ストックオプションの税務

有償ストックオプションとは

「有償ストックオプション」という呼び方は、条文上の用語ではありません。新株予約権を無償で発行するのではなく、引き受ける者が適正な時価に相当する金銭を払い込んで新株予約権を取得する形を、実務でこう呼んでいるにすぎません。ストックオプション一般の枠組みはストックオプションとはをご参照ください。

条文の定義

「前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法」

会社法238条は、新株予約権を引き受ける者を募集するときに定めるべき募集事項として、払込みを要しないこととする場合にはその旨を、そうでない場合には上記の「払込金額」又はその算定方法を定めなければならないとしています。新株予約権を無償で発行するか、対価を取って発行するかは、この条文が置く枠組みの中で決まります。

骨格

論点 条文・通達の定め
新株予約権の内容(行使に際して出資される財産の価額等)の決定 会社法236条
募集新株予約権の払込金額の決定 会社法238条
払込金額が引受者に特に有利な金額である場合の取締役の説明義務 会社法238条
税制非適格ストックオプション(有償型)の課税関係 国税庁Q&A問2
株式と引換えに払い込むべき額の有利発行判定(新株予約権自体は対象外) 所得税法施行令84条・所得税基本通達23〜35共-7
発行会社側の費用の帰属事業年度の特例 法人税法54条の2
租税特別措置法29条の2の適用対象となる新株予約権の範囲(無償要件) 租税特別措置法施行令19条の3

「有償」とは何に対する対価を指すのか

会社法236条は、株式会社が新株予約権を発行するときに、当該新株予約権の内容として定めるべき事項を列挙しています。その一つが「当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」であり、これがいわゆる権利行使価額に当たります。これに対して、会社法238条が定める「募集新株予約権の払込金額」は、新株予約権を引き受ける際にその新株予約権自体の対価として払い込む金額であり、236条が定める権利行使価額とは別のものです。「有償ストックオプション」は、この238条の払込金額を、無償ではなく、適正な時価に相当する金額として設定した場合を指します。募集新株予約権の払込金額を定める場合であっても、その払込金額が「同号の払込金額が当該者に特に有利な金額であるとき」に当たるときは、取締役は募集事項を決定する株主総会において、その金額で募集をすることを必要とする理由を説明しなければならないとされています。

国税庁のQ&Aは、有償型の課税関係をどう説明しているか

国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』は、税制非適格ストックオプションの課税関係に共通する前置きとして「勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得(注)として所得税の課税対象とされます(所令 84③)。」と述べたうえで、有償型について問2で次のように説明しています。

購入時は「税制非適格ストックオプション(有償型)は、当該ストックオプションを適正な時価で購入していることから、経済的利益は発生せず、課税関係は生じません。」とされています。行使時は、同Q&A問2が「所得税法上、認識しないこととされています」と説明しています。根拠は所得税法36条2項・同法施行令109条1項1号です。適正な時価で取得した有償型は、行使による値上がり益をその時点で給与所得等として課税する扱いにはなりません。株式を譲渡した場合は「株式譲渡益は、譲渡時の株価(1,000)から、当該ストックオプションの購入価額(50)と権利行使価額(200)の合計額(250)を差し引いた 750 となります。」とする設例が示されています。

所得税法施行令84条3項の号建てはどうなっているか

所得税法施行令84条3項は、発行法人から与えられた権利について一号から三号までに分けて収入金額の算定方法を定めています。三号は「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前二号に掲げるものを除く。)」と定めており、前二号に掲げる新株予約権(会社法238条2項の決議等に基づき発行され、特に有利な条件又は金額であることとされるものなど)を対象から除いています。所得税基本通達23〜35共-7は、この三号にいう「有利な金額である場合」の判定基準として「令第84条第3項第3号に規定する「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」とは、その株式と引換えに払い込むべき額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して社会通念上相当と認められる価額を下る金額である場合をいうものとする。」とし、(注)1は「社会通念上相当と認められる価額を下る金額であるかどうかは、当該株式の価額と当該株式と引換えに払い込むべき額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定する。」としています。新株予約権自体の払込金額(会社法238条)は三号の対象ではなく、23〜35共-7が扱うのも新株予約権の話ではありません。

発行会社側の取扱いはどこに定めがあるか

発行会社側の費用の帰属事業年度は法人税法54条の2が定め、その特定新株予約権の範囲は法人税法施行令111条の3が定めています。詳細はストックオプションの発行会社側の損金算入で扱います。

税制適格ストックオプションの要件との関係はどう整理されているか

租税特別措置法29条の2は、「新株予約権(政令で定めるものに限る。以下この項において「新株予約権」という。)」を与えられた者が要件を満たしてこれを行使した場合の株式の取得について「当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」と定めています。ここでいう「政令で定める」新株予約権について、租税特別措置法施行令19条の3は「法第二十九条の二第一項に規定する政令で定める新株予約権は、会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第二項の決議(同法第二百三十九条第一項の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項の規定による取締役会の決議を含む。)に基づき金銭の払込み(金銭以外の資産の給付を含む。)をさせないで発行された新株予約権とする。」と定めています。国税庁のQ&A問6も、税制適格ストックオプションの要件の一つとして「ストックオプションは、発行会社の取締役等に無償で付与されたものであること。」を挙げています。要件の全体は税制適格ストックオプションとはをご参照ください。

実務で迷いが生じるところ

  • 国税庁Q&A問2の取扱いは、本人が適正な時価でストックオプションを購入したことが前提です。払込額と算定資料を確認し、信託会社が有償取得して役職員に付与する信託型とは区別します。
  • 新株予約権自体の払込金額が「適正な時価」に当たるかどうかを判定する基準がどこに置かれているかは、この一次情報からは確認できません。所得税法施行令84条3項三号は前二号(新株予約権)を除いており、所得税基本通達23〜35共-7もこの三号についての定めであるため、原文にあたって確認する必要があります。

根拠条文

  • 会社法第236条第1項(新株予約権の内容)/引用した文言:「株式会社が新株予約権を発行するときは、次に掲げる事項を当該新株予約権の内容としなければならない。」
  • 会社法第236条第1項第2号(新株予約権の内容)/引用した文言:「当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」
  • 会社法第238条第1項第3号(募集事項の決定)/引用した文言:「前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法」
  • 会社法第238条第3項第2号(募集事項の決定)/引用した文言:「第一項第三号に規定する場合において、同号の払込金額が当該者に特に有利な金額であるとき。」
  • 所得税法施行令第84条第3項第3号(譲渡制限付株式の価額等)/引用した文言:「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前二号に掲げるものを除く。)」
  • 租税特別措置法第29条の2第1項(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)/引用した文言:「新株予約権(政令で定めるものに限る。以下この項において「新株予約権」という。)」「当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」
  • 租税特別措置法施行令第19条の3第1項(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)/引用した文言:「法第二十九条の二第一項に規定する政令で定める新株予約権は、会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第二項の決議(同法第二百三十九条第一項の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項の規定による取締役会の決議を含む。)に基づき金銭の払込み(金銭以外の資産の給付を含む。)をさせないで発行された新株予約権とする。」
  • 法人税法第54条の2第1項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)/条文の所在のみを示し、本文からの引用は行っていない。
  • 法人税法施行令第111条の3(譲渡制限付新株予約権の範囲等)/条文の所在のみを示し、本文からの引用は行っていない。

根拠となる通達・Q&A・裁判例

  • 所得税基本通達23〜35共-7(株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合)/引用した文言:「令第84条第3項第3号に規定する「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」とは、その株式と引換えに払い込むべき額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して社会通念上相当と認められる価額を下る金額である場合をいうものとする。」「社会通念上相当と認められる価額を下る金額であるかどうかは、当該株式の価額と当該株式と引換えに払い込むべき額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定する。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問2/引用した文言:「勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得(注)として所得税の課税対象とされます(所令 84③)。」「税制非適格ストックオプション(有償型)は、当該ストックオプションを適正な時価で購入していることから、経済的利益は発生せず、課税関係は生じません。」「株式譲渡益は、譲渡時の株価(1,000)から、当該ストックオプションの購入価額(50)と権利行使価額(200)の合計額(250)を差し引いた 750 となります。」
  • 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問6/引用した文言:「ストックオプションは、発行会社の取締役等に無償で付与されたものであること。」

補足の根拠・出典

上記資料の確認日:2026年9月7日。

本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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