スタートアップの基礎知識

コンサルティングの歴史

なにか事業を始めようと考えるときに、まずは、そのマーケットについて調べておいたほうがよいと思います。と言いますか、同じ土俵でたたかうにあたり、そのマーケットを調べつくした人と、まったく調べていない人では、調べつくした人のほうが強いに決まっています。

起業家の方からのご相談で、最初にその事業構想・事業プランをお聞きしたときに、個人的にはまず、必ず、コトラーのSTP理論や4P理論を使って、考えるようにしています。フィリップ・コトラーは、「近代マーケティングの父」、「マーケティングの神様」と称される人ですが、このSTPや4Pに限界があると、自ずとその事業のウィークポイントが分かり、事業化可能性をざっくりと把握できるからです。

マーケティングリサーチは、このSTPや4Pの大前提になります。

先日、士業(弁護士・弁理士・司法書士・公認会計士・税理士など)の各業界のマーケットがどうなっているのかを調べる機会があり、すごく面白い発見がありました。

[士業のマーケット比較]
(総務省統計局「平成24年経済センサス」/「e-Stat」より作成)

事業所数 従業者数
【人】
売上高
【百万円】
法律事務所 7,405 33,769 348,991
特許事務所 1,117 10,317 167,140
司法書士事務所 9,585 29,121 196,715
行政書士事務所 4,946 10,221 35,800
公認会計士事務所 2,767 29,913 346,349
税理士事務所 25,009 119,408 936,673
社会保険労務士事務所 4,691 13,963 73,177

税理士事務所数は全国で28,000とも言われるので、少しサンプルが足りないかもしれませんが、1兆円産業であることが分かります。弁護士業界も1兆円産業と言われることがあり、もしかすると、弁護士はサンプルがかなり少ないかもしれません。

事業所数、従業者数、売上高が分かると、これらを割り算することで、いろいろな分析ができ、さらにいろいろな発見があります。

1事業所あたり
従業者数
【人】
1事業所あたり
売上高
【百万円】
1従業員あたり
売上高
【千円】
法律事務所 4.56 47 10,335
特許事務所 9.24 150 16,200
司法書士事務所 3.04 21 6,755
行政書士事務所 2.07 7 3,503
公認会計士事務所 10.81 125 11,579
税理士事務所 4.77 37 7,844
社会保険労務士事務所 2.98 16 5,241

士業は「労働集約型」のビジネスなので、「1従業員あたり売上高」という「生産性」には自ずと限界があるのですが、税理士業がざっくり約800万円というのはなんとなく分かります。今回の割り算では、「意外と弁理士業がすごいんだな」という印象以外、特に目新しい発見はありませんでした。

ここで、ふと、「中小企業診断士はどうなんだろう?」と思い、調べてみたのですが、総務省統計局の資料に「中小企業診断士事務所」というカテゴリがなく、「経営コンサルタント業」というカテゴリしかありませんでした。

そこで、「経営コンサルタント業」でもまったく同じ分析をしてみたところ…

[士業のマーケット比較]
(総務省統計局「平成24年経済センサス」/「e-Stat」より作成)

事業所数 従業者数
【人】
売上高
【百万円】
経営コンサルタント業 10,210 79,343 3,968,579

税理士事務所より全然少ないんだなと思った一方で、「え、4兆円規模もあるの?!」とまずビックリ。

1事業所あたり
従業者数
【人】
1事業所あたり
売上高
【百万円】
1従業員あたり
売上高
【千円】
経営コンサルタント業 7.77 389 50,018

前述の「生産性」をはかる「1従業員あたり売上高」でまたビックリ。
パーヘッド(1従業員あたり売上高)がなんと約5,000万円もあります。

正直、資格を取れない人が名乗る職業が「経営コンサルタント業」だという印象があったのですが、マッキンゼーボスコンなどのいわゆる「戦略系コンサルティングファーム」も経営コンサルティング業にカテゴライズされるでしょうから、実はパーヘッドはピンキリなのかもしれません。

大学の同級生が以前ボスコン(BCG / ボストン・コンサルティング・グループ)で働いていたことがあり、「1従業員あたり売上高ってどれくらいあるの?」と率直に聞いてみたところ、「7,000万円から1億円くらいじゃないかな」とサクッと教えてもらいました。

久々に興奮してしまいました。すごいじゃん、コンサルティング。

マッキンゼーやボスコンの財務データは、通常、非公開でしょうし、前述の友人がハッタリをかましている可能性もなくはないかもしれません。
そこで、まず、Wikipediaで、「経営コンサルタント」を検索してみたところ、

日本で活躍する経営コンサルティング会社

戦略系コンサルティング会社

マッキンゼー・アンド・カンパニー(McK)
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)
ベイン・アンド・カンパニー(BAC)
ジェンパクトコンサルティング(GEC)(旧GE)
デロイトトーマツコンサルティング(DTC)
A.T.カーニー(ATK)
アーサー・D・リトル(ADL)
アクセンチュア(ACN)
コーポレイト・ディレクション・インク(CDI)
ローランド・ベルガー(RB)
プライス・ウォーターハウス・コンサルタント(PwC)(現IBM)
野村総合研究所(NRI)

業務系コンサルティング・IT系コンサルティング

フューチャーアーキテクト
スカイライト コンサルティング
アビームコンサルティング
日立コンサルティング
IBMビジネスソリューションズ
NTTデータ経営研究所
プラウドフットジャパン
ザカティーコンサルティング
ビジネスブレイン太田昭和(BBS)
エル・ティー・ソリューションズ
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ
シンプレクス・テクノロジー
ベイカレントコンサルティング
ウルシステムズ
スウィングバイ2020
NIコンサルティング
百年コンサルティング

特化型コンサルティング

ドリームインキュベータ
マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング
カート・サーモン
ガートナージャパン
カーボンフリーコンサルティング
アバナード
ビー・エー・シー・アーバン・プロジェクト
ペリージョンソンコンサルティング
エヌ・ケイ・リスクコンサルティング
マーサー
ワトソンワイアット
ヒューイット・アソシエイツ
ヘイ コンサルティング グループ
タワーズペリン
船井総合研究所
IMSジャパン
エムスリー
博報堂ブランドコンサルティング
山田ビジネスコンサルティング
アルー
経営共創基盤
171総合研究所
ベネフィットコンサルティング

Wikipedia「経営コンサルタント」から引用

とんでもない数の大手がいるんですね。弁護士業界が四大法律事務所、公認会計士業界も四大監査法人、税理士業界もBIG4といった表現がありますが、その比じゃありません。マーケットサイズが士業全体の約2倍あったとしても不思議ではありません。

次に、野村総研について調べてみました。

野村総研ウェブサイトの会社概要によると、

従業員数  5,972人(NRIグループ9,012人)2015年3月31日現在
連結売上高 4,059億円(2015年3月期)

とのこと。
連結ベースでの「パーヘッド(1従業員あたり売上高)」は、約4,500万円になります。

上場企業の年収ランキングで常にトップ5に入っていて、個人的にいつも気になっている会社「日本M&Aセンター」もいわゆる「経営コンサルティング業」にカテゴライズされるはずです。日本M&Aセンターはどうでしょうか?
日本M&Aセンターウェブサイトによると、

従業員数  200人
連結売上高 122億円(2015年3月期)

とのこと。
連結ベースでの「パーヘッド(1従業員あたり売上高)」は、約6,100万円になります。

ちなみに、船井総研は、同様に、

従業員数  746人
連結売上高 125億円(2014年12月期)

とのことで、連結ベースでの「パーヘッド(1従業員あたり売上高)」は、約1,680万円になります。

ここまで調べて、なんとなく、経営コンサルティング業界のパーヘッド(1従業員あたり売上高)が約5,000万円もあるというのはありえるのではないかという感じがしてきました。

その上で、経営コンサルといえばまず頭に浮かぶ「マッキンゼー」が気になり、「マッキンゼーの歴史」を調べていくと、こんな本に出会いました。


マッキンゼー [Kindle版]
ダフ・マクドナルド (著)

読んでいて面白かったのですが、マッキンゼー・アンド・カンパニーの創業者であるジェームズ・O・マッキンゼーはもともと「会計」の専門家で、1926年、創業時のマッキンゼーは「ジェームズ・O・マッキンゼー・アンド・カンパニー会計士・経営工学士事務所」という名称だったとのこと。個人的には、企業会計という分野を経営コンサルティングに発展させた歴史にシビレました。つまり、当たり前ですが、経営コンサルティングのベースには数字(会計)があるわけです。

続いて読んだ本は、こちら。


コンサル一〇〇年史 (ディスカヴァー・レボリューションズ) [Kindle版]
並木裕太 (著)

著者の並木裕太さんは、ほぼ同世代ということもあり、時代背景などが親しく、非常に参考になりました。コンサルタントの経験値に基づく「グレイヘアコンサルティング」(白髪のベテランによるコンサル)と、若手でも可能な「ファクトベースコンサルティング」(事実を並べてロジカルなコンサル)の対比が非常に面白かったです。

続いて、こちら。


経営戦略全史 50 Giants of Strategy (ディスカヴァー・レボリューションズ) [Kindle版]
三谷宏治 (著)

著者の三谷宏治さんは、ボスコンとアクセンチュアで約20年間、経営コンサルタントとしてご活躍されたとのことで、非常に説得力がありました。

最終的に、元マッキンゼー日本代表大前研一さんの本もいくつか読んだのですが、一番面白かったのが下記の本。


学校に行かなかった研一―「年上の妹」がつづるケンチャンの素顔 単行本
大前伶子 (著)

非常にマニアックだと思うのですが、有能な伝説のコンサルタントのルーツの意外性を垣間見た気がして、正直、ものすごく面白かったです。

それは、さておき。

結論としては、経営コンサルティング業、特に「戦略系」は「労働集約型」のビジネスモデルのはずなのに、そのパーヘッドが高い理由は、国や大企業を相手に改善をするからではないかと思いました。1%改善しても、その5-20%くらいの報酬を見積もることができれば、莫大なフィーになるという印象です。(ちなみに、戦略系のコンサルティングファームは基本的には成功報酬型ではなく固定報酬型だそうです。)

また、士業は基本的にはコンプライアンス業務(法令遵守業務)を提供する仕事ですが、コンサルティングはその真逆。創意、工夫次第で、いくらでも新しい価値が生み出せるから、顧客にとって価値があるのかもしれません。

これからコンサルティングをはじめられようとしている方、あるいは、起業家にとってのコンサルタント選びのご参考になればと思います。

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