条です。
「確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前三年内の各年(その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る。)において生じた純損失の金額」……「がある場合には、当該純損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。」(所得税法第70条第1項)
繰り越せるのは損失一般ではありません。「純損失の金額」という語で対象が限定されています。
「純損失の金額」は、所得税法2条1項25号の定義です。69条1項の損益通算の対象となる損失について、同条によって他の各種所得から控除しても控除しきれない部分をいいます。雑所得の計算上生じた損失は、そもそも69条1項の対象に入らないため、この純損失にはなりません。したがって、暗号資産取引が雑所得となる場合の損失を、70条によって翌年以降へ繰り越すことはできません。
純損失に当たる場合にも、70条1項には「その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る」という条件があります。青色申告書を提出していない年に生じたものは、この項では繰り越せません。別の事業で青色申告をしていることによって、暗号資産の雑所得の損失が繰越対象に変わるわけでもありません。
手続の要件は第4項にあります。
「第一項又は第二項の規定は、これらの規定に規定する居住者が純損失の金額が生じた年分の所得税につき確定申告書を提出し、かつ、それぞれその後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する。」(所得税法第70条第4項)
損失が出た年に申告するだけでは足りません。「その後において連続して」確定申告書を提出していることが求められます。途中の年に申告していなければ、そこで切れます。
第2項は、青色申告書の提出を要件としない繰越しを定めていますが、対象は「一変動所得の金額の計算上生じた損失の金額」と「二被災事業用資産の損失の金額」の2つに絞られています。いずれも、雑所得の計算上生じた損失を一般に受け入れる規定ではありません。
法人はまったく違う
ここまでは所得税の話です。法人税には別の条文が働きます。
「内国法人が期末時において短期売買商品等(時価法により評価した金額(以下この項において「時価評価金額」という。)をもつてその期末時における評価額とするものに限る。以下この項及び次項において同じ。)を有する場合(暗号資産にあつては、自己の計算において有する場合に限る。)には、当該短期売買商品等に係る評価益」……「又は評価損」……「は、第二十五条第一項(資産の評価益)又は第三十三条第一項(資産の評価損)の規定にかかわらず、その期末時の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」(法人税法第61条第3項)
売っていなくても、期末に持っているだけで評価損が損金の額に算入されます。ただし、この項が働くのは時価法により評価するものに限られますから、暗号資産であれば何でもよいわけではありません。
この評価損はその期限りのものです。
「内国法人が法第六十一条第三項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)の規定により当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。」(法人税法施行令第118条の10第1項)
損金に算入した金額と同じ金額が、翌事業年度に益金の額に算入されます。洗い替えです。期末の時価で一度切って、翌期のはじめに戻す往復になっています。この仕組みはAre companies taxed just by having them?で扱いました。
同じ暗号資産を同じ値動きで持っていても、個人と法人とで損の扱われ方は別です。
これから
令和8年度税制改正の大綱では、個人の暗号資産の損失の繰越しが打ち出されました。内容はKey points of the FY2026 tax system revision outlineにゆずります。
大綱は法律そのものではありません。適用されるのは、法律が成立し、政令が整い、施行日が来てからです。この記事で引いた条文は、いま現在のものです。
Points that require care in practice
- 暗号資産の所得が雑所得になるのか、それ以外になるのかです。ここが変われば、所得税法69条1項の4つに入るかどうかも変わります。
- 年をまたぐ取引です。35条2項2号は「その年中の」と区切っていますから、12月と1月にまたがって損と益が出た場合、両者は別の年の計算に入ります。
- 年末に持っている暗号資産の評価です。48条の2第1項により必要経費の算定の基礎が変わりますから、選定した評価の方法によって、その年の損の大きさが変わります。
- 繰越しの手続です。70条4項の「連続して」という要件は、損失が出た年の翌年以降に申告義務がないと思って申告しなかった場合に、あとから問題になります。
- 法人と個人をまたいで考えるときです。法人税法施行令118条の10第1項の洗い替えを織り込まずに損益を見ると、読み違えます。
いずれも、どの条文のどの要件で判断するかが起点になります。実際の申告にあたっては、対象となる年分と、その年に選定していた評価の方法を特定したうえでご確認ください。
Legal basis
- 所得税法 第69条第1項(損益通算)/引用した文言:「総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。」
- 所得税法 第69条第2項(同上)/引用した文言:「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」
- 所得税法 第70条第1項(純損失の繰越控除)/引用した文言:「確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前三年内の各年(その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る。)において生じた純損失の金額」、「がある場合には、当該純損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。」
- 所得税法 第70条第2項(同上)/引用した文言:「一変動所得の金額の計算上生じた損失の金額」、「二被災事業用資産の損失の金額」
- 所得税法 第70条第4項(同上)/引用した文言:「第一項又は第二項の規定は、これらの規定に規定する居住者が純損失の金額が生じた年分の所得税につき確定申告書を提出し、かつ、それぞれその後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する。」
- 所得税法 第35条第1項(雑所得)/引用した文言:「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」
- 所得税法 第35条第2項(同上)/引用した文言:「雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。」、「一その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額」
- 所得税法 第35条第2項第2号(同上)/引用した文言:「二その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」
- 所得税法 第37条第1項(必要経費)/引用した文言:「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額」、「の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」
- 所得税法 第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)/引用した文言:「につき第三十七条第一項(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となるその年十二月三十一日において有する暗号資産の価額は、その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額」
- 法人税法 第61条第3項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)/引用した文言:「内国法人が期末時において短期売買商品等(時価法により評価した金額(以下この項において「時価評価金額」という。)をもつてその期末時における評価額とするものに限る。以下この項及び次項において同じ。)を有する場合(暗号資産にあつては、自己の計算において有する場合に限る。)には、当該短期売買商品等に係る評価益」、「又は評価損」、「は、第二十五条第一項(資産の評価益)又は第三十三条第一項(資産の評価損)の規定にかかわらず、その期末時の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」
- 法人税法施行令 第118条の10第1項(短期売買商品等の評価益又は評価損の翌事業年度における処理等)/引用した文言:「内国法人が法第六十一条第三項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)の規定により当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。」
- 所得税法 第2条第1項第25号(純損失の金額)/第69条第1項の損失について、同条による控除後も控除しきれない部分の金額を定義しています。
補足の根拠・出典
上記資料の確認日:2026年9月7日。
This article is a general explanation based on laws and regulations as of September 7, 2026. Please consult us about your individual circumstances before taking action.
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