「マルサ」と呼ばれる調査があります。制度としての名前は犯則調査、根拠は国税通則法第十一章(第百三十一条以下)です。
税務調査(質問検査権にもとづく任意調査)とは、根拠も目的も手続もまったく別の制度です。混同されがちなので、条文で違いを押さえます。
どこが違うか
| 税務調査 | 犯則調査 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 通則法74条の2〜74条の6 | 通則法131条以下 |
| 目的 | 正しい税額の確定 | 犯則事件の証拠収集 |
| 裁判官の許可状 | なし | 臨検・捜索・差押えには原則必要(132条。間接国税の現行犯で急速を要し許可状を受けられないときのみ例外=135条) |
| 犯罪捜査との関係 | 「認められたものと解してはならない」(74条の8) | 告発により刑事手続へ(155条) |
| 事前通知 | 原則あり(74条の9) | 規定なし |
第七十四条の八が質問検査権について「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」と念を押しているのは、犯則調査という別の制度が用意されているからです。
任意の部分と、強制の部分
犯則調査にも任意の部分があります。第百三十一条第一項です。
犯則事件を調査するため必要があるときは、犯則嫌疑者もしくは参考人に対して、
- 出頭を求め
- 質問し
- 所持し、または置き去った物件を検査し
- 任意に提出し、または置き去った物件を領置する
ことができます。「領置」は、相手が任意に出したものを預かる処分です。取り上げるのとは違います。
第二項では、官公署または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができるとされています。
強制の部分は第百三十二条です。
当該職員は、犯則事件を調査するため必要があるときは、その所属官署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検、犯則嫌疑者等の身体、物件若しくは住居その他の場所の捜索、証拠物若しくは没収すべき物件と思料するものの差押え又は記録命令付差押え(電磁的記録を保管する者その他電磁的記録を利用する権限を有する者に命じて必要な電磁的記録を記録媒体に記録させ、又は印刷させた上、当該記録媒体を差し押さえることをいう。以下同じ。)をすることができる。
許可状が要る、という点が税務調査との決定的な違いです。許可状の請求にあたっては「犯則事件が存在すると認められる資料」を提供しなければならない(第四項)とされ、裁判官は罪名や捜索すべき場所などを記載した許可状を交付します(第五項)。
参考人については、ただし書で「差し押さえるべき物件の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる」と絞られています。
電子データも対象
第百三十二条第一項の「記録命令付差押え」は、電磁的記録を保管する者などに命じて記録媒体に記録・印刷させ、その記録媒体を差し押さえる処分です。
第二項は、差し押さえるべき物件が電子計算機であるとき、その電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体(つまりクラウド上の保管先など)から、電磁的記録を複写したうえで差し押さえることができるとしています。第六項は、その場合の許可状に複写すべき記録媒体の範囲を記載しなければならないとしています。
夜間は原則できない
第百四十八条です。臨検・捜索・差押え・記録命令付差押えは、許可状に夜間でも執行できる旨の記載がなければ、日没から日出までの間はしてはならないとされています。
ただし日没前に開始したものは、必要と認めるときは日没後まで継続できます(第二項)。
何が犯則なのか
犯則事件そのものを定義する条文は、通則法にはありません。各税法の罰則が実体です。
たとえば所得税法第二百三十八条第一項は、偽りその他不正の行為により所得税を免れ、または還付を受けた者を、十年以下の拘禁刑もしくは千万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると定めています。同条第二項では、免れた税額が千万円を超えるときは、情状により罰金をその税額まで引き上げられるとされています。
法人税法第百五十九条第一項も、刑の重さは同じで、十年以下の拘禁刑もしくは千万円以下の罰金、またはその併科です(こちらは、違反行為をした代表者・代理人・使用人その他の従業者を名宛人とする書き方になっています)。
なお、所得税法第二百三十八条第三項は、申告書を提出期限までに提出しないことにより所得税を免れた者(いわゆる無申告ほ脱)を、五年以下の拘禁刑もしくは五百万円以下の罰金、またはその併科としています。1項より軽く設定されています。
「査察部」がある局とない局
犯則調査を担当する組織は、財務省組織規則第四百四十三条の二に定めがあります。査察部を単独で置いているのは、東京・名古屋・大阪の3局だけです。
| 局 | 該当する部 |
|---|---|
| 東京 | 調査第一部〜第四部、査察部 |
| 名古屋 | 調査部、査察部 |
| 大阪 | 調査第一部・第二部、査察部 |
| 上記以外の8局(札幌・仙台・関東信越・金沢・広島・高松・福岡・熊本) | 調査査察部(調査と査察が同じ部) |
国税査察官の定員は、財務省組織規則第五百十八条第一項で千六百八十一人以内と定められています。全国の数です。
実務でよく相談を受ける点
犯則調査に入られた段階では、税務の話であると同時に刑事の話になっています。弁護士との連携が前提になる領域です。
その手前、つまり通常の税務調査で重加算税の話が出はじめた段階でご相談いただくのが、いちばん打てる手が多い局面です。
根拠条文
- 国税通則法第74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)
- 国税通則法第74条の6(当該職員の航空機燃料税等に関する調査に係る質問検査権)
- 国税通則法第74条の8(権限の解釈)
- 国税通則法第74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)
- 国税通則法第131条(質問、検査又は領置等)
- 国税通則法第132条(臨検、捜索又は差押え等)
- 国税通則法第135条(現行犯事件の臨検、捜索又は差押え)
- 国税通則法第148条(臨検、捜索又は差押え等の夜間執行の制限)
- 国税通則法第155条(間接国税以外の国税に関する犯則事件等についての告発)
- 財務省組織規則第443条の2
- 財務省組織規則第518条
- 所得税法第238条
- 法人税法第159条
条文の見出しは e-Gov 法令検索の法令データで確認しています。
本稿は2026年8月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










