Basic Knowledge of the World Economy

日本の財政赤字を会社の決算書に例えて考える
国会議事堂や公共施設と決算書を組み合わせ、日本の財政を読み解く切り絵

日本の財政が危機にあるという指摘は、約30年前から繰り返されてきました。実際、1997年の税制調査会の資料も、当時の財政を「危機的な状況」と評しています。それでも国は借り入れを続け、行政サービスを提供しています。その間に何が積み上がったのでしょうか。まずは、国の大きく複雑な財務データを、読める形に並べ直してみます。

国の会計には特殊な言葉が多いのですが、入口は会社の決算書と同じです。資産と負債を並べ、その差額を確認します。そのうえで、日銀や地方政府まで一緒に見る場合、さらに家計・民間企業まで含める場合に、何が消え、何が残るかを順に見ます。

最初に、「国」が誰を指すかを決める

「国に資産がある」「国の借金が多い」という説明は、誰を数えているかで数字が変わります。会社でいえば、本社だけの決算書を見るのか、子会社まで含めたグループの決算書を見るのか、という違いです。

  • 国の会計:一般会計と特別会計。中央政府の決算を見る入口です。
  • 公的部門:中央政府だけでなく、地方政府、社会保障基金、日銀、公的企業まで広げた範囲です。
  • 日本全体:公的部門に家計、民間企業、民間の非営利団体も加えます。政府の所有物を集めた表ではなく、一国の経済全体を見る表です。

この記事では途中の範囲も含めて並べます。ただし、対象を広げる際に、時点や、資産・負債に何を計上し、いくらで評価するかも変わる表は、その違いを明記します。差額が変わっても、すべてが「新しい資産を見つけた効果」とは限りません。

範囲を広げた決算書を、全部並べる

先に全体像を見ます。単位は兆円です。「試算」は本稿が前提を置いて相殺した数字で、正式な連結決算とは区別しています。計算の中身はこの後に順に説明します。

どこまで含めるか 資産 負債 資産・負債差額 数字の性格
国の一般会計・特別会計 783.4 1,483.3 −699.9 公表された決算値
国+日銀 921.3 1,615.3 −694.0 主要項目を相殺した試算
国+関係199法人 1,044.9 1,574.7 −529.7 国の公式連結決算
国+関係199法人+日銀 1,128.9 1,652.7 −523.8 主要項目を追加相殺した試算
地方政府などを含む公的部門全体 2,741.3 2,147.9 593.3 SNAを基に確認分を相殺した試算
家計・民間企業も含む日本全体 5,673.6 1,124.2 4,549.5 SNAを基に国内同士を相殺した表示

上の4行は2024年度末の決算を基にし、下の2行は2024年12月末の統計を基にしています。上から同じ基準で組織を順に足した表ではありません。特に「国+関係199法人+日銀」から「公的部門全体」へ移るところでは、組織の分類、資産・負債に計上するもの、評価方法、時点が変わります。この一覧は範囲ごとの姿を並べたもので、マイナス523.8兆円からプラス593.3兆円への差を、地方の追加や評価替えなどの原因別に分解した表ではありません。

最後の日本全体は、公的部門の未照合額を引き継がず、別途、同じSNAの国内総額と対外残高から国内同士を相殺しています。表示は丸めているため、引き算が0.1兆円ずれる場合があります。

この表で最初に分かるのは、「国の資産・負債差額」という一つの数字で、政府の会計から日本全体まで代表させることはできない、ということです。それぞれ別の範囲を見ています。

100借りたとき、会社の利益は増えない

まず、説明用の仮例です。金額はすべて架空で、単位を万円とします。他の資産や取引を省き、会社が銀行から100を借りた場合を考えます。仕訳は「借方・現金100/貸方・借入金100」です。現金という資産と、借入金という負債が同額増えるだけで、100の利益は生まれません。

次に、そのうち60を当期の人件費として払えば、「借方・人件費60/貸方・現金60」となります。現金は40になり、借入金100は残ります。収益がなければ当期の損失は60、資産から負債を引いた純資産はマイナス60です。

仮例の時点 資産 負債 純資産
100を借りた直後 現金100 借入金100 0
人件費60を払った後 現金40 借入金100 −60

一方、60で機械を買えば、現金40と機械60が残り、購入時点の資産合計は100です。機械を使う期間に応じて減価償却費を計上します。同じ60の支払いでも、費用になる取引と、資産の形を変える取引があるのです。借金の額だけで、使い道や損失額までは分かりません。

国の決算書も、資産より負債が大きい

この見方を国に当てはめます。2026年9月時点の最新公表分である、財務省の2024年度「国の財務書類」では、年度末の資産は783.4兆円、負債は1,483.3兆円です。差し引きの「資産・負債差額」は、マイナス699.9兆円でした。

2024年度末の国の貸借対照表 Amount
資産 783.4兆円
負債 1,483.3兆円
資産・負債差額 −699.9兆円

これは国の一般会計と特別会計を合わせ、内部の貸し借りなどを取り除いた数字です。地方自治体や日銀まで全部まとめた決算書ではありません。会社の「純資産」に対応する場所が大幅なマイナスなのですから、貸借対照表上は、企業の債務超過に相当する姿です。財務省も企業会計との対照資料で、この差額を純資産に対応させています。

ただし、ここから「会社なら倒産、したがって国も倒産」とは進めません。会社でも、帳簿上の債務超過と、期日の支払いができない資金繰りの破綻は別の状態です。国にはさらに、将来の経済活動から税を集める権限があり、その力は、この資産額に丸ごと計上されていません。反対に、将来の行政サービスや社会保障の支出も、すべて負債に入っているわけではありません。

この表は、会計基準で認識した資産と負債を示します。将来の税収だけ、あるいは支出だけを追加すれば、片側だけの計算になります。

また、資産783.4兆円を、そのまま返済に回せる現金と読むこともできません。道路などの有形固定資産は行政サービスに使われ、金融資産にも貸付先や年金運用などの目的があります。会社の工場を全部売れば事業を続けられなくなるように、国の資産にも処分の制約があります。統計で対象とする債務から、対応する金融資産を差し引く「純債務」と、土地や道路も含めた「資産・負債差額」も、同じ指標ではありません。

今年の赤字と、積み上がった負債を分ける

借入金の残高は、ある日の写真です。これをストックと呼びます。1年間の収益や費用は、その年の動きを記録したもので、フローです。699.9兆円のマイナスは年度末の差額であり、その1年間で生じた赤字ではありません。

同じ国の財務書類では、2024年度の費用は174.1兆円、租税等の財源は158.2兆円で、費用超過は15.9兆円でした。会社の損益計算書の赤字に近い位置づけですが、国の予算の現金収支や、国際比較で使う一般政府の財政赤字とは範囲や計算方法が違います。借り入れを利益としないのは、先ほどの仮例と同じです。

資産・負債差額の前年度からの悪化は4.2兆円で、15.9兆円と一致しません。財務書類の増減表には、為替や資産評価による変動なども入るためです。会社でも、当期の損失と純資産の増減が、いつも一致するとは限りません。

この区別は政策を考える際にも役立ちます。資産を帳簿価格で売り、その代金で借金を返せば、資産と負債が同額減り、差額は変わりません。資産売却は資金繰りや金利負担を改善し得ますが、毎年の支出超過が、それだけで解消するわけではないのです。

国債とプライマリーバランスの関係

国債は、政府が投資家からお金を借りるために発行する証券です。国にとっては負債、持つ側にとっては資産になります。発行代金は予算上の歳入に入りますが、会社の売上や利益に当たるお金ではありません。返す元本は借金残高の減少、利息は借りるための費用です。元本100を新しい借入100で返す借り換えなら、借金の残高自体は変わりません。

ここで出てくるのが、基礎的財政収支、プライマリーバランス(PB)です。財務省の説明に沿えば、税収・税外収入から、国債の元本返済や利払いなどを除く政策経費を差し引いた収支です。その年の行政サービスを、その年の借入以外の収入で賄えているかを見るものです。

仮に税収等が100、政策経費が98なら、PBは2の黒字です。しかし利息が5あれば、利払い込みの収支は3の赤字になります。資産売却などを省けば、その3には追加の借り入れが必要です。PB黒字は、借金の残高が必ず減るという意味ではありません。反対に、借金の金額が増えても、それ以上に名目GDPが増えれば、GDPに対する借金の比率は下がります。PB、利払い込みの収支、債務残高のGDP比は、別々に確認する必要があります。

国と日銀を連結すると、何が残るのか

以下の前提で主要な内部残高を相殺すると、資産921.3兆円、負債1,615.3兆円、差し引き694.0兆円の資産不足となります。これは公表実額を使った本稿の連結試算です。国と日銀が公表した正式な連結決算ではありません。

対象は国の一般会計・特別会計と日銀です。国の2024年度財務書類and日銀の2025年3月期財務諸表を出発点にします。単位は兆円、表示は小数第1位に丸めています。

Item 国と日銀の単純合算 主要項目を相殺した連結試算
資産 1,513.2 921.3
負債 2,207.1 1,615.3
資産・負債差額 −694.0 −694.0

何を相殺したか

会社のグループ内の貸し借りを消すのと同じ考え方です。次の3項目は、資産と負債から同額を引きました。

内部の関係 相殺した額
日銀が持つ国債と、国の国債債務 575.93兆円
国が日銀に預けた預金と、日銀の預かり残高 3.94兆円
国から日銀への買戻し条件付き取引の貸付と、日銀の対応負債 11.98兆円

さらに、国が資産に計上する日銀出資143.55億円を取り除き、資産・負債差額も同額減らしました。これは負債の相殺ではありません。兆円単位の表では丸めにより見えませんが、差額は相殺前のマイナス693.973兆円から、相殺後はマイナス693.988兆円になります。

試算の前提

国債は日銀の帳簿額575.93兆円に国側もそろえて相殺し、双方の評価差はゼロと仮置きしました。預金も日銀側の額にそろえました。買戻し条件付き取引は日銀側の対政府負債11.98兆円を使い、国側にも同額の対応資産があると仮置きして全額を消しました。国の明細で日銀向けと確認できた10.78兆円との差約1.20兆円も、この仮定で相殺しています。国と日銀の決算時点の違い、税・利息・国庫納付など未照合の調整も加えていません。したがって、全項目を照合した確定額ではなく、この前提で主要項目を消した結果It is.

ここで見たいのは、相殺の働きです。国債などを消すと資産と負債がともに大きく減ります。しかし、同額ずつ消すだけでは、その差額は改善しません。これが「日銀が持つ国債を消せば、債務超過もなくなる」とは言えない理由です。

日銀の当座預金530.4兆円や発行銀行券118.7兆円も、国債を消すだけでは消えません。ただし、銀行券には国債のような満期や利払いはなく、残高全部を将来の税負担額と読むことはできません。一方、日銀から銀行への預金利息は支払いとして残ります。日銀も当座預金への支払利息が収益に及ぼす影響を説明しています。

関係法人まで含めると、数字はどう変わるか

日銀を加えるだけでは、公的な組織全体を見たことにはなりません。国には、大学、政策金融機関、年金積立金を運用するGPIFなど、関係する法人もあります。

財務省の2024年度の公式連結財務書類は、国の一般会計・特別会計に199法人を加えています。資産は1,044.9兆円、負債は1,574.7兆円、資産・負債差額はマイナス529.7兆円です。日銀や地方自治体は含みません。財務省のガイドブックは、日銀について、政府の監督権限が限定されていることなどを除外理由として説明しています。

この公式連結にも、作成上の決まりがあります。GPIFが持つ国の公債52.9兆円と独立行政法人等の債券1.1兆円(いずれも時価)は、内部保有であっても相殺していません。したがって、本稿で見たい「公的な組織同士の保有をできるだけ消した表」と、公式連結は同一ではありません。

そこで、公式連結に日銀を加え、先ほどの日銀関連の相殺に加えて、GPIFのこれらの保有債券も消します。日銀が持つ連結対象3機関への出資、合計2.5億円も資産と差額から取り除きます。GPIF保有分の発行側の負債も、この時価と同額と仮定して消します。こうした前提を置いた、主要項目の追加相殺試算です。

国・関係法人・日銀 追加相殺前の合算 主要項目の追加相殺後
資産 1,774.7兆円 1,128.9兆円
負債 2,298.5兆円 1,652.7兆円
資産・負債差額 −523.8兆円 −523.8兆円

この表でも、債権と債務を同額消すだけでは差額は変わりません。出資の消去による差額の動きはありますが、兆円単位で丸めると表示には現れません。税・未収利息・国庫納付、その他の機関間取引を全件照合した正式な連結決算ではなく、決算時点や帳簿額の違いに関する追加調整は残っています。

地方政府まで広げた、公的部門全体を見る

財政全体を考えるなら、中央政府と日銀だけでなく、地方政府や社会保障基金、公的企業も含める必要があります。そこで、内閣府の「民間・公的別の資産・負債残高」を使います。この公的部門には、一般政府と、日銀を含む公的金融機関、公的非金融企業が含まれます。日銀をもう一度足すと二重計上になるので、加えません。

SNAは、特定の組織の集まりの名前ではなく、経済全体を記録する統計の仕組みです。ここでは、その中の2024年12月末の「公的部門」を取り出しています。

SNAの公的部門の区分 含まれるもの
一般政府 中央政府・地方政府・社会保障基金
公的金融機関 日銀などの公的な金融機関
公的非金融企業 公的な非金融の事業会社など

「国+関係199法人+日銀」に、地方自治体と公的企業をそのまま足したものではありません。国の公式連結とSNAでは組織の分類方法が違い、199法人の中にも、SNAでは一般政府に入る法人、公的企業に入る法人があります。199法人と公的企業を別々に足せば、同じ法人を二重に数えてしまいます。

また、すべての資産が時価評価になるわけでもありません。土地は時価、建物・設備などは現在の再調達価格を基礎に消耗を考慮しますが、預金や貸付などには別の評価ルールがあります。資産・負債の種類ごとの計上・評価方法については、内閣府の用語解説に説明があります。「地方などが加わり、財産の測り方も変わる」という大筋は合っていますが、その二つの効果を金額で切り分けた計算ではない点に注意が必要です。

公表された公的部門の合計は、資産3,585.2兆円、負債2,991.9兆円です。ここには内部の貸し借りが残っています。日銀の資金循環統計・時系列表で確認した2024年12月末の内部残高843.9兆円を、資産と負債から同額ずつ引きます。

公的部門全体 相殺前の公表合計 確認した内部残高を相殺する試算
資産 3,585.2兆円 2,741.3兆円
負債 2,991.9兆円 2,147.9兆円
資産・負債差額 593.3兆円 593.3兆円

相殺した内訳も示します。次の金額を両側から引いた試算です。合計は丸め前で計算して843.9兆円です。各行の表示を丸めているため、表示値を足すと合計とずれる場合があります。

確認した内部残高 相殺額
公的部門が保有する国債・国庫短期証券 649.4兆円
公的部門が保有する地方債 9.6兆円
政府の日銀預金 6.3兆円
公的金融機関の日銀預け金 0.8兆円
財政融資資金への預託 23.1兆円
公的金融機関貸出:一般政府向け 79.3兆円
公的金融機関貸出:公的非金融企業向け 22.8兆円
公的金融機関貸出:公的金融機関向け 42.8兆円
公的金融機関貸出:公的専属金融機関向け 8.8兆円
一般政府内の貸出 0.9兆円

国債・地方債は、中央銀行、一般政府、公的非金融法人、公的金融機関、公的専属金融機関の保有分を確認しました。「専属金融機関」は、特定の企業グループなどを相手に金融活動を行う統計上の区分です。貸出は、日銀が「公的金融機関貸出」と分類するもののうち、借り手も公的部門と分かる残高を使いました。この貸出の分類には、ゆうちょ銀行やかんぽ生命などによる貸出も含まれます。

この表は対象を公的部門全体へ広げ、確認できた内部残高を相殺した試算です。政府関係機関債には発行体が民間に分類されるものもあるため、一括して消していません。相手先を照合できていない株式・持分、一般政府から金融・非金融部門への貸出、現先取引、その他の残高も残っています。公的な法人でも別の金融業態に分類される機関があり、今回の5部門だけでは保有国債などを全て拾えていません。また、SNAと資金循環は同じ年末ですが、資金循環には2026年6月25日更新の値を用いたため、公表後の改訂差があり得ます。部門分類や貸付の評価方法にも違いがあり、全面調整していません。指定した金額を双方から同額消せると仮定し、それ以外の調整はしていません。全内部取引の照合が済んだ確定連結額ではありません。

マイナス694兆円が、プラス593兆円になったのか

相殺だけで資産不足が資産超過に変わった、という意味ではありません。約694兆円は、国の一般会計・特別会計と日銀の帳簿を基にした差額です。593.3兆円は、地方や公的企業まで含むSNAの差額です。含める組織、時点、資産・負債に何を計上し、いくらで評価するかが違います。SNAでは企業の株式・持分も発行側の負債に含め、資産・負債の種類ごとに評価方法も異なります。どの違いが何兆円の差を生んだかまでは照合していません。

593.3兆円の中身は、次の式で読めます。

公的部門の差額の読み方 Amount
金融資産から負債を引いた差額 −607.1兆円
土地・建物・設備などの非金融資産 1,200.4兆円
全体の資産・負債差額 593.3兆円

金融資産だけでは負債より607.1兆円少なく、土地・施設などを加えるとプラスになります。自由に使える現金が593.3兆円余っているわけではありません。将来の公的年金給付などを、すべて差し引いた余剰でもありません。公共施設を売ればサービスに影響しますし、金融資産にも年金運用などの使途があります。プラスかマイナスかに加えて、何を持っているのかを読む必要があります。

家計・企業まで含めた「日本全体」の決算書

家計や民間企業まで一緒に見ることもできます。ただし、これは政府の連結決算ではなく、国内のすべての部門をまとめた国全体の資産負債表です。政府が家計や企業を所有している、という意味ではありません。

内閣府の2024年末の国民経済計算の貸借対照表and対外資産・負債の表を使い、国内同士の金融資産と負債8,445.8兆円を両側から除くと、次の表になります。単位は兆円です。

Item 国内の各部門を合算 国内同士を相殺した日本全体
資産 14,119.4 5,673.6
負債 9,569.9 1,124.2
資産・負債差額(国富) 4,549.5 4,549.5

残る資産は、土地・建物・設備などの非金融資産4,011.0兆円と、対外資産1,662.6兆円です。残る負債は対外負債です。対外資産には相手の負債を伴わない貨幣用金も含まれます。また、対外負債には海外の投資家など非居住者が持つ国内企業の株式なども含まれるため、全部を返済期限のある借金とは呼べません。表示値は丸めているため、引き算に0.1兆円の差が出ます。

たとえば、家計の銀行預金は、家計には資産、銀行には負債です。日本全体では相殺されます。銀行が持つ国債も、政府の負債と相殺されます。しかし、預金者が引き出す権利や、政府が国債を返す義務が法律上なくなるわけではありません。あくまで、日本全体を一つにまとめて重複を除く表示です。

日本全体に資産があることと、政府が自由に使えるお金があることは別です。家計の住宅や企業の設備は、それぞれの所有者のものです。国全体の国富を政府の返済資金とみなせば、誰の資産なのかを飛ばしてしまいます。

中央銀行の国債保有を他国と比べる

日銀の保有は国際的に大きいのでしょうか。比較には、IMFが公開する政府債務の保有者別データを使います。2026年5月1日版の、2025年末の暫定値です。各国の数字を揃えるため、対象は中央政府の国債だけでなく、地方政府なども含む一般政府の債務とします。

2025年末 一般政府債務に占める自国中央銀行の保有割合
Japan 41.9%
United Kingdom 17.8%
United States 11.7%

分母は政府内部の貸し借りを消去した総債務で、国債・地方債などの証券のほか、借入金なども含みます。額面または価格評価の変動を調整した推計です。したがって「日銀の日本国債保有比率」とは異なりますが、共通の物差しでは日本の割合が高いと確認できます。ECBは複数国を対象とするため、この3か国と同じ形では並べていません。

この差は、中央銀行の金利リスクや、保有を減らす際に市場が引き受ける量の手掛かりです。安全性を判断するには、裏側の負債と金利も見る必要があります。

米国の中央銀行は民間なのか

日銀も、民間が出資する仕組みを持っています。ただし、上場しているのは普通の株式会社の株式ではなく、日銀の「出資証券」です。東証で売買され、出資は政府55%、民間45%ですが、出資者に議決権はなく、株主総会に相当する総会もありません。市場で買えることと、金融政策を支配できることは別です。

米国のFedは、公的な機関と民間的な組織形態を組み合わせた制度です。FRB理事会は連邦政府機関で、12の地区連邦準備銀行は連邦法に基づく別法人です。加盟する民間銀行は地区連銀の株式を持ちますが、普通の会社株式とは違い、売却や担保化はできません。地区連銀は営利目的ではなく、必要経費や法定配当などを控除した利益は米国財務省に納付します。制度全体を民間企業と呼ぶのは不正確です。

日米で異なる資金のつながり

日米で違う、お金を持つ場所・届ける経路 主要経路の概念図 | 数字は家計金融資産の構成比(2026年3月末) Japan 預金を通じた経路の存在感が大きい 家計:資金を持つ・運用する 現金・預金 47.2% 株式等16.7% + 投資信託6.9% 銀行 預金・決済/貸出 証券市場・機関投資家 株式・債券/投信・保険・年金 融資 株式・社債 国債 企業 設備・研究開発・事業拡大 政府 公共サービス・投資 銀行も国債を保有/家計の直接投資もある 中央銀行 日銀 銀行・市場と国債等を売買 準備預金・金利を通じて作用 海外の投資家 国債・株式・社債への投資 国内から海外への運用もある United States 株式・投信を通じた経路の存在感が大きい 家計:資金を持つ・運用する 現金・預金 10.7% 株式等43.4% + 投資信託13.3% 銀行 預金・決済/貸出 証券市場・機関投資家 株式・債券/投信・保険・年金 融資 株式・社債 国債 企業 設備・研究開発・事業拡大 政府 公共サービス・投資 銀行も国債を保有/家計の直接投資もある 中央銀行 連邦準備制度(Fed) 銀行・市場と国債等を売買 準備預金・金利を通じて作用 海外の投資家 国債・株式・社債への投資 国内から海外への運用もある 構造の違い:銀行が信用リスクを引き受ける経路と、投資家が市場リスクを負う経路の比重。 矢印は主な接続関係です。資金量・因果・貸出の順序を示さず、利息・配当・返済などの逆向きの流れは省略。 預金をそのまま又貸しする仕組みではありません。銀行は貸出時に預金を生み、資本・流動性などの制約を受けます。 出所:日本銀行「資金循環の日米欧比較」2026年8月31日、図表2。残高比率であり、その年の新規投資額ではありません。 家計の範囲:米国は非営利団体を含み、日本は含みません。割合は各資産の保有残高を示します。

日銀の「資金循環の日米欧比較」では、2026年3月末の家計金融資産に占める現金・預金は日本47.2%、米国10.7%です。株式等は日本16.7%、米国43.4%で、資産を持つ形が大きく異なります。なお、米国の家計部門には非営利団体を含み、日本には含みません。図の矢印は主要な取引関係を示す概念図で、資金量を表すものではありません。

両国とも、政府の借金は銀行や投資家の資産につながります。ただし「国債が民間の資産である」ことは会計上の対応関係であり、支出を増やせば社会全体が必ず豊かになる、という因果関係の証明ではありません。また、家計の金融資産は家計のもので、そのまま政府の返済資金として使えるわけでもありません。

中央銀行も含めると、他国はどうか

中央銀行を含む国際比較には、IMFの2018年『財政モニター』の公的部門の貸借対照表を使います。以下は2016年の推計値で、現在の順位ではありません。中央政府と中央銀行だけでなく、地方政府や公企業も含む広い連結です。国の帳簿による約694兆円とも、先ほどの内閣府SNAとも、時点・計上範囲・評価方法が違います。ここでは各国をこの研究の枠組みで比較し、日本の数字を前の表とつないで改善・悪化を測ることはしません。

単位は各国GDPに対する割合です。「資産・負債差額」は資産全部から負債を引いた額。「純金融資産」は、土地や道路などの非金融資産を除き、金融資産から負債を引いた額です。

Country 資産 負債 資産・負債差額 純金融資産
Japan 311.0% 316.8% -5.8% -170.2%
United States 175.0% 191.7% -16.7% -100.8%
United Kingdom 135.0% 260.3% -125.3% -195.3%
Germany 209.0% 228.6% -19.6% -83.6%
France 187.0% 229.0% -42.0% -147.6%
Canada 176.6% 140.4% 36.1% -58.8%

日本は、道路なども含む差額ではGDP比マイナス5.8%ですが、金融資産だけで見るとマイナス170.2%で、この6か国では英国に次いで不足が大きくなります。日本には多くの資産がある。しかし、そのすべてを返済に使えるわけではない。この両面を見せる比較です。道路などは公共サービスに役立つ一方、簡単には売れません。金融資産にも使途の制約があります。資産不足だけで日本が最も危険とは言えませんが、資産の多さだけで安心とも言えません。

出所:IMF公表データ・Figure 1.1。2018年公表時点の推計で、対象の網羅性や評価方法には国別の差も残ります。負債には公務員年金等の債務も含み、通常の政府債務残高とは異なります。表示は小数第1位に丸めています。

IMFは、国の財政をどう評価しているのか

ここまで、国の財産と負債を、範囲を分けて見てきました。ただし、決算書の差額がプラスでも、返済に使える現金が足りるとは限りません。マイナスでも、それだけで支払不能の時期は決まりません。会社でも、決算書に加えて、将来の収支と資金繰りを確認します。

IMFの2026年対日報告の財政リスク評価も、この将来の支払能力を考えるものです。対象は中央政府・地方政府・社会保障基金を合わせた「一般政府」で、中央銀行や公的企業は対象に含めていません。本稿の全公的部門の貸借対照表を、そのまま採点したものではありません。

IMFが見る項目を、会社の財務に例えて整理します。

IMFが見るもの 会社の財務に例えると
債務残高と経済規模 稼ぐ基盤に対して、借金が重すぎないか。
税収・支出・利払いの見通し 今後の収支はどうなるか。
満期を迎える債務と、新たな赤字 毎年、借り換えを含めていくら資金調達が必要か。
国債の買い手・通貨・返済期限 誰から、どのような条件で借り換えられるか。
成長率低下や金利上昇への耐性 見通しが外れても、資金繰りが続くか。
金融資産と、その使途の制約 必要なときに使える資産がどれだけあるか。

IMFは、日本の財政ストレスの総合リスクを「中程度」と評価しています。国内に国債の買い手が多いこと、円建てで借りていること、返済期限が長く金利上昇の影響が一度には及ばないことなどが、危険を和らげるという判断です。政府の金融資産も考慮しますが、その多くには使途の制約があると指摘しています。

「国全体を連結したら資産超過だから大丈夫」と判断しているわけではありません。成長率や金利などに仮定を置いて将来の債務と資金調達を分析し、高齢化による支出や利払いの増加も検討しています。国内の買い手が今後も同じ条件で買う保証はなく、同報告は中期的な財政改善を求めています。

資料の公開から、全体像を読める開示へ

資料が公開されていることと、国民が財務の全体像を読み取れることは別です。本稿で数字を並べる際にも、対象を広げると、時点や資産・負債の計上・評価方法が変わりました。約694兆円の資産不足と、公的部門の593.3兆円の資産超過は、その違いを説明せずに並べれば、矛盾した数字に見えてしまいます。

原因を分けるための情報にも限界があります。内閣府の一般政府の部門別残高表は、固定資産と在庫について、中央政府・地方政府・社会保障基金の合計だけを示しています。この表では地方政府の固定資産全額を取り出せないため、地方を加えた効果と評価方法などの違いを、本稿では完全には切り分けられませんでした。これは、資料が存在しないという断定ではなく、今回の比較で突き当たった具体的な限界です。

資料が公開されていても、数字の違いを読者が追跡し、検証できる形になっていなければ、財政の透明性は十分とは言えません。今回の比較で確認した公表資料だけでは、差額を要因別に完全には分解できませんでした。国の財務の全体像を読み解くうえで、この限界こそ改善すべき問題だと考えます。

私は、国民が負担と支出を判断できるよう、次の情報をつないだ資料を毎年示すことを提言します。

  • 誰を含めたかが分かる貸借対照表。国・地方・社会保障基金・日銀・公的企業について、共通の時点と基準で資産・負債を示し、内部残高の相殺前後を追えるようにする。
  • 数字の違いを説明する調整表。国の決算と統計の差を、対象の違い、評価の違い、その他の調整に分ける。資産には、利用目的や売却・使途の制約も添える。
  • 将来の支払能力につながる見通し。税収、支出、利払い、満期を迎える債務、必要な資金調達額を示し、成長率や金利の前提が変わった場合も比較できるようにする。

IMFの評価は、将来の支払能力を判断する材料です。しかし、それだけで、公的部門が何を持ち、どんな負担を抱えているかという全体像の説明が完結するわけではありません。貸借対照表と資金繰りの見通しがつながれば、資産があるから安心、借金が多いから危険、という一つの数字だけの議論から進めます。

そのうえで、支出が費用に見合う成果を生んでいるかを検証し、持続可能な負担と支出の組み合わせを考える。国の大きな数字を、国民が読んで判断できる数字にすることが、その土台になると考えます。

本稿は2026年9月8日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

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