まだ赤字で、将来も成功するか分からない会社に、なぜ何億円ものお金を出す人がいるのでしょうか。銀行融資では説明しにくい、この資金供給を担うのがVC(ベンチャーキャピタル)です。
VCのビジネスモデルは、将来大きく成長する企業の株式を早い段階で取得し、成長を支援したうえで、IPOやM&Aなどにより回収することです。ただし、投資先の成長、ファンドの利益、VC運営会社の報酬は別の話です。「2%・20%」の仕組みから、希薄化、追加投資、出口までを一つにつなげて考えます。
1.VCは、銀行のように利息で儲けるのではない
銀行融資では、原則として借りた会社が元本と利息を返します。株式へのVC投資では、会社の成長に応じた株式価値の上昇が収益の中心です。事業に失敗すれば出資価値を失う一方、非常に大きく成長すれば投資額の何倍もの回収を目指せます。
米国SECの比較でも、VCはスタートアップなどの少数持分に投資する形が典型とされています。経営権を取得して事業を改善する買収型PEとは、投資先の成長段階や関与の方法が異なります。
投資対象も一様ではありません。創業前後のシード、事業を立ち上げるアーリー、拡大段階のレイターなどで、確認できる実績も必要資金も変わります。赤字だからすべて同じリスクなのではなく、製品がない赤字と、需要は確認できていて販売網への先行投資で生じる赤字を分けて考えます。
2.VCにも、お金を出している投資家がいる
VCの担当者が、すべて自分のお金で投資しているとは限りません。LPと呼ばれる出資者から資金を集め、GP・運営会社が投資先を選び、ファンドを運営する形があります。出資者には金融機関、事業会社、機関投資家などがおり、資金は必要に応じて払い込まれます。
スタートアップの成長・売却等 → ファンドの回収 → 費用や成功報酬を反映したLPへの分配
ここで大切なのは、ファンドの存続期間です。たとえば10年前後の有限の期間を設ける設計では、どこかで回収を実現しなければなりません。英国政府系British Business BankのMicrofundsの説明にも、10年と延長の可能性を想定した例があります。ただし、これは同制度の説明であり、すべてのVCが同一期間という意味ではありません。
起業家にとっては、担当者との相性に加え、出資するのが何号ファンドで、その残存期間はどれくらいかが重要です。今から長い研究開発期間を要する会社と、近く回収期に入るファンドでは、時間軸が合わない可能性があります。
3.VCの「2%・20%」ーー運営費と成果の分配
VCにも、管理報酬と成功報酬を組み合わせる設計があります。「2%・20%」なら、前者は契約で定める資金額に対する年2%、後者は所定の利益に対する20%という意味です。SECの用語集もキャリーをPEやVCの運営者に配分される投資利益の一部として説明しています。20%が投資家の保証利回りなのではありません。
たとえば総額50億円のファンドで、コミットメントを基礎とする年2%の管理報酬なら、年間1億円です。これは運営会社の売上に相当する収入であり、投資担当者全員の人件費や案件開拓、管理体制などを支える原資です。少人数のファンドであっても、全額が利益として残るわけではありません。
また、投資期間後に報酬率や算定基礎が変わる場合があります。「総額×2%」が永久に続くとは限りません。ファンドの組成費用や監査費用などが別に負担される場合もあります。報酬率だけを比べず、ファンド全期間の総コストと、実際に企業へ投資できる金額を見る必要があります。
英国政府系の前記資料も、管理報酬とキャリーを認めつつ、他の設計の余地を残しています。2%・20%は便利な説明ですが、一律のルールではなく、金額、期間、運営体制、投資家との交渉によって変わります。
4.10社のうち1社の大成功が、全体を左右する
VCでは、少数の大きな成功が全体の成績を左右し得ます。British Business Bankも、初期段階のVC投資の収益は少数の優れた企業に左右されることが多いと説明しています。この偏りを、実務では「パワーロー」と表現することがあります。すべてのファンドが特定の数式どおりになる、という意味ではありません。
仮に10社へ1億円ずつ投資し、以下の結果になったとします。これは説明用の仮例で、実際の成功確率や標準的な成績を示すものではありません。
| 結果 | 社数 | 回収額合計 |
|---|---|---|
| 回収できない | 6社 | 0 yen |
| 投資額と同額を回収 | 3社 | 3億円 |
| 20倍で回収 | 1社 | 20億円 |
| Total | 10社 | 23億円 |
投資額10億円に対して回収額23億円なので、投資単体を合算した倍率は2.3倍です。しかし、最後の1社がなければ回収は3億円にとどまります。さらに、ここから管理報酬、他の費用、キャリーなどを考えなければ、LPの手取りは分かりません。
この構造を考えると、VCが「少しずつ安定的に儲かる会社」だけでなく、「非常に大きな市場を取りにいく会社」を探す理由が見えてきます。安定した良い事業であっても、ファンドの規模や必要な回収額と合わなければ、VCの投資対象にはならないことがあります。
5.会社が10倍になっても、VCの投資が10倍になるとは限らない
新たな株式発行で資金調達をすると、既存株主の持株比率は薄まります。これが希薄化です。
たとえば投資前の株式価値を9億円として1億円を出資し、投資後10億円の10%を取得したとします。その後の資金調達で持株比率が6%となり、最終的な株式価値が100億円で現金化できれば、単純計算の回収額は6億円です。会社の株式価値は10倍でも、この投資の回収倍率は6倍です。優先分配や売却費用などは省いています。
だからVCは、企業価値だけでなく、取得時の価格、持株比率、将来必要な資金、追加投資できる権利と資金余力を併せて見ます。高い評価額で投資すると、同じ金額でも持株比率は小さくなります。優れた会社への投資でも、価格が高すぎれば十分な収益にはつながりません。
米国の業界団体NVCAが公表する投資契約のモデルでも、株式購入契約だけでなく投資家の権利や議決権などが別途整理されています。会社が成長したときに、どの条件でどれだけの経済的価値を受け取れるかが、投資判断の一部になります。米国のモデルがそのまま日本の契約に適用されるわけではありません。
6.追加投資ーー有望な会社へ資金を残しておく
最初の投資で全資金を使い切ると、その後に伸び始めた投資先へ追加出資できません。そこで、一部をフォローオン、すなわち追加投資のために留保する設計があります。
British Business BankのECF審査基準でも、投資戦略と併せて追加投資に残す資金の割合などが検討項目になっています。何社へ最初に投資し、どの会社に、いつ、いくら追加するかは、ファンド全体の設計です。
ただし、追加投資は必ず正解ではありません。成功確率が上がった会社に資金を厚くする場合と、失敗を認められずに資金を注ぎ続ける場合は違います。既存投資の帳簿価額を維持したいという動機が、新たなお金を投じる合理性を曇らせていないかを確認する必要があります。
7.優先株式ーー「持株比率×売却価格」で終わらないこともある
VCが取得する株式には、普通株式に先立って一定の分配を受ける権利などが付される場合があります。SECの用語集にある清算優先権の説明も、優先株主が普通株主に先立って支払を受ける仕組みを示しています。
たとえば、3億円を投資して20%の持分を取得し、「1倍・非参加型」の優先分配と普通株への転換を選べる単純な設計を考えます。株主への分配原資が5億円なら、20%の1億円を受け取るより優先分配の3億円を選び、残り2億円が普通株主へ回る形です。一方、分配原資が30億円なら、普通株へ転換した20%の6億円を選ぶほうが有利になります。
実際には、複数種類の優先株、分配順位、参加型か非参加型か、M&A時に同様の配分をする条項の有無などで結果が変わります。優先権があっても、分配原資がなければ元本は戻りません。元本保証とは異なります。
起業家から見ると、調達時の企業価値が高いか低いかだけでなく、出口で誰にいくら残るのかまで試算する必要があります。
8.IPOはゴールではなく、現金化へ向かう一つの段階
VCの回収には、IPO後の株式売却、企業へのM&A、既存株式を他の投資家へ売るセカンダリー取引などがあります。上場すればその瞬間に全株式を売却できるとは限らず、ロックアップや市場の流動性によって回収時期が変わります。
また、次の資金調達で評価額が上がったことと、現金が戻ったことは別です。「ユニコーン企業が何社ある」という実績だけでは、LPへの分配額は分かりません。評価額が下がることも、回収まで長い期間を要することもあります。
事業会社が運営するCVCでは、投資利益に加え、自社事業との連携や技術獲得を目指す場合があります。起業家にとっては魅力になり得ますが、投資家の戦略が変わったときや、他社との提携を進めたいときに利害が衝突しないかも考えます。
9.キャリーはいつ受け取れるのか
仮に、投資家の払込総額が12億円、そのうち10億円を投資し、2億円を管理報酬等に使用し、最終回収が23億円だったとします。払込総額を返した後の利益11億円に20%のキャリーを配分する単純な契約なら、キャリーは2.2億円、LPへの分配は20.8億円です。ハードル、税金、GP自身の出資などは省いた仮例です。
「投資先が23億円に化けたから、その20%がVCの利益」という計算ではありません。管理報酬を含め、何を先に返してから利益を分けるかが重要です。
契約によっては、優先分配の基準となるハードル、GPの配分を一定割合まで追いつかせるキャッチアップ、先に払いすぎたキャリーを返すクローバックを設けます。ILPAの原則は、こうした分配・費用の明確化を提唱しています。ただし、VCに必ず年8%のハードルがある、といった決まりはありません。
運営側が受け取るキャリーも、個人一人の収入とは限りません。組織内の配分、在籍期間等の条件、支払時期、税負担があるため、新聞で見る投資成功額と担当者の所得を直結させることはできません。
10.起業家とVCは、どこで利害が違ってくるか
VCはファンド全体として高い回収を求めます。一方、起業家は、自分の会社を長く経営したいことも、一定の金額で早めに売却したいこともあります。大きな成長を求める点で一致していても、望む規模、速度、出口が同じとは限りません。
たとえば、起業家にとって十分に魅力的な買収提案でも、大きなファンドにとっては回収規模が足りないことがあります。反対に、起業家がまだ挑戦を続けたい時期でも、ファンドは残存期間や他の投資先への資金配分から回収を望むかもしれません。
経営への関与、追加投資の方針、重要事項の同意、出口の手続などを、投資時に話し合う意味はここにあります。資金を受け取った後で初めて「そこまで成長を求められるのか」と気付くと、修正が難しくなります。
11.VCの高収益は、借入れのレバレッジとは限らない
VCでは、技術やソフトウェア、ブランド、ネットワークを使って売上が大きく伸びる企業に投資することで、高い株式リターンを目指します。これは、借入れで投資元本を大きくする金融レバレッジとは区別すべきです。
投資先がベンチャーデットを使ったり、ファンドがつなぎ借入れを使ったりする場合はあります。しかし、VCだから当然に高い借入比率で運営される、ということではありません。赤字の成長企業は、融資の返済期限と事業の成長時期が合わなければ、成長余地があっても資金繰りに行き詰まります。
VCの本質は、失敗があり得る投資を組み合わせ、伸びる会社を支え、最終的な回収につなげることです。その途中では、企業価値、持株比率、資金留保、契約条件、ファンドの残り時間がすべて効いてきます。「有名な会社に出資している」「2%・20%だから儲かる」という見方だけでは、ビジネスモデルは見えてきません。
本稿は2026年9月13日時点の公開資料に基づく一般的な解説です。報酬、投資家の権利、分配条件は契約・準拠法等によって異なります。数値例は仕組みを示す仮例であり、標準的な収益率や成功確率を示すものではありません。
本稿は2026年9月14日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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