航空機や船舶を買い、企業に貸し出す。購入資金の多くは借り入れで調達し、投資家は残りを出資する。減価償却費と借入利息を計上することで、初期の課税所得を抑える。これが、レバレッジドリースと呼ばれる仕組みの基本です。
弊事務所代表は2006年12月19日の「所長βlog」で、この仕組みについて「アメリカの弁護士さんが開発したのだそうです」と紹介しました。法律と数字を組み合わせ、新しい金融の仕組みをつくる。税務の仕事には、申告書の作成だけでは捉えきれない創造的な面があると考えたためです。
その話を資料にさかのぼって確かめると、弁護士であり、リース会社の経営者でもあったPeter K. Nevitt(ピーター・ネヴィット)という人物に行き着きます。ただし、「一人のタックスロイヤーが、ある日に完成品を発明した」と単純化するよりも、税制、金融、契約実務が組み合わさって発展した歴史として捉えるほうが正確です。
弁護士Peter K. Nevittは「発明者の一人」
専門書『Equipment Leasing』の出版社Wileyによる著者紹介は、Nevittをレバレッジドリースとシンセティックリースの「発明者の一人」として紹介しています。同じ紹介文には、弁護士であり、ノースウェスタン大学で法学の学位を取得したこと、BankAmeriLeaseやMitsui Nevitt Capitalなどで経営に携わったことも記されています。
In other words,「米国の弁護士が開発に大きく関わった」という説明には裏付けがあります。一方、この資料だけでは、唯一の発明者であったことや、「タックスロイヤー」という専門分野の肩書きまで確定できません。当時のブログで紹介した人物がNevitt本人だったかも、旧稿には名前がないため断定はしません。
なぜ税務が金融商品を生むのか
設備を使う会社と、その設備を所有する会社が同じである必要はありません。ここにリースの出発点があります。
例えば、航空会社が大きな設備投資をしたい一方、赤字で減価償却による税負担軽減をすぐに使い切れないことがあります。別の黒字企業が設備を所有して貸し出し、税務上認められる償却等を利用できれば、その経済的なメリットの一部をリース料の引下げに回せます。利用者は資金調達コストを抑え、所有者は投資収益を得る、という設計です。
White & Caseの公式沿革も、所有に伴う税務上のメリットを、それをより有効に利用できる当事者に配分する発想が、1950年代以来の米国の経済・税制政策に関わっていたと説明しています。その仕組みは資本集約的な産業に広がり、航空機などの国際的な資金調達にも発展しました。
ここに借入金を組み合わせたものがレバレッジドリースです。少額の自己資金で大きな資産を保有し、その資産から生じる収益と費用に参加します。税務上のメリットを利用しやすい主体に所有を置くことと、借入金で投資規模を拡大することは、別々の要素です。この二つが組み合わされている点が重要です。
「出資額」と「減価償却の対象額」が異なる
単純化して、10億円の設備を借入金8億円、出資金2億円で取得するとします。税務上の所有者に償却が認められる場合、減価償却の計算の基礎になるのは、自己資金の2億円だけではなく、取得価額の10億円です。
仮に初年度の減価償却費が2億円、リース料収入が1億円、借入利息が2,000万円なら、他の費用を除いた損益は1億2,000万円の赤字です。これは説明用の数字であり、実際の償却方法や税務上の損失計上額を示すものではありません。組合を使えば、損益の配分と出資者側の損失制限も別途問題になります。
また、借入元本の返済は費用ではありません。税務上の赤字と手元資金の増減は一致せず、後年には償却費が減り、売却益などが発生することもあります。初年度の税金が減った金額だけを利益と数えることはできません。
米国でも、最初から無条件に認められていたわけではない
設備を所有しているように見える契約でも、実際には貸付けと同じではないか。所有者としての利益と負担を本当に引き受けているのか。米国では、この境界が問題になりました。
IRSは1975年のRevenue Procedure 75-21などで、一定のリースについて事前回答を行う際の指針を整えました。IRSが公表する2001年の個別案件に関する法律分析では、その指針における最低20%の自己資金投資などに言及しつつ、指針だけで税務上の結論が決まるものではないことも説明されています。
これは「2割を出資すれば何でも適法」という意味ではありません。契約の名称や形式だけでなく、資金の流れ、残存価値、経済的な負担を確認する必要があったのです。
1981年に拡大、1982年に制限ーー税制と市場が動いた
米国の1981年経済再建税法は、セーフハーバー・リースと呼ばれる制度を設けました。従来の厳格なリース判定を緩め、投資税額控除や減価償却のメリットを利用しにくい企業にも、設備投資の利益が届くようにした制度です。これはレバレッジドリース全体の別名ではなく、当時設けられた税法上の特例です。
IRSの当時の統計・制度解説によると、対象となった資産の金額は1981年に220億ドル超、1982年に150億ドルに達しました。しかし、1982年のTEFRA(租税公平・財政責任法)で制限が加えられます。さらに、1986年税制改革によって一般的な投資税額控除も原則として廃止されました。経過措置等はありましたが、取引を支えていた前提が変わったのです。
この歴史が示すのは、リースという契約自体が消えたことではありません。税制が変われば、同じ設備、同じ契約でも採算が変わるということです。税務に基づく金融商品の価値は、制度の存続と適用要件から切り離せません。
日本の航空機リース訴訟と、映画フィルム事件は分けて考える
日本では、航空機リースに任意組合を通じて出資した個人の損益通算が争われました。名古屋地裁は2004年10月28日、主要な課税処分を取り消し、名古屋高裁も2005年10月27日に国側の控訴を棄却しました。税負担を考慮して契約の形を選んだことと、実際にその契約を締結する意思がなかったことは、同じではないとされたのです。
ただし、これは当時の任意組合を利用した個人所得税の事案です。「リース型の節税商品はすべて裁判所に認められた」という結論にはなりません。
実際、2006年1月24日の最高裁判決は、別の映画フィルムリース事件で減価償却費の損金算入を認めませんでした。映画に関する権限や返済リスクなどの事情から、その映画は組合の事業の収益源となる減価償却資産に当たらないと判断したものです。航空機事件の上告審ではありません。
税務の創造性は、法律と事業の両方を読むことにある
レバレッジドリースの歴史は、法律家が税制を理解し、金融機関や事業者とともに資金調達の仕組みをつくった歴史です。しかし、その巧妙さだけで取引の価値が決まるわけではありません。
どの資産を誰が所有し、誰が使い、誰が価値の下落を負担するのか。税務上の損失をいつ、誰が、どこまで計上できるのか。契約、資金収支、税制を一体として読む必要があります。
税理士の仕事も、税額を計算するだけではありません。法律を理解し、事業の実態と数字を結びつけ、納税者が納得できる選択を支えることにあります。2006年にこの話に惹かれた理由も、そこにありました。
本稿は歴史と制度の解説です。個別取引の税務処理は、その時点の法令と契約内容に即して判断する必要があります。
本稿は2026年9月14日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
While we pay close attention to the information provided, if you notice any errorsContact UsI would appreciate it if you could let me know.

