「日本に年間183日いなければ、非居住者になる」。海外移住を考えると、こうした説明を目にします。しかし、日本の所得税法上の住所判定には、そのような一律の線引きはありません。日本より外国で過ごした時間が長くても、日本に住所があると判断された例があります。反対に、移住先より日本の滞在日数が多くても、日本に住所がないと判断された例もあります。
裁判で問われるのは、何日いたかに加え、その場所でどのように暮らし、何の仕事をしていたかです。日数は重要な証拠ですが、住居、職業、家族、資産などから切り離して結論を出すことはできません。
本稿では、公刊された判決本文を確認できた七つの裁判例と、国税不服審判所の公表裁決を比較します。弊事務所が税務面で支援した武富士事件と2023年のシンガポール移住事件も取り上げ、納税者側の主張と裁判所が採用した判断を区別して読み解きます。
まず、何の税金について、いつの住所を判断するのか
所得税では、国内に住所を有する人、または現在まで引き続き1年以上居所を有する人が居住者とされ、それ以外が非居住者です。「住所」と「1年以上の居所」は別の要件であり、出国から1年待たなければ非居住者になれない、という意味ではありません。住所は生活の本拠で、客観的事実から判断されます。国税庁の居住者・非居住者判定の説明も確認してください。
贈与税の事件では贈与時点の住所が問題になり、所得税の事件では対象年・期間における生活実態が問題になります。不動産の売買代金からの源泉徴収では、支払時点の売主の属性が、買主の義務を左右します。さらに、国内法上の居住者判定と、租税条約による両国居住者の調整は別の検討です。
| 事件 | 主な争点 | 住所についての結論 |
|---|---|---|
| 神戸地裁・2002年 | 米国生活中の日本への里帰り/所得税 | 国内住所・居所を否定。原告敗訴 |
| 武富士・最高裁2011年 | 香港移住と贈与時の住所/贈与税 | 国内住所を否定。納税者勝訴 |
| 仙台高裁・2011年 | 長期の海外航海と日本の家庭/所得税 | 国内住所を肯定 |
| 名古屋高裁・2013年 | 米国籍の乳児と両親の生活本拠/贈与税 | 国内住所を肯定 |
| 東京高裁・2016年 | 米国生活の売主と買主の源泉徴収 | 売主の国内住所を否定。買主敗訴 |
| 東京地裁・高裁2019年 | シンガポール拠点の第三国出張/所得税等 | 国内住所を否定 |
| 東京地裁・2023年 | 移住後の年別の生活・事業の変化/所得税等 | 2013・2014年は居住者、2015年は非居住者 |
「非居住者とされた事件」と「納税者が勝った事件」は同じではありません。非居住者になることで控除・損益通算等の適用関係が変わったり、代金を支払う側に源泉徴収義務が生じたりするからです。
1.米国で暮らし、日本の自宅に里帰りしていた事件
神戸地裁2002年10月7日判決では、本人は日本の居住者であると主張しましたが、裁判所は米国に生活の本拠があると判断し、請求を棄却しました。日本には所有する住宅や家財が残され、一時帰国時に利用していました。それでも、住宅を所有していることと、そこで生活の本拠を営んでいることは区別されました。
| 対象年 | 日本滞在 | 判決の評価 |
|---|---|---|
| 1994年 | 31日 | 年末年始・休暇等の一時帰国。米国での生活が中心 |
| 1995年 | 39日 | |
| 1996年 | 15日 |
この日数は判決4ページの認定です。最長の一時帰国も18日間で、国内に居所があったとの主張も認められませんでした。夫の日本滞在が相当程度あったことも、本人の米国における生活実態を覆す事情とはされていません。
日本の家を残したら直ちに居住者になるわけではない。ただし、家があるだけの事例と、日常的な生活拠点として使っている事例は違う。この区別は、その後の事件でも繰り返し現れます。当時の日米租税条約に関する主張も、まず国内法上の居住者に当たるかという問題を飛び越えることはできませんでした。判決5ページを参照してください。
2.武富士事件ーー租税回避の目的があっても、生活の実体は消えない
最高裁2011年2月18日判決は、1999年12月27日の外国法人の出資持分の贈与について、受贈者に日本の住所があったかを判断しました。東京地裁では納税者勝訴、東京高裁では逆転敗訴、最高裁では再逆転勝訴となった事件です。国税庁掲載の最高裁判決に各審級の経過が載っています。
最高裁が重視したのは、香港に住居を借り、仕事を行い、対象期間の約3分の2を香港で過ごしていたという客観的事実です。日本滞在は約4分の1でした。国内に親族や多額の資産があり、贈与税負担の回避が香港滞在の動機であったとしても、それによって香港の生活の本拠としての実体がなくなるわけではないと判断しました。多数意見の判断・4ページが中心です。
動機を問わないというより、動機から客観的事実を塗り替えないという判断です。香港の生活や仕事が実在したことが前提です。「節税目的で住民票だけ移せばよい」という事件ではありません。また、この割合を年間183日という別の基準に置き換えることもできません。
弊事務所の税務面での支援については、武富士贈与税訴訟のお知らせに記載しています。贈与税の国外財産に対する課税範囲はその後改正されており、現在は日本に住所がないという一点だけで国外財産の贈与が非課税になるとはいえません。
3.長期間、海外の船上で働いていても、日本の住所が認められた事件
仙台高裁2011年4月13日判決では、外国法人の遠洋漁船で働く人について、日本に住所があると判断されました。2003年から2005年の所得税が問題になった事件です。
判決は、一人の原告について、通常1年1か月ほどの航海を終えると、日本で約1か月過ごして再び出航する生活を認定しています。しかし、船外の生活拠点は日本にあり、配偶者が暮らす自宅へ戻っていました。外国に別の住居があったわけではありません。裁判所は、船上の長期就労と、家庭生活の本拠を区別しました。判決16〜17ページを参照してください。
国外に長くいることと、国外に生活の本拠ができることは同じではありません。出張、航海、巡回業務などでは、勤務を離れたときにどこへ帰り、どこで私生活を営むのかも重要になります。この事件の航海周期を、毎年の日本滞在が必ず何日だったという年別の数字に読み替えてはいけません。
この高裁判決の国税庁掲載情報には上告・上告受理申立てが記載されています。本稿では高裁の判断として取り上げ、その後の最高裁手続の結末まで確認済みとはしていません。
4.米国籍の乳児が米国に長くいても、日本に住所があるとされた事件
名古屋高裁2013年4月3日判決は、生後8か月の乳児が外国信託に関して利益を受けた際の贈与税の事件です。本人は米国籍でしたが、裁判所は、養育する両親の生活の本拠を検討し、日本の住所を認めました。
納税者側は、出生から問題の信託設定までに米国183日、日本72日だったと主張しました。この183日は当事者が挙げた対象期間内の日数であり、裁判所が採用した法定の判定基準でも、暦年の日数でもありません。裁判所は、乳児が独立して生活することはできないことから、両親の仕事・住居等を重視しました。判決15〜16ページに、判断と日数に関する主張が記載されています。
米国での父の勤務実態等は主張どおりには認められず、両親の生活の本拠が日本にあるとされたことが結論につながっています。国籍、査証、出生地だけで税務上の住所が決まるわけではありません。最高裁は2014年7月15日に上告棄却・不受理とし、判決は確定しました。最高裁の決定は、住所について新たな一般基準を示したものではありません。
家族の事情の重みは、本人の年齢や生活上の自立の程度によって変わります。乳児について両親の生活が重視されたことを、独立した成人にもそのまま適用することはできません。
5.売主の非居住者判定が、買主の源泉徴収に跳ね返った事件
東京高裁2016年12月1日判決では、不動産を買った会社が、売主は日本の居住者だったとして源泉所得税の納税告知等を争いました。しかし、売主の生活の本拠は米国にあるとされ、買主は敗訴しました。判決は確定しています。
売主は米国で家族と生活する一方、日本にも訪れていました。国内住所を示す書類等があっても、実際の生活状況に基づく判断が変わるわけではありません。この事件で重要なのは、不動産代金の支払時である2008年3月14日の属性です。年間の滞在日数だけを後から並べれば足りるわけではありません。高裁判決全文、原審判決全文を参照してください。
相手方の住民票、登記、本人の説明だけで判断を終えることにはリスクがあります。これは非居住者本人だけの問題ではありません。海外居住者に国内不動産の代金や報酬を支払う企業にも、住所判定が直接関係します。
6.第三国出張はどちらの国の生活に結び付くのかーー2019年判決
東京地裁2019年5月30日判決と、それを維持した東京高裁同年11月27日判決は、日本、シンガポール、米国その他の国を行き来する経営者の事例です。日本の滞在日数がシンガポールを上回っていても、国内に生活の本拠があるとはされませんでした。
| 年 | Japan | Singapore | United States |
|---|---|---|---|
| 2009 | 93日 | 82日 | 97日 |
| 2010 | 105日 | 70日 | 87日 |
| 2011 | 83日 | 80日 | 104日 |
| 2012 | 128日 | 68日 | 75日 |
上表は地裁判決20ページの滞在日数です。他の国への滞在もあるため、三国の合計を年間の総日数と考えないでください。米国の方がシンガポールより長い年もありますが、それだけで米国が住所になるという判断でもありません。
出張先で過ごす時間と、出張の拠点となる場所
裁判所が検討したのは、シンガポールの住居を拠点として、第三国に事業のため短期出張していたという実態です。高裁判決3〜4ページは、その第三国滞在を、シンガポールに滞在していた場合と実質的に同様に評価することの合理性を示しています。
ただし、外国にいた日は全部シンガポールに足せる、ということではありません。地裁は中国について、日本を起点とする出張も多いことなどから、ほかの第三国と同じ扱いにはしていません。地裁判決21ページの区別が重要です。
必要なのは、外国滞在というラベルではなく、その出張がどこを拠点とした、何の活動だったかという説明です。出発地・帰着地、取引先、訪問目的、日程を合わせてみることで、第三国滞在の意味が分かります。
日本の家族・資産・役職を、それぞれどう評価したか
この経営者には日本に家族や資産、国内企業との関係がありました。それでも、海外事業に自ら関与し、国内の日常業務は他の者に委ねていたことなどが検討されました。配偶者等が日本にとどまる事情についても、子の教育や本人の出張の多さ等を踏まえて評価されています。単に家族が国内にいるから本人も国内住所、とはされませんでした。地裁判決の住居・職業・親族・資産に関する判断を参照してください。
私たちが読み取るべきなのは「家族も資産も動かさなくてよい」という許可ではありません。同じ事情でも、その理由と実態次第で重みが変わるということです。日本に資産が残っていても、それを管理するため本人が日本に常駐する必要があるのかは、別に考える必要があります。
7.2013・2014年は居住者、2015年は非居住者ーー2023年判決
弊事務所が税務面で協力した東京地裁2023年4月12日判決では、シンガポールへの移住後の三つの年について、結論が分かれました。2013年・2014年については国内住所を認め、2015年については認めませんでした。納税者一部勝訴で、その後控訴されず確定した事件です。判決に関するお知らせと、国税庁公表の判決全文をご覧ください。
実際の滞在日数は、日本177日・シンガポール163日
| 対象期間 | 日本の実滞在 | SGの実滞在 | 住所判定 |
|---|---|---|---|
| 2013年の転出日後 | 141日 | 56日 | Japan |
| 2014年 | 253日 | 89日 | Japan |
| 2015年 | 177日 | 163日 | 日本の住所を否定 |
実滞在日数の出典は判決20ページおよび24ページです。2013年の比較は転出日である5月30日より後の対象期間であり、1年間全体ではありません。
2015年は、なお日本の方が14日多い。しかし裁判所は、その差を有意なものとは評価せず、住居や職業等を合わせて判断しました。シンガポールの事業が軌道に乗り、毎月滞在するようになったこと、現地の生活設備が充実した特定住居で暮らしていたことなどが評価されています。判決24ページが比較の中心です。
「シンガポール185日」は、裁判所認定の実滞在日数ではない
原告側は、シンガポール事業のための第三国滞在を加味した評価も主張しました。裁判所は2013年・2014年について、仮にその方法で67日・112日としても、日本の141日・253日が大きく上回るとしています。これは仮定的な判断であり、第三国の日数を必ず合算する一般原則を採用したものではありません。判決23ページを参照してください。
2015年について原告側が示した185日も、第三国滞在を加味した主張上の評価です。これは判決13ページの原告らの主張に記載されています。「裁判所がシンガポール185日を認定し、日本177日を上回ったから勝った」と要約すると、判決の読み違いになります。裁判所は実滞在の177日対163日と、次に述べる職業活動の評価を分けています。
職業活動の比較は、シンガポール側115日・日本側65日
| 2015年の職業活動の評価 | 日数 | 年に占める割合 |
|---|---|---|
| SGでの事業活動+認められた第三国への業務渡航 | 115日 | 約32% |
| 日本での業務活動を広く評価 | 65日 | 約18% |
こちらは判決25ページにおける職業活動の評価です。入出国記録そのものから作った実滞在日数の表ではありません。115日は、シンガポールで少なくとも週4日程度事業に従事し、さらに第三国への仕入れ等の業務渡航をしたという評価に基づきます。日本側の65日は、会食等も仮に業務に含めたうえで、同日の活動の重複等を調整した比較です。
売上規模や役員報酬の金額だけで、生活の本拠がある国は決まりません。国内企業から高い報酬を得ていても、日々の仕事は従業員等に委ねられ、本人の国内滞在の必要性が限定されている場合があります。反対に、報酬が少ない立ち上げ期の海外事業でも、本人が現地で継続して働く必要があることがあります。判決27ページは、職業要素を本人の滞在の必要性との関係で考慮しています。
国内の部屋を転々としていたら、国内住所はないのか
原告側は、日本では複数の滞在場所を利用していたことも主張しました。しかし、2013年・2014年について裁判所は、国内の特定の部屋に最低限の生活設備や衣服等があり、他の場所もそこを拠点に利用していたと評価しています。物品の保管に使う割合が大きくても、単なるホテルと同じとはされませんでした。判決22〜23ページを参照してください。
一方、2015年には、日本とシンガポールの日数差が小さくなった状況の下で、日本では複数の場所を利用し、シンガポールでは生活の充実した特定の住居に滞在するという違いが意味を持ちました。国別の日数しか見ないのでも、国別比較をやめて部屋ごとの日数だけで決めるのでもありません。
同じ人でも、生活・事業の実態の進展によって結論は変わります。ただし、毎年1月1日に住所がリセットされる制度という意味ではなく、判決が特定の出国日を非居住者への切替日として新たに確定したものでもありません。
裁判所の判決とは別に、公表裁決も読む
国外の金融資産が多くても、生活の中心が日本なら居住者
国税不服審判所2021年3月26日裁決は、海外の金融資産や海外会社との関係を持つ人について、国内住所を認めた例です。審判所の認定した日本滞在の割合は、2013年から順に61%、59%、65%、79%、76%でした。
香港の金融資産は日本のものを上回っていましたが、生活のための利用状況、国内住宅の実際の使用、海外業務をどこで行っていたかなどが併せて検討されました。過去の調査で非居住者として扱われたとの主張も、その後に日本滞在が増えた期間の結論を保証するものではありませんでした。かつて非居住者だったことは、その後もずっと非居住者であることの証明ではありません。
海外勤務の長さだけで決めないという裁決
2008年6月5日裁決にも、外国船舶の乗組員について、国内の家族や勤務を離れたときの生活の本拠から住所を検討した例があります。裁判例と共通する論点がありますが、本稿では2011年の高裁事件と同一の事件と確認できたものとして扱ってはいません。
裁決は国税不服審判所の判断で、裁判所の判決ではありません。上記の裁決について、その後に訴訟が提起されたか、どのような結末となったかまで確認したという意味ではありません。
判例を横断すると、何が見えてくるか
日数は、期間と数え方を揃えて比べる
まず暦年なのか、贈与までなのか、転出後だけなのかを揃えます。出国日・入国日の扱い、同じ日に二国にいた場合の集計、第三国の扱いも確認します。2013年の乳児の183日と、2015年の経営者の177日を、共通の年間基準のように比較することはできません。
そのうえで、日数が大きく違う場合と、差が小さい場合を分けます。2023年判決の2014年と2015年は、その違いをよく示します。差が小さくなれば住居・職業の比較が重要になるという読み方はできますが、「差14日までなら安全」という新しい数値ルールができたわけではありません。
第三国は「余った日数」ではなく、活動の中身を見る
仕事の出張か、休暇か。日本から出て日本へ戻ったのか、移住先から各国を巡って移住先へ戻ったのか。その国の滞在が、どちらの生活・事業の継続として理解できるかを考えます。第三国を移住先に一律加算する計算表では、2019年判決と2023年判決の重要な違いが消えてしまいます。
住居は、権利関係だけでなく暮らし方を見る
所有か賃貸か、広いか狭いかだけでは決まりません。どの程度使い、どんな家財・衣服・生活設備があり、仕事を離れたときに帰る場所になっているか。日本の持ち家に里帰りする2002年の事例と、航海後に国内の家庭へ戻る2011年の事例は、同じ「日本に家がある」でも意味が違います。
職業は、会社所在地・肩書・報酬額から一歩踏み込む
どの会社の代表者かだけでなく、本人が何をどこで行い、その場所にいる必要がどれだけあるかを考えます。国内会社を所有することと国内に生活すること、海外会社を設立することと海外で働くことも別です。会議、権限の委譲、取引先との活動、現地での勤務などが、肩書の内側にある実態を示します。
家族は、形式だけでも、常に最優先でもない
同居・別居、生活費、教育、本人の自立の程度を含めて考えます。乳児は両親の生活に強く依存します。成人では、配偶者が日本で暮らす合理的な事情がある場合もあります。したがって、家族全員を動かせば必ず十分とも、家族を残しても影響がないともいえません。
資産は、金額だけでなく生活との結び付き
金融資産は海外から管理できるものもあります。総額の最大の国が、そのまま住所になるわけではありません。生活に必要な資産の利用、住居の管理、日常の支払い、本人がそこにいる必要性と結び付けて検討します。
実務では、後から生活の実体を再現できるかが問われる
判決で細かく認定される事実は、何年も前の移動、住まい、勤務、家族の暮らしです。結論を先に決めて都合のよい記録だけを集めるのではなく、次の資料を整合する形で残すことが重要だと考えます。
- 移動:入出国記録、航空券、旅程、第三国の訪問目的と出発・帰着地。
- 住居:契約、実際の使用、家財・生活設備、日常生活を示す記録。
- 仕事:担当業務、会議、現地取引先、権限分担、その国で働く必要性。
- 家族:同居・別居の実態、教育、生活費等の負担。
- 変化:移住直後と事業定着後、一時帰国と本帰国を区別した時系列。
これらは「書類を作れば住所を移せる」という意味ではありません。現実の生活を、第三者が検証できる形で残すということです。また、税務上の住所、外国の滞在資格、住民登録、条約上の取扱いを同じものとして扱わないことも必要です。
税務訴訟を支える弁護士と税務の専門家
武富士贈与税事件には、青色発光ダイオード訴訟でも知られる升永英俊弁護士が関与しています。升永弁護士の公開インタビューにも、両事件での活動が紹介されています。弊事務所は、高裁判決後、原告納税者に税務上の「非居住者」や「住所」に関する助言、論文の提供などを通じて支援しました。
2023年4月12日判決の事件では、弁護士法人ピクト法律事務所の永吉啓一郎弁護士らが訴訟代理人を務め、弊事務所は税理士として税務面から協力しました。担当弁護士は国税庁が公表した判決資料の別紙代理人目録でも確認できます。本稿で紹介する主張と判断は、公表された判決等で確認できる範囲に基づいています。
判例を知るほど、制度の明確さが必要だと分かる
総合判断には個々の生活に即した結論を出せる面があります。しかし、これだけ多くの事実を集め、長い訴訟を経なければ結論を見通せないことは、納税者に大きな負担を与えます。過去の勝訴例と同じ日数を数えるだけでは安心できず、似ているように見える事件でも、仕事や住居の評価が違えば結論が変わります。
税務訴訟を起こさなくて済むほど、シンプルで明確な税制が望まれます。滞在日数などの計量的な基準と、その例外や他の要素との関係を、事前に理解できる仕組みが必要です。これは現行法が183日基準だという説明ではなく、将来の制度のあり方についての弊事務所の意見です。
さらに遡る調査対象
住所をめぐる裁判は、ここで紹介した事件より前から積み重なっています。税大ジャーナル第7号掲載の研究論文では、神戸地裁1985年12月2日判決、神戸地裁1990年5月16日判決と大阪高裁1991年9月26日判決、東京地裁2005年1月28日判決と東京高裁同年9月21日判決などが紹介されています。
これらは研究論文による紹介を確認した段階で、今回、判決本文を確保して詳細まで照合した事例には数えていません。研究論文は過去の判例を探す手掛かりですが、判決原文や国税庁の一般的な行政見解と同じものではありません。
本稿は2026年9月14日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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