ケーススタディ

公益法人を活用した節税スキーム

昨年、フェイスブック社CEOマーク・ザッカーバーグが自らの財団を立ち上げ、話題になりました。

 

ザッカーバーグの寄付は偽善なのか:日経ビジネスオンライン

 

ザッカーバーグの寄付は偽善なのか

世界最多のユーザー数を誇るSNS、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が12月1日、世界に向けて2つの報告をした。

1つは長女マキシマちゃんが誕生したこと。2つめは、現在の価値が450億ドル(約5兆5000億円)といわれるフェイスブック保有株の99%を今後(期間を言及せず)、慈善事業に寄付すると発表したことだ。資産の99%は巨額である。ビリオネアといえども、その寛大さに全世界から賛辞が寄せられた。

ニューヨーク・タイムズ紙がツイッターに載せた“つぶやき”をいくつかご紹介したい。

「億万長者はたくさんいるが、彼と同じことをできる人はいない」
「しばらくフェイスブックはやめていたけど再開します」
「愛娘の誕生が人生観を変えたのですね。素晴らしい」

ただし否定的な声もある。多額の寄付行為を手放しでほめ称える人ばかりではない。

「キャピタルゲイン課税(有価証券の譲渡所得にかかる税金)から逃げる手立てを見つけたってことだよね。慈善事業? 笑わせるぜ」

「寄付する先が自分の財団というのがいただけない」

「そのカネがイスラム国の資金にならないことを祈るだけだ」

否定的なつぶやきの裏には羨望や嫉妬があるようにも思えるが、税金対策の意味合いがあることは間違いないだろう。ただ同時に、今回の慈善活動が表面的な偽善行為にすぎないのかと言えば、そうと断言することもできない。(後略)

出典:日経ビジネスオンライン

 

この記事の中にもあるように、財団設立は、「キャピタルゲイン課税(有価証券の譲渡所得にかかる税金)から逃げる手立て」「税金対策の意味合いがあることは間違いないだろう」という意見もあります。

果たして、財団設立はどのような税金対策になるのでしょうか?

実は日本にも古くから「財団法人」という仕組みがあります。
もともと民法を根拠法とした公益目的の法人として財団法人を設立することが可能だったのですが、2008年のいわゆる公益法人制度改革により、公益目的でなくとも一般財団法人を設立できるようになりました。

つまり、表面的に分かりやすいところで言うと、2008年までに設立された財団法人の登記簿謄本には「財団法人」とのみ記載がありますが、公益法人制度改革以降の新しい財団法人は、登記簿謄本上「一般財団法人」か「公益財団法人」かどちらかの記載になります。

また、公益財団法人は、一般財団法人を設立(根拠法は「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(いわゆる「一般社団・財団法人法」))してから、内閣府や自治体にその公益性を認定されてはじめて公益財団法人になる(根拠法は「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(いわゆる「公益法人認定法」))ことも特徴です。

さて、税金のお話です。

公益法人というのは、公益財団法人のほかに公益社団法人もあり、その総称ですが、いかに税務メリットを享受できるかというのは、内閣府の下記のサイトが一目瞭然で分かりやすいです。(なお、一般社団法人・一般財団法人でも、一部公益性のあるいわゆる「非営利型法人」というものがありますが、ここでは詳しく触れません。下記の図で比較すると一目瞭然ですが、税務メリットという観点だけで考えれば、非営利型法人よりも公益法人のほうがメリットの幅が広いことがわかります。)

内閣府

出典:内閣府ウェブサイト「公益法人制度とNPO法人制度の税制上の優遇措置の比較について」

 

細かな優遇税制はさておき、(1)法人自らに係る税制「収益事業課税(法人税)」、(2)寄附税制「個人の所得控除(所得税)」「個人が財産を寄附した場合の譲渡所得税の非課税対象(所得税)」「個人相続財産を寄附した場合の相続税の非課税対象(相続税)」については、結局、法人自らが課税されず、かつ、その法人に寄付をした個人の所得や財産、相続財産も課税されないという、いわゆる国税三法(法人税・所得税・相続税)のすべてで税務上のメリットを享受できてしまうという、ちょっととんでもないくらいの税効果が生じます。

わかりやすく言えば、公益法人をつくることができれば、下記のようなことができます。

(1) その公益法人で公益認定法上の公益目的事業として認定された事業は、収益事業に該当しても非課税となる。(つまり、法人税無税です。)
(2) その公益法人に個人が寄附をした場合、所得税の所得控除または税額控除ができる。(赤十字等に寄付する感覚と一緒です。)
(3) その公益法人に故人の意志で財産を遺贈したり、相続財産を一定の要件下で寄付した場合、相続税が生じない。
(ただし、所得税法や相続税法上、不当な租税回避と認められる場合には課税リスクが生じますので、専門家に相談する等、注意が必要です。)

なお、公益認定法上の公益目的事業とは、下記のように、公益法人認定法の別表に限定列挙されていますから、これらのうちいずれかに該当する必要があります。

一 学術及び科学技術の振興を目的とする事業
二 文化及び芸術の振興を目的とする事業
三 障害者若しくは生活困窮者又は事故、災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
四 高齢者の福祉の増進を目的とする事業
五 勤労意欲のある者に対する就労の支援を目的とする事業
六 公衆衛生の向上を目的とする事業
七 児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業
八 勤労者の福祉の向上を目的とする事業
九 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業
十 犯罪の防止又は治安の維持を目的とする事業
十一 事故又は災害の防止を目的とする事業
十二 人種、性別その他の事由による不当な差別又は偏見の防止及び根絶を目的とする事業
十三 思想及び良心の自由、信教の自由又は表現の自由の尊重又は擁護を目的とする事業
十四 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
十五 国際相互理解の促進及び開発途上にある海外の地域に対する経済協力を目的とする事業
十六 地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業
十七 国土の利用、整備又は保全を目的とする事業
十八 国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業
十九 地域社会の健全な発展を目的とする事業
二十 公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上を目的とする事業
二十一 国民生活に不可欠な物資、エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業
二十二 一般消費者の利益の擁護又は増進を目的とする事業
二十三 前各号に掲げるもののほか、公益に関する事業として政令で定めるもの

 

いわば、海外の遠くのタックスヘイヴンよりずっと身近にそれに近いものがあったことを発見したような衝撃的な感覚ですが、実はこれ、あながち大げさな例え話でもないかもしれません。

というのも、公益法人というのは、その名のとおり、公益性の高い法人ですから、国と同様、富の再分配の機能を果たすことが求められます。つまり、少し大げさかもしれませんが、日本国の中に、ご自身の国のようなものである公益法人をつくるということになるのかもしれません。

上記の内閣府のウェブサイトの他、下記も参考になりますので、より詳細に公益法人制度についてお知りになりたい方は、ぜひ参考にされてください。

法務省ウェブサイト「一般社団法人及び一般財団法人制度Q&A」
財務省ウェブサイト「公益法人などの主な課税の取扱い」
国税庁ウェブサイト「新たな公益法人関係税制の手引」

 

さて、この国税三法すべてで税務メリットを享受できる夢のような公益法人、実際にはどのように使われているのでしょうか?

下記は、東証一部上場企業である株式会社TKCの株主名簿です。

TKC

 

TKC社は、カリスマ公認会計士・税理士であった故・飯塚毅氏が1966年に立ち上げた、いわゆるコンピューター会計の先駆者的な企業です。1971年に結成されたTKC全国会には多くの公認会計士・税理士が参加し、いわば会計・税務の集合知のようなものができあがっていると言ってもよいかもしれません。(なお、弊事務所はTKCには参加しておりません。)

この会計・税務を極めたTKC社の株主名簿をよく見てみましょう。

第1位と第4位の大株主に「公益財団法人」がいます。

第1位 公益財団法人飯塚毅育英会 365万株(13.6%)
第4位 公益財団法人租税資料館  124万株(4.6%)

公益性の高い社会貢献活動を、ご自身が起こした企業(飯塚毅氏の場合はTKC社)以外でも、その死後も行っていきたいという趣旨でこのふたつの公益財団法人を起こされたものと思いますが、とはいえ、なぜ、TKC社の大株主になっているのでしょうか?

つまり、これ、寄附や遺贈、相続財産で、飯塚毅氏のTKC株を公益財団法人に入れたのではないか、ということが容易に想像できるわけです。

この場合、先に触れましたように、所得税や相続税が生じません。

 

ご自身の財産のポートフォリオのうち自社株が占める割合が大きいオーナー企業経営者の場合、なにも手立てを打つことなく相続が生じると、自社株を売却して相続税の納税原資を準備しなければいけなくなるケースがあります。

上場企業であれば市場で売却できますからまだなんとかなりますが、これが未上場企業ともなるとさらに大変。M&A等でなんとか自社株を現金化しなければならないといったようなことにもなりかねません。
(最近では、いわゆる事業承継税制が準備されましたので、未上場企業でも相続人が後継者となる場合には、一定の納税猶予が準備されてはいます。)

結論としては、上記のような「相続等によるやむをえない自社株売却により企業支配に影響が出てしまうケース」に、公益法人スキームは非常に有効に作用するわけです。
なぜなら、自社株を売却することなく公益法人に移行することで、安定株主として確保できるからです。

会社四季報をお持ちの方は、各銘柄の「株主」の欄を見てみてください。
実はかなり多くの上場企業の株主に公益財団法人が入っていることが分かります。

有名どころでは、ワタミの渡邉美樹さん。渡邉美樹さんは少なくとも3つの財団法人をお持ちのようです。

公益財団法人みんなの夢をかなえる会
公益財団法人School Aid Japan
公益財団法人Save Earth Foundation

 

また、現代アートの収集家で著名なスタートトゥデイ社[東証一部]の創業社長前澤友作さんも財団をお持ちのようです。

公益財団法人 現代芸術振興財団

公益財団法人現代芸術振興財団

 

ほかにも、ユナイテッドアローズ社[東証一部]の創業者重松理さんの公益財団法人日本服飾文化振興財団など。

調べていくと、日本にもキリがないほどたくさんの公益財団法人があります。

民法時代の財団法人で創設者はすでにお亡くなりになっているような古い財団もあれば、公益法人制度改革以降の若い公益財団法人で、創設者はまだお元気というケースもありますが、オーナー経営者が創設者の場合、社会貢献活動を行いたい気持ちと、同時に自社株を守る節税スキームになるという点もあって、みなさん、公益財団法人を創設されているのではないかと思われます。

なお、公益法人は当然のことながらそもそも自社株対策用の法人ではなく、本来は公益活動を行うための器です。そういった意味では、杉本彩さんの公益財団法人動物環境・福祉協会Evaなども参考になります。

 

自社株対策に話を戻して、さらにマニアックなところでは、会社四季報[未上場会社版]というものもあり、こちらの各社の株主欄を見ても、実は、いくつか公益財団法人を確認することができます。

例えば、越後交通株式会社の大株主である公益財団法人田中角榮記念館など。(わかりやすいように有名どころを例示していますが、あまり有名でない公益財団法人もたくさん存在しています。)

つまり、上場/未上場に関係なく、オーナー経営者の中には、この公益法人スキームを知っていて、実際にやってみた人たちがかなりいるということになると思います。

なお、よくある疑問として、上場企業オーナーの中にはいわゆる「資産管理会社」として自社株を持たせた法人をその上場企業の大株主にするケースがあり、この資産管理会社スキームとはどう違うのか、という点があります。

資産管理会社は、相続税評価を上手く活用し、安定株主でありながら相続税を圧縮する方法ですから、相続税をゼロにすることはできません。その点、公益法人スキームに劣ります。その代わり、公益法人スキームでは公益法人の財産になってしまう上場株式を相続できますから、次世代にとっては一長一短というところかもしれません。

結局、案件毎に検討が必要なのですが、資産管理会社スキームと公益法人スキームの併用というスキームも当然ありえます。

 

日本の財団制度は明治29年に制定された民法に由来しますが、旧民法は欧州各国の民法を参考にしていることが知られており、日本における財団という仕組みは欧州から輸入されたものと言えるかもしれません。

マーク・ザッカーバーグが立ち上げた財団はおそらく米国法にもとづくものだと思いますが、おそらく日本同様、本人としては、公益活動と自社株対策のふたつの目的があってのことだと思われます。

当事務所では、登記や公益認定の専門家であり、数百件の公益法人関与実績がある司法書士・行政書士とチームを組み、公益法人を活用して自社株対策をされたいオーナー経営者の方のために、初回無料相談をうけたまわっております。

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