条文の定義
「国又は地方公共団体(港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)の規定による港務局を含む。)に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。)」
所得税法第78条第2項第1号です。同条第1項の寄附金控除が対象とする「特定寄附金」の中身を並べた各号の、最初に置かれた号です。
引用した文言に、ふるさと納税という語は出てきません。書かれているのは、寄附の相手方が国または地方公共団体であること、寄附をした人に特別の利益が及ぶと認められるものは除くこと、この2点だけです。ふるさと納税は、税法の側から見れば、この号にいう地方公共団体に対する寄附金です。制度の名前で特別扱いされているのではなく、相手方が誰であるかによって、この号に入ります。
住民税も同じ構造で、地方税法第37条の2第1項は、控除の対象になる寄附金の第1号として「都道府県、市町村又は特別区」に対する寄附金を挙げています。ふるさと納税という1本の条文があるのではなく、所得税法と地方税法の寄附金の規定が同時に動く形です。
なお、返礼品がこの号の除外規定とどう関わるかは、この文言だけからは読み取れません。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| 所得税の寄附金控除 | 所得税法第78条第1項により、2,000円を超える部分を、その年分の総所得金額、退職所得金額または山林所得金額から控除します。所得から差し引く控除です。 |
| 住民税の基本控除 | 地方税法第37条の2第1項が道府県民税について「百分の四」、第314条の7第1項が市町村民税について「百分の六」と定めています。合わせて10パーセントを所得割の額から差し引きます。 |
| 住民税の特例控除 | 地方税法第37条の2第11項と第314条の7第11項により、2,000円を超える金額に一定の割合を乗じた金額が所得割の額から引かれます。 |
| 2,000円 | 所得税法第78条第1項第2号は「二千円」を掲げ、地方税法も「二千円を超える場合」に控除するとしています。 |
| 上限(特例控除額) | 道府県分と市町村分を合わせて、住民税の所得割の額の20パーセントが上限です。世間でいう上限額は、ここから逆算されます。 |
| 上限(寄附金額そのもの) | 所得税では総所得金額等の合計額の「百分の四十」、住民税では前年のその金額の「百分の三十」を超える部分が計算に入りません。 |
金額の出し方そのものはふるさと納税の上限額、ざっくり計算にまとめています。ここから先は、その前提の条文を見ていきます。
二千円は、何のための金額なのか
所得税法第78条第1項は、第1号に掲げる金額が第2号に掲げる金額を超えるときに、その超える金額を控除する、と書いています。第1号は「その年中に支出した特定寄附金の額の合計額」、第2号は「二千円」です。寄附した金額のうち2,000円は、控除の計算に入りません。
住民税も同じです。地方税法第37条の2第1項は、寄附金の額の合計額が「二千円を超える場合には、その超える金額の百分の四」に相当する金額を所得割の額から控除するとしています。
いわゆる自己負担2,000円という言い方は、両方の法律に共通して置かれたこの金額を指しています。ただし条文は、自己負担という言葉を使っていません。控除の計算に入れない部分がある、と書いているだけです。後で見る上限を超えた部分は、この2,000円とは別に負担が残ります。2,000円で済むのは、上限の内側にいるあいだだけです。
控除は3つに分かれている
ふるさと納税で戻ってくる金額は、1つの制度から出てくるものではありません。性質の異なる3つの控除の合計です。
1つ目は、所得税の寄附金控除です。税額から直接引くのではなく所得から引く控除ですから、戻る金額はその人に適用される税率によって変わります。同じ金額を寄附しても、所得税で戻る金額は人により違います。
2つ目は、住民税の基本控除です。地方税法第37条の2第1項は道府県民税について「百分の四」、第314条の7第1項は市町村民税について「百分の六」と定めています。合わせて10パーセントです。指定都市に住所がある場合は道府県分が「百分の二」、市町村分が「百分の八」になりますが、合計はやはり10パーセントです。税額から差し引く控除で、割合は誰でも同じです。
3つ目が、住民税の特例控除です。所得税の寄附金控除と基本控除で吸収しきれなかった残りを引き受けます。上限が問題になるのも、この特例控除です。
上限は、住民税の所得割の額の20パーセントである
「第一項の特例控除額は、同項の所得割の納税義務者が前年中に支出した特例控除対象寄附金の額の合計額のうち二千円を超える金額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて得た金額の五分の二(当該納税義務者が指定都市の区域内に住所を有する場合には、五分の一)に相当する金額(当該金額が当該納税義務者の第三十五条及び前条の規定を適用した場合の所得割の額の百分の二十に相当する金額を超えるときは、当該百分の二十に相当する金額)とする。」
地方税法第37条の2第11項です。上限にあたるのは末尾の括弧書き、すなわち「所得割の額の百分の二十に相当する金額」を超えるときはその金額とする、という部分です。
途中の「五分の二」は道府県民税の取り分で、市町村民税を定める第314条の7第11項は同じ構造で「五分の三」としています。2つを足すと全体です。それぞれに所得割の額の20パーセントという頭打ちが置かれていますので、特例控除額の上限は、合わせて所得割の額の20パーセントです。
ふるさと納税の上限額と呼ばれているものの正体は、この20パーセントです。枠に収まっているあいだは2,000円を超える部分が3つの控除で吸収され、枠を使い切った後は、それ以上寄附しても特例控除は増えません。増えない部分が、そのまま自分の負担になります。
したがって上限額は、2,000円を超える金額に後で見る表の割合を乗じた金額が所得割の額の20パーセントにちょうど届くところ、として逆算されます。上限額の目安は、調整控除後・その他の税額控除前の住民税所得割額の20パーセントを、その寄附年に適用される割合で割り、2,000円を足した金額です。2026年中の寄附には、後述する復興特別所得税を反映した割合を使います。上限を決めるのは寄附する側の事情ではなく、その人の住民税の所得割の額です。
85パーセントから45パーセントへ下がる表は、何を意味するのか
第11項は「次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて得た金額」と定めています。その第1号が、次の表です。
| 金額の区分 | 割合 |
|---|---|
| 百九十五万円以下の金額 | 百分の八十五 |
| 百九十五万円を超え三百三十万円以下の金額 | 百分の八十 |
| 三百三十万円を超え六百九十五万円以下の金額 | 百分の七十 |
| 六百九十五万円を超え九百万円以下の金額 | 百分の六十七 |
| 九百万円を超え千八百万円以下の金額 | 百分の五十七 |
| 千八百万円を超え四千万円以下の金額 | 百分の五十 |
| 四千万円を超える金額 | 百分の四十五 |
上の表は本則の文言です。2026年中の寄附の試算では、復興特別所得税を反映した割合を使います。標準的な総合課税の場合は「90パーセント−所得税率×1.021」です。所得税率5%、10%、20%、23%、33%、40%、45%に対応する割合は、順に84.895%、79.79%、69.58%、66.517%、56.307%、49.16%、44.055%となります。
割合の区分は、住民税の課税総所得金額から人的控除差調整額を引いた金額で判定します。実際の所得税の課税所得と一致しない場合があります。分離課税のみの場合などは別の計算になるため、この表だけで判定しません。
このほか第2号として、課税総所得金額から人的控除差調整額を控除した金額が零を下回るときなどに「百分の九十」が置かれています。
条文は、この数字がなぜこう並ぶのかを説明していません。ただ、所得税の寄附金控除は所得から差し引く控除ですから、所得の水準が高い人ほど、同じ寄附額のうち所得税で吸収される部分は大きくなります。住民税の基本控除の10パーセントは誰でも同じです。所得税と基本控除で吸収されずに残る部分は、所得の水準が高いほど小さくなります。その残りを引き受けるのが特例控除ですから、割合が下がっていく並びは、この関係と整合します。
実務上の意味は、先ほどの逆算にあります。所得が上がると所得割の額が増え、割る数である割合は小さくなります。上限額が所得の増え方以上に伸びるように見えるのは、この2つが同じ方向に効くためです。
40パーセントと30パーセントという、別の上限
20パーセントとは別に、寄附金額そのものにかかる上限も条文にあります。所得税法第78条第1項第1号は、控除の対象になる金額に「総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の四十に相当する金額」という頭打ちを置いています。総所得金額等の合計額の40パーセントが天井です。
住民税は30パーセントです。地方税法第37条の2第1項と第314条の7第1項は、いずれも「前年の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の三十に相当する金額」を超える部分を外す括弧書きを置いています。所得税と住民税で割合が違います。
ここでいう住民税の「前年」は、住民税を課税する年度から見た前年です。2026年中の寄附なら、所得税は2026年分、住民税は2027年度から控除され、いずれも原則として2026年の所得を基に計算します。同じ寄附について、所得税は今年の所得、住民税は昨年の所得を使うという意味ではありません。
実務で迷いが生じるところ
- 住宅ローン控除がある場合。特例控除の20パーセント枠は、調整控除後、住宅ローン控除などその他の税額控除を差し引く前の住民税所得割額で計算します。ただし、住宅ローン控除との併用により、計算上の控除額を全額使い切れない場合があります。20パーセント枠そのものと、実際に控除できる額を分けて確認します。
- 医療費控除など、所得から差し引く控除が増えた場合。課税総所得金額が下がって所得割の額も下がりますので、やはり上限額の目安は下がります。表の区分が変わることもあります。
- iDeCoの掛金を増やした場合。掛金は所得から差し引かれますので、住民税の所得割の額も下がります。老後の備えを増やすと、ふるさと納税の上限額の目安は下がります。
- 年の途中で年収が変わった場合。年初に見込みで寄附をした後に賞与が減った、転職した、退職したといった事情があると、上限額は動きます。上限は、その年が終わってはじめて確定します。
- ワンストップ特例を使った場合と確定申告をした場合とで、結果が一致しないことがあります。ワンストップ特例では所得税の寄附金控除が働かず、住民税の側でまとめて処理されるためです。医療費控除などで確定申告をすると特例の申請は効力を失いますので、寄附先すべてを申告に含めます。
- 上限額は、あくまで目安です。所得も控除も年末まで確定しませんので、必ずこの金額まで大丈夫と言い切れる金額を年の途中に出すことはできません。余裕を見ておくのが安全です。
- 制度の数字は改正で動きます。直近の改正の方向は令和8年度税制改正大綱のポイントにまとめています。
根拠条文
- 所得税法 第78条第1項(寄附金控除)/引用した文言:「居住者が、各年において、特定寄附金を支出した場合において、第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超えるときは、その超える金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。」
- 所得税法 第78条第1項第1号(寄附金控除)/引用した文言:「その年中に支出した特定寄附金の額の合計額(当該合計額がその者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の四十に相当する金額を超える場合には、当該百分の四十に相当する金額)」
- 所得税法 第78条第1項第2号(寄附金控除)/引用した文言:「二千円」
- 所得税法 第78条第2項第1号(特定寄附金の範囲)/引用した文言:「国又は地方公共団体(港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)の規定による港務局を含む。)に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。)」
- 地方税法 第37条の2第1項(道府県民税の寄附金税額控除)/引用した文言:「二千円を超える場合には、その超える金額の百分の四(当該納税義務者が指定都市の区域内に住所を有する場合には、百分の二)に相当する金額」「当該合計額が前年の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の三十に相当する金額を超える場合には、当該百分の三十に相当する金額」
- 地方税法 第37条の2第1項第1号(控除の対象となる寄附金)/引用した文言:「都道府県、市町村又は特別区」
- 地方税法 第37条の2第11項(特例控除額)/引用した文言:「第一項の特例控除額は、同項の所得割の納税義務者が前年中に支出した特例控除対象寄附金の額の合計額のうち二千円を超える金額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて得た金額の五分の二(当該納税義務者が指定都市の区域内に住所を有する場合には、五分の一)に相当する金額(当該金額が当該納税義務者の第三十五条及び前条の規定を適用した場合の所得割の額の百分の二十に相当する金額を超えるときは、当該百分の二十に相当する金額)とする。」
- 地方税法 第37条の2第11項第1号(割合の表)/引用した文言:「百九十五万円以下の金額 百分の八十五」「百九十五万円を超え三百三十万円以下の金額 百分の八十」「三百三十万円を超え六百九十五万円以下の金額 百分の七十」「六百九十五万円を超え九百万円以下の金額 百分の六十七」「九百万円を超え千八百万円以下の金額 百分の五十七」「千八百万円を超え四千万円以下の金額 百分の五十」「四千万円を超える金額 百分の四十五」
- 地方税法 第37条の2第11項第2号(割合)/引用した文言:「百分の九十」
- 地方税法 第314条の7第1項(市町村民税の寄附金税額控除)/引用した文言:「その超える金額の百分の六(当該納税義務者が指定都市の区域内に住所を有する場合には、百分の八)に相当する金額」
- 地方税法 第314条の7第11項(特例控除額)/引用した文言:「五分の三」
今回の計算・説明で確認した資料
- 地方税法37条・37条の2、314条の6・314条の7、附則5条の6(人的控除差調整額・調整控除・適用割合)
- 国税庁:令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等
- 大阪市:令和9年度市民税・府民税の改正(2026年中の給与所得の計算)
- 生駒市:ふるさと納税の控除額(20%枠と住宅ローン控除の関係。2026年寄附の説明を参照)
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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