条文の定義
「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」
所得税法28条は、給与所得をこのように定義しています。この給与所得と一時所得(所得税法34条)のいずれに当たるかは、外国親会社ストックオプションの権利行使益をめぐって2000年代前半に訴訟となりました。
骨格
| 論点 | 条文・通達・判例の定め |
|---|---|
| 所得区分の根拠条文 | 所得税法28条・所得税法34条 |
| 給与所得該当性の判例 | 最判平成17年1月25日(平成16年(行ヒ)第141号) |
| 加算税「正当な理由」(国税通則法65条)の判例 | 最判平成18年10月24日(平成17年(行ヒ)第20号)・最判平成18年11月16日(平成17年(行ヒ)第96号) |
| 所得区分の現行通達(昭49~令2改正) | 所得税基本通達23〜35共-6 |
最高裁は何を「給与所得」と判断したのか
米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与されたストックオプションを行使して得た利益について、最高裁判所第三小法廷は平成17年1月25日に判決を言い渡しました(平成16年(行ヒ)第141号)。判示事項は次のとおりです。
「米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与されたいわゆるストックオプションを行使して得た利益が所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとされた事例」
裁判所が公表している裁判要旨は次のとおりです。
「米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が,親会社である米国法人から親会社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利(いわゆるストックオプション)を付与されてこれを行使し,権利行使時点における親会社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得た場合において,上記権利は,親会社が同社及びその子会社の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けた制度に基づき付与されたものであること……上記制度に基づき付与された権利については,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされていることなど判示の事情の下においては,同代表取締役が上記権利を行使して得た利益は,所得税法28条1項所定の給与所得に当たる。」
裁判要旨は「判示の事情の下においては」給与所得に当たると述べており、示された事実関係を離れて権利行使益一般が給与所得に当たると述べているものではありません。
加算税の「正当な理由」はどのように認められたのか
勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告し、後に給与所得該当を理由に増額更正を受けた事案では、国税通則法65条にいう「正当な理由」の有無が別に争われました。最高裁判所第三小法廷 平成18年10月24日判決(平成17年(行ヒ)第20号)と最高裁判所第一小法廷 平成18年11月16日判決(平成17年(行ヒ)第96号)は判示事項・裁判要旨とも同一の文言です。判示事項は次のとおりです。
「納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したことにつき国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとされた事例」
裁判所が公表している裁判要旨は次のとおりです。
「……において,(1)外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションに係る課税上の取扱いに関しては,法令上特別の定めが置かれていないところ,課税庁においては,かつて,上記ストックオプションの権利行使益を一時所得として取り扱い,課税庁の職員が監修等をした公刊物でもその旨の見解が述べられていたこと,(2)課税庁においては,平成10年分の所得税の確定申告の時期以降,上記の課税上の取扱いを変更し,給与所得として統一的に取り扱うようになったが,その変更をした時点では通達によりこれを明示することなく,平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したこと,(3)上記ストックオプションの権利行使益の所得区分に関する所得税法の解釈問題については,一時所得とする見解にも相応の論拠があったことなど判示の事情の下では,納税者が前記権利行使益を一時所得として申告し,同権利行使益が給与所得に当たるものとしては税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」がある。」
所得税法は給与所得と一時所得をどう区分しているか
所得税法34条は一時所得を次のように定めています。
「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」
一時所得は、給与所得を含む他の各種所得のいずれにも該当しないことを前提とした所得です。前記の平成18年判決の裁判要旨(1)は、平成11年分当時、外国法人である親会社から付与されたストックオプションの課税上の取扱いについて法令上特別の定めが置かれていなかったと述べています。発行法人から一定の権利を与えられた場合の収入金額については、所得税法施行令84条に定めがあります。
通達はいつ、何を書いたのか
前記の平成18年判決の裁判要旨は、課税庁が取扱いを変更した時点では通達によりこれを明示せず、「平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記した」と述べています。所得税基本通達23〜35共-6の柱書の直後には、次の改正の表示があります。
「(昭49直所2-23、平8課法8-2、課所4-5、平10課法8-2、課所4-5、平14課個2-5、課資3-3、課法8-3、課審3-118、平18課個2-18、課資3-10、課審4-114、平28課個2-22、課審5-18、令元課個2-22、課法11-3、課審5-12、令2課個2-12、課法11-3、課審5-6改正)」
この改正の表示には「平14課個2-5、課資3-3、課法8-3、課審3-118」という項目があります。裁判要旨の(2)における上記の記載と、この項目の存在を、ここでは並べて示すにとどめます。この表示が裁判要旨のいう平成14年6月の改正を指すかどうかは、本稿では断定しません。
いま条文・通達はどうなっているか
所得税基本通達23〜35共-6は次のように定めています。
「令第84条第3項第1号又は第2号に掲げる権利を与えられた者がこれを行使した場合 発行法人(外国法人を含む。)と当該権利を与えられた者との関係等に応じ、それぞれ次による。」
「イ 発行法人と権利を与えられた者との間の雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利が与えられたと認められるとき 給与所得とする。……(注)例えば、措置法第29条の2第1項((特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等))に規定する「取締役等」の関係については、雇用契約又はこれに類する関係に該当することに留意する。」
「ロ 権利を与えられた者の営む業務に関連して当該権利が与えられたと認められるとき 事業所得又は雑所得とする。」
「ハ イ及びロ以外のとき 原則として雑所得とする。」
現行の通達は、発行法人との関係を雇用契約又はこれに類する関係(イ)、業務に関連するもの(ロ)、それ以外(ハ)の3つに分けています。イの(注)は、租税特別措置法上の「取締役等」の関係が雇用契約又はこれに類する関係に該当すると明記しています。外国親会社ストックオプションに固有の課税関係は外国親会社ストックオプションの課税関係で扱います。
実務で迷いが生じるところ
- 平成17年1月25日判決は「判示の事情の下においては」給与所得に当たるとした事例判断であり、個々の事案がどこまで同じ事情に当てはまるかは、判決文の事実関係と照らして確認する必要があります。
- 加算税に関する2件の判決も、法令上の定めの不存在・通達明記の時期・解釈上の論拠という3点を前提とした事例判断であり、他の事案にどこまで及ぶかは通達の記載状況と申告時期を個別に確認する必要があります。
- 所得税基本通達23〜35共-6の改正表示の各項目が具体的にどの改正内容に対応するかは、国税庁の改正文書に当たって確認する必要があります。
根拠条文
- 所得税法第28条第1項(給与所得)/引用した文言:「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」
- 所得税法第34条第1項(一時所得)/引用した文言:「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」
根拠となる通達・Q&A・裁判例
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)/引用した文言:「令第84条第3項第1号又は第2号に掲げる権利を与えられた者がこれを行使した場合 発行法人(外国法人を含む。)と当該権利を与えられた者との関係等に応じ、それぞれ次による。」
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)イ/引用した文言:「発行法人と権利を与えられた者との間の雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利が与えられたと認められるとき 給与所得とする。ただし、退職後に当該権利の行使が行われた場合において、例えば、権利付与後短期間のうちに退職を予定している者に付与され、かつ、退職後長期間にわたって生じた株式の値上り益に相当するものが主として供与されているなど、主として職務の遂行に関連を有しない利益が供与されていると認められるときは、雑所得とする。(注)例えば、措置法第29条の2第1項((特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等))に規定する「取締役等」の関係については、雇用契約又はこれに類する関係に該当することに留意する。」
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)ロ/引用した文言:「権利を与えられた者の営む業務に関連して当該権利が与えられたと認められるとき 事業所得又は雑所得とする。」
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)ハ/引用した文言:「イ及びロ以外のとき 原則として雑所得とする。」
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)改正表示/引用した文言:「(昭49直所2-23、平8課法8-2、課所4-5、平10課法8-2、課所4-5、平14課個2-5、課資3-3、課法8-3、課審3-118、平18課個2-18、課資3-10、課審4-114、平28課個2-22、課審5-18、令元課個2-22、課法11-3、課審5-12、令2課個2-12、課法11-3、課審5-6改正)」
- 最高裁判所第三小法廷 平成17年1月25日判決(平成16年(行ヒ)第141号)/判示事項の引用:「米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与されたいわゆるストックオプションを行使して得た利益が所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとされた事例」
- 最高裁判所第三小法廷 平成17年1月25日判決(平成16年(行ヒ)第141号)/裁判要旨の引用:「米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が,親会社である米国法人から親会社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利(いわゆるストックオプション)を付与されてこれを行使し,権利行使時点における親会社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得た場合において,上記権利は,親会社が同社及びその子会社の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けた制度に基づき付与されたものであること,親会社は,上記代表取締役が勤務する子会社の発行済み株式の100%を有してその役員の人事権等の実権を握り,同代表取締役は親会社の統括の下に子会社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができ,親会社は同代表取締役が上記のとおり職務を遂行しているからこそ上記権利を付与したものであること,上記制度に基づき付与された権利については,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされていることなど判示の事情の下においては,同代表取締役が上記権利を行使して得た利益は,所得税法28条1項所定の給与所得に当たる。」
- 最高裁判所第三小法廷 平成18年10月24日判決(平成17年(行ヒ)第20号)/判示事項の引用:「納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したことにつき国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとされた事例」
- 最高裁判所第三小法廷 平成18年10月24日判決(平成17年(行ヒ)第20号)/裁判要旨の引用:「納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したところ,同権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正がされた場合において,(1)外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションに係る課税上の取扱いに関しては,法令上特別の定めが置かれていないところ,課税庁においては,かつて,上記ストックオプションの権利行使益を一時所得として取り扱い,課税庁の職員が監修等をした公刊物でもその旨の見解が述べられていたこと,(2)課税庁においては,平成10年分の所得税の確定申告の時期以降,上記の課税上の取扱いを変更し,給与所得として統一的に取り扱うようになったが,その変更をした時点では通達によりこれを明示することなく,平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したこと,(3)上記ストックオプションの権利行使益の所得区分に関する所得税法の解釈問題については,一時所得とする見解にも相応の論拠があったことなど判示の事情の下では,納税者が前記権利行使益を一時所得として申告し,同権利行使益が給与所得に当たるものとしては税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」がある。」
- 最高裁判所第一小法廷 平成18年11月16日判決(平成17年(行ヒ)第96号)/判示事項の引用:「納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したことにつき国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとされた事例」
- 最高裁判所第一小法廷 平成18年11月16日判決(平成17年(行ヒ)第96号)/裁判要旨の引用:「納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したところ,同権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正がされた場合において,(1)外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションに係る課税上の取扱いに関しては,法令上特別の定めが置かれていないところ,課税庁においては,かつて,上記ストックオプションの権利行使益を一時所得として取り扱い,課税庁の職員が監修等をした公刊物でもその旨の見解が述べられていたこと,(2)課税庁においては,平成10年分の所得税の確定申告の時期以降,上記の課税上の取扱いを変更し,給与所得として統一的に取り扱うようになったが,その変更をした時点では通達によりこれを明示することなく,平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したこと,(3)上記ストックオプションの権利行使益の所得区分に関する所得税法の解釈問題については,一時所得とする見解にも相応の論拠があったことなど判示の事情の下では,納税者が前記権利行使益を一時所得として申告し,同権利行使益が給与所得に当たるものとしては税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」がある。」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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