ここで目指したいのは、世界に必要とされる技術や企業を育て、海外から所得を得て、次の世代が自ら進路を選べる国力を取り戻すことです。「Japan as No.1」への思いを、今の世界で先頭に立つ力へつなげたいと思います。
国力を、何で測るのか
本稿では経済全体の規模、世界で選ばれる産業、人材・技術・資本を次の成長へつなぐ力を見ます。為替で動くドル換算GDPだけで、産業や技術の力は測れません。
したがって、実質GDPの伸びと世界経済での比重に加え、主要産業の世界市場シェア、海外から得る利益や知的財産収入、国内に残る研究開発と付加価値を継続して見る必要があります。企業の世界売上と日本のGDPは別です。前者は中間投入や海外生産も含み、後者は国内の付加価値です。所得の帰属先も別に確認します。国力の回復には、世界での事業成功を日本の技術、人材、所得の蓄積につなぐ経路が必要です。
経済を支える思想に、ウェーバーから目を向ける
米国の強さには、プロテスタンティズムに由来する仕事や教育への価値観も関わったのではないか。これは検討したい仮説です。思想は、仕事や教育、蓄積への向き合い方を通じて制度に残るからです。ウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で「禁欲的な節約の強制による資本形成」(原文からの自訳)を論じました。ただし、その効果の大きさを正確に数値化できるとはしていません。
欧州の国を歴史的背景で比べると、Eurostatの2026年3月公表の2025年予備推計では次のようになります。一人あたりGDPを物価差調整し、EU平均を100とした値です。現在の信仰者の割合による分類ではありません。また、教育や産業などの条件をそろえて、宗教の効果を測った表でもありません。
| 歴史的背景 | Country | 一人あたりGDP |
|---|---|---|
| ルター派の影響 | デンマーク/スウェーデン | 127/110 |
| カトリックの影響 | フランス/イタリア/スペイン | 98/96/92 |
| カトリックの影響 | オーストリア/ベルギー | 117/115 |
北欧の高さは見えますが、カトリックの歴史が強い豊かな国もあります。Becker・Woessmannのプロイセン研究は識字の経路を支持する一方、Cantoniのドイツ都市研究は宗派による成長優位を検出していません。思想の影響は検討に値しますが、今日の米国の優位を宗教だけで証明したわけではありません。
米国の強みは、人数に比例しない稼ぎ方
資源を持つ国との対比は参考になります。北欧のなかでもノルウェーは、2025年の暫定値では、石油・ガス等が物品輸出額の約57%を占めました。当局の公表値で、北欧全体に共通する姿ではありませんが、海外から所得を得る基盤を持つ点が重要です。
米国のITにも、別の形で似た強さがあります。ソフトウェアは、開発したものを多くの顧客に提供できます。人が1件ずつ作業する受託業務に比べ、売上を倍にするために人数も倍にする必要が小さくなります。世界の顧客が利用するソフトウェア、クラウド、知的財産を持ち、継続的に料金を得る。「サーバーで稼ぐ」とは、こうした事業の拡張性を捉えた表現でしょう。
実際、Microsoftの2026年6月期決算は、世界連結の売上高約3,318億ドル、営業利益約1,552億ドルでした。ただし、同じ期の研究開発費は約356億ドル、有形固定資産の取得に伴う現金支出は約1,159億ドルです。サーバー、電力、人材に投資し、世界の顧客へ繰り返し販売する仕組みです。1社の利益は米国経済全体の説明ではありません。
ドイツは産業と技能の厚みを持つ
ドイツの存在感は数字でも確認できます。2025年の名目GDPはEU全体の23.8%で最大です。機械・設備企業の層に加え、企業で働きながら職業学校で学ぶデュアル訓練という、産業技能を育てる仕組みがあります。自動化を支える産業と技能のつながりは、機械を買うだけでは再現できません。
IFRによる2024年のロボット密度は製造業従業者1万人当たり449台で世界4位です。ただし中国は567台、日本も446台で、ドイツだけの強みではありません。導入密度はロボットの生産国としてのシェアとも異なります。
ユーロへの影響力も分けて考えます。経済的な重みは大きくても、ECBの通常の金融政策では投票権を持つ委員は1人1票で、ドイツに単独支配権はありません。ただし救済融資のESMでは決定を阻止できる制度があり、影響力が小さいという意味でもありません。また、2025年の実質成長率は0.2%にとどまりました。産業基盤の厚さと、経済全体が成長し続けることは同じではありません。
中国の強さは、低賃金だけでは説明できない
中国には相対的に低い賃金という利点も残っています。JBICの2025年度調査では、回答した日系企業が日本の母工場を10として評価した作業員の賃金水準は、中国で平均5.79でした。ただし国全体の平均時給ではなく、ベトナムやインドの回答平均は中国より低くなっています。
中国の製造競争力を見るうえでは、規模と供給網も外せません。IEAの2026年報告によると、2025年に中国は世界の電気乗用車生産の70%、電池セル生産の80%超を占めました。鉱物の精製から部材、電池、完成車まで供給網が集中しています。加えて、Stanford HAIの「AI Index 2026」は、一部の先端AIモデルの性能で米中差が縮小したと報告しています。安い人手だけで競争する相手ではありません。
もっとも、工場の生産量と国全体の健全さは別です。IMFの2026年公表の対中審査は、弱い内需や債務、過大な産業政策支援に伴う供給過剰も指摘しています。日本が学ぶべきなのは、政策の丸ごとの模倣ではなく、技術を量産と販売に結びつける仕組みでしょう。
国力を育てる資金に、日米約56倍の差
日本が世界で稼ぐ事業を育てるうえで、見過ごせない数字があります。経済産業省のスタートアップ調査によると、2025年の資金調達額は米国3,376億ドル、日本60億ドル。約56倍の差です。エンジェル投資や助成金等も含む広い集計で、経済規模では調整していません。
AIやロボティクスで技術を作れても、量産設備、人材、海外販売に投資できなければ世界企業には育ちません。発明から事業化、さらに世界展開へと資金をつなぐ力を、国力の条件として重視すべきです。ただし、この金額差だけで日本の有望案件が資金不足と証明されるわけではありません。資金の供給に加え、投資家が成長を見込める事業と市場を作る側も問われます。
日本にも世界で稼ぐ資産はある
日本にも、知的財産を世界市場へ展開する企業はあります。任天堂の2026年3月期決算では、連結売上高約2兆3,131億円の76.9%が海外売上でした。ゲーム専用機のデジタル売上高は4,076億円です。ハードウェアの製造・流通も伴うため純粋なソフトウェア企業とは異なりますが、日本発の作品や技術を世界の顧客に販売する事業は、既に存在しています。
しかし、日本全体のデジタルサービス取引では弱さも見えます。経済産業省の2025年公表レポートは、2024年のデジタル関連収支を6.85兆円の赤字と集計しています。コンピュータサービス、著作権等使用料、経営・コンサルティングサービスなど5項目を合わせた数字で、デジタル以外の取引も含み、クラウドだけの赤字でも、全額が米国への支払いでもありません。
海外の優れたサービスを買えば、国内企業の生産性が上がる場合もあります。輸入を減らすこと自体を目的にするのでなく、それを使って日本企業が世界からどれだけ稼げるかを問うべきです。既存の製品や現場の知識に、ソフトウェア、保守、継続課金を組み合わせられるか。開発の成果と顧客との関係を自社に蓄積できるか。これは有望な方向として検討できますが、どの産業でも成功するという実証済みの答えではありません。
人口減少のもとでも、稼ぐ力は変えられる
人口が減る日本ほど、働く人を増やすだけに頼れない事業構造が必要です。ただし、人口減少と就業者数の減少は同じではありません。総務省の労働力調査では、2015年から2025年に労働力人口は6,625万人から7,004万人へ、就業者数は6,402万人から6,828万人へ増えています。
働く女性や高齢者の増加などが、人口減少の影響を補ってきました。もっとも、就業者数の増加は、人口減少がなかった場合と比べた下押しを否定しません。人数だけでは総労働時間も分からず、参加率の上昇がいつまでも同じ速度で続く保証もありません。
生産の規模は、就業者数、1人あたり労働時間、1時間あたり生産の掛け合わせで捉えられます。国力の回復に向け、特に変えたいのは最後の項目です。OECDの対日審査2026年版・図4では、時間あたりGDPは日本59.9、米国100.1、ドイツ100.7です。2024年または直近年の購買力平価換算ドルで、国ごとの物価差を調整しています。日本人の勤勉さの順位ではなく、産業構成、設備、価格形成などを含めた成果の違いです。
投資は増えたが、何を育てたのか
投資不足という説明も、数字を確かめる必要があります。内閣府の国民経済計算から計算すると、民間企業設備投資の名目GDP比は2010年の約14.7%から2025年の約18.9%に上がっています。
この名目比率だけで、実質的な設備の増加や投資の十分さを判断することはできません。ただ、「日本企業はずっと投資を減らしている」と一括りにするのも違います。増えた投資が、世界で売れる製品や知的財産、競合が簡単に代替できない技術につながったかを確かめる必要があります。
景気対策で需要を増やせば解決するのかも、供給力と分けて考えるべきです。内閣府、日本銀行、IMFの潜在成長率や需給ギャップは、対象期間や推計方法によって値が違います。内閣府の2026年4〜6月期GDPギャップは+0.7%ですが、これは推計上の平常の供給力との比較で、成長の限界ではありません。新技術や設備を育てて供給力そのものを上げる課題は残ります。
人と資金を、次の事業へ移せるか
伝統的な大企業、いわゆるJTCも、創業年だけで評価すべきではありません。問うべきは、将来性の乏しい事業から人と資金を移せるか、社内外の新しい事業を大きくできるかです。
この点では、Caballero・Hoshi・Kashyapの論文「Zombie Lending and Depressed Restructuring in Japan」が参考になります。1990年代の日本を対象に、不採算企業への銀行の支援が健全な企業の投資や雇用を妨げたという結果を示しています。ただし、これは現在の全ての大企業や補助金について、同じ効果を確認した研究ではありません。
次の世代が、世界の先頭に立てる国へ
安い労働力を競う国から、ロボティクスとAIで一人の力を増幅し、世界で稼ぐ国へ。これを日本の戦略として検討したいと思います。相手も同じ技術を使うため、導入台数だけでは勝てません。現場の知識を生かし、品質・納期・製品1個あたりの総費用を改善し、海外の顧客が選ぶ事業にできるかが勝負です。
本稿が重視するのは、国内の仕事を少し効率化するだけでなく、日本発の製品、技術、知的財産から世界で継続して収益を得る企業を増やすことです。その担い手は新興企業にも既存企業にもなり得ます。国内にサーバーを置くだけでなく、そこで動く技術と事業を誰が持ち、投資の果実をどこに蓄積するかが重要です。
政策にも、この目的から優先順位をつけたいと思います。効果の乏しい支出や既存事業を温存する制度を見直し、民間の投資と挑戦に使える余地を広げる。持続的な減税も、そのための選択肢です。一方で、研究、人材育成、電力・通信など、民間の挑戦を支える基盤まで弱めれば逆効果になり得ます。削った支出額だけでなく、代わりに何が育ったかで成否を判断すべきです。
成否は、世界市場での地位、国内の付加価値、次世代への投資が改善するかを、政策なしの場合や代替策と比較して検証します。失われた30年を40年にしないために、過去の成功への郷愁を、次に世界で必要とされる事業を育てる意思へ変えていく。その積み重ねを、日本の国力を取り戻す道筋と考えます。
本稿は2026年9月8日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
While we pay close attention to the information provided, if you notice any errorsContact UsI would appreciate it if you could let me know.

