税制改正大綱レビュー

平成29年度税制改正大綱―配偶者控除の組み替えと仮想通貨の消費税非課税

何が、いつ、誰の手で決まったのか

平成29年度税制改正の大綱は、平成28年12月22日に閣議決定されました。翌年の通常国会に出される税制改正法案のもとになる文書で、その年度に何をどう変えるかを政府が決めた設計図にあたります。

大綱の冒頭には、この年度のねらいが書かれています。

我が国経済の成長力の底上げのため、就業調整を意識しなくて済む仕組みを構築する観点から配偶者控除・配偶者特別控除の見直しを行うとともに、経済の好循環を促す観点から研究開発税制及び所得拡大促進税制の見直しや中小企業向け設備投資促進税制の拡充等を行う。

これに続けて、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から酒税改革を行うこと、国際的な租税回避に対応するため外国子会社合算税制を見直すこと、災害への税制上の対応に係る各種の規定の整備等を行うことが掲げられています。

前後の年度は平成28年度平成30年度、直近は令和8年度の記事をご覧ください。

大綱の柱

その章で決まったこと
一 個人所得課税 配偶者控除と配偶者特別控除を組み替え、高い所得の方には適用しないこととしました。積立型の非課税投資の枠組みも設けています。
二 資産課税 相続税・贈与税で国外財産が課税対象になる範囲を広げ、高層マンションの固定資産税を階層に応じて補正します。
三 法人課税 研究開発税制を試験研究費の増減に応じた仕組みに組み替え、賃上げをした企業の控除を上乗せし、中小企業の設備投資減税を拡充しました。
四 消費課税 酒税の税率構造を段階的に見直し、仮想通貨の譲渡を消費税の非課税とすることを決めました。車体課税の見直しも含みます。
五 国際課税 外国子会社合算税制の判定を、税率の高さではなく事業の実体で見る形に組み替えました。
六 納税環境整備 国税犯則調査手続を電磁的記録に対応させ、災害等による期限の延長手続を広げました。
七 関税 暫定税率等の適用期限を延長したほか、個別品目の関税率や特恵関税制度などを見直しました。

配偶者控除と配偶者特別控除を組み替える

多くの家庭に関わるのが、配偶者控除と配偶者特別控除の見直しです。ねらいは冒頭のとおり「就業調整を意識しなくて済む仕組み」をつくることにあります。

配偶者特別控除については、対象となる配偶者の合計所得金額が38万円超123万円以下(現行では38万円超76万円未満)に広がりました。控除額は、居住者の合計所得金額が900万円以下で配偶者の合計所得金額が85万円以下なら38万円、そこから段階的に下がる仕組みです。

その一方で、控除を受ける側の所得には上限が置かれました。居住者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、配偶者控除も配偶者特別控除も適用できないこととされています。それ以下でも、合計所得金額900万円以下、900万円超950万円以下、950万円超1,000万円以下の三段階で控除額が下がる形です。所得税の配偶者控除は、900万円以下の方で38万円、950万円超1,000万円以下の方で13万円とされました。

適用の時期は、所得税が平成30年分以後、個人住民税が平成31年度分以後です。

仮想通貨の譲渡を消費税の非課税とする

消費課税の章に、いま暗号資産と呼ばれているものについての改正が入りました。大綱の書きぶりはごく短く、次の一文です。

資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について、消費税を非課税とする。

この改正で、仮想通貨を売る取引そのものに消費税がかからないことになります。適用は、平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについてです。

大綱には経過的な扱いも書かれています。改正前に譲り受けた仮想通貨について個別対応方式で仕入控除税額を計算する場合、その仕入れ区分は「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当するものとされます。また、事業者が平成29年6月30日に100万円(税抜き)以上の仮想通貨を保有していて、同日の保有数量が同年6月1日から6月30日までの各日の平均保有数量に対して増加したときは、その増加した部分の課税仕入れに係る消費税について仕入税額控除を認めないこととされました。

この論点をもう少し詳しく知りたい方は、暗号資産を売っても消費税はかからないと、暗号資産税制はこうしてできたもあわせてご覧ください。

研究開発・賃上げ・設備投資の三つを同時に動かす

研究開発税制

試験研究費の総額に係る税額控除制度が、試験研究費割合に応じて8%から10%とされていた控除率から、試験研究費の「増減割合」に応じて決まる控除率へ組み替えられました。原則の上限は10%ですが、2年間の時限措置として上限を14%とする措置が置かれています。試験研究費の範囲には、対価を得て提供する新たな役務の開発に係る費用が加えられました。

所得拡大促進税制

中小企業者等以外の法人については、平均給与等支給額が前年を上回るという要件が、その増加割合が2%以上であることという要件に改められ、控除税額は雇用者給与等支給増加額の10%に一定の金額の2%を加えた額とされます。中小企業者等については、増加割合が2%以上である場合の上乗せ部分が12%とされました。

中小企業の設備投資

中小企業投資促進税制の上乗せ措置が「中小企業経営強化税制」として組み替えられ、すべての器具備品と建物附属設備が対象になりました。経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に対象設備を取得して事業に使った場合、取得価額までの特別償却か、取得価額の7%(特定中小企業者等は10%)の税額控除かを選べます。

酒税の税率構造を段階的に見直す

酒類間で税負担が大きく違う状態を改めるため、税率構造そのものに手が入りました。1キロリットルあたりの税率で見ると、発泡性酒類は220,000円から155,000円へ、醸造酒類は140,000円から100,000円へと改められます。

ただし一度に動かすわけではありません。改正の実施は平成32年10月1日からで、発泡性酒類は平成32年10月1日、平成35年10月1日、平成38年10月1日の三段階、醸造酒類は平成32年10月1日と平成35年10月1日の二段階に分けて進めることとされました。

あわせて酒類の定義も見直されました。ビールについては、麦芽の重量の100分の5を超えない範囲で果実や一定の香味料を原料に加えられることとし、麦芽比率の下限を100分の50以上(現行では100分の67以上)に引き下げます。いわゆる「新ジャンル」は、平成35年10月1日から発泡酒の品目に分類されます。

外国子会社合算税制を税率から実体へ切り替える

いわゆる「外国子会社合算税制」は、海外子会社にためた所得を日本の親会社の所得に合算して課税する仕組みです。この年度の見直しで、判定の入口が大きく変わりました。

これまで対象を絞り込んでいた租税負担割合基準が廃止されます。代わりに、事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準・非関連者基準を「経済活動基準」と呼び直したうえで、そのいずれかを満たさない外国関係会社を会社単位の合算課税の対象とすることとされました。事業の実体があるかどうかで見る形です。

そのうえで、事務負担に配慮した適用免除が置かれています。外国関係会社の「租税負担割合」が20%以上であれば会社単位の合算課税は適用されません。ただし、実体を伴わない会社や、資産に対する受動的な所得の割合が高い会社、租税に関する情報の交換に非協力的な国・地域に本店等を有する会社については、この免除の基準が30%以上に引き上げられます。適用は、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度からです。

資産課税と災害への対応

国外財産と相続税

国外に住んでいる日本国籍の相続人等について、国外財産が相続税の課税対象外とされる要件が、被相続人等と相続人等がいずれも相続開始前10年(現行では5年)以内に国内に住所を有したことがないことへと改められました。一方で、在留資格をもって一時的に滞在している方については、国内財産のみを課税対象とします。贈与税も同じ扱いで、平成29年4月1日以後に取得する財産から適用されます。

高層マンションの固定資産税

高さが60メートルを超える建築物、つまり建築基準法令上の「超高層建築物」のうち複数の階に住戸があるものを「居住用超高層建築物」と定め、その固定資産税額を各区分所有者に按分する際の専有部分の床面積を「階層別専有床面積補正率」で補正することとしました。補正率は1階を100とし、階が一つ上がるごとに10を39で除した数を加えた数値です。不動産取得税も同じ考え方で補正されます。対象は平成30年度から新たに課税されることとなる建物です。

災害への税制上の対応

災害に関する規定は、個人所得課税から資産課税、法人課税、消費課税まで各章に置かれました。納税環境整備では、災害等による期限延長制度について、国税庁長官が対象者の範囲及び期日を指定して期限を延長できることとされています。

ご自身に関係があるかを見分けるには

  • 配偶者の収入を意識して働く時間を調整してきた方は、配偶者特別控除の対象が合計所得金額123万円以下まで広がった点をご覧ください。
  • ご自身の合計所得金額が900万円を超える方は、控除額が段階的に下がり、1,000万円を超えると使えなくなる点にご注意ください。
  • 仮想通貨を売買している事業者の方は、平成29年7月1日以後の譲渡が消費税の非課税となること、同年6月30日時点の保有に関する経過措置をご確認ください。
  • 研究開発を続けている会社、給与を引き上げた会社、設備投資を予定している中小企業の方は、法人課税の章の三つの制度を並べてご検討ください。
  • 海外に子会社を持つ会社の方は、税率の高さで対象外としてきた判断が経済活動基準で変わりうるため、平成30年4月1日以後開始事業年度に向けた確認が必要です。
  • 国外に住むご家族への相続や贈与を考えている方は、資産課税の章の納税義務の見直しをご確認ください。
  • 高層マンションの購入を検討している方は、階層による補正の対象になるかどうかを、売買契約の時期とあわせてご確認ください。

出所

  • 「平成29年度税制改正の大綱」(平成28年12月22日 閣議決定)

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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