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相続財産を通達より高く評価することは平等原則に違反するか

本稿は令和4年4月19日の最高裁判決の解説です。当該事件の事実関係と判決理由を扱います。他の相続への適用には、その相続時点の法令・通達と個別事情の確認が必要です。

この裁判は何か

Item 内容
事件番号 令和2(行ヒ)283
事件名 相続税更正処分等取消請求事件
裁判年月日 令和4年4月19日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 民集 第76巻4号411頁
原審 東京高等裁判所 令和1(行コ)239 令和2年6月24日

相続した不動産をいくらの財産として相続税を計算するのか。国税庁が定めた計算方法(財産評価基本通達、以下では判決にならって「評価通達」と書きます)で計算した金額と、不動産鑑定士が算定した鑑定評価額とが大きく開いていた場合に、税務署が鑑定評価額のほうで課税してよいのかが争われた事件です。

最高裁は、この事件の事情のもとでは鑑定評価額にもとづく課税を適法と判断し、相続人らの上告を棄却しました。ただし判決は、金額の開きが大きいということだけを理由にはしていません。むしろ、開きが大きいだけでは足りない、とはっきり述べています。そこがこの判決を読むうえでいちばん大事なところです。

何が争われたのか

被相続人は、平成21年1月30日に信託銀行から6億3000万円を借り入れたうえで、同じ日に1件目の不動産を代金8億3700万円で購入しました。さらに同年12月には、共同相続人のうちの1名から4700万円、信託銀行から3億7800万円を借り入れたうえで、2件目の不動産を代金5億5000万円で購入しています。その後、平成24年6月に被相続人が亡くなり、これらの不動産は遺言に従って相続人のうちの1名が取得しました。

相続人らは、評価通達の定める方法により、1件目の不動産を合計2億0004万1474円、2件目の不動産を合計1億3366万4767円と評価して申告しました。この申告では、課税価格の合計額は2826万1000円とされ、基礎控除の結果、相続税の総額は0円とされていました。

これに対して国税庁長官は、評価通達6により、評価通達の定める方法によらず他の合理的な方法で評価するよう指示を出しました。評価通達6は、評価通達の定めによって評価することが「著しく不適当」と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する、と定めた部分です。この指示を受けた税務署長は、不動産鑑定士による鑑定評価額(1件目が合計7億5400万円、2件目が合計5億1900万円)をもとに、課税価格の合計額を8億8874万9000円、相続税の総額を2億4049万8600円とする更正処分と、過少申告加算税の賦課決定処分をしました。

相続人らは、これらの処分の取消しを求めました。裁判で問われたのは、通達どおりに評価した金額を上回る金額で課税することが、相続税法22条に違反しないか、そして納税者を同じように扱うことを求める平等原則に違反しないか、という2点です。なお、この事件で参照された条文は相続税法22条だけです。

裁判所は何と言ったのか

相続税の課税価格に算入される財産の価額について、財産評価基本通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、当該財産の価額を上記通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない。

読みかえると、通達どおりの計算を全員に同じように当てはめることが、かえって税負担の公平をこわしてしまう。そういう事情があるときに限って、税務署が通達を上回る金額で評価しても平等原則に反しない、ということです。裏を返せば、そのような事情がないのに特定の人だけ通達を上回る金額で評価すれば、それは違法になります。判決は、そちらの原則のほうを先に述べています。

相続税法22条の「時価」と評価通達はどういう関係にあるのか

相続税法22条は、相続などで取得した財産の価額は取得の時の「時価」による、と定めています。判決は、ここでいう時価とは、その財産の「客観的な交換価値」をいうと解釈しました。つまり、法律が求めているのは実際の値打ちであって、通達の計算式そのものではありません。

そのうえで判決は、評価通達の位置づけについて次のように述べています。評価通達は上級の行政機関が下級の行政機関に職務のやり方を指示するために出した通達にすぎず、「国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない」というのです。そこから導かれる結論が、次の部分です。

相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。

この事件の鑑定評価額は、不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められていました。ですから、それが通達で計算した金額を上回っていたとしても、そのこと自体では相続税法22条に違反しない、という結論になります。条文の言葉をどう読むかで結論が決まる点は、贈与税の「住所」が争われた事件と共通しています。

それでも通達どおりに評価しないことが違法になりうるのはなぜか

相続税法22条に違反しないなら、税務署はいつでも鑑定でやり直せるのか。判決はそうは言いませんでした。ここで登場するのが平等原則です。判決は、租税法上の一般原則としての平等原則を、租税法の適用に関して「同様の状況にあるものは同様に取り扱われること」を要求するものと解釈しました。

そして、評価通達は相続財産の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実である、と述べます。みんなが同じ物差しで測られているところに、ある人だけ別の物差しを持ち出すことになるからです。だから判決は、課税庁が特定の者についてだけ通達を上回る価額によるものとすることは、たとえその価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、「合理的な理由がない限り」平等原則に違反して違法である、と述べました。

つまり順序としては、原則は通達どおりであり、通達を上回る評価は例外です。その例外が許されるのは、通達どおりの画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合に限られます。

この事件で例外が認められた事情は何か

では、この事件では何がその事情にあたるとされたのか。まず判決は、通達で計算した金額と鑑定評価額との間に大きなかい離があることを認めたうえで、「このことをもって上記事情があるということはできない」と述べました。金額が開いているという事実だけでは足りない、という言明です。

判決が実際に挙げたのは、次の⑴⑵の事情です。

相続税の課税価格に算入される不動産の価額を財産評価基本通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、次の⑴、⑵など判示の事情の下においては、租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない。

⑴ 当該不動産は、被相続人が購入資金を借り入れた上で購入したものであるところ、上記の購入及び借入れが行われなければ被相続人の相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、当該不動産の価額を上記通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になる。

被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。

ひとつめは、負担の軽減の大きさです。購入と借入れがなければ課税価格の合計額は6億円を超えるはずだったのに、実際には2826万1000円にとどまり、税額が0円になりました。ふたつめは、当事者がその効果を知り、期待して、あえて企画して実行したという点です。判決は、この2つを並べたうえで、通達どおりの画一的な評価を行うことは、同じような購入と借入れをしない、またはできない他の納税者との間に「看過し難い不均衡」を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する、と結論づけました。

なお判決は、この購入と借入れが被相続人とその経営していた会社の事業承継の過程の一つと位置付けられていた、という事実も認定しています。それでも上の結論に至った、という読み方になります。行為の形式ではなく、制度の使われ方に着目して結論を出す点では、外国税額控除の制度濫用が争われた事件と並べて読むと理解しやすい判決です。

実務で迷いが生じるところ

  • 通達で計算した金額と時価との開きが大きいというだけでは、判決のいう事情にはあたりません。判決はその点を明示的に否定しています。
  • 判決が挙げたのは⑴の負担の軽減の大きさと⑵の意図の2つです。この事件の結論を、どちらか一方だけを取り出して他の場面に当てはめることはできません。
  • 評価通達には国民に対する直接の法的効力を有する根拠が見当たらない、と判決は述べています。通達どおりに申告したという事実だけが、結論を保証するわけではありません。
  • 一方で判決は、通達を上回る評価は合理的な理由がなければ違法である、という原則も同時に示しています。課税庁の側にも、事情の存在を示す必要があります。
  • この事件で参照された条文は相続税法22条だけです。個別の否認規定を根拠にした判断ではない点に注意が必要です。
  • 判決は、認定された具体的な事情のもとでの判断です。借入れを伴う不動産の取得が一般に問題になるかどうかを述べたものではありません。
  • 相続税や財産評価をめぐる制度は毎年の税制改正でも議論されます。直近の内容は令和8年度税制改正大綱の記事で整理しています。

出典

本稿は令和4年4月19日の判決と、当該事件に適用された制度を扱う解説です。現行法を網羅した解説ではありません。判例の時点表示は2026年9月7日に確認・整理しました。

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