ケーススタディ

公益法人の税効果シミュレーション

先日のブログエントリ「公益法人を活用した節税スキーム」で解説した、法人税・所得税・相続税それぞれの税効果について、以下、単純化した事例(細かな特例計算は省略しています)でシミュレーションをしてみます。

 

ケーススタディ A社長の場合

A社長はオーナー経営者
ご家族は奥様とお子様2人(長女・長男)
財産の内訳は、現預金1億円、不動産(ご自宅と別荘)2億円、A社株式(自社株式)24億円、負債はなし、生命保険もなし
毎年、所得控除の対象になる寄付を100万円ほどしている

A社は未上場企業
株主構成は、Aさん96%(24億円相当)、奥様4%(1億円相当)
毎年、税引後利益が1億円程度、総額2,000万円の配当を支払っている
Aさんの役員報酬は2,400万円

なお、奥様はA社株式のほか現預金2億円も持っていることとします

 

このような状況で、Aさんが亡くなってしまい、相続が発生するとします。

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですから、このケースでは4,800万円になります。
正味の遺産額は、現預金1億円+不動産2億円+A社株式(自社株式)24億円=27億円となり、課税遺産総額は、賞味の遺産額27億円から基礎控除4,800万円を差し引きした26億5,200万円になります。
法定相続分でこれを按分すると、奥様が13億2,600万円、長女が6億6,300万円、長男が6億6,300万円となり、相続税の総額は、下記のようになります。

奥様分:13億2,600万円X55%-7,200万円=6億5,730万円
長女分:6億6,300万円X55%-7,200万円=2億9,265万円
長男分:6億6,300万円X55%-7,200万円=2億9,265万円
合計:12億4,260万円

実際に法定相続分どおりに遺産を分割した場合、各人の相続税負担は下記のとおりです。

奥様分:12億4,260万円X1/2=6億2,130万円 ただし、配偶者控除によりゼロになる
長女分:12億4,260万円X1/4=3億1,065万円
長男分:12億4,260万円X1/4=3億1,065万円
合計:6億2,130万円

都合、各人の手取り額は下記のとおりになるはずです。

奥様分:13億5,000万円-0円=13億5,000万円
長女分:6億7,500万円-3億1,065万円=3億6,435万円
長男分:6億7,500万円-3億1,065万円=3億6,435万円
合計:20億7,870万円

なお、相続税の計算方法について確認されたい方は、東京税理士会ウェブサイト等が参考になります。

相続財産の内訳は、現預金1億円、不動産2億円、A社株式(自社株式)24億円でしたから、不動産(ご自宅と別荘)が評価額どおりに現金化できても合計で3億円、これに奥様の現預金2億円を足しても5億円の現金となり、総額6億円超の相続税は払いきれません。
このような場合、A社長に財産が集中していてご遺族にもともとあまり財産がなければ、結局、自社株を売却等して相続税の納税原資をつくるしかありません。

 

では、次に、A社長が生前に公益財団法人を創設し、自社株の一部を寄付していた場合はどうでしょうか?

仮に、A社長が20%相当のA社株式を公益財団法人に寄付したとします。
この場合、A社の株主構成は、Aさん76%(19億円相当)、公益財団法人20%(5億円相当)、奥様4%(1億円相当)になります。

また、この株式の寄付に関しては、「租税特別措置法第40条の規定による承認」を受けた場合、譲渡所得税が非課税となります。

 

公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税の特例のあらまし

 個人が、土地、建物などの資産を法人に寄附した場合には、これらの資産は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所得税法第59条第1項第1号)。

 ただし、これらの資産を公益法人等に寄附した場合において、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています(租税特別措置法第40条)。

(注)
1 非課税制度の対象となる公益法人等とは、公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人(法人税法に掲げる一定の要件を満たす法人をいいます。)及びその他の公益を目的して事業を行う法人(社会福祉法人、学校法人、更生保護法人、宗教法人、特定非営利活動法人など)です。
2 寄附とは、既設の公益法人等に対する財産の贈与や遺贈のほか、新たに公益法人等を設立するための財産の提供をいいます。

出典:国税庁ウェブサイト:公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税の特例のあらまし

その他ご参考:
国税庁ウェブサイト:[手続名]租税特別措置法第40条の規定による承認申請

 

次に、配当です。

少し回り道をして解説することになりますが、前回のブログエントリ「公益法人の会計と税務」でも書いたように、公益法人の会計では、そのガイドラインの中に、「寄付によって受け入れた資産で、寄付者等の意思により当該資産の使途について制約が課されている場合には、当該受け入れた資産の額を、貸借対照表上、指定正味財産の区分に記載するものとする」とあります。
このように、寄付者がその公益財団法人の営んでいる「収益事業以外の事業」や「公益目的事業」に使うようその使途について制限を課した場合、法人税は課税されないはずです。

つまり、Aさんが寄付した株式5億円相当が、「収益事業以外の事業」や「公益目的事業」に使うようその使途について制限を課されていれば、そこから生じる毎年の配当400万円は、収益事業以外の事業や公益目的事業に使われる財産の運用益として、法人税無税となるはずです。(法律の設計上、これを明らかにするために、上述の寄付の段階で「その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度」を設けているのではないかと思われます。)

なお、下記の所得税法第11条等を根拠に、この公益法人へ支払う配当は所得税の源泉徴収がありません。

 

所得税法第11条(公共法人等及び公益信託等に係る非課税)抜粋

別表第一に掲げる内国法人が支払を受ける第百七十四条各号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等、配当等、給付補てん金、利息、利益、差益及び利益の分配(貸付信託の受益権の収益の分配にあつては、当該内国法人が当該受益権を引き続き所有していた期間に対応する部分の額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する部分に限る。)については、所得税を課さない。

 

所得税法別表第一 公共法人等の表(第四条、第十一条関係)抜粋

名称 根拠法
公益財団法人 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)
公益社団法人 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)

 

続いて、Aさんが毎年していた寄付100万円をAさんが創設した公益法人にした場合はどうでしょうか?

こちらも、下記の所得税法第78条等を根拠に、特定寄附金として所得控除が可能で、100万円から2,000円を差し引きした998,000円が所得控除されます。
(なお、税額控除を選択することもでき、また、個人だけでなく法人にも法人税法で寄付金の損金算入制度が設けられています。)

 

所得税法第78条(寄付金控除)抜粋

居住者が、各年において、特定寄附金を支出した場合において、第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超えるときは、その超える金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
一 その年中に支出した特定寄附金の額の合計額(当該合計額がその者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の四十に相当する金額を超える場合には、当該百分の四十に相当する金額)
二 二千円
2 前項に規定する特定寄附金とは、次に掲げる寄附金(学校の入学に関してするものを除く。)をいう。
二 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金(当該法人の設立のためにされる寄附金その他の当該法人の設立前においてされる寄附金で政令で定めるものを含む。)のうち、次に掲げる要件を満たすと認められるものとして政令で定めるところにより財務大臣が指定したもの
イ 広く一般に募集されること。
ロ 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であること。
三 別表第一に掲げる法人その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(前二号に規定する寄附金に該当するものを除く。)

 

所得税法施行令第216条(指定寄附金の指定についての審査事項等)

法第七十八条第二項第二号(寄附金控除)の財務大臣の指定は、次に掲げる事項を審査して行うものとする。
一 寄附金を募集しようとする法人又は団体の行う事業の内容及び寄附金の使途
二 寄附金の募集の目的及び目標額並びにその募集の区域及び対象
三 寄附金の募集期間
四 募集した寄附金の管理の方法
五 寄附金の募集に要する経費
六 その他当該指定のために必要な事項
2 財務大臣は、前項の指定をしたときは、これを告示する。

 

所得税法施行令第217条(公益の増進に著しく寄与する法人の範囲)抜粋

法第七十八条第二項第三号(公益の増進に著しく寄与する法人に対する寄附金)に規定する政令で定める法人は、次に掲げる法人とする。
三 公益社団法人及び公益財団法人

 

現状を整理してみましょう。

公益法人がなかったとき:
Aさんの財産の内訳は、現預金1億円、不動産(ご自宅と別荘)2億円、A社株式(自社株式)24億円

公益法人を創設した場合:
Aさんの財産の内訳は、現預金1億円、不動産(ご自宅と別荘)2億円、A社株式(自社株式)19億円

 

ここで、また、Aさんが亡くなってしまい、相続が発生するとします。

この場合、冒頭のように相続税を計算すると、課税遺産総額は、賞味の遺産額22億円から基礎控除4,800万円を差し引きした21億5,200万円になります。
法定相続分でこれを按分すると、奥様が10億7,600万円、長女が5億3,800万円、長男が5億3,800万円となり、相続税の総額は、下記のようになります。相続税の総額は、下記のようになります。

奥様分:10億7,600万円X55%-7,200万円=5億1,980万円
長女分:5億3,800万円X50%-4,200万円=2億2,700万円
長男分:5億3,800万円X50%-4,200万円=2億2,700万円
合計:9億7,380万円
(公益法人にすでにしている5億円の株式の寄付により課税遺産総額が減り、お子様たちは最高税率ではなくなっています。)

実際に法定相続分どおりに遺産を分割した場合、各人の相続税負担は下記のとおりです。

奥様分:9億7,380万円X1/2=4億8,690万円 ただし、配偶者控除によりゼロになる
長女分:9億7,380万円X1/4=2億4,345万円
長男分:9億7,380万円X1/4=2億4,345万円
合計:4億8,690万円

都合、各人の手取り額は下記のとおりになるはずです。

奥様分:11億円-0円=11億円
長女分:5億5,000万円-2億4,345万円=3億0,655万円
長男分:5億5,000万円-2億4,345万円=3億0,655万円
合計:17億1,310万円

相続財産の内訳は、現預金1億円、不動産2億円、A社株式(自社株式)19億円でしたから、不動産(ご自宅と別荘)が評価額どおりに現金化できても合計で3億円の現金、これに奥様の現預金2億円を足して5億円の現金となり、ちょうど総額5億円弱の相続税が払いきれるイメージになります。(ただし、自社株は残りますが、現金と不動産がすべてなくなります。)

 

そこで、相続財産のA社株式(自社株式)19億円のうち7億円相当(28%分)を公益法人に寄付した場合、どうなるでしょうか?

この場合、下記のように、この7億円相当は相続税の対象とされません。

 

相続財産を公益法人などに寄附したとき

 相続や遺贈によって取得した財産を国や、地方公共団体又は特定の公益を目的とする事業を行う特定の法人などに寄附した場合や特定の公益信託の信託財産とするために支出した場合は、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例があります。

出典:国税庁ウェブサイト:相続財産を公益法人などに寄附したとき

 

再度、相続税の計算をしてみましょう。

課税遺産総額は、賞味の遺産額22億円から7億円の株式の寄付を除いた15億円から基礎控除4,800万円を差し引きした14億5,200万円になります。
法定相続分でこれを按分すると、奥様が7億2,600万円、長女が3億6,300万円、長男が3億6,300万円となり、相続税の総額は、下記のようになります。相続税の総額は、下記のようになります。

奥様分:7億2,600万円X55%-7,200万円=3億2,730万円
長女分:3億6,300万円X50%-4,200万円=1億3,950万円
長男分:3億6,300万円X50%-4,200万円=1億3,950万円
合計:6億0,630万円

実際に法定相続分どおりに遺産を分割した場合、各人の相続税負担は下記のとおりです。

奥様分:6億0,630万円X1/2=3億0,315万円 ただし、配偶者控除によりゼロになる
長女分:6億0,630万円X1/4=1億5,157万円
長男分:6億0,630万円X1/4=1億5,157万円
合計:3億0,314万円

都合、各人の手取り額は下記のとおりになるはずです。

奥様分:7億5,000万円-0円=7億5,000万円
長女分:3億7,500万円-1億5,157万円=2億2,343万円
長男分:3億7,500万円-1億5,157万円=2億2,343万円
合計:11億9,686万円

公益法人への寄付後の相続財産の内訳は、現預金1億円、不動産2億円、A社株式(自社株式)12億円でしたから、不動産(ご自宅と別荘)が評価額どおりに現金化できれば、総額3億円強の相続税がほぼ納税できることになります。
この場合、奥様の2億円は残りますし、どうしても不動産を売却していたくない場合には、不動産を担保に納税資金を借入するという方法もあるかもしれません。

結局、相続税額は、当初の6億2,130万円から3億0,314万円まで、約半分以上圧縮できていることになります。

 

ここで、「もっと自社株を公益法人に入れてしまえばいいではないか」という疑問が生じますが、実は公益法人の公益認定には、いわゆる公益法人認定法に下記のような要件があります。

 

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律
第5条(公益認定の基準)抜粋

行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。
十五 他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産を保有していないものであること。ただし、当該財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合として政令で定める場合は、この限りでない。

 

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則
第4条(他の団体の意思決定に関与することができる財産)抜粋

法第五条第十五号の内閣府令で定める財産は、次に掲げる財産とする。
一 株式

 

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令
第7条(他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の財産を保有することができる場合)抜粋

法第五条第十五号ただし書の政令で定める場合は、株主総会その他の団体の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関における議決権の過半数を有していない場合とする。

 

優先株を上手く活用すれば公益認定取消しを免れる可能性はありますが、原則として、公益法人が50%以上のシェアとなるような自社株の保有をすることには公益認定取り消しのリスクが伴います。(今回のケースでは、20%+28%=48%でギリギリ50%になっていません。)

その他、公益法人認定法には、公益認定の要件として、下記のようなものも定めおり、専門家と一緒に検討するなど注意が必要です。

 

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律
第5条(公益認定の基準)抜粋

行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。
十 各理事について、当該理事及びその配偶者又は三親等内の親族(これらの者に準ずるものとして当該理事と政令で定める特別の関係がある者を含む。)である理事の合計数が理事の総数の三分の一を超えないものであること。監事についても、同様とする。
十三  その理事、監事及び評議員に対する報酬等(報酬、賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益及び退職手当をいう。以下同じ。)について、内閣府令で定めるところにより、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該法人の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定めているものであること。

 

当事務所では、公益法人の登記や公益認定の専門家で、過去に数百件の公益法人関与実績がある司法書士・行政書士とチームを組み、公益法人を活用して自社株対策をされたいオーナー経営者の方のために、初回無料相談をうけたまわっております。

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