この版の位置づけ
令和元年12月20日、国税庁は「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」を公表しました。索引ページのリンク文言は前の版(平成30年11月21日)とまったく同じです。ところが中身は、10回の改訂のなかでもっとも大きく動いています。
問の数は21問から32問へ、11問増えました。増えた11問の内訳は、所得税関係が5問、そして新しく設けられた≪法人税関係≫が6問です。それまでのFAQは、所得税・法人税共通関係、所得税関係、相続税・贈与税関係、源泉所得税関係、消費税関係、法定調書関係という並びで、法人税だけを正面から扱う章を持っていませんでした。法人税関係の章が立ったのは、この版が最初です。
骨格
| 前の版からの変化 | 内容 |
|---|---|
| 問の数 | 21問から32問になりました。11問増えています。 |
| ≪法人税関係≫の新設 | 20から25までの6問からなる章が初めて置かれました。 |
| ≪所得税関係≫の拡張 | 前の版は7から14までの8問でしたが、この版は7から19までの13問になりました。 |
| 評価方法の届出制 | 前の版の「11 仮想通貨の取得価額の計算方法の変更」に代わり、「11 仮想通貨の評価方法の届出」と「12 仮想通貨の評価方法の変更手続」の2問が置かれました。 |
| 個人側で新設された問 | 「7 仮想通貨取引による所得の総収入金額の収入すべき時期」「10 仮想通貨の譲渡原価」「16 仮想通貨を低額譲渡した場合の取扱い」「19 仮想通貨の信用取引」が加わりました。 |
| 見出しの手直し | 「仮想通貨の所得区分」が「8 仮想通貨取引の所得区分」に、「仮想通貨の購入価額や売却価額が分からない場合」が「13 仮想通貨の取得価額や売却価額が分からない場合」になりました。 |
| 背景 | 平成31年度税制改正で、個人と法人の双方に仮想通貨の取扱いが書き込まれたことが土台になっています。 |
なぜ法人税関係の章が必要になったのか
きっかけは平成31年度税制改正です。平成30年12月21日に閣議決定された同年度の税制改正の大綱は、「三 法人課税」に次の一文を置きました。
「法人税における仮想通貨の評価方法等について、次のとおり時価法を導入する等の措置を講ずる。」
大綱はこれに続けて4つの措置を挙げています。期末の時価評価、譲渡損益の計上時期、譲渡原価の算出方法、そして未決済の信用取引等のみなし決済です。譲渡原価の法定算出方法は、移動平均法による原価法とされました。
大綱の注は、この改正を平成31年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用するとし、同日前に開始し同日以後に終了する事業年度については、会計上仮想通貨につき時価評価していない場合には時価評価と信用取引のみなし決済を適用しないことができる経過措置を講ずるとしています。
制度が動けば、それをどう当てはめるかという問いが出ます。大綱が掲げた措置と、この版で新設された問の見出しを並べると、次のようになります。
| 大綱が掲げた措置 | この版で新設された問 |
|---|---|
| 譲渡損益を、譲渡に係る契約をした日の属する事業年度に計上します。 | 20 仮想通貨の譲渡損益の計上時期 |
| 一単位当たりの帳簿価額の算出方法を、移動平均法または総平均法による原価法とします。 | 21 仮想通貨の譲渡原価 |
| 活発な市場が存在する仮想通貨について、時価評価により評価損益を計上します。 | 22 仮想通貨の期末時価評価 |
| 未決済の信用取引等について、事業年度末に決済したものとみなして損益相当額を計上します。 | 23 仮想通貨信用取引を行った場合/24 仮想通貨信用取引の譲渡損益の計上時期/25 仮想通貨信用取引に係る期末みなし決済損益 |
個人の側では何が変わったのか
同じ大綱の「一 個人所得課税」には、次の一文があります。
「個人が保有する資金決済に関する法律に規定する仮想通貨につき、その者の所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となる期末において有する仮想通貨の価額は、移動平均法又は総平均法により算出した取得価額をもって評価した金額とするほか、所要の措置を講ずる。」
ここで使われている言葉は「評価」です。前の版の問は「11 仮想通貨の取得価額の計算方法の変更」でした。取得価額をどう計算するか、そしてその計算方法を変えるときにどうするか、という組み立てです。
この版では、その位置に「11 仮想通貨の評価方法の届出」と「12 仮想通貨の評価方法の変更手続」の2問が置かれました。「取得価額の計算方法」が「評価方法」に言い換えられ、変更の手続の手前に、まず届け出るという入口の問が立てられています。変えるときだけ動く話から、取得したときに届け出るところから始まる話へと、組み立てが変わっています。移動平均法と総平均法そのものについては総平均法と移動平均法は、どちらを選べばいいのかで扱っています。
新しく立った4つの問は、どこを埋めたのか
個人側で新設された4問は、それぞれ位置がはっきりしています。
- 「7 仮想通貨取引による所得の総収入金額の収入すべき時期」は、所得税関係の先頭に置かれました。法人税関係の「20 仮想通貨の譲渡損益の計上時期」と対になる位置です。いつの年分・いつの事業年度に入れるのかという問いが、個人と法人の両方に立てられました。
- 「10 仮想通貨の譲渡原価」は、法人税関係の「21 仮想通貨の譲渡原価」と同じ見出しです。個人と法人で同じ論点が並びました。
- 「16 仮想通貨を低額譲渡した場合の取扱い」は、この版で初めて置かれました。この見出しは令和3年6月30日の版で「暗号資産を低額(無償)譲渡等した場合の取扱い」に広がります。
- 「19 仮想通貨の信用取引」は、前の版になかった問です。前の版の証拠金取引の問は、この版では「18 仮想通貨の証拠金取引」として残り、その隣に信用取引の問が並びました。法人税関係の23から25までも信用取引ですから、この版で信用取引は個人と法人あわせて4問になっています。考え方は暗号資産の信用取引は、いつ損益を認識するのかにまとめています。
22 仮想通貨の期末時価評価は、何の入口だったのか
新設された6問のうち、その後もっとも大きく育つのが「22 仮想通貨の期末時価評価」です。大綱の言葉はこうでした。
「法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。」
売っていなくても、事業年度末に持っているだけで評価損益が出る、という仕組みです。個人の課税は、売る・使う・換えるといった何らかの動きを手がかりにしてきました。法人については、持っている状態それ自体が計算の対象になります。この違いが、この版で1問として姿を現しました。仕組みの全体は法人は、暗号資産を持っているだけで課税されるのかで扱っています。
この1問は、後の版で枝分かれしていきます。令和5年12月25日の版では、法人税関係の章が「3-1 暗号資産関係」と「3-2 電子決済手段関係」に分かれ、3-1 に活発な市場が存在する暗号資産、ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価、特定自己発行暗号資産に該当する暗号資産などの7問が追加されました。令和6年12月20日の版では、3-1-11 特定譲渡制限付暗号資産に該当する暗号資産が加わっています。出発点は、この版の1問です。
実務で迷いが生じるところ
- 法人が事業年度末に仮想通貨を持っている場合、売っていなくても評価損益を計上することになります。判断の分かれ目は「活発な市場が存在する」かどうかですが、この版の32問のなかに、その判定だけを扱う独立の問は置かれていません。判定を正面から扱う問が現れるのは、令和5年12月25日の版です。
- 平成31年4月1日前に開始し、同日以後に終了する事業年度には経過措置があります。適用するかどうかを事業年度ごとに確認する必要があります。
- 個人が仮想通貨を取得したときの評価方法の届出は、この版で初めて独立の問になりました。届出という手続があること自体を知らないまま時間が経ちやすいところです。
- 個人の証拠金取引と信用取引は、この版から18と19に分かれています。手元の取引がどちらにあたるかを、取引所の契約と取引報告の内容から確かめる必要があります。
- 用語は、この版まで「仮想通貨」です。次の令和2年12月18日の版から「暗号資産」に置き換わります。過去の資料を読むときは、どの版を見ているのかを先に確かめてください。版ごとの違いは国税庁の暗号資産FAQは、10回どう変わってきたのかにまとめています。前の版については平成30年11月版、次の版については令和2年12月版の記事があります。
出典
- 国税庁「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」(令和元年12月20日) PDF
- 国税庁「過去分の情報(暗号資産関係)」 一覧
- 平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)「一 個人所得課税」「三 法人課税」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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