ストックオプションの税務

信託型ストックオプションとは

条文の定義

「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」(所得税法28条)

信託型ストックオプションを行使して株式を取得した場合の経済的利益について、国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3は、この給与所得に区分されると説明しています。「信託型ストックオプション」という呼び方自体は条文上の用語ではなく、国税庁のQ&Aが用いている呼称です。

骨格

論点 条文・Q&Aの定め
仕組み 発行会社等が信託会社に金銭を信託し、信託会社がストックオプションを購入し、役職員を受益者に指定して付与します(Q&A問3)
信託が購入した時 適正な時価での購入なら経済的利益は発生せず課税関係は生じません(Q&A問3②)
役職員を受益者に指定した時 国税庁Q&Aは、課税関係は生じないと説明しています(Q&A問3③)
役職員が行使した時 国税庁Q&Aは、経済的利益は給与所得となると説明しています(Q&A問3④)
取得した株式を譲渡した時 株式譲渡益課税の対象となります
源泉徴収 株式交付の際に、給与所得に係る源泉所得税を徴収して納付する必要があります(Q&A問4)
税制適格の可否 一定の要件を満たせば税制適格ストックオプションとして認められることがあります(Q&A問12)

信託型ストックオプションはどのような仕組みか

国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3は、信託型ストックオプションの仕組みを次の①〜⑤の流れで設例に示しています。

  • 「① 発行会社又は発行会社の代表取締役等が信託会社に金銭を信託して、信託(法人課税信託)を組成する(信託の組成時に、受益者及びみなし受益者は存在しない。)。」
  • 「② 信託会社は、発行会社の譲渡制限付きストックオプションを適正な時価(50)で購入する。」
  • 「③ 発行会社は、信託期間において会社に貢献した役職員を信託の受益者に指定し、信託財産として管理されているストックオプションを当該役職員に付与する。」
  • 「④ 役職員は、ストックオプションを行使して発行会社の株式を取得する。」
  • 「⑤ 役職員は、ストックオプションを行使して取得した株式を売却する。」

(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3)

信託がストックオプションを購入した時と、役職員を受益者に指定した時に課税関係は生じるか

信託の組成そのもの(上記①)の課税関係については、国税庁が公表している原本でご確認ください。②と③について、Q&Aは次のように説明しています。

「信託会社が当該ストックオプションを適正な時価(50)で購入した場合、経済的利益が発生しないことから、課税関係は生じません。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3)

「発行会社が、役職員を受益者に指定することにより、信託財産として管理しているストックオプションを付与した場合の経済的利益については、課税関係は生じません(所法 67 の3②)。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3)

この③には、次の注記が付いています。

「役職員は、信託が購入の際に負担した 50 を取得価額として引き継ぐこととなります(所法 67 の3①)。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3)

権利行使時の経済的利益は、なぜ給与所得となるのか

役職員がストックオプションを行使して株式を取得した時点について、Q&Aは次のように説明しています。

「役職員が当該ストックオプションを行使して発行会社の株式を取得した場合、その経済的利益は、給与所得となります(所法 28、36②、所令 84③)。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3)

給与所得とする理由について、Q&Aは次のとおり、2つの見解を並べたうえで、後者を採ることを明らかにしています。

「・ 信託が役職員にストックオプションを付与していること、信託が有償でストックオプションを取得していることなどの理由から、上記の経済的利益は労務の対価に当たらず、「給与として課税されない」との見解がありますが、
・ 実質的には、発行会社が役職員にストックオプションを付与していること、役職員に金銭等の負担がないことなどの理由から、上記の経済的利益は労務の対価に当たり、「給与として課税される」こととなります。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問3(注3))

行使時に取得する株式そのものの価額の算定方法は、ストックオプションの権利行使価額と株価算定に譲ります。

源泉所得税の納付は、どのように扱われるか

Q&Aは問4で次のように述べています。

「税制非適格ストックオプション(無償・有利発行型又は信託型)については、ストックオプションの行使による株式の交付の際に、給与所得に係る源泉所得税を徴収して、納税地の所轄税務署に納付する必要があります。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問4)

納付をしていなかったことが後で判明し、発行会社が求償しないこととした場合について、Q&Aは次のように述べています。

「(求償しないこととした場合は)利益を与えたことになり、その求償しないこととした時において、その税額に相当する金額の税引き後の手取額で給与や報酬の追加払いをしたものとし、その支払ったものとなる金額に係る源泉所得税を計算(グロスアップ計算)することとなります(所基通 221-1、所基通 181-223 共-4)。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問4)

一時に納められない場合について、Q&Aは次のように述べています。

「源泉所得税を一時に納められない場合には、税務署に申請を行うことにより、原則として1年以内の期間に限り、納税の猶予等が認められる場合があります。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問4)

信託型ストックオプションでも、税制適格ストックオプションになりうるか

Q&Aの問12は次のように述べています。

「信託型ストックオプションについては、次のような要件を満たせば、税制適格ストックオプションとして認められることとなります。」(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問12)

  • 「① 信託型ストックオプションに係る信託契約において、原則として、信託の受託者が自身の判断で、そのストックオプションの行使又は第三者への譲渡をすることができないとされていること。」
  • 「② 信託型ストックオプションは、発行会社の取締役等に無償で付与されること。」
  • 「③ 信託型ストックオプションの行使は、信託型ストックオプションに係る受益者を指定する日(受益者指定日)の日後2年を経過した日から受益者指定日後 10 年(……)を経過する日までの間に行わなければならないこと。」
  • 「④ 信託型ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が 1,200 万円(注)を超えないこと。」
  • 「⑤ 信託型ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、信託受益権の付与に係る契約の締結時における1株当たりの価額相当額以上であること。」
  • 「(注)「信託受益権の付与に係る契約の締結時」については、信託受益権の付与に係る契約の締結の日が、受益者指定日から6月を経過していない場合には、受益者指定日として差し支えありません。」
  • 「⑥ 取締役等において、信託型ストックオプション及びその信託受益権の譲渡が禁止されていること。」
  • 「⑦ 信託型ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法第 238 条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること。」
  • 「⑧ ストックオプションの行使により取得した株式につき、次のいずれかの要件を満たすこと。」
    • 「イ 金融商品取引業者等において保管の委託がされること。」
    • 「ロ 発行会社において、行使により取得した株式(譲渡制限株式に限ります。)の管理がされること。」

(国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』問12)

実務で迷いが生じるところ

  • 信託の組成時(上記①)に法人課税信託としてどのような課税関係が生じるかは、国税庁が公表している原本で確認する必要があります。
  • 個々の信託契約が、受託者の裁量の有無や受益者指定日の定め方を含め、問12の各要件を満たしているかどうかは、当該信託契約の内容を確認しないと分かりません。
  • 権利行使時に取得する株式そのものの価額をどう算定するかは、国税庁Q&A問5が示す方法によりますが、具体的な当てはめは個々の株式の状況を確認する必要があります。

根拠条文

  • 所得税法第28条第1項(給与所得)/引用した文言:「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」
  • 所得税法第36条第2項(収入金額)/引用した文言:「前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。」
  • 所得税法施行令第84条第3項柱書(譲渡制限付株式の価額等)/引用した文言:「発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(……)における当該権利に係る法第三十六条第二項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日(……)における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。」
  • 所得税法第67条の3第1項(見出しなし)/引用した文言:「居住者が法人課税信託(法人税法第二条第二十九号の二ロ(定義)に掲げる信託に限る。)の第十三条第一項(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)に規定する受益者(……)となつたことにより当該法人課税信託が同法第二条第二十九号の二ロに掲げる信託に該当しないこととなつた場合(……)には、その受託法人(……)からその信託財産に属する資産及び負債をその該当しないこととなつた時の直前の帳簿価額を基礎として政令で定める金額(第三項において「帳簿価額相当額」という。)により引継ぎを受けたものとして、当該居住者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする。」
  • 所得税法第67条の3第2項(見出しなし)/引用した文言:「前項の居住者が同項の規定により資産及び負債の引継ぎを受けたものとされた場合におけるその引継ぎにより生じた収益の額は、当該居住者のその引継ぎを受けた日の属する年分の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。」

根拠となる通達・Q&A・裁判例

  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問3/引用した文言:「① 発行会社又は発行会社の代表取締役等が信託会社に金銭を信託して、信託(法人課税信託)を組成する(信託の組成時に、受益者及びみなし受益者は存在しない。)。」「② 信託会社は、発行会社の譲渡制限付きストックオプションを適正な時価(50)で購入する。」「③ 発行会社は、信託期間において会社に貢献した役職員を信託の受益者に指定し、信託財産として管理されているストックオプションを当該役職員に付与する。」「④ 役職員は、ストックオプションを行使して発行会社の株式を取得する。」「⑤ 役職員は、ストックオプションを行使して取得した株式を売却する。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問3/引用した文言:「信託会社が当該ストックオプションを適正な時価(50)で購入した場合、経済的利益が発生しないことから、課税関係は生じません。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問3/引用した文言:「発行会社が、役職員を受益者に指定することにより、信託財産として管理しているストックオプションを付与した場合の経済的利益については、課税関係は生じません(所法 67 の3②)。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問3(注)/引用した文言:「役職員は、信託が購入の際に負担した 50 を取得価額として引き継ぐこととなります(所法 67 の3①)。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問3/引用した文言:「役職員が当該ストックオプションを行使して発行会社の株式を取得した場合、その経済的利益は、給与所得となります(所法 28、36②、所令 84③)。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問3(注3)/引用した文言:「・ 信託が役職員にストックオプションを付与していること、信託が有償でストックオプションを取得していることなどの理由から、上記の経済的利益は労務の対価に当たらず、「給与として課税されない」との見解がありますが、・ 実質的には、発行会社が役職員にストックオプションを付与していること、役職員に金銭等の負担がないことなどの理由から、上記の経済的利益は労務の対価に当たり、「給与として課税される」こととなります。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問4/引用した文言:「税制非適格ストックオプション(無償・有利発行型又は信託型)については、ストックオプションの行使による株式の交付の際に、給与所得に係る源泉所得税を徴収して、納税地の所轄税務署に納付する必要があります。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問4/引用した文言:「(求償しないこととした場合は)利益を与えたことになり、その求償しないこととした時において、その税額に相当する金額の税引き後の手取額で給与や報酬の追加払いをしたものとし、その支払ったものとなる金額に係る源泉所得税を計算(グロスアップ計算)することとなります(所基通 221-1、所基通 181-223 共-4)。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問4/引用した文言:「源泉所得税を一時に納められない場合には、税務署に申請を行うことにより、原則として1年以内の期間に限り、納税の猶予等が認められる場合があります。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12/引用した文言:「信託型ストックオプションについては、次のような要件を満たせば、税制適格ストックオプションとして認められることとなります。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12①/引用した文言:「信託型ストックオプションに係る信託契約において、原則として、信託の受託者が自身の判断で、そのストックオプションの行使又は第三者への譲渡をすることができないとされていること。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12②/引用した文言:「信託型ストックオプションは、発行会社の取締役等に無償で付与されること。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12③/引用した文言:「信託型ストックオプションの行使は、信託型ストックオプションに係る受益者を指定する日(受益者指定日)の日後2年を経過した日から受益者指定日後 10 年(発行会社が設立の日以後の期間が5年未満の株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社であることその他の要件を満たす会社である場合には 15 年)を経過する日までの間に行わなければならないこと。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12④/引用した文言:「信託型ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が 1,200 万円(注)を超えないこと。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12⑤/引用した文言:「信託型ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、信託受益権の付与に係る契約の締結時における1株当たりの価額相当額以上であること。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12⑤(注)/引用した文言:「「信託受益権の付与に係る契約の締結時」については、信託受益権の付与に係る契約の締結の日が、受益者指定日から6月を経過していない場合には、受益者指定日として差し支えありません。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12⑥/引用した文言:「取締役等において、信託型ストックオプション及びその信託受益権の譲渡が禁止されていること。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12⑦/引用した文言:「信託型ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法第 238 条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問12⑧/引用した文言:「ストックオプションの行使により取得した株式につき、次のいずれかの要件を満たすこと。」「イ 金融商品取引業者等において保管の委託がされること。」「ロ 発行会社において、行使により取得した株式(譲渡制限株式に限ります。)の管理がされること。」

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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