暗号資産の税務

暗号資産の信用取引は期末に決済したものとみなされる

条文の定義

暗号資産の信用取引について、法人税の扱いを正面から定めているのが法人税法61条7項です。

「内国法人が暗号資産信用取引(他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいう。以下この条において同じ。)を行つた場合において、当該暗号資産信用取引のうち事業年度終了の時において決済されていないものがあるときは、その時において当該暗号資産信用取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額(次項において「みなし決済損益額」という。)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」

長い一文ですが、言っているのは3つです。暗号資産信用取引とは、他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買です。事業年度終了の時に決済されていないものがあれば、その時に決済したものとみなします。そうして算出した利益の額または損失の額に相当する金額を、その事業年度の益金または損金に算入します。この金額が「みなし決済損益額」です。

ポジションを閉じていなくても、期末にいったん閉じたものとして損益を計上します。決済していないから何もしなくてよい、とはなりません。

個人の側にも、同じ言葉を使う条文が1つあります。所得税法施行令119条の7です。

「居住者が暗号資産信用取引(他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいう。以下この条において同じ。)の方法による暗号資産の売買を行い、かつ、当該暗号資産信用取引による暗号資産の売付けと買付けとにより当該暗号資産信用取引の決済を行つた場合には、当該売付けに係る暗号資産の取得に要した経費としてその者のその年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、第百十九条の二から前条までの規定にかかわらず、当該暗号資産信用取引において当該買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額とする。」

括弧の中の定義は、法人税法61条7項とまったく同じ文言です。ただし、こちらが定めているのは決済を行った場合の必要経費の計算であって、期末のみなし決済ではありません。

骨格

論点 条文の定め
何を指すか 他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいいます。法人税法61条7項と所得税法施行令119条の7が、同じ文言を置いています。
法人・期末に未決済 その時に決済したものとみなして算出した利益の額または損失の額を、益金または損金に算入します(法人税法61条7項)。
法人・翌事業年度 前期に算入した金額に相当する金額を、翌事業年度に反対側へ算入します(法人税法施行令118条の12第1項)。
法人・契約に基づく取得 取得の時の価額と、取得の対価として支払った金額との差額を、益金または損金に算入します(法人税法61条9項)。
個人 売付けと買付けにより決済を行った場合、必要経費に算入する金額は、その買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額です(所得税法施行令119条の7)。

信用取引とは何を指すのか

定義の要素は2つです。他の者から信用の供与を受けていること、暗号資産の売買であることです。この2つを満たせば、取引所がその商品を何と呼んでいるかにかかわらず、条文上の暗号資産信用取引に当たります。

逆に、自己の資金だけで買って売るだけの取引は、信用の供与を受けていませんから、この条文の対象になりません。その損益は、法人であれば法人税法61条1項の譲渡損益として扱われ、期末に保有しているものは同条3項の時価評価の対象になります。

法人は期末に決済したものとみなされる

法人税法61条は、暗号資産の損益を計上する場面を項ごとに分けています。譲渡をしたときの譲渡損益が1項、期末に保有しているものの時価評価損益が3項、未決済の信用取引のみなし決済が7項です。7項が見ているのは、保有している暗号資産ではなく、決済されていない取引そのものです。

7項は、みなし決済損益額の算出の方法を書いていません。決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出する、とあるだけです。条文だけを読んで金額が決まる作りにはなっていません。

翌期に洗い替える

期末に決済したものとみなして損益を立てるだけでは終わりません。実際にはポジションが残っていますから、翌期に元へ戻します。それを定めているのが法人税法施行令118条の12第1項です。

「内国法人が法第六十一条第七項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)の規定により当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。」

前期に益金に算入した金額は翌期に損金へ、前期に損金に算入した金額は翌期に益金へ。同じ金額を反対側に入れて打ち消します。これが洗い替えです。打ち消したうえで実際の決済損益を計上しますから、同じ利益が二度計上されることはありません。

同じ形の規定は、保有分の側にもあります。法人税法61条3項で計上した評価益または評価損は、法人税法施行令118条の10第1項によって翌事業年度に洗い替えられます。

信用取引で暗号資産を取得したときはどうなるのか

法人にだけ置かれている規定が、もう1つあります。法人税法61条9項です。

「内国法人が暗号資産信用取引に係る契約に基づき暗号資産を取得した場合(第六十一条の六第一項(繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ)の規定の適用を受ける暗号資産信用取引に係る契約に基づき当該暗号資産を取得した場合を除く。)には、その取得の時における当該暗号資産の価額とその取得の基因となつた暗号資産信用取引に係る契約に基づき当該暗号資産の取得の対価として支払つた金額との差額は、当該取得の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」

契約に基づいて暗号資産を取得した場合、その取得の時の価額と、取得の対価として支払った金額との差額を、取得の日の属する事業年度の益金または損金に算入します。買った時点で、時価と支払額の差が損益になります。

実際に反対売買をして決済したときの原価の額は、法人税法施行令118条の6第10項が定めています。

「内国法人が、法第六十一条第七項に規定する暗号資産信用取引の方法により、暗号資産の売付け又は買付けをし、その後に当該暗号資産と種類を同じくする暗号資産の買付け又は売付けをして決済をした場合における同条第一項の規定の適用については、同項第二号に掲げる金額は、その買付けに係る暗号資産のその買付けに係る対価の額とする。」

法人税法61条1項2号に掲げる金額、つまり譲渡に係る原価の額を、選定した一単位当たりの帳簿価額の算出の方法によらず、その買付けに係る対価の額とする、という定めです。信用取引の決済損益は、保有している暗号資産の平均単価とは切り離して計算します。

個人はどう扱われるのか

個人について置かれているのは、所得税法施行令119条の7の一か条です。売付けと買付けにより決済を行った場合、売付けに係る暗号資産の取得に要した経費として必要経費に算入する金額は、「第百十九条の二から前条までの規定にかかわらず、当該暗号資産信用取引において当該買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額とする。」とされています。

ここで名前が挙がっている所得税法施行令119条の2から119条の6までは、暗号資産の評価の方法と取得価額を定めた条文です(総平均法と移動平均法──個人の暗号資産の評価方法とその届出個人が持つ暗号資産の取得価額は、どう決まるのか)。119条の7は、信用取引の決済についてはそれらによらない、と宣言しています。手持ちの暗号資産のプールと混ぜず、その買付けに要した金額だけで計算します。法人の側の法人税法施行令118条の6第10項と同じ方向です。

では、年末に決済していないポジションがあったらどうなるのか。個人の側には、法人税法61条7項に当たる定めが置かれていません。所得税法施行令119条の7が条件として書いているのは「当該暗号資産信用取引による暗号資産の売付けと買付けとにより当該暗号資産信用取引の決済を行つた場合には」という場面であり、この条文が対象にしているのは決済を行った場合の必要経費の計算だけです。決済されていないものを決済したものとみなす擬制は、どこにも出てきません。所得税法と所得税法施行令の全文を検索しても、暗号資産信用取引という語が現れるのは所得税法施行令119条の7だけです。

法人と個人で何が違うのか

論点 法人 個人
期末・年末に未決済のもの その時に決済したものとみなし、みなし決済損益額を益金または損金に算入します(法人税法61条7項)。 そのような定めは置かれていません。条文は決済を行った場合の計算だけを定めています。
翌期の処理 前期に算入した金額を、翌事業年度に反対側へ算入します(法人税法施行令118条の12第1項)。 期末に計上するものがありませんから、洗い替えの規定もありません。
決済したときの原価・必要経費 譲渡に係る原価の額を、その買付けに係る対価の額とします(法人税法施行令118条の6第10項)。 必要経費に算入する金額を、その買付けに要した金額とします(所得税法施行令119条の7)。
契約に基づく暗号資産の取得 取得の時の価額と支払った対価との差額を、益金または損金に算入します(法人税法61条9項)。 これに対応する定めは置かれていません。

いちばん大きな違いは、1行目です。法人は決済していなくても期末に損益を認識させられ、個人は決済するまで認識しません。同じ取引を同じタイミングで行っても、法人か個人かで、その事業年度またはその年の所得に入るかどうかが変わります。

実務で迷いが生じるところ

  • 取引所の商品が、条文の暗号資産信用取引に当たるかどうかの判定です。呼び名はさまざまですが、条文が見ているのは、他の者から信用の供与を受けて行う売買かどうかという実質です。
  • 期末に未決済のポジションがある場合の、みなし決済損益額の算出です。法人税法61条7項は算出の方法を財務省令に委ねていますから、条文だけを読んでも金額は決まりません。
  • 翌事業年度の洗い替えの失念です。前期のみなし決済損益額を戻さないまま実際の決済損益を計上すると、同じ損益を二度計上することになります。
  • 保有している暗号資産の時価評価(法人税法61条3項)と、未決済の信用取引のみなし決済(同条7項)の混同です。対象になるものが違いますから、集計も分けて行う必要があります。
  • 個人が年末にポジションを持ち越した場合の記録です。その年の所得の計算に入らないとしても、買付けに要した金額を残しておかないと、翌年に決済したときの必要経費が計算できません。

いずれも条文の文言だけでは決まらず、取引の実態と記録を見て判断する場面です。実際の申告にあたっては、個別の事情を踏まえて確認してください。

根拠条文

  • 法人税法 第六十一条(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)第七項/引用した文言:「他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいう。」「当該暗号資産信用取引のうち事業年度終了の時において決済されていないものがあるときは、その時において当該暗号資産信用取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額」
  • 法人税法 第六十一条第一項/引用した文言:「その譲渡に係る譲渡利益額」「その短期売買商品等の譲渡に係る原価の額」
  • 法人税法 第六十一条第三項/引用した文言:「当該短期売買商品等に係る評価益」
  • 法人税法 第六十一条第九項/引用した文言:「その取得の時における当該暗号資産の価額とその取得の基因となつた暗号資産信用取引に係る契約に基づき当該暗号資産の取得の対価として支払つた金額との差額は、当該取得の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」
  • 法人税法施行令 第百十八条の十二(未決済暗号資産信用取引に係る利益相当額又は損失相当額の翌事業年度における処理等)第一項/引用した文言:「当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。」
  • 法人税法施行令 第百十八条の六(短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法及びその選定の手続等)第十項/引用した文言:「同項第二号に掲げる金額は、その買付けに係る暗号資産のその買付けに係る対価の額とする。」
  • 法人税法施行令 第百十八条の十(短期売買商品等の評価益又は評価損の翌事業年度における処理等)第一項/引用した文言:「内国法人が法第六十一条第三項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)の規定により当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。」
  • 所得税法施行令 第百十九条の七(信用取引による暗号資産の取得価額)/引用した文言:「当該暗号資産信用取引による暗号資産の売付けと買付けとにより当該暗号資産信用取引の決済を行つた場合には」「第百十九条の二から前条までの規定にかかわらず、当該暗号資産信用取引において当該買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額とする。」
  • 所得税法施行令 第百十九条の二(暗号資産の評価の方法)から第百十九条の六(暗号資産の取得価額)まで/所得税法施行令119条の7が適用を除外している条文です。

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

一覧に戻る

お電話でのご相談03-6447-1768

柳澤国際税務会計事務所株式会社柳澤総合研究所(グループ会社)

〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-5-11 SuSLOB 北参道7F
事務所のご案内
地図を見る(google map)