条文の定義
「2次の各号に掲げる暗号資産の前項に規定する取得価額は、当該各号に定める金額とする。一贈与、相続又は遺贈により取得した暗号資産(法第四十条第一項第一号(棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)に掲げる贈与又は遺贈により取得したものを除く。)被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額二法第四十条第一項第二号に掲げる譲渡により取得した暗号資産当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」
所得税法施行令第119条の6第2項です。ここでは、相続等による取得と、通常の生前贈与による取得を分ける必要があります。相続等では被相続人の死亡時の評価額を引き継ぎますが、通常の生前贈与では、受け取った暗号資産の贈与時の時価が取得価額になります。
目を引くのは、相続等で受け取った場合の金額の決め方です。対象は、相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈、相続人に対する特定遺贈です。この場合は、受け取った時の時価に付け直すのではなく、「被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額」を引き継ぎます。
この一文には条件が二重に入っています。ひとつはいつの時点かで、これは被相続人の死亡の時です。もうひとつはどの評価の方法によるかで、これは被相続人が「よるべきものとされていた評価の方法」です。評価の方法には総平均法と移動平均法があり、どちらによっていたかで金額が変わります。この記事は、その2つ目の条件を読むためのものです。
買った場合・自分で発行した場合・そのどちらでもない場合を含めた取得価額の全体像は、個人が持つ暗号資産の取得価額は、どう決まるのかにまとめています。
骨格
| 論点 | 条文の定め |
|---|---|
| 何を定めた条文か | 所得税法施行令第119条の6第2項です。同条第1項が購入・自己発行・それ以外の3区分を置くのに対し、第2項は2つの号を置いています。 |
| 第1号の対象 | 「贈与、相続又は遺贈により取得した暗号資産」です。ただし括弧書きで、所得税法第40条第1項第1号に掲げる贈与又は遺贈によるものが除かれています。 |
| 第1号の金額 | 「被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額」です。 |
| 第2号の対象と金額 | 「法第四十条第一項第二号に掲げる譲渡により取得した暗号資産」について「当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」とされています。 |
| 評価の方法の中身 | 同令第119条の2第1項が、総平均法と移動平均法の2つを定めています。 |
| どちらによるかの決め方 | 同令第119条の3第1項が「暗号資産の評価の方法は、その種類ごとに選定しなければならない」と定め、同条第2項が確定申告期限までに書面で届け出ることを求めています。 |
| 届け出なかった場合 | 同令第119条の5第1項が、法定の評価方法を「第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする」と定めています。 |
引き継ぐのは何か
第2項第1号が引き継がせているのは、金額です。評価の方法そのものではありません。
「被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法」は、金額を計算するための道具として置かれています。その道具で「評価した金額」が、受け取った側の取得価額です。受け取った側がその後どの方法によるべきかについて、この号は何も言っていません。
受け取った側の評価の方法は、別の条文が決めます。所得税法施行令第119条の3第2項は、暗号資産の取得をした居住者に対し「前条第一項に規定する評価の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない」と定めています。届け出なければ、同令第119条の5第1項により総平均法になります。
つまり、亡くなった方が移動平均法によっていたとしても、それによって相続人が移動平均法になる、という書き方の条文ではありません。引き継ぐのは、あくまで死亡の時に計算された金額です。
総平均法だったのか、移動平均法だったのかで何が変わるのか
評価の方法の中身は、所得税法施行令第119条の2第1項が定めています。
総平均法は「その年一月一日において有していた種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額とその年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額」を1単位当たりの取得価額とする方法です。1年分をまとめて割り算します。
移動平均法は「種類を同じくする暗号資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年十二月三十一日から最も近い日において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」です。取得のたびに単価を改定していきます。
同じ買い方をしていても、この2つで出てくる1単位当たりの金額は一致しません。第119条の6第2項第1号によって引き継ぐ金額も、亡くなった方がどちらによっていたかで変わります。
もうひとつ、時点の話があります。第119条の2第1項の柱書は、評価額を計算する日を「その年十二月三十一日(同項の居住者が年の中途において死亡し、又は出国をした場合には、その死亡又は出国の時。第二号において同じ。)」と定めています。年の中途で亡くなった場合は、12月31日ではなく、その死亡の時が基準になるという書き方です。括弧の末尾に「第二号において同じ」と念を押してあるのは、移動平均法の定義の中に「その年十二月三十一日」という文言があるためと読めます。移動平均法の場合は、死亡の時から最も近い日の改定後の単価を見ることになります。
総平均法と移動平均法それぞれの定義と、届出の手続については、総平均法と移動平均法──個人の暗号資産の評価方法とその届出で詳しく扱っています。
前の持ち主が届け出をしていなければどうなるのか
所得税法第48条の2第1項は、年末に有する暗号資産の価額を「その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額)とする」と定めています。選定しなかった場合の受け皿が、括弧の中にあります。
その「政令で定める方法」が、所得税法施行令第119条の5第1項です。同項は「第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする」と定めています。
選定の手続は、同令第119条の3です。第1項が「暗号資産の評価の方法は、その種類ごとに選定しなければならない」と定め、第2項が確定申告期限までの書面による届出を求めています。
この3つを並べると、条文の作りが見えてきます。届け出ていればその方法、届け出ていなければ総平均法です。第119条の6第2項第1号が指す「よるべきものとされていた評価の方法」も、この仕組みを経て決まっていたものです。したがって、亡くなった方が何も届け出ていなかったのであれば、その方が「よるべきものとされていた評価の方法」は総平均法だった、という読み方ができます。
もっとも、これは条文の組み立てからそう読める、という話です。個々の事案でどうだったかは、実際の届出を確かめないと分かりません。第119条の3第1項が「その種類ごとに」と定めている以上、銘柄によって届出の有無や内容が違っていた可能性もあります。
さらに、評価の方法は途中で変えることもできます。同令第119条の4第1項は、選定した評価の方法(そこには「その評価の方法を届け出なかつた者がよるべきこととされている次条第一項に規定する評価の方法」も含まれます)を変更しようとする場合には「納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならない」と定めています。過去に変更の承認を受けていれば、その後の方法が「よるべきものとされていた評価の方法」です。見るべきは、死亡の時にどうだったか、です。
もう一つの号は何を指しているのか
第2項には、第1号のほかに第2号が置かれています。「法第四十条第一項第二号に掲げる譲渡により取得した暗号資産」について「当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」とする、という定めです。
また第1号にも、括弧書きの除外があります。「法第四十条第一項第一号(棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)に掲げる贈与又は遺贈により取得したもの」は、第1号から外れています。
どちらも、所得税法第40条第1項を参照しています。同項第1号は、通常の贈与や、包括遺贈・相続人に対する特定遺贈以外の遺贈について、その時の価額を贈与者等の総収入金額に算入する規定です。相続人に対する死因贈与は除かれます。受け取った側の取得価額も、同条第2項により、その贈与・遺贈時の価額になります。同令第87条が暗号資産をこの規定の対象に含めています。
一方、所得税法第40条第1項第2号は、著しく低い価額で譲り渡し、差額のうち実質的に贈与したと認められる金額がある場合の規定です。所得税法施行令第119条の6第2項第2号は、この譲渡による取得価額を、実際の対価と、その実質的な贈与額の合計額としています。相続の取得価額、通常の贈与の取得価額、低額譲渡の取得価額は、このように分かれています。
相続税の計算と同じ話なのか
違う話です。
この記事で扱っているのは、所得税法施行令第119条の6第2項が定める取得価額です。同令第119条の2第1項による評価額の計算の基礎となる金額であり、受け取った暗号資産をその後に売ったり使ったりしたときの所得の計算につながっていくものです。
一方、相続や贈与そのものに対する課税は、別の法律が定めています。その計算方法は、この記事では条文を確認していませんので触れません。
押さえておきたいのは、同じ1つの暗号資産について、性格の違う金額が出てくる場面がある、という点です。片方の金額をもう片方に持ち込まないよう、どちらの計算の話なのかを区別しておく必要があります。
実務で迷いが生じるところ
- 亡くなった方が評価の方法を届け出ていたかどうかを、受け取った側で確認できるかどうか。届出の有無で引き継ぐ金額が変わります。
- 複数の銘柄を持っていた場合に、銘柄ごとに届出の内容が違っていた可能性があること。同令第119条の3第1項は「その種類ごとに」選定すると定めています。
- 通常の生前贈与では、贈与時の時価が取得価額になること。居住者が暗号資産を贈与すると、原則として贈与者側でも贈与時の価額を総収入金額に算入し、譲渡原価を必要経費に算入するため、現金を受け取っていなくても所得が生じる場合があります。
- 受け取った側自身の評価の方法をどうするか。所得税法施行令第119条の3第2項の届出をしなければ、同令第119条の5第1項により総平均法になります。
- 贈与・遺贈の形と、受け取る人が相続人かどうかの確認。相続人に対する死因贈与や特定遺贈と、それ以外の贈与・特定遺贈とでは、取得価額の決め方が異なります。
- 令和8年度の税制改正では、個人が保有する暗号資産の課税のしかたについて見直しが示されています。取得価額の定めがどう扱われるかは、条文で確かめる必要があります。大綱の内容は令和8年度税制改正大綱のポイントにまとめています。
根拠条文
- 所得税法施行令 第119条の6第2項(暗号資産の取得価額)/引用した文言:「次の各号に掲げる暗号資産の前項に規定する取得価額は、当該各号に定める金額とする。一贈与、相続又は遺贈により取得した暗号資産(法第四十条第一項第一号(棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)に掲げる贈与又は遺贈により取得したものを除く。)被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額二法第四十条第一項第二号に掲げる譲渡により取得した暗号資産当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」
- 所得税法施行令 第119条の2第1項(暗号資産の評価の方法)/引用した文言:「その年十二月三十一日(同項の居住者が年の中途において死亡し、又は出国をした場合には、その死亡又は出国の時。第二号において同じ。)」「その年一月一日において有していた種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額とその年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」「当初の一単位当たりの取得価額が、再び種類を同じくする暗号資産の取得をした場合にはその取得の時において有する当該暗号資産とその取得をした暗号資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によつて改定されたものとみなし、以後種類を同じくする暗号資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年十二月三十一日から最も近い日において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」
- 所得税法施行令 第119条の3第1項(暗号資産の評価の方法の選定)/引用した文言:「暗号資産の評価の方法は、その種類ごとに選定しなければならない」
- 所得税法施行令 第119条の3第2項(暗号資産の評価の方法の選定)/引用した文言:「同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、その暗号資産と種類を同じくする暗号資産につき、前条第一項に規定する評価の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない」
- 所得税法施行令 第119条の4第1項(暗号資産の評価の方法の変更手続)/引用した文言:「その評価の方法を届け出なかつた者がよるべきこととされている次条第一項に規定する評価の方法を含む」「納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならない」
- 所得税法施行令 第119条の5第1項(暗号資産の法定評価方法)/引用した文言:「第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする」
- 所得税法 第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)/引用した文言:「その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額)とする」
補足の根拠・出典
上記資料の確認日:2026年9月7日。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

