「従業員持株会」という言葉そのものは、所得税法にも所得税法施行令にも登場しません。他方、租税特別措置法施行令25条の10の2は、特定口座に関する規定の中で「持株会契約」という語を定義しています。従業員が拠出をして発行会社の株式をまとまった単位で保有するための仕組みを指す通称として、以下ではこの語を用います。
条文の定義
「居住者又は恒久的施設を有する非居住者が締結した持株会契約(上場株式等を発行する会社の役員(法人税法第二条第十五号に規定する役員をいう。次号において同じ。)、従業員その他財務省令で定める者(以下この号において「従業員等」という。)が、当該会社の他の従業員等と共同して、当該会社が発行する上場株式等の買付けを一定の計画に従つて個別の投資判断に基づかずに継続的に行うことを約する契約をいう。)」
租税特別措置法施行令25条の10の2は、特定口座への上場株式等の受入れに関する規定の中で「持株会契約」をこう定義しています。所得税法・所得税法施行令には「従業員持株会」や「持株会契約」を定義する規定は無く、この定義は特定口座という場面に限って置かれたものです。
骨格
| 論点 | 条文・通達の定め |
|---|---|
| 「従業員持株会」「持株会契約」という語が税法条文にあるか | 所得税法・所得税法施行令には無し。租税特別措置法施行令25条の10の2に「持株会契約」の定義あり(特定口座向け) |
| 民法上の組合として組成される場合の税務 | 任意組合の税務に整理あり |
| 会社が拠出する奨励金が所得に当たるか | 所得税法28条・所得税法36条の一般規定の問題 |
| 有利な価額で株式を取得する権利の収入金額の算定 | 所得税法施行令84条 |
| 何をもって「有利な金額」とするか | 所得税基本通達23〜35共-7 |
| 剰余金の配当についての所得税法上の定めの所在 | 所得税法24条(配当所得) |
従業員持株会はどのような法的形式で組まれるのか
従業員持株会そのものの法的性格を直接定める税法の規定もありません。会員となる従業員の間の関係が民法上の組合契約に当たる場合、民法は組合契約について「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」と定め、続けて「出資は、労務をその目的とすることができる。」としています。従業員持株会が民法上の組合として組成される場合に、その組合員である会員の税務がどうなるかについては、任意組合の税務に整理があります。従業員持株会が実際にどのような法的形式で組まれているかは、その規約の内容によって定まります。
会社からの奨励金は課税されるのか
従業員持株会に加入する従業員に対して会社が奨励金その他の名目で拠出をする場合、それが課税の対象となる収入に当たるかどうかは、持株会固有の規定ではなく、所得税法28条・所得税法36条という一般規定の問題になります。所得税法36条は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」と定め、所得税法28条は給与所得を上記のとおり定義しています。奨励金がこれらの条文にいう収入や給与等に当たるかどうかの当てはめは、本記事では扱いません。
市場価格より有利な価額で株式を取得する場合はどうなるのか
従業員持株会を通じて株式を取得する場面のうち、条文上の定めがあるのは、発行法人から一定の権利を与えられた場合の収入金額の算定です。所得税法施行令84条は、その柱書で「発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。)における当該権利に係る法第三十六条第二項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日(……)における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。」と定めています。このうち「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前二号に掲げるものを除く。)」を与えられてこれを行使した場合、控除する金額は「当該権利の行使に係る当該権利の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額」とされています。柱書の括弧書きは、「株主等として与えられた場合」を、当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限って除いています。この括弧書きが従業員持株会を通じた株式取得の場面にどう及ぶかは、条文の文言そのものを確認したうえで検討する必要があります。
何をもって「有利な金額」とするのか
所得税法施行令84条が定める「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」の意味について、所得税基本通達23〜35共-7は、「令第84条第3項第3号に規定する「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」とは、その株式と引換えに払い込むべき額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して社会通念上相当と認められる価額を下る金額である場合をいうものとする。」と定めています。同通達の(注)1は、この判定について「社会通念上相当と認められる価額を下る金額であるかどうかは、当該株式の価額と当該株式と引換えに払い込むべき額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定する。」としています。
持株会を通じて受け取る配当はどう扱われるのか
持株会が保有する株式について会社から行われる剰余金の配当を、会員である従業員が受け取る場合にどの所得区分で扱うかを直接定めた一次情報はありません。所得税法上、配当所得の定めは24条に置かれており、同条は「配当所得とは、法人(法人税法第二条第六号(定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。)から受ける剰余金の配当(株式又は出資(……)に係るものに限るものとし、……を除く。)……に係る所得をいう。」としています。
実務で迷いが生じるところ
- 会社が拠出する奨励金が所得税法28条の給与所得に当たるかどうかは、条文の一般的な定義に個々の事実関係を当てはめて確認する必要がある論点であり、本記事ではその当てはめまでは踏み込みません。
- 所得税法施行令84条の柱書が置く「株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。」という括弧書きが、従業員持株会を通じた株式の取得にどう及ぶかは、条文の文言そのものを確認したうえで個別に検討する必要があります。
- 従業員持株会が民法上の組合として組成されているかどうかは、その持株会が実際に用いている規約の内容によって定まる論点であり、規約の原文を確認する必要があります。
根拠条文
- 所得税法第28条第1項(給与所得)/引用した文言:「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」
- 所得税法第36条第1項(収入金額)/引用した文言:「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」
- 所得税法施行令第84条第3項柱書(譲渡制限付株式の価額等)/引用した文言:「発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。)における当該権利に係る法第三十六条第二項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日(……)における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。」
- 所得税法施行令第84条第3項第3号(譲渡制限付株式の価額等)/引用した文言:「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前二号に掲げるものを除く。)」「当該権利の行使に係る当該権利の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額」
- 所得税法第24条第1項(配当所得)/引用した文言:「配当所得とは、法人(法人税法第二条第六号(定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。)から受ける剰余金の配当(株式又は出資(……)に係るものに限るものとし、……を除く。)……に係る所得をいう。」
- 民法第667条(組合契約)/引用した文言:「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」「出資は、労務をその目的とすることができる。」
- 租税特別措置法施行令第25条の10の2第14項第23号(特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例)/引用した文言:「居住者又は恒久的施設を有する非居住者が締結した持株会契約(上場株式等を発行する会社の役員(法人税法第二条第十五号に規定する役員をいう。次号において同じ。)、従業員その他財務省令で定める者(以下この号において「従業員等」という。)が、当該会社の他の従業員等と共同して、当該会社が発行する上場株式等の買付けを一定の計画に従つて個別の投資判断に基づかずに継続的に行うことを約する契約をいう。)」
根拠となる通達・Q&A・裁判例
- 所得税基本通達23〜35共-7(株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合)/引用した文言:「令第84条第3項第3号に規定する「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合」とは、その株式と引換えに払い込むべき額を決定する日の現況におけるその発行法人の株式の価額に比して社会通念上相当と認められる価額を下る金額である場合をいうものとする。」「社会通念上相当と認められる価額を下る金額であるかどうかは、当該株式の価額と当該株式と引換えに払い込むべき額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定する。」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

