条文の定義
外国の親会社が日本子会社の役職員に付与するストックオプションも、権利行使益の所得区分は所得税法28条の給与所得の定義から出発します。
「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」
外国親会社ストックオプションの権利行使益は、給与所得に当たるか一時所得に当たるかが長く争われ、最高裁まで争われた事案があります。
骨格
| 論点 | 条文・通達の定め |
|---|---|
| 給与所得の定義 | 所得税法28条 |
| 株式等を取得する権利の所得区分 | 所得税基本通達23〜35共-6 |
| 発行法人に外国法人を含むことの明記 | 同通達(1)の本文 |
| 措置法29条の2の「取締役等」と雇用契約類似関係との対応 | 同通達の(注) |
| 支配関係のある親会社等からの付与の所得区分 | 国税庁Q&A(注1) |
| 給与所得と判断した判決 | 最高裁平成17年1月25日判決 |
| 「正当な理由」を認めた判決 | 最高裁平成18年10月24日判決・平成18年11月16日判決 |
| 税制適格の前提となる新株予約権の要件 | 租税特別措置法29条の2 |
最高裁は、外国親会社から付与されたストックオプションの権利行使益をどう判断したか
最判平成17年1月25日(平成16年(行ヒ)第141号・最高裁判所第三小法廷・棄却・民集第59巻1号64頁・原審 東京高等裁判所平成15年(行コ)第235号)は、米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与されたストックオプションの権利行使益の所得区分を判断しました。参照法条は所得税法28条・所得税法34条です。裁判所が公表している裁判要旨は次のとおりです。
「米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が,親会社である米国法人から親会社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利(いわゆるストックオプション)を付与されてこれを行使し,権利行使時点における親会社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得た場合において,上記権利は,親会社が同社及びその子会社の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けた制度に基づき付与されたものであること,親会社は,上記代表取締役が勤務する子会社の発行済み株式の100%を有してその役員の人事権等の実権を握り,同代表取締役は親会社の統括の下に子会社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができ,親会社は同代表取締役が上記のとおり職務を遂行しているからこそ上記権利を付与したものであること,上記制度に基づき付与された権利については,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされていることなど判示の事情の下においては,同代表取締役が上記権利を行使して得た利益は,所得税法28条1項所定の給与所得に当たる。」
裁判要旨は「判示の事情の下においては」給与所得に当たると述べているのであって、外国親会社から付与されたストックオプションの権利行使益が常に給与所得に当たると述べているのではありません。
通達は、発行法人が外国法人である場合をどう位置付けているか
所得税基本通達23〜35共-6は、次の柱書を置いています。
「発行法人から令第84条第3項各号に掲げる権利を与えられた場合(……)の当該権利の行使による株式(……)の取得に係る所得区分は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。」
この柱書に続けて、同通達は次のように定めています。
「(1)令第84条第3項第1号又は第2号に掲げる権利を与えられた者がこれを行使した場合 発行法人(外国法人を含む。)と当該権利を与えられた者との関係等に応じ、それぞれ次による。」
発行法人に外国法人を含むことは、柱書ではなく、この部分に明記されています。
同通達は、雇用契約又はこれに類する関係に基因して権利が与えられたと認められるときは給与所得とするとしたうえで、次の(注)を置いています。
「例えば、措置法第29条の2第1項((特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等))に規定する「取締役等」の関係については、雇用契約又はこれに類する関係に該当することに留意する。」
この(注)は、税制適格ストックオプションの要件である「取締役等」の関係が、雇用契約又はこれに類する関係に当たることを示しています。
支配関係のある親会社等からの付与について、国税庁のQ&Aは何と説明しているか
国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』は、税制非適格ストックオプションの行使益について「……そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得(注)として所得税の課税対象とされます(所令 84③)。」としたうえで、(注1)として次のように説明しています。
「支配関係のある親会社等から労務の対価として付与されたストックオプションに係る経済的利益についても、給与所得に区分されます。」
支配関係のある親会社等からの付与であることと、労務の対価としての付与であることの両方が、この説明の要素になっています。
加算税は、平成18年の2つの判決でどう判断されたか
最判平成18年10月24日(平成17年(行ヒ)第20号・第三小法廷・民集第60巻8号3128頁)と最判平成18年11月16日(平成17年(行ヒ)第96号・第一小法廷・集民第222号243頁)は、平成11年分の確定申告で外国法人である親会社から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告し、給与所得に当たるとして増額更正がされた事案の加算税について、「正当な理由」の有無を判断しました。両判決の裁判要旨は同一の文言です。裁判要旨の全文と、所得税基本通達23〜35共-6の柱書の直後にある改正の表示はストックオプション訴訟(給与所得か一時所得か)に整理があります。
税制適格ストックオプションになりうるか
租税特別措置法29条の2は、次のように定めています。
「会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第二項の決議……により新株予約権……を与えられる者とされた当該決議(以下この条において「付与決議」という。)のあつた株式会社……の取締役、執行役若しくは使用人である個人……が、当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権……を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」
この柱書は、会社法238条の決議により新株予約権を与えられた者とされた決議のあった株式会社を起点にしています。要件の全体は税制適格ストックオプションとはをご参照ください。
実務で迷いが生じるところ
- 裁判要旨が挙げる事情への当てはめは、精勤の動機付けの制度設計、親会社の株式保有割合と人事権の所在、職務遂行の実態、権利の行使・譲渡制限の内容を、事案ごとに確認する必要があります。
- 加算税の「正当な理由」を認めた平成18年の2つの判決は、平成11年分の確定申告という当時の事情を前提にしています。その後の年分に同じ理由が及ぶかは、個別に確認する必要があります。
- 税制適格ストックオプションとなるかどうかは、租税特別措置法29条の2の要件を個別に確認する必要があります。給与所得と判断された場合の源泉徴収はストックオプションと源泉徴収・法定調書、被付与者が非居住者になった場合の扱いは非居住者・出国とストックオプションをご参照ください。
根拠条文
- 所得税法第28条第1項(給与所得)/引用した文言:「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」
- 所得税法第34条第1項(一時所得)/条文の所在のみを示し、本文からの引用は行っていない。
- 租税特別措置法第29条の2第1項(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)/引用した文言:「会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第二項の決議(同法第二百三十九条第一項の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項の規定による取締役会の決議を含む。)により新株予約権(政令で定めるものに限る。以下この項において「新株予約権」という。)を与えられる者とされた当該決議(以下この条において「付与決議」という。)のあつた株式会社若しくは当該株式会社がその発行済株式(議決権のあるものに限る。)若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式(議決権のあるものに限る。)若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役若しくは使用人である個人……が、当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権(当該新株予約権に係る契約において、次に掲げる要件(当該新株予約権が当該取締役等に対して与えられたものである場合には、第一号から第六号までに掲げる要件)が定められているものに限る。以下この条において「特定新株予約権」という。)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。」
根拠となる通達・Q&A・裁判例
- 所得税基本通達23〜35共-6(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)/引用した文言:「発行法人(外国法人を含む。)と当該権利を与えられた者との関係等に応じ、それぞれ次による。」「例えば、措置法第29条の2第1項((特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等))に規定する「取締役等」の関係については、雇用契約又はこれに類する関係に該当することに留意する。」
- 国税庁『ストックオプションに対する課税(Q&A)』令和6年11月最終改訂 問1・問2・問3・問6共通の前置き(注1)/引用した文言:「勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得(注)として所得税の課税対象とされます(所令 84③)。」「支配関係のある親会社等から労務の対価として付与されたストックオプションに係る経済的利益についても、給与所得に区分されます。」
- 最高裁判所第三小法廷 平成17年1月25日判決(平成16年(行ヒ)第141号)/裁判要旨の引用:「米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が,親会社である米国法人から親会社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利(いわゆるストックオプション)を付与されてこれを行使し,権利行使時点における親会社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得た場合において,上記権利は,親会社が同社及びその子会社の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けた制度に基づき付与されたものであること,親会社は,上記代表取締役が勤務する子会社の発行済み株式の100%を有してその役員の人事権等の実権を握り,同代表取締役は親会社の統括の下に子会社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができ,親会社は同代表取締役が上記のとおり職務を遂行しているからこそ上記権利を付与したものであること,上記制度に基づき付与された権利については,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされていることなど判示の事情の下においては,同代表取締役が上記権利を行使して得た利益は,所得税法28条1項所定の給与所得に当たる。」
- 最高裁判所第三小法廷 平成18年10月24日判決(平成17年(行ヒ)第20号)/裁判要旨の引用は行っていない。
- 最高裁判所第一小法廷 平成18年11月16日判決(平成17年(行ヒ)第96号)/裁判要旨の引用は行っていない。
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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