条文の定義
法人が事業年度末に持っている暗号資産を、時価で評価し直すのか、買ったときの値のままにしておくのか。この分かれ道は、その暗号資産が「市場暗号資産」に当たるかどうかで決まります。まず、その言葉が出てくる法人税法61条2項1号を見ます。
「短期売買商品等(暗号資産にあつては、市場暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものをいう。次号において同じ。)に限るものとし、次に掲げるものを除く。)」
時価法で評価するのは、暗号資産については市場暗号資産に限る、と書かれています。そして、その市場暗号資産とは何かを、法律は自分では決めていません。「活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるもの」と書いて、中身を政令に預けています。預かった先が、法人税法施行令118条の7第1項です。
「法第六十一条第二項第一号(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)に規定する活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものは、内国法人が有する暗号資産のうち次に掲げる要件の全てに該当するものとする。」
「活発な市場」という言葉自体の定義は、どこにもありません。あるのは、この後に続く3つの要件だけです。「次に掲げる要件の全てに該当するもの」とされていますから、1つでも欠ければ市場暗号資産になりません。順に読みます。
「一継続的に売買の価格(他の暗号資産との交換の比率(次条第一項第四号において「交換比率」という。)を含む。以下この項及び同条第一項第三号において「売買価格等」という。)の公表がされ、かつ、その公表がされる売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。」
「二継続的に前号の売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。」
「三次に掲げる要件のいずれかに該当すること。イ第一号の売買価格等の公表が当該内国法人以外の者によりされていること。ロ前号の取引が主として当該内国法人により自己の計算において行われた取引でないこと。」
骨格
| 論点 | 条文の定め |
|---|---|
| 言葉の出どころ | 法人税法61条2項1号が、時価法の対象を暗号資産については「市場暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものをいう。次号において同じ。)」に限っています。 |
| 中身を決める条文 | 法人税法施行令118条の7第1項です。法律は要件を書かず、政令に委ねています。 |
| 判定の対象 | 「内国法人が有する暗号資産のうち」と書かれています。 |
| 要件の数え方 | 3つあり、「次に掲げる要件の全てに該当するもの」とされています。全部そろって初めて市場暗号資産です。 |
| 要件1(1号) | 継続的に売買価格等の公表がされ、かつ、その公表される売買価格等が、その暗号資産の売買の価格または交換の比率の決定に重要な影響を与えていることです。 |
| 要件2(2号) | 継続的に1号の売買価格等の公表がされるために「十分な数量及び頻度」で取引が行われていることです。 |
| 要件3(3号) | イまたはロのいずれかに該当することです。イは公表が「当該内国法人以外の者によりされていること」、ロは2号の取引が「主として当該内国法人により自己の計算において行われた取引でないこと」です。 |
| 売買価格等の範囲 | 1号の括弧書きが「他の暗号資産との交換の比率」を含めています。円建ての価格だけを指すのではありません。 |
| 当たる場合 | 法人税法61条2項1号により、原則として時価法で評価します。ただし、同号イの特定譲渡制限付暗号資産と同号ロの特定自己発行暗号資産は、そこから除かれています。 |
| 当たらない場合 | 法人税法61条2項3号により、原価法で評価します。 |
要件1 価格が公表されていること
1号は長い一文ですが、「かつ」でつながれた2つの条件でできています。前半が売買価格等の公表について、後半が「その公表がされる売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること」についての条件です。
前半には「継続的に」が付いています。過去に一度どこかで値が付いた、という事実では足りない書き方です。後半はもう一歩進んで、公表されている値が実際の値決めに効いていることを求めています。誰かが数字を出しているだけでは足りず、その数字を見て売買の価格や交換の比率が決まっている、という関係が要ります。
ここで「売買価格等」という言葉の中身に注意が要ります。1号の括弧書きは、売買の価格に「他の暗号資産との交換の比率(次条第一項第四号において「交換比率」という。)を含む。」と書いています。円建ての値が付いていなくても、他の暗号資産との交換比率が公表されていれば、それも売買価格等です。
この扱いは、期末の時価を計算する側の条文とそろっています。法人税法施行令118条の8第1項4号は、交換比率で公表されている場合の金額を、「その交換比率により交換される他の暗号資産に係る前号に掲げる価格を乗じて計算した金額」と定めています。交換比率で市場暗号資産になった暗号資産は、交換比率をたどって円建ての金額に直す、という筋道です。
要件2 十分な数量と頻度
2号には、数字がひとつも書かれていません。「十分な数量及び頻度で取引が行われていること」とあるだけで、何件以上、いくら以上という線はありません。
ただ、条文は「十分」の物差しを空欄にしているわけではありません。2号は「継続的に前号の売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度」と書いています。何のために十分なのかが、目的で示されています。1号の価格の公表が続くだけの取引があるか、という問いの立て方です。1号と2号は別々の要件でありながら、内側でつながっています。
もうひとつ、「数量及び頻度」と両方が並んでいる点も読みどころです。「又は」ではありません。大口の取引が年に一度あるだけの状態と、ごく小さな取引が毎日ある状態は、どちらか一方の物差しでは十分に見えることがあります。
要件3 自作自演でないこと
3号は、1号と2号を読んだだけでは見落としやすい要件です。そこで何が書かれているかを、もう一度そのまま引きます。
「三次に掲げる要件のいずれかに該当すること。イ第一号の売買価格等の公表が当該内国法人以外の者によりされていること。ロ前号の取引が主として当該内国法人により自己の計算において行われた取引でないこと。」
イは、価格を公表しているのが誰かという面です。公表しているのが「当該内国法人以外の者」であること、つまり自分以外の誰かが値を出していることを求めています。ロは、取引をしているのが誰かという面です。2号の取引が「主として当該内国法人により自己の計算において行われた取引でない」こと、つまり自分の計算で行った取引ばかりではないことを求めています。
そして3号は、この2つを「いずれかに該当すること」とつないでいます。どちらか一方に当たれば足ります。裏返すと、3号が満たされないのは、公表も自分、取引も主として自分、という両方がそろった場合だけです。
自分で値をつけて公表し、その値で自分が売り買いしているだけの状態は、1号と2号の文言だけなら形のうえでは満たせてしまいます。継続的な公表があり、その値が売買の価格の決定に影響も与えており、公表が続くだけの取引もある、という説明が立つからです。3号は、その状態を市場暗号資産から外す位置に置かれています。
同じ発想は、期末の時価をいくらとするかを定めた法人税法施行令118条の8第1項3号にも現れています。時価の材料となる価格を公表する者を、この条文はこう定義しています。
「価格等公表者(暗号資産の売買価格等を継続的に公表し、かつ、その公表する売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表をする者(その公表をする売買価格等に係る前条第一項第二号の取引が主として当該内国法人が自己の計算において行つた取引である場合には、当該内国法人を除く。)をいう。次号において同じ。)」
括弧の中で、取引が主として自分の計算で行われている場合には、その内国法人を価格等公表者から除く、と書かれています。市場暗号資産に当たるかを決める入口の118条の7第1項3号にも、時価をいくらとするかを決める118条の8第1項3号にも、同じ形の除外が置かれています。
市場暗号資産に当たらないとどうなるのか
時価評価の対象から外れます。法人税法61条2項3号が、次のように定めています。
「三前二号に掲げる短期売買商品等以外の短期売買商品等原価法」
その原価法の中身は、同項2号ロの括弧書きにあります。
「原価法(期末時において有する短期売買商品等について、当該期末時における帳簿価額をもつて当該短期売買商品等の当該期末時における評価額とする方法をいう。次号において同じ。)」
期末の帳簿価額をそのまま評価額とする方法です。値が動いても、期末に評価損益は出ません。法人税法61条3項が評価益・評価損を益金・損金に入れる対象を、時価法により評価した金額をもって期末時における評価額とするものに限っているためです。
期末に評価損益が出ないことと、売ったときの損益が出ないことは別の話です。法人税法61条1項は、譲渡利益額・譲渡損失額を、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の益金・損金に入れると定めています。市場暗号資産に当たるかどうかを問わず、売れば損益は立ちます。変わるのは、売らずに持ち越したときの期末の扱いです。
なお、譲渡に係る原価の額を計算するときの一単位当たりの帳簿価額の算出方法は、法人税法施行令118条の6第1項が移動平均法と総平均法の2つを掲げ、届け出なかった場合について同条8項が「法第六十一条第一項第二号に規定する政令で定める方法は、第一項第一号に掲げる移動平均法とする。」と定めています。個人について総平均法を法定の方法とする所得税の側とは逆です(総平均法と移動平均法──個人の暗号資産の評価方法とその届出)。
もうひとつ、該当・非該当は固定ではありません。法人税法施行令118条の11第1項4号は、「法第六十一条第六項の内国法人の有する暗号資産がその事業年度の期間内のいずれかの時において市場暗号資産に該当しないこととなつたこと」を、みなし譲渡の対象となる事実のひとつに挙げています。持ち続けているだけでも、市場暗号資産でなくなったことをきっかけに、譲渡と取得があったものとみなして所得を計算する場面が出てきます。
この言い回しはどこから来たのか
「活発な市場が存在する」という言い方が税制の文書に現れるのは、平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)です。法人課税の章に、次のように書かれています。
「法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。」
大綱の側には、「活発な市場」の中身は書かれていません。時価評価の対象をその言葉で区切ることだけを決め、区切り方は法律と政令に送られました。その送り先が、いま読んでいる法人税法61条2項1号と法人税法施行令118条の7第1項です。
その後、時価評価の対象からは自己が発行して持ち続けている暗号資産などが外され、令和6年度税制改正の大綱では「法人が有する市場暗号資産に該当する暗号資産で譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、次のいずれかの評価方法のうちその法人が選定した評価方法」によることとされました。市場暗号資産かどうかの判定は、期末評価を決める最初の関門であって、最後の関門ではありません。なお、ここで判定の対象になっている「暗号資産」そのものの意味は、法人税法が自前で決めているものではありません(税法は「暗号資産」をどう定義しているのか)。
実務で迷いが生じるところ
- 取り扱っている取引所がごく少ない暗号資産です。価格の公表はあっても、2号の「十分な数量及び頻度」を満たすといえるかが問題になります。
- 国内では取り扱いがなく、国外の場でだけ価格が公表されている場合です。1号は公表する者の所在地を限定していません。
- 円建ての価格が付いておらず、他の暗号資産との交換比率でしか値が出ていない場合です。1号の括弧書きは交換比率を売買価格等に含めています。
- 自社が関わる場だけで自社発行の暗号資産が売買されている場合です。3号のイにもロにも当たらない状態になっていないかを確認することになります。
- 複数の公表者が別々の価格を出していて、値が食い違っている場合です。どの公表が「決定に重要な影響を与えている」ものかという読み方の問題が出ます。
- 事業年度の途中で取扱いが始まった、または終わった場合です。判定の時点に加え、法人税法施行令118条の11のみなし譲渡の適用も確かめることになります。
- 取引が細っていった場合に、どの時点から市場暗号資産に該当しなくなるのかという線引きです。2号には数量の基準が書かれていません。
- 判定の根拠をどう残すかという問題です。公表の状況や取引の数量・頻度は後から再現しにくいものです。
いずれも条文の文言だけでは決まらず、その暗号資産の取引の実態を見て判断する場面です。実際の申告にあたっては、個別の事情を踏まえて確認してください。
根拠条文
- 法人税法 第六十一条(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)第二項第一号/引用した文言:「短期売買商品等(暗号資産にあつては、市場暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものをいう。次号において同じ。)に限るものとし、次に掲げるものを除く。)」
- 法人税法 第六十一条第二項第二号ロ/引用した文言:「原価法(期末時において有する短期売買商品等について、当該期末時における帳簿価額をもつて当該短期売買商品等の当該期末時における評価額とする方法をいう。次号において同じ。)」
- 法人税法 第六十一条第二項第三号/引用した文言:「三前二号に掲げる短期売買商品等以外の短期売買商品等原価法」
- 法人税法 第六十一条第一項/引用した文言:「その譲渡に係る譲渡利益額(第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)」
- 法人税法 第六十一条第三項/引用した文言:「内国法人が期末時において短期売買商品等(時価法により評価した金額(以下この項において「時価評価金額」という。)をもつてその期末時における評価額とするものに限る。以下この項及び次項において同じ。)を有する場合」
- 法人税法施行令 第百十八条の七(市場暗号資産等の範囲)第一項柱書/引用した文言:「法第六十一条第二項第一号(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)に規定する活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものは、内国法人が有する暗号資産のうち次に掲げる要件の全てに該当するものとする。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第一項第一号/引用した文言:「一継続的に売買の価格(他の暗号資産との交換の比率(次条第一項第四号において「交換比率」という。)を含む。以下この項及び同条第一項第三号において「売買価格等」という。)の公表がされ、かつ、その公表がされる売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第一項第二号/引用した文言:「二継続的に前号の売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第一項第三号/引用した文言:「三次に掲げる要件のいずれかに該当すること。イ第一号の売買価格等の公表が当該内国法人以外の者によりされていること。ロ前号の取引が主として当該内国法人により自己の計算において行われた取引でないこと。」
- 法人税法施行令 第百十八条の八(短期売買商品等の時価評価金額)第一項第三号/引用した文言:「価格等公表者(暗号資産の売買価格等を継続的に公表し、かつ、その公表する売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表をする者(その公表をする売買価格等に係る前条第一項第二号の取引が主として当該内国法人が自己の計算において行つた取引である場合には、当該内国法人を除く。)をいう。次号において同じ。)」
- 法人税法施行令 第百十八条の八第一項第四号/引用した文言:「その交換比率により交換される他の暗号資産に係る前号に掲げる価格を乗じて計算した金額」
- 法人税法施行令 第百十八条の六(短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法及びその選定の手続等)第八項/引用した文言:「法第六十一条第一項第二号に規定する政令で定める方法は、第一項第一号に掲げる移動平均法とする。」
- 法人税法施行令 第百十八条の十一(暗号資産の区分変更等によるみなし譲渡)第一項第四号/引用した文言:「法第六十一条第六項の内国法人の有する暗号資産がその事業年度の期間内のいずれかの時において市場暗号資産に該当しないこととなつたこと」
- 平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)三 法人課税/引用した文言:「法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。」
- 令和6年度税制改正の大綱 三 法人課税/引用した文言:「法人が有する市場暗号資産に該当する暗号資産で譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、次のいずれかの評価方法のうちその法人が選定した評価方法」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

