条文の定義
法人が持っている暗号資産を売ったとき、その損益はどの事業年度に計上するのか。定めているのは法人税法61条1項です。同条は「短期売買商品等」という枠をつくり、その中に暗号資産を入れています。
「内国法人が短期売買商品等(短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した資産として政令で定めるもの(有価証券を除く。)及び資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産(以下この条において「暗号資産」という。)をいう。以下この条において同じ。)の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額(第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が第一号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は、第六十二条から第六十二条の五まで(合併等による資産の譲渡)の規定の適用がある場合を除き、その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」
一文が長いので身構えますが、骨は単純です。暗号資産を譲渡したら、譲渡利益額または譲渡損失額を、「その譲渡に係る契約をした日」の属する事業年度の益金の額または損金の額に算入します。
「短期売買商品等」の前半には「短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した資産」という目的の条件が付いていますが、暗号資産のほうには付いていません。どういうつもりで取得したかにかかわらず、法人が持つ暗号資産はこの条文の対象になります。その意味は資金決済に関する法律2条14項の定義を借りています(税法は「暗号資産」をどう定義しているのか)。
骨格
| 論点 | 条文の定め |
|---|---|
| 計上する事業年度 | 「その譲渡に係る契約をした日」の属する事業年度です。受渡しの日ではありません。 |
| その例外 | 譲渡が「剰余金の配当その他の財務省令で定める事由」によるものであるときは、「当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日」によります。 |
| 適用が外れる場合 | 「第六十二条から第六十二条の五まで(合併等による資産の譲渡)の規定の適用がある場合」は、61条1項の対象から除かれます。 |
| 金額の計算 | 1号は「通常得べき対価の額」、2号は選定した一単位当たりの帳簿価額の算出の方法による金額に譲渡数量を乗じた金額です。 |
| 売っていないのに譲渡とみなす場合 | 法人税法61条6項と同施行令118条の11が、区分が変わったときのみなし譲渡を定めています。 |
計上するのは「契約をした日」
61条1項が「その譲渡に係る契約をした日」とわざわざ書いているのは、受渡しの日ではないと条文の側で決めておくためです。売買の約定と、暗号資産や代金が実際に動く日はずれることがあり、そのずれが事業年度をまたぐと、損益の入る事業年度が1年変わります。
条文が採ったのは、契約をした日のほうです。3月決算の法人が3月末に売却の契約をして受渡しが翌期になったとしても、文言に従うかぎり、損益は3月期に算入することになります。
括弧の中には例外があります。その譲渡が「剰余金の配当その他の財務省令で定める事由」によるものである場合には、「当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日」が基準です。契約という形をとらずに資産が動く場面のために、別の日を用意したということです。その事由と日は財務省令に委ねられており、原文はこの記事では確認していません。
譲渡損益はどう計算するのか
金額は1号と2号の引き算です。1号が2号を超えればその超える部分が譲渡利益額、逆であればその超える部分が譲渡損失額になります。
1号は「その短期売買商品等の譲渡の時における有償によるその短期売買商品等の譲渡により通常得べき対価の額」です。実際にいくら受け取ったか、という書き方ではありません。有償で譲渡したとすれば通常得られるはずの額、が基準です。
2号は「その短期売買商品等の譲渡に係る原価の額」で、中身は括弧書きにあります。「一単位当たりの帳簿価額の算出の方法により算出した金額」に、譲渡した数量を乗じた金額です。次の論点は、その単価の出し方になります。
譲渡に係る原価の額は、どこから出てくるのか
一単位当たりの帳簿価額の算出の方法は、法人税法施行令118条の6第1項が2つ定めています。1号が移動平均法、2号が総平均法です。届け出て選びますが、選定しなかった場合などは法定の方法によります。同条8項は「法第六十一条第一項第二号に規定する政令で定める方法は、第一項第一号に掲げる移動平均法とする。」としていますので、届出をしていない法人は移動平均法です。
選定の単位も決まっています。同条4項は「その種類等ごとに、かつ、暗号資産については第二項の暗号資産の区分ごとに選定しなければならない。」としています。2項の区分は、1号が特定譲渡制限付暗号資産で自己発行暗号資産でないもの、2号が特定譲渡制限付暗号資産で自己発行暗号資産であるもの、3号が特定自己発行暗号資産、4号がそれ以外です。
出発点になる取得価額は、法人税法施行令118条の5が3つに分けています。
| 区分 | 取得価額 |
|---|---|
| 1号 購入したもの | 「その購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該短期売買商品等の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」です。 |
| 2号 自己が発行することにより取得したもの(暗号資産に限る) | 「その発行のために要した費用の額」です。 |
| 3号 前2号以外のもの | 「その取得の時におけるその短期売買商品等の取得のために通常要する価額」です。 |
区分が変わると譲渡があったものとみなされる
61条には、売買をしていないのに譲渡があったものとみなす規定もあります。6項です。
「内国法人が暗号資産を自己の計算において有する場合において、その暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなつたことその他の政令で定める事実が生じたときは、政令で定めるところにより、その暗号資産を譲渡し、かつ、その暗号資産を取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」
その「政令で定める事実」を列挙するのが法人税法施行令118条の11第1項です。号が入り組んでいるので表にします。鍵は2つです。期中のいずれかの時に市場暗号資産に該当していたかで2号と3号に分かれること(条文はその該当していたものを「二号暗号資産」と呼びます)。みなす価額が同条2項と3項の2通りあることです。
| 施行令118条の11第1項の号 | 生じた事実 | みなす価額 |
|---|---|---|
| 1号 | 有する暗号資産が「特定自己発行暗号資産に該当しないこととなつたこと」です。 | 2項。直前の帳簿価額です。 |
| 2号イ | 二号暗号資産が「特定譲渡制限付暗号資産に該当することとなつたこと」です。 | 3項。直近売買価格等公表日の価格です。 |
| 2号ロ | 二号暗号資産が特定譲渡制限付暗号資産に該当しないこととなったことのうち、期中に時価法選定特定譲渡制限付暗号資産であった場合です。 | 3項。直近売買価格等公表日の価格です。 |
| 2号ハ | 「その暗号資産がその評価の方法の変更により時価法選定特定譲渡制限付暗号資産に該当しないこととなつたこと。」です。 | 3項。事業年度終了の時における、直近売買価格等公表日の価格です。 |
| 2号ニ | 二号暗号資産が特定譲渡制限付暗号資産に該当しないこととなったことのうち、ロに当たらないものです。 | 2項。直前の帳簿価額です。 |
| 3号イ | 二号暗号資産に該当しない暗号資産が「特定譲渡制限付暗号資産に該当することとなつたこと」です。 | 2項。直前の帳簿価額です。 |
| 3号ロ | 二号暗号資産に該当しない暗号資産が「特定譲渡制限付暗号資産に該当しないこととなつたこと」です。 | 2項。直前の帳簿価額です。 |
| 4号 | 有する暗号資産が、その事業年度の期間内のいずれかの時において「市場暗号資産に該当しないこととなつたこと」です。 | 3項。事業年度終了の時における、直近売買価格等公表日の価格です。 |
2項と3項の違いは金額に直結します。2項は「その暗号資産をその時の直前の帳簿価額により譲渡し、かつ、その暗号資産をその帳簿価額により取得したものとみなして」と定めますので、同じ金額で売って買い直した形になり、損益が動きません。3項は直近売買価格等公表日の価格でみなしますので、帳簿価額との差額が所得の金額の計算に入ります。
いずれも、外形的には何の取引も起きていません。その日を自分で拾わないと、計上に気づけない作りです。
個人の場合と、どこが違うのか
個人では、所得税法48条の2と所得税法施行令119条の2以下が同じ役割を担います。似ていますが、そろっていません。
- 法定の方法が逆です。法人は届出をしなかった場合が移動平均法(法人税法施行令118条の6第8項)、個人は「総平均法により算出した取得価額による評価の方法」です(所得税法施行令119条の5第1項)。
- 取得価額の書きぶりが違います。個人は「その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」ですが、法人は引取運賃や関税までが並びます。
- 区切りの時点が違います。個人はその年の12月31日、法人は事業年度終了の時です。
個人の取得価額は個人が持つ暗号資産の取得価額は、どう決まるのかで扱っています。なお61条は、譲渡損益(1項)とは別に、期末に時価で評価して評価益・評価損を計上する仕組み(2項・3項)を同じ条文の中に持っています。
実務で迷いが生じるところ
- 約定の日と受渡しの日が事業年度をまたぐときです。記帳が受渡しの日で動いていると、期末近くの取引だけが条文とずれます。
- その譲渡が「剰余金の配当その他の財務省令で定める事由」に当たるかどうかです。当たれば、基準になる日が変わります。
- 暗号資産を別の暗号資産に交換したときです。取得の側では、法人税法施行令118条の6第6項1号が、購入・売却・交換の際に一時的に必要なこれら以外の暗号資産の取得を「取得」に含めないと定めています。
- 制限付きのトークンや自己発行のトークンを持っている場合です。売買がなくても、区分が変わった日に譲渡があったものとみなされます。その日を拾う担当が決まっているかどうかで、漏れやすさが変わります。
- 一単位当たりの帳簿価額の算出の方法を届け出ているかどうかです。届け出ていなければ移動平均法です。種類等ごと、かつ暗号資産の区分ごとに選ぶ点も見落とされやすいところです。
- 1項の譲渡損益と、2項・3項の期末の時価評価損益が混ざることです。どちらを計算しているのかを分けないと、二重に拾ったり片方を落としたりします。
根拠条文
- 法人税法 第六十一条(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)第一項/引用した文言:「その譲渡に係る譲渡利益額(第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が第一号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は、第六十二条から第六十二条の五まで(合併等による資産の譲渡)の規定の適用がある場合を除き、その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」
- 法人税法 第六十一条第一項第一号(同上)/引用した文言:「その短期売買商品等の譲渡の時における有償によるその短期売買商品等の譲渡により通常得べき対価の額」
- 法人税法 第六十一条第一項第二号(同上)/引用した文言:「その短期売買商品等の譲渡に係る原価の額(その短期売買商品等についてその内国法人が選定した一単位当たりの帳簿価額の算出の方法により算出した金額(算出の方法を選定しなかつた場合又は選定した方法により算出しなかつた場合には、算出の方法のうち政令で定める方法により算出した金額)にその譲渡をした短期売買商品等の数量を乗じて計算した金額をいう。)」
- 法人税法 第六十一条第六項(同上)/引用した文言:「内国法人が暗号資産を自己の計算において有する場合において、その暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなつたことその他の政令で定める事実が生じたときは、政令で定めるところにより、その暗号資産を譲渡し、かつ、その暗号資産を取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」
- 法人税法施行令 第118条の5第1号(短期売買商品等の取得価額)/引用した文言:「その購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該短期売買商品等の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」
- 法人税法施行令 第118条の5第2号(同上)/引用した文言:「その発行のために要した費用の額」
- 法人税法施行令 第118条の5第3号(同上)/引用した文言:「その取得の時におけるその短期売買商品等の取得のために通常要する価額」
- 法人税法施行令 第118条の6第1項(短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法及びその選定の手続等)/引用した文言:「短期売買商品等の譲渡に係る原価の額を計算する場合におけるその一単位当たりの帳簿価額の算出の方法は、次に掲げる方法とする。」
- 法人税法施行令 第118条の6第2項(同上)/引用した文言:「前項各号の種類等は、暗号資産にあつては、次に掲げる暗号資産のいずれかに区分した後のそれぞれの種類とする。」
- 法人税法施行令 第118条の6第4項(同上)/引用した文言:「短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法は、その種類等ごとに、かつ、暗号資産については第二項の暗号資産の区分ごとに選定しなければならない。」
- 法人税法施行令 第118条の6第6項第1号(同上)/引用した文言:「暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得」
- 法人税法施行令 第118条の6第8項(同上)/引用した文言:「法第六十一条第一項第二号に規定する政令で定める方法は、第一項第一号に掲げる移動平均法とする。」
- 法人税法施行令 第118条の11第1項(暗号資産の区分変更等によるみなし譲渡)/引用した文言:「法第六十一条第六項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)に規定する政令で定める事実は、次に掲げる事実とする。」
- 法人税法施行令 第118条の11第1項第1号(同上)/引用した文言:「法第六十一条第六項の内国法人の有する暗号資産が特定自己発行暗号資産(同条第二項第一号ロに規定する特定自己発行暗号資産をいう。以下この項において同じ。)に該当しないこととなつたこと。」
- 法人税法施行令 第118条の11第1項第2号(同上)/引用した文言:「イその暗号資産が特定譲渡制限付暗号資産(法第六十一条第二項第一号イに規定する特定譲渡制限付暗号資産をいう。以下この項において同じ。)に該当することとなつたこと。」
- 法人税法施行令 第118条の11第1項第2号ハ(同上)/引用した文言:「その暗号資産がその評価の方法の変更により時価法選定特定譲渡制限付暗号資産に該当しないこととなつたこと。」
- 法人税法施行令 第118条の11第1項第3号(同上)/引用した文言:「法第六十一条第六項の内国法人の有する暗号資産であつて二号暗号資産に該当しないものについて生じた次に掲げる事実」
- 法人税法施行令 第118条の11第1項第4号(同上)/引用した文言:「法第六十一条第六項の内国法人の有する暗号資産がその事業年度の期間内のいずれかの時において市場暗号資産に該当しないこととなつたこと」
- 法人税法施行令 第118条の11第2項(同上)/引用した文言:「その事実が生じた時において、その暗号資産をその時の直前の帳簿価額により譲渡し、かつ、その暗号資産をその帳簿価額により取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」
- 法人税法施行令 第118条の11第3項(同上)/引用した文言:「その事実が生じた時(同項第二号(ハに係る部分に限る。)又は第四号に掲げる事実が生じた場合には、その事実が生じた時の属する事業年度終了の時)において」
- 資金決済に関する法律 第二条第十四項(定義)/引用した文言:「この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。」
- 所得税法施行令 第119条の5第1項(暗号資産の法定評価方法)/引用した文言:「第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする。」
- 所得税法施行令 第119条の6第1項第1号(暗号資産の取得価額)/引用した文言:「その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

