今年の3月3日に、中小企業の事業計画策定・実行支援で実績のある長崎県の岩永經世税理士と、起業家支援で実績のあるワンストップビジネスセンターの面々と一緒に、一般社団法人日本中小企業格付機構という組織を発足しました。
日本全国の税理士を通じて、中小企業の財務の健全性について「格付」評価するという事業構想です。
国税庁の「平成25事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」によると、平成25年度の黒字申告割合は29.1%とのことです。また、この20年間、黒字法人割合は約25〜36%の間を推移しているとのこと。
つまり、現状、日本の会社のうち、黒字の会社は30%前後しかないということになります。
失われた20年とも30年とも言われる不確実な今日の日本経済(成熟経済)にあって、現状、赤字法人のほうが圧倒的に多いわけですが、赤字が続けば会社は当然潰れます。
当事務所が決算を組んでいても「債権の貸倒れ」被害は実際に目にしますし、日頃のご相談の中でも、「債権回収が困難で困っている」というような話はそれなりに耳にします。
また、貸倒れによる連鎖倒産というのも現実に起きています。
そういった中小企業の債権回収不能や連鎖倒産などを防止する一助として、「格付」は有効なのではないかというのが、今回の一般社団法人日本中小企業格付機構発足の大きなテーマです。
従来からある帝国データバンクや東京商工リサーチ等の信用調査会社のサービスは、取引先の「与信」をはかるために、調査する側がお金を負担していますが、これとは異なり、原則として、自社が自社の費用負担で「格付」を取得します。
一般社団法人日本中小企業格付機構代表理事の岩永經世税理士の言葉を借りれば、
“中小企業経営者にとって、「格付」は誠実なリスク開示に伴う外部環境との良好な関係性の構築及び内部環境における自己変革の方向性を明確にできる機会”
ということになります(日本中小企業格付機構ウェブサイトより抜粋)。
世界的な「信用格付機関」大手には、Standard & Poor’sやMoody’s、FitchRatings等がありますが、彼らは国や大企業の債権の信用格付機関というイメージが強く、中小企業向けの格付は行っていないイメージがあります。
しかし、実際には、日本国内でも、中小企業向けの格付を行っている会社が実は3社あるのですが(柳澤調べ)、いずれも「年商5億円以上」「決算5期以上」といった格付条件があるため、約380万社とも言われる国内事業者のうち、そのほとんどは利用できません。また、金融機関との協業で格付を付与しているのも特徴です。
一方、弊事務所も認定を受けているのですが、平成24年8月に「中小企業経営力強化支援法」という法律が施行され、税理士等が、中小企業支援の専門家として認定される「経営革新等支援機関の認定制度」というものが始まりました。
中小企業庁によると、平成27年3月時点の認定支援機関数は23,493、うち18,241が税理士及び税理士法人とのことで、全国約28,000の税理士事務所及び税理士法人(総務省統計局などの調べ)が存在するとされていることから、現在、3人に2人の税理士が認定支援機関となっていることになります。
しかし、個人的な経験を踏まえても、認定支援機関として具体的に活動している税理士はほとんどいないのではないかという問題意識もありました。
改めて認定支援機関の中小企業支援業務を調べてみると、認定支援機関には、下記の基本業務が求められています。
(1)経営の「見える化」支援
(2)事業計画の策定支援
(3)事業計画の実行支援
(4)モニタリング支援
(5)中小企業・小規模事業者への会計の定着支援
この最初のステップである「経営の「見える化」支援」を、「格付」業務と組み合わせると面白い(分かりやすい)のではないか、ということで、日本中小企業格付機構は、金融機関との協業ではなく、全国の税理士との協業という形をとることになりました。
そもそも金融機関が決算を組んでいるわけではなく、中小企業の決算書のほとんどは税理士が組んでいるわけで、決算書に対する責任感もありますし、決算書作成や税務申告書作成の延長線上に、この格付業務(格付証書作成・付与)を位置付けて考えています。
日本中小企業格付機構を立ち上げて、弊事務所も当然真っ先に会員となり、顧問先の皆様に「格付」のご提案をしているのですが、実際に多くの顧問先様から格付付与のご依頼をいただき、先日から格付証書の納品をはじめています。
「競合他社と比べて、自社の置かれている位置がよくわかった」
「同業の粗利率の中央値が◯◯.◯%なんて知らなかった、参考になる」
「よい格付だったので早速ウェブサイトの会社概要欄で使わせてもらい、お客様や仕入先からの信頼をいただいて、業績を上げたい」
「イメージしていたよりよくなかっので、今期の格付はより上を目指したくなる」
等々、いろいろなご意見をいただいておりますが、ひとつ言えるのは「想像していた以上によろこんでいただいる」という実感です。
「なんかまた怪しいこと始めたの?」
というお言葉も一部顧問先の社長様からいただいたのですが(笑)、
「実は国内中小企業約100万社の財務データ(ビッグデータ)との比較で公正に格付評価している」
等々のご説明をすると、
「面白そうだね!じゃあ、ちょうどいまやっている決算(3月決算法人)で格付してみてよ」
と言っていただいたケースもあります。
弊事務所は、税務顧問のほか、中小企業のM&Aアドバイザリー業務や、スタートアップの事業計画・資本政策立案支援業務などもご提供しており、もともと「事業価値の評価」に関する業務を比較的多種多様にさせていただいています。
今回の「格付」もこれらの評価業務と似ている業務なのですが、上記の特殊業務に比べて、個人事業主を含め、どんな事業者にも提供できる業務という意味では、たくさんのお客様によろこんでいただけるのが非常にうれしいところです。
この事業構想は、
(1)「日本中小企業格付」の知名度が上がること
(2)日本全国の税理士になるべく多く会員として参加してもらうこと
が、キーになってくるので、いろいろと考えたり、話し合ったり、取り組んだりすることが多いのですが、非常にやりがいを感じています。
一気にバーンと実績が出ることはないので、いまは、弊事務所含め会員になっている中小企業支援に積極的な税理士事務所・税理士法人の先生方とともに、コツコツと実績を積み重ねてまいります。
一般社団法人日本中小企業格付機構のウェブサイトはこちらです。
日本中小企業格付機構ウェブサイト http://jsbr.org/
中小企業経営者の方も、税理士の先生も、ぜひご覧いただければと思います。